王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星井ゆの花

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終幕編1〜ララベル視点〜

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「けれど、ララベル……貴女のその羽根。一体、何が?」
「イザベル、この小妖精の羽根はリリアが最後のチカラで私に託してくれたものなの。他にもたくさん教えてあげないといけないことがあるわ。未来で起きたことを……」
「私もこれまでの経緯をご先祖様に伝えなきゃと思っていたの」

 初対面とは思えないほど、イザベルとララベルの会話はスムーズだった。本来ならば、会話することすら叶わない同じ樹の系譜を持つ直系の先祖と子孫。一見すると彼女たちの繋がりを現わす言葉は、先祖と子孫以外にも複数あるように感じられる。姉と妹、母と娘、親友、ソウルメイト……だが、どの言葉も近いようで違うものだった。
 ただ一つ言えることは、逆行転生の儀式により深い縁が出来た故に、魂を共有出来る掛け替えの無い存在だということだ。そしてそれは喜怒哀楽の感情も共有し、共鳴し、分かち合うことを示していた。お互い全ての説明が終わると、極力平静を装っていたイザベルの瞳からポロポロと涙が零れ落ちていた。

「そんな、変革された未来ではティエールが……存在していない? リリアはララベルの逆行転生を成功させるために、命を落として……。あぁ……なんでなの、ティエール、リリア……!」

 思わず膝をつき泣き崩れるイザベルの気持ちは、ララベルも同様で痛いほどよく分かる。その涙は、肉体的にいえばララベルが泣いているのと同じ。実際に、ララベルも辛くて苦しくて、泣きたかったのだから。

「お願い、イザベル……泣かないで。私達が絶望してしまったら、諦めてしまったら……本当に未来は悪魔の思う通りのもので確定してしまう。幸い、まだ未来は確定していない」
「うぅ……ひっく。そうよね、ごめんなさいご先祖様。多分、ティエールが存在ごと消える未来に変わったのは、彼の先祖レイチェルさんがオリヴァードさんに嫁げなくなったせいだわ。まだ諦めては駄目よね、レイチェルさんに魔法の清拭をしてあげないと……」

 フローリングの床にペタリと座り込んでしまったイザベルだったが、因果が変化した根源とも言えるレイチェルの病を治療している最中だったことに気づく。広い部屋の奥に設置されたベッドには、呪いのペンダントのせいで魘されているレイチェルが横たわる。ただの時間稼ぎに過ぎなくても、呪いの効果を軽減させる魔法の清拭を行わなくてはいけない。

「私も手伝うわ。この小妖精サイズの身体でも、薬草くらいは運べるわよ」
「……ありがとう!」

 早速、二人で清拭に使用するハーブ入りの湯を作ることになった。ララベルがラベンダーやカモミールなどの薬草を洗面器に敷き詰めて、イザベルがゆっくりと湯を注ぐ。魔除けの呪文を二人で唱えながら、タオルをハーブ湯に浸して軽く絞る。
 ほんのりとハーブの良い香りがするタオルが出来たら、ベッドの方へ移動。魘されているレイチェルの首周りには、ペンダントの瘴気で出来たであろう青いアザが……これが呪いなのかとショックでララベルは一瞬だけ目を伏せた。

「はぁ……苦しい。誰か……ララベル、オリヴァード……!」
「安心して、レイチェル。今、呪いの効果を弱めるから……」

 嫁入り前の白い肌を傷つけないように、優しく優しく、丁寧にタオルでアザの周辺を拭いていく。念のため微かに瘴気の影響を感じられる胸元の辺りまで拭いて、一旦は魔法の清拭が済んだ。
 すると、魔法が効いたのかレイチェルの動悸が軽くなり、青いアザも薄らと消えていく。

「これは……もしかして、呪いの瘴気が掻き消されたのかしら。この調子で呪いが完治できればいいんだけど」
「それが、魔法の清拭の効果は一回につき二時間くらいが限界なんですって。清拭で呪いを打ち消すのは限界があるし、それまでの間に解決策が見つかれば……。今、カエラート男爵がギルド経由で、呪い解除の方法を調べてきてくれているんです。夜明け前には戻ると……」
「夜明け前、か……。まずはこの暗い今を乗り越えて希望を見出しましょう」

 遠い東方では、夜明け前が一番暗いと伝えられているらしい。全てにおいて暗いのは今だけで、その先には希望が見えると信じて、カエラート男爵の帰りを待つことにした。

 ――黎明は、きっともうすぐ。
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