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第二章
第14話『この世界におけるダンジョンについて』
「それでは、いただきましょう――あら?」
桜から不思議そうな目線を向けられているのは、秋兎一行4人。
「ああ。特に強制させているわけでもないんですけど、習慣化してしまいまして」
というのも秋兎はともかく、異世界人であるセシル・マリー・フォルが両手を合わせ「いただきます」と言おうとしているのだから、物珍しさが漂ってしまっていたのだ。
さっそく食べ始めようとするも、3人は目を輝かせていろいろなものや料理へ視線を回している。
「こ、これがお話にあった――お、お箸というものですかアキト様」
「これはなんですか? 木製のお皿なのに、肌触りが全然違いますよ」
「なあなあ! この、ぐつぐつと煮込まれているものはなんというのじゃ!」
「これが鍋料理ってやつで、これはたしか漆塗りってやつのお椀だったような気がする。箸の使い方は難しいから、レンゲとスプーンとフォークを使って食べるといいよ」
目の前に広がる真新しい食べ物などにキラキラと目を輝かせる3人。
お玉杓子でそれぞれの皿へ中身を分配し、食事が始まる。
「ここでの食事代はお支払いいたしますので、思う存分お食べになってください」
「ありがとうございます。しかも個室での席をとっていただいて」
「いえいえ。いろいろと説明をするにも、聞かせていただくにもこの方が都合がいいですので」
「なるほど、それはたしかに」
(贅沢はさせてやるが『それに見合うだけの情報を提示しろ』、ということか。抜かりないというか、等価交換主義というか)
魚介出汁の利いた美味しいスープに頬を緩ませる相手に、秋兎はスッとした鋭い目線を向ける。
そう、秋兎の警戒心も虚しく、桜もまた3人と同じく料理を楽しみにしていたのだ。
「まずなのですが、これから活動の場所となるダンジョンについて少しでも説明できたらと思います」
「それ、気になっていました。ダンジョンが出て間もないとの話だったと思いますが、現在の攻略階層はどれぐらいなのですか?」
「現在は第35階層まで攻略済みになっております」
「たった数年でそこまで攻略されているのは凄いですね。あっちの世界では、数えきれない歴史の中でやっと70階層までだったというのに」
「なるほど。ですが、輝かしい躍進はこの先は望めないのかもしれません」
「どういうことですか?」
「情報社会ですから、それを武器にダンジョンを攻略してきました。リアルタイムで情報伝達することができるだけではなく、まさに物語のような世界になったからこそ、物語から得られるヒントは計り知れないものですから」
「なるほど、それで言ったら俺も最初の頃は同じようなことを思いながら戦っていました」
秋兎は、そんなファンタジーな世界で出逢った3人に目線を向け、死ぬ気で戦い続けた日々を思い出す。
「アニメとか映画とかゲームとか。こっちの世界では娯楽でしかなかったそれらが最大限の教科書になっていました。残念ながら、現物はなく記憶だけに頼ることしかできませんでしたから」
「あちらでの生活は大変でしたよね……」
「お気になさらず。今となってはいろいろといい思い出ですから」
「それで、ダンジョンの進行が困難になりそうというのはどういった要因で?」
「ええ、ここからは現代社会だからこその問題なんです」
秋兎は「体の芯から温まります」「ボクの大きいカニ!」「妾はこの豆腐が気に入ったのじゃ」と、至近距離で別世界にでも居る平和な3人に対して「少しぐらい話聞こ?」とチラッと視線を向ける。
当然、残念ながらそんな淡い期待が成就することはなく。
「命を賭けるだけの価値を見出せない、といったところです」
「……なるほど」
「報酬は一般的に働いている人より多く貰ってます。特別報酬も当然。人によってはレアドロップなどで一攫千金している人も。ですが、ダンジョン攻略を進めていくと、必ず死と隣り合わせとなってしまいます」
「それはたしかに」
「ですので、永遠にお金を欲している人とか、夢や目標を掲げている人以外の人は、どうしても階層を進んで行くメリットが少なくなってきてしまうんです」
「命と報酬を天秤に掛ける……難しい判断ですからね」
「そ・こ・で。秋兎様にダンジョンで配信を行ってもらい、人々に火を点けてもらいたいのです」
桜はコホンッ、と一回、姿勢を正す。
「技術革新が起き続ける昨今、人々は今の生活に慣れ過ぎています」
「そうなんですね?」
「そして、人々はあまりにも安全志向になり、危機察知能力が圧倒的に退化してきています」
