異世界の英雄は美少女達と現実世界へと帰還するも、ダンジョン配信してバズったり特殊部隊として活躍するようです。

椿紅颯

文字の大きさ
13 / 40
第二章

第13話『それぞれの生活空間』

しおりを挟む
「おお、いいですね」
「トイレお風呂別、2部屋とダイニングキッチン。という間取りになっております」
「1人暮らしには十分ですね」
「家具などはお好みがあると思いますので、カタログを準備いたします。ですので、お決まりになるまでは仮の物を設置しております」
「ベッドに冷蔵庫、電子レンジに洗濯機。ローテーブルに数枚の食器。至れり尽くせりですね、ありがとうございます」
「お連れの皆様もある程度は一緒の物を設置させていただいておりますので」
「じゃあ、俺のことよりあっちに行ってあげてください。全部、使い方がわからないと思うので」
「わかりました。説明が終わりましたら夜ご飯の場で最後の説明をさせていただきたいので、そうですね……今から1時間後でいかがでしょうか」
「それでお願いします。説明するのは大変だと思うので、時間が遅れても大丈夫です」
「お気遣いいただきありがとうございます。それでは、失礼致します」

 久しぶりに訪れた1人の時間を堪能する様に、これでもかと天井に向かって体を伸ばす。

「ん~、くぅー」

 慣れ親しんだ場所でも、懐かしい匂いがするわけでもなく、ただ目の前にあるのは新鮮な景色と静寂。
 しかし、落ち着いた今だからこそ懐かしい気持ちが込み上げてきた。

「ホームシックは克服したと思ったんだけどな」

 異世界へ転移させられ、目まぐるしい生活を送り続けた秋兎あきと
 様々な出会いやイベントを経て、様々な交友関係を築き力を手に入れた。
 たった3年、されど3年。
 平凡な日常を送っていた人間が、急に異世界で生活することになり、常に死と隣り合わせの生活を送ってきた。

「……みんな、元気なのかな」

 家族、友人、知り合い――今なら、会おうと思えば会えるであろう。
 しかし、勝手な真似をしていい立場ではなくなってしまったのも事実。
 もしも思いのまま行動してしまった結果、その人たちに危険が及ぶかもしれない。

 そして、そのもどかしさを当分は抱えたまま生活し続ける必要がある。

「カーテンを閉めに行くか」

 完全に陽は沈み、部屋の灯りが外に漏れだしてしまっていた。

 まずは1部屋目。
 部屋の中はフローリングで、長いテーブルと椅子が設置してあり、少し殺風景ではあるが雰囲気は作業部屋となっている。
 カーテンに手をかけると夜景を前に息を呑む……美しさがあったらよかったのだが、まさかの光景が広がっていた。

「ここ、学園の目の前じゃん」

 土地勘がないから気づかなかったのも仕方なし。
 それに、場所の説明を受けるはずだったであろう車内で、別のことを話していたり、余計なやり取りを交えてしまったため時間がなかったのもある。

「ここまで近いと遅刻の心配はしなくても大丈夫そうかな。とは言っても、校門から校舎までの距離が遠かったりするからトントン……か」

 そして2部屋目へ移動。
 ここにはベッドが置いてあり、クローゼット以外のものは何もない。

 すぐにカーテンを閉め、ベッドに腰を下ろす。

「俺、本当に帰ってきたんだな」

 忙しい一日が終わり、やっと一息つくことができる1人の時間が訪れたからこそ実感が沸いてくる。

 背中を丸め、両膝に肘を突けて目線を下げた。

「だが正直、こっちの世界に帰ってくるときは寂しい気持ちもあった。なんせ、あっちの世界とは違ってこっちの世界は平和そのものだから」

 心躍る冒険も、燃えたぎるような戦いも、ギリギリの綱渡りをする交渉もこちらの世界ではほとんど望めない。
 全てやろうと思えばできることだが、やはり世界観が違いすぎる。

 しかし。

「まさかこっちの世界でもダンジョンができていて、意図してはいなかったけど特別かつ自由な存在となった。あ、そうだ」

 ずっと腰に携えていた短剣をベルトごと取り外す。

「こっちの世界でも同じことができるのなら――」

 空いている右手の人差し指で空中を上から下にスワイプ。
 すると、空中に複数のアイテムのアイコンが表示されているウィンドウが出現し、その下に手を差し出すとアイテムを出し入れすることができる。

