王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星井ゆの花

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精霊候補編2

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 王太子アルディアスの魂が精霊界の街中を彷徨い、かつての婚約者イザベルの元へ助けを求めたことは、精霊達の中で話題となっていた。特に悪霊などを討伐する役割を持つ精霊ギルドでは、余計な仕事が増えていくことを懸念する魔道士がチラホラ。

「普段は、悪霊が精霊界まで逃げてくるなんて、難しいのに。やっぱり、あのイザベルっていう精霊候補生が、悪霊を呼び寄せる原因なんじゃない? まだ半端に人間の魂を宿しているから」
「イザベルの存在は、精霊界の調和を乱すかも知れない。けど、よりによって精霊官吏たるティエール様は、元人間の精霊候補イザベルに夢中。あぁ……なんだか、ムカムカしてきちゃったっ」

 魔道士達の関心は、いつしか王太子アルディアスの彷徨える霊魂よりも、精霊候補生のイザベルに対象が移り変わっていた。密かに精霊官吏ティエールに想いを寄せていた女達からすると、正式な婚約者であるイザベルのことは、気に入らなくて仕方がないといった雰囲気さえある。

 すると、カウンターバーで噂話やら悪口やらで盛り上がっていた中堅女魔道士達を見かねた兵士が、チクリと一言。

「随分と、今宵はおしゃべりが捗っているようですね。くだらない噂話を酒のつまみにする暇があったら、高度の呪文詠唱の一つでも覚えれば良かったんですよ。一流の魔道士ということで、貴女達もティエール様とチャンスがあったかも知れないのに」
「あっアンタは昨日、精霊候補生に怪我を治してもらったっていう兵士の……」
「……精霊庁直属剣士ロマリオと申します。先日イザベルさんに、手当てしてもらったおかげで、どうにかお役御免にならずに済んだんです。命の恩人の悪口を放っておくわけにいかない」

 女達は魔法系ギルド所属とは言え、まだ中堅の資格しか持たず一流を名乗るには道のりは遠い。それ故、精霊官吏であるティエールとは縁を結ぶことが叶わず、こうして『ギルド直営バー』の片隅で愚痴を零している。

「ふっふん! 何さ、ティエール様の奥方候補にもうゴマスリ? これだから、精霊庁直属のヤツは嫌なのよ」
「あーやだやだ。場所を変えて、飲み直しましょう! よそのギルド所属者やお役人がいない飲み屋へ……」
「アナタもモテたかったら、その分厚い鉄仮面を取ってからナンパすることね。ふんっ」

 指摘されたことが図星だったのか、女魔道士たちはグラスにカクテルを残したまま、捨て台詞とともに席を立つ。鉄仮面と渾名されたロマリオは、やれやれといった仕草をしてから、その分厚い仮面をコトンと脱いでカウンターに座る。
 澄んだ青い瞳とウエーブがかった飴色の髪は、思わず見る者を魅了しそうな美しさだが。あいにく彼女達は、ロマリオの仮面を取った素顔を確認する前に、店を出て行ってしまったのだ。

「はははっ……あの女性達も見る目がないですねぇ。ロマリオさんほどの美丈夫が、せっかくいらしたのに。仮面を外す前に出て行ってしまわれるとは、短気は損気ですなぁ」
「ああいう女性陣は、自分みたいな口煩いのは外見問わず嫌いなんでしょう。きっと……」
「ふふっ……そういうことにしておきますか。しかし、ロマリオさんの怪我が大したことなくて良かった。一応、念のために滋養に良いお酒を出しますよ」

 薬膳酒を少しずつ飲みながら、モルトビネガーをたっぷりかけて、好物のフィッシュアンドチップスを堪能する。酔わないはずの薬膳酒だが『嫉妬するくらいなら、いっそのこと玉砕覚悟でアタックする方が潔いのに……』とロマリオがポツリと酔ったように呟く。それはロマリオが、自らに言い聞かせているかのような言い回しでもあった。


 * * *


 ――同刻。せせらぎの森のロッジでは、夕食を終えて休んでいたイザベルが、小さなくしゃみを一つ。

「くしゅんっ! やだわ、風邪かしら? せっかく七面鳥を食べて、魔法力を回復したのに」
「おやまぁ。誰かが噂話でもしているのかな? 今日は王太子の霊魂に出会して、いろいろ大変だったし。そうだ……明日は長老様に許可を取って、悪霊を遠ざけるお祓いをしてから仕事にしよう。それとキミを狙う男の影からも……ね」

 何かの勘が働くのか、ティエールは独占欲を利かせた笑顔で微笑む。まだいろいろなことに鈍いイザベルは、言われるままに身体を休めるのであった。

 まさか自分が、精霊界で『ティエール以外の男性にも好意を寄せられている』とは……夢にも思わずに。
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