「ほほう?」
「それだけではありません。人々は常に、自分が熱くなれるものを無意識に探しています。ですので、秋兎様にこちらの世界で英雄となっていただけたらと思います」
「表面的に聴いていれば世間への愚痴……に聴こえますが、規模感が少し違うように感じますね。推測するに、人々に薪を焼べる必要があると言ったところですか?」
「ええ、さすがですね。皆様には不自由のない生活を提供し、様々な活動に支援する準備は整えてあります――」
と言い終えた桜は立ち上がり、秋兎の隣で腰を下ろして小声で。
「ダンジョンのモンスターが地上へ進行してきたときの対処方案が不足しており、モンスターと戦える人口を増やす必要があります」
「なるほど」
「それに加え、国内ではいろいろな動きが見て取れます。国外からのスパイやダンジョンに不信感を抱いている団体、その他未観測の組織など」
「それで、あの部隊に」
「はい、その通りです。正直、異世界から帰還された秋兎様に頼らざる負えない状況はお恥ずかしい限りなのですが……」
「いいえ、お気になさらず。あちらにお戻りください」
「で、でも」
「なんと言いますか、口をパンパンに膨らませている彼女たちの目線がズキズキと刺さり続けているので」
「え」
桜は、秋兎が言っていることを確認するため視線を3人に移す。
すると、目線は鋭くさせているもののモグモグと噛みつけている3人の姿が。無言の圧力ではあるものの「アキト様から離れろ」という意志はヒシヒシと伝わってきて、すぐに席へ戻る。
「政治的なこともその他のことも俺にはわかりません。そして、今のうちに謝っておきます、ごめんなさい」
「どうしてですか?」
「正直、俺はこの日本に生まれ育ちました。ですが、愛国心というものはありません」
「……」
「受けた施しに関しても感謝していますが、俺にとっての優先事項は『自分が生活する環境を守る』ことです。国から出ていけ、と言われたら素直に従いますし、理不尽な扱いを受けたのなら全力で抗います」
「秋兎様はお優しく、力も心もお強いのですね」
「まあ、並の人間よりは何度も窮地に陥ったり生死を賭けた戦いをしてきましたから」
秋兎は、今もなお食べ物に目をキラキラと輝かせている3人へ視線を向ける。
「秋兎様の言い分は理解できました」
「でも、いろいろと用意をしてもらったりしていますから、恩を仇で返す様な真似は俺もしたくはありません。利害の一致、ということで。できるだけ国を護りますし、ダンジョンの件も模索しながらなんとかやってみます」
「本当に助かります。この一件、私の首もかかっていますので安心しました」
「だけど……」
「だけど?」
「勉強の方は、どうしても大苦戦する見込みしかありません」
「ぷっ、ははっ」
「笑わないでくださいよ、これでも真剣に悩んでいるんです」
桜は今までの真剣な表情を崩し、お腹を抱えながら笑い始める。
「だって、そんなにお強くカッコいいのに『勉強が心配』なんて言葉を聞いたら誰でも笑いますって」
「くっ、何も言い返せないのが悔しい」
「そうですよね、本当にその通りだと思います。異世界で生活していた人が、急にこちらの世界基準で勉強するのですから無理もありません」
「……わかっていただけで嬉しいです」
秋兎はなんとも複雑な感情を抱きつつ、目をピクピクさせながら片口角を上げる。
「そちらに関しましては、私の妹を頼ってください。もう既にお話されましたよね。家で楽しそうに話していましたから、イケメン転校生について」
「え?」
「あら、お気づきではなかったのですね。私の名前、桜華音。秋兎様のクラス委員長、桜乙音」
「ああ、なるほど。ご家族だったのですね」
「秋兎様がどういった経緯で転校してきたかまでは伝えていませんので、ぜひ学友として仲良くしてあげてください」
「こちらこそぜひよろしくお願いします」
そんな、まるで妹を嫁に――みたいな話をし始めるものだから、三人は焦って口の中身を飲み込んで口をアワアワと動かし始める。
「アキト様、わたくしがもっと勉強を頑張りますから!」
「大変だろうけど、いろいろと頑張ってね」
「アキト様! ボクだって頑張るから!」
「ああ、難しいだろうけど頑張ろう」
「妾は学園1位を目指すのじゃ!」
「目標が高すぎる気もするけど、ほどほどにね」
「……皆さんも大変そうですね」
「そうですね」
「いえそうではなく」
秋兎は首を傾げる。
しかし、3人は「わかってくれますか」と桜へ今までとは違う目線を送っていた。
「ささっ、今日は入学祝いの席でもありますので、追加で注文しちゃいましょう。お刺身の盛り合わせに、天ぷらもいいですね」