「転移した時に女神様から貰ったものだけど、本当に便利だよな。それじゃあ、こっちも使えるってことで――ざっと10分ぐらいか」

 開いているウィンドウを指で右へスライドし、『入場最終確認』の項目が出現。
 右に『承諾』左に『拒否』の、『承諾』を選択――。

「――あっちの世界では一番落ち着かない場所だったのに、今は逆にここが一番落ち着く空間になってしまった」
「……」
「後はまあ、久しぶり」
「アキト」
「感動の別れをした後だというのに、どうしてこんなすぐに顔を合わせることができたのか疑問に思うのはわかる。だが、口喧嘩じゃなく再会を喜ぼう」
「はぁ……われとて、其方の仲間みたいに可愛らしく抱きついたりすればよかったか?」
「そんな柄じゃないでしょ。そもそも、ずっと敵対関係にあったわけだし」

 真っ白い空間に、1人の女性が装飾された椅子に腰を下ろしている。

「今となっても、アキトがしでかしたことは今でも理解が追いつかないがな。そんなことはさておいて、どういう風の吹き回しだ? あの様子だと、二度と会えないような口ぶりだったと思うのだが」
「いろいろと事情が変わってね。説明した通り、今はちゃんと元々住んでいた世界に帰還することができたよ」
「それを聞いたらなおのこと疑問が浮かぶ。まさか、世界を行き来できるようになったでも?」
「残念ながらそれはできていない。もしかしたらできるようになるかもしれないけど、今回は俺もかなり驚いている」
「どのように」
「まさかのまさか。俺が居なかった間にこっちの世界でもダンジョンができていたってわけ。だから、魔力が放出されていて――つまり、世界観の差がなくなったわけだ」
「中々に興味深い展開となってきたの。だが、つまりは其方そなたの力も際限なく使用できると」
「そういうことになるね」
「とんだふざけた話だ。待てよ、あちらの世界ではわれが魔力を支配していたから――」
「まあ、細かいことはいいじゃないか。魔王エグザ」

 凝り固まった体を伸ばしつつ、エグザの話を制止する秋兎あきと

「どうしても、ここに来ると体を動かしたくなっちゃうよ」
「そりゃあそうだろう。ここで何度も、鍛錬とか言って戦闘していたって話だったし。それに、私とだってやりあったでしょ」
「まあね。だって、ここはそういう場所だし」

 話をしながら、あちこち体を動かして準備運動を始める秋兎だったが、ついでにキョロキョロと辺りを見渡す。

「そんなに探さなくても、僕はここに居るよ」
「オルテ――もう大丈夫そうだね」
「おかげさまでね」

 エグザと話をしていると、横からスッと茶髪の少年が姿を現す。

「とりあえず、2人にはこちらの世界がどんなもんかっていう説明をしておく――」

 秋兎はその場でジョギングをしたり、筋トレをしつつ話を進める。
 時にはシャドーボクシングをしたり、時にはステップを踏んでみたりしながらも。

「――と、いう感じで」

 かれこれ30分はそんな感じで話を進めた秋兎あきとは、やっとのことで体の動きを止めた。

「異なる世界から来た、という話を元々耳にしていたからそこまで疑うことはないが。だが、この目で見ても信じられるかはわからないな」
「僕も同じだね。あまりにも世界が違うというか、世界観が違いすぎるというか」
「まあそうだよな。俺が転移させられたときに、全く同じ感想を抱いたからな」
「とりあえず、こっちの世界でもダンジョン攻略するってわけなんだ」
「ああ。元々住んでいた世界でもやっていることがあんまり変わらないっていうのは、なんとも複雑な感じでもあるんだが」
「でも、いいなぁ。学校っていうところ、楽しそうじゃん」
「まあ、ぼちぼちな」
「それで、其方の用件は終わりというわけか?」
「今のところは、だな」
「だったら、どうせ何かの途中で来たんだろうから元の場所に戻れ。此奴こやつの傷が癒されていっても、我の傷がズキズキと疼く」
「わかった。じゃあ、また後で来るから」

 エグザはそっぽを向き、オルテはにこやかに手を振って秋兎あきとの背中を送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。 そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。 「アランくん。今日も来てくれたのね」 そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。 そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。 「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」 と相談すれば、 「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。 そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。 興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。 ようやく俺は気づいたんだ。 リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。

アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい

黒城白爵
ファンタジー
 ーーある日、平穏な世界は終わった。  そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。  そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。

風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏
ファンタジー
地味で不遇な風魔法──でも、使い方しだいで!? どこにでもいる男子高校生が、意識高い系お嬢様に巻き込まれ、毎日ダンジョン通いで魔法検証&お小遣い稼ぎ! 目指せ収入UP。 検証と実験で、風と火が火花を散らす!? 青春と魔法と通帳残高、ぜんぶ大事。 風魔法、実は“混ぜるな危険…

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

処理中です...