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正編
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しおりを挟む「菩提樹の精霊ティエール様、人々を導く新たな精霊神がいないのは当たり前のことだわ。人と神の間に入り導きをする者はこれから生まれる。いえ、私とあなたの間に生まれる子供が……導き手になるの」
菩提樹の精霊に嫁ぎ人間であることを辞めて、地上を導く子を産むと告げるイザベル。
「イザベル……では本当に」
「私……人間の身体を脱ぎ捨てて、精霊になるわ。不束者ですがよろしくお願いします。ティエール……ずっとあなたのことが好きでした」
「ありがとう……僕も少年の頃からずっと……キミを愛しているよ。イザベルのこと幸せにしてあげるから」
ティエールはイザベルに愛を囁き優しく口づけをし、そのまま二人は大地のように優しいベッドに倒れ込んだ。
お互い初恋同士である『人と精霊』の清らかな交わりは、イザベルの魂を生きたまま天に上げた。
* * *
「イザベル様が精霊様に嫁いでくれたおかげで、地上は住み心地が良くなったねぇ」
「まぁお婆ちゃん、それは伝説でしょう?」
「違うんだよ、本当にイザベル様は遠い昔は人間だったって話さ。今この国が生き残っているのもイザベル様が精霊様にお願いして加護の期間を延ばしてもらったんだよ」
聖女の皮を被った悪魔ミーアスが、精霊により滅ぼされて百年の歳月が経った。本来ならば、人類は百年前に精霊の加護から離される予定だったらしいが、地上の信仰深い令嬢イザベルが精霊に嫁ぎ、加護期間を百年延ばしたのだという。
だがその物語が真実であるか、確認する方法はなく、人々はただの御伽噺だと考えるようになっていた。
地上には以前よりも森や緑が増え、小鳥や小動物が暮らしやすくなった。人々の日課は自然の恵みの感謝と精霊様へのお祈りである。
「ねぇ、今日は精霊様に手作りクッキーをお供えするの。精霊様、喜んでくれるかな」
「今の精霊神様は、人間と精霊との間に生まれた方だという。きっと喜んでくださるよ、行こう」
とある家族が祈るために、精霊神の元へと足を運んだ。百年前に植えられたという菩提樹の根元には、男爵令嬢イザベルの魂が眠ると伝えられていた。
そして木を守るように『家族三人の精霊像』が飾られており、父親である菩提樹の精霊ティエール、母親である元人間の精霊イザベル、そして息子である現在の精霊神が仲良く並んでいた。
「精霊様、今日も私達人間が平和に暮らしていけますように。はいこれ、手作りクッキーよ。私がつくったの、家族で食べてね」
少女がクッキーを捧げると端正な精霊神の像が、優しく微笑んだ気がした。何処からともなく少年の優しい声が聞こえてくる。
『今日もお祈りしてくれて、ありがとう。クッキーも嬉しいよ……また来てくれる?』
少年の声が少女に届いているかは、分からない。だがお祈りが終わると少女は振り返って、「うん。また来るね、精霊様」と照れたように笑った。
それは少女にとって、微かな恋の始まり。新たな精霊の花嫁が誕生するのは、この数年後の話である。
祈りは今日も、それぞれの心の内で静かに捧げられるのだ。
* * *
『菩提樹に宿る精霊神様、絶望の淵にいても、私達人間が希望を見失わないようにお守りください』
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