「程々にお願いします」
桜から不思議そうな目線を向けられているのは、秋兎一行4人。
「ああ。特に強制させているわけでもないんですけど、習慣化してしまいまして」
というのも秋兎はともかく、異世界人であるセシル・マリー・フォルが両手を合わせ「いただきます」と言おうとしているのだから、物珍しさが漂ってしまっていたのだ。
さっそく食べ始めようとするも、3人は目を輝かせていろいろなものや料理へ視線を回している。
「こ、これがお話にあった――お、お箸というものですかアキト様」
「これはなんですか? 木製のお皿なのに、肌触りが全然違いますよ」
「なあなあ! この、ぐつぐつと煮込まれているものはなんというのじゃ!」
「これが鍋料理ってやつで、これはたしか漆塗りってやつのお椀だったような気がする。箸の使い方は難しいから、レンゲとスプーンとフォークを使って食べるといいよ」
目の前に広がる真新しい食べ物などにキラキラと目を輝かせる3人。
お玉杓子でそれぞれの皿へ中身を分配し、食事が始まる。
「ここでの食事代はお支払いいたしますので、思う存分お食べになってください」
「ありがとうございます。しかも個室での席をとっていただいて」
「いえいえ。いろいろと説明をするにも、聞かせていただくにもこの方が都合がいいですので」
「なるほど、それはたしかに」
(贅沢はさせてやるが『それに見合うだけの情報を提示しろ』、ということか。抜かりないというか、等価交換主義というか)
魚介出汁の利いた美味しいスープに頬を緩ませる相手に、秋兎はスッとした鋭い目線を向ける。
そう、秋兎の警戒心も虚しく、桜もまた3人と同じく料理を楽しみにしていたのだ。
「まずなのですが、これから活動の場所となるダンジョンについて少しでも説明できたらと思います」
「それ、気になっていました。ダンジョンが出て間もないとの話だったと思いますが、現在の攻略階層はどれぐらいなのですか?」
「現在は第35階層まで攻略済みになっております」
「たった数年でそこまで攻略されているのは凄いですね。あっちの世界では、数えきれない歴史の中でやっと70階層までだったというのに」
「なるほど。ですが、輝かしい躍進はこの先は望めないのかもしれません」
「どういうことですか?」
「情報社会ですから、それを武器にダンジョンを攻略してきました。リアルタイムで情報伝達することができるだけではなく、まさに物語のような世界になったからこそ、物語から得られるヒントは計り知れないものですから」
「なるほど、それで言ったら俺も最初の頃は同じようなことを思いながら戦っていました」
秋兎は、そんなファンタジーな世界で出逢った3人に目線を向け、死ぬ気で戦い続けた日々を思い出す。
「アニメとか映画とかゲームとか。こっちの世界では娯楽でしかなかったそれらが最大限の教科書になっていました。残念ながら、現物はなく記憶だけに頼ることしかできませんでしたから」
「あちらでの生活は大変でしたよね……」
「お気になさらず。今となってはいろいろといい思い出ですから」
「それで、ダンジョンの進行が困難になりそうというのはどういった要因で?」
「ええ、ここからは現代社会だからこその問題なんです」
秋兎は「体の芯から温まります」「ボクの大きいカニ!」「妾はこの豆腐が気に入ったのじゃ」と、至近距離で別世界にでも居る平和な3人に対して「少しぐらい話聞こ?」とチラッと視線を向ける。
当然、残念ながらそんな淡い期待が成就することはなく。
「命を賭けるだけの価値を見出せない、といったところです」
「……なるほど」
「報酬は一般的に働いている人より多く貰ってます。特別報酬も当然。人によってはレアドロップなどで一攫千金している人も。ですが、ダンジョン攻略を進めていくと、必ず死と隣り合わせとなってしまいます」
「それはたしかに」
「ですので、永遠にお金を欲している人とか、夢や目標を掲げている人以外の人は、どうしても階層を進んで行くメリットが少なくなってきてしまうんです」
「命と報酬を天秤に掛ける……難しい判断ですからね」
「そ・こ・で。秋兎様にダンジョンで配信を行ってもらい、人々に火を点けてもらいたいのです」
桜はコホンッ、と一回、姿勢を正す。
「技術革新が起き続ける昨今、人々は今の生活に慣れ過ぎています」
「そうなんですね?」
「そして、人々はあまりにも安全志向になり、危機察知能力が圧倒的に退化してきています」
「ほほう?」
「それだけではありません。人々は常に、自分が熱くなれるものを無意識に探しています。ですので、秋兎様にこちらの世界で英雄となっていただけたらと思います」
