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第1章
第3話 女神様との同居生活、始まる
しおりを挟むオレとパートナーの女神スイレンが、SSSランクのあやかし退治を終えて再び現世のワープゲートである家神荘に戻ると、既に時刻は夜の8時過ぎ。若年最強と謳われている割に、珍しく身体はぼろぼろであるが……別にあやかしにやられたわけではない。
スイレンに支えられながら裏山を下りて、自宅を目指す。比較的緩やかな下り斜面とはいえ、まだ本調子ではないのだろう。
「あててっ。さすがにちょっと無理したかな?」
「大丈夫かえ? スグルどの……。おおまかな傷は、治癒術で回復したのじゃが。ちょっと、やりすぎたかのう……すまぬな」
首をちょこんと傾げて、申し訳なさそうに上目遣いで謝るスイレンは無茶苦茶可愛い。
星明かりに照らされてきらめく白いうなじからは、ほのかな色気が漂う。さらに、スイレンの柔らかな胸の感触が、身体を支えるために密着している影響でむにゅっと感じ取られる。
そんな美味しい状況に年齢相応のスケベ心がふつふつと沸いてきて、思わず今日のすべての愚行を許したくなってしまった。
だが、可愛いからといって、ここで気をよくするわけにはいかない。いずれ夫婦になる定めならば、夫(予定)としてのオレの威厳を妻(予定)のスイレンに少しずつチラ見せした方がよいだろう。
「えっと、まぁコホン。そうだなスイレン、自宅に戻る前にオレの話を聞いてくれ」
「んっなんじゃ? スグルどの。スグルどのの話ならなんでも聞くぞえ」
自宅目前の裏山敷地内で、ピタッと立ち止まる。咳払いをして、スケベモードに入っているのを気づかれないようにしつつ。なおかつ、スイレンの心を傷つけないように配慮しながら意見を述べることにした。
「まぁオレも婚約したてなのに、女の子の幼なじみの話をしたり……。ちょっと、配慮が足りなかったことは謝るよ。でも、これからは滅裂術は無しなっ」
「うむ、スグルどのが浮気を絶対にしないと誓ってくれるなら……。滅裂術は、もう使わぬぞ」
治らない疲労の原因。それは、出会ったばかりのノリと勢いでプロポーズと誓いの口づけを交わしたスイレンの滅裂術だ。滅裂術とは、異界術の中でも最強レベルの攻撃スキルで、オレが若年最強異界術師と謳われているのもこの滅裂術を使用できるおかげ。
術師のエネルギーの源は、契約する神様のスキルに依存するため、パートナー女神であるスイレンが滅裂術を使いこなせるのは当たり前ではあるのだが……。
「誓うって……もしかして……」
「……スグルどの……んっ」
恥ずかしそうに乙女チックな表情で、静かに目をつむるスイレン……俗に言うキス待ちというものなのだろう。やれやれ、仕方がないな。今日ファーストキスをしたばかりなのに、すでに数回はスイレンと口づけをしている。
とはいえ、まだ口づけの超初心者であるため、迷いながら優しくお互いの唇を重ねていった。本来ならば、ときめきと感動を覚えなくてはならない初々しいカップルのラブシーン。だが、オレの潜在意識は恋愛感情に流されながらも、わずかながら将来尻に敷かれるという恐怖を感じ取っていた。
そう……女神様との口づけ……それは、服従を永久に誓うための崇高な儀式だったのである……。もう、後戻りは出来ない。
* * *
無事、山を下りきり自宅の敷地に到着。一応ベルを鳴らしてから玄関の鍵を開けて、スイレンを招き入れる。
「ただいまー。ツグミ姉ちゃん、アヤメ、ミミちゃん。SSSランクのあやかし倒して戻ったぞ。……あれっ普段はこの時間帯だとダイニングで夕食のはずなんだけど?」
何故か廊下の明かりが点いていなかったため、ぱちっと電気を点ける。かちかちと鈍い音をさせて、蛍光灯が照明の役割を果たす。
ダイニングとキッチンの間には、一応、空間を区切る引き戸があるが、普段は広く使うために空間をオープンにして使用している。だが、玄関からすぐのこの場所には、家族の姿は見あたらなかった。それどころか、家全体が静まりかえっており、まるで身を潜めてしまっているようだ。
「おかしいな、ツグミ姉ちゃんやアヤメだけじゃなく、ミミちゃんまで見あたらないなんて。それとも、とっくに夕食を終えて居間でやすんでいるのかな。ああ……スイレン、遠慮せずにはいって!」
いつもだったら、異界のお土産を求めて真っ先に妹と猫のミミちゃんが駆けてくるのだが。今日は、任務が難航した所為で、異界の商店では買い物できなかったけど。
「おじゃまします……ふむ。お姉さんや妹さんだけではなく、飼い猫ちゃんの姿まで見えないとは……。おや、スグルどの……ご家族の方は意図的に気配を消しているようじゃ。しかも、かなりの腕前と見た」
「まぁ、うちの家族ってみんな術師だから。けど、無駄に霊力をそういう術に使われると困るんだよな。特に、隠蔽スキルはツグミ姉ちゃんのオハコなのにさ」
姉のツグミは、いわゆる探索系の任務をこなす術師だ。その姉が、専門的な隠蔽術を使うなんて……一体なにが?
仕方なく、居間を目指して廊下を抜ける。現在居間となっている場所は、元々は離れだった場所を廊下でつなげただけなので、ちょっぴり距離があるのだ。
廊下をスリッパが滑る足音だけが鳴り響き、居間のふすまを警戒しながら開くと……。
パァーンッ! パァーンッ!
突然、クラッカー音とともに紙吹雪があたりに舞い……『お兄ちゃん、おめでとうっ』『スグル、やったわね。おめでとうっ』『みゃーん、みゃみゃーんっ』と、にこやかな笑顔の家族に迎えられる。
これは、一体? しかも、居間のテーブルには、これからいかにもお祝いパーティーをしますって感じでご馳走が並んでいた。
お祝い定番のお赤飯や家庭料理代表の肉じゃがをはじめ、高級ラインではