王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星井ゆの花

文字の大きさ
10 / 79
正編

10

しおりを挟む

「菩提樹の精霊ティエール様、人々を導く新たな精霊神がいないのは当たり前のことだわ。人と神の間に入り導きをする者はこれから生まれる。いえ、私とあなたの間に生まれる子供が……導き手になるの」

 菩提樹の精霊に嫁ぎ人間であることを辞めて、地上を導く子を産むと告げるイザベル。

「イザベル……では本当に」
「私……人間の身体を脱ぎ捨てて、精霊になるわ。不束者ですがよろしくお願いします。ティエール……ずっとあなたのことが好きでした」
「ありがとう……僕も少年の頃からずっと……キミを愛しているよ。イザベルのこと幸せにしてあげるから」

 ティエールはイザベルに愛を囁き優しく口づけをし、そのまま二人は大地のように優しいベッドに倒れ込んだ。

 お互い初恋同士である『人と精霊』の清らかな交わりは、イザベルの魂を生きたまま天に上げた。


 * * *


「イザベル様が精霊様に嫁いでくれたおかげで、地上は住み心地が良くなったねぇ」
「まぁお婆ちゃん、それは伝説でしょう?」
「違うんだよ、本当にイザベル様は遠い昔は人間だったって話さ。今この国が生き残っているのもイザベル様が精霊様にお願いして加護の期間を延ばしてもらったんだよ」

 聖女の皮を被った悪魔ミーアスが、精霊により滅ぼされて百年の歳月が経った。本来ならば、人類は百年前に精霊の加護から離される予定だったらしいが、地上の信仰深い令嬢イザベルが精霊に嫁ぎ、加護期間を百年延ばしたのだという。
 だがその物語が真実であるか、確認する方法はなく、人々はただの御伽噺だと考えるようになっていた。

 地上には以前よりも森や緑が増え、小鳥や小動物が暮らしやすくなった。人々の日課は自然の恵みの感謝と精霊様へのお祈りである。

「ねぇ、今日は精霊様に手作りクッキーをお供えするの。精霊様、喜んでくれるかな」
「今の精霊神様は、人間と精霊との間に生まれた方だという。きっと喜んでくださるよ、行こう」

 とある家族が祈るために、精霊神の元へと足を運んだ。百年前に植えられたという菩提樹の根元には、男爵令嬢イザベルの魂が眠ると伝えられていた。
 そして木を守るように『家族三人の精霊像』が飾られており、父親である菩提樹の精霊ティエール、母親である元人間の精霊イザベル、そして息子である現在の精霊神が仲良く並んでいた。

「精霊様、今日も私達人間が平和に暮らしていけますように。はいこれ、手作りクッキーよ。私がつくったの、家族で食べてね」

 少女がクッキーを捧げると端正な精霊神の像が、優しく微笑んだ気がした。何処からともなく少年の優しい声が聞こえてくる。

『今日もお祈りしてくれて、ありがとう。クッキーも嬉しいよ……また来てくれる?』

 少年の声が少女に届いているかは、分からない。だがお祈りが終わると少女は振り返って、「うん。また来るね、精霊様」と照れたように笑った。

 それは少女にとって、微かな恋の始まり。新たな精霊の花嫁が誕生するのは、この数年後の話である。

 祈りは今日も、それぞれの心の内で静かに捧げられるのだ。


 * * *


『菩提樹に宿る精霊神様、絶望の淵にいても、私達人間が希望を見失わないようにお守りください』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...