「表面的に聴いていれば世間への愚痴……に聴こえますが、規模感が少し違うように感じますね。推測するに、人々に薪を焼べる必要があると言ったところですか?」
「ええ、さすがですね。皆様には不自由のない生活を提供し、様々な活動に支援する準備は整えてあります――」
と言い終えた桜は立ち上がり、秋兎の隣で腰を下ろして小声で。
「ダンジョンのモンスターが地上へ進行してきたときの対処方案が不足しており、モンスターと戦える人口を増やす必要があります」
「なるほど」
「それに加え、国内ではいろいろな動きが見て取れます。国外からのスパイやダンジョンに不信感を抱いている団体、その他未観測の組織など」
「それで、あの部隊に」
「はい、その通りです。正直、異世界から帰還された秋兎様に頼らざる負えない状況はお恥ずかしい限りなのですが……」
「いいえ、お気になさらず。あちらにお戻りください」
「で、でも」
「なんと言いますか、口をパンパンに膨らませている彼女たちの目線がズキズキと刺さり続けているので」
「え」
桜は、秋兎が言っていることを確認するため視線を3人に移す。
すると、目線は鋭くさせているもののモグモグと噛みつけている3人の姿が。無言の圧力ではあるものの「アキト様から離れろ」という意志はヒシヒシと伝わってきて、すぐに席へ戻る。
「政治的なこともその他のことも俺にはわかりません。そして、今のうちに謝っておきます、ごめんなさい」
「どうしてですか?」
「正直、俺はこの日本に生まれ育ちました。ですが、愛国心というものはありません」
「……」
「受けた施しに関しても感謝していますが、俺にとっての優先事項は『自分が生活する環境を守る』ことです。国から出ていけ、と言われたら素直に従いますし、理不尽な扱いを受けたのなら全力で抗います」
「秋兎様はお優しく、力も心もお強いのですね」
「まあ、並の人間よりは何度も窮地に陥ったり生死を賭けた戦いをしてきましたから」
秋兎は、今もなお食べ物に目をキラキラと輝かせている3人へ視線を向ける。
「秋兎様の言い分は理解できました」
「でも、いろいろと用意をしてもらったりしていますから、恩を仇で返す様な真似は俺もしたくはありません。利害の一致、ということで。できるだけ国を護りますし、ダンジョンの件も模索しながらなんとかやってみます」
「本当に助かります。この一件、私の首もかかっていますので安心しました」
「だけど……」
「だけど?」
「勉強の方は、どうしても大苦戦する見込みしかありません」
「ぷっ、ははっ」
「笑わないでくださいよ、これでも真剣に悩んでいるんです」
桜は今までの真剣な表情を崩し、お腹を抱えながら笑い始める。
「だって、そんなにお強くカッコいいのに『勉強が心配』なんて言葉を聞いたら誰でも笑いますって」
「くっ、何も言い返せないのが悔しい」
「そうですよね、本当にその通りだと思います。異世界で生活していた人が、急にこちらの世界基準で勉強するのですから無理もありません」
「……わかっていただけで嬉しいです」
秋兎はなんとも複雑な感情を抱きつつ、目をピクピクさせながら片口角を上げる。
「そちらに関しましては、私の妹を頼ってください。もう既にお話されましたよね。家で楽しそうに話していましたから、イケメン転校生について」
「え?」
「あら、お気づきではなかったのですね。私の名前、桜華音。秋兎様のクラス委員長、桜乙音」
「ああ、なるほど。ご家族だったのですね」
「秋兎様がどういった経緯で転校してきたかまでは伝えていませんので、ぜひ学友として仲良くしてあげてください」
「こちらこそぜひよろしくお願いします」
そんな、まるで妹を嫁に――みたいな話をし始めるものだから、三人は焦って口の中身を飲み込んで口をアワアワと動かし始める。
「アキト様、わたくしがもっと勉強を頑張りますから!」
「大変だろうけど、いろいろと頑張ってね」
「アキト様! ボクだって頑張るから!」
「ああ、難しいだろうけど頑張ろう」
「妾は学園1位を目指すのじゃ!」
「目標が高すぎる気もするけど、ほどほどにね」
「……皆さんも大変そうですね」
「そうですね」
「いえそうではなく」
秋兎は首を傾げる。
しかし、3人は「わかってくれますか」と桜へ今までとは違う目線を送っていた。
「ささっ、今日は入学祝いの席でもありますので、追加で注文しちゃいましょう。お刺身の盛り合わせに、天ぷらもいいですね」
「程々にお願いします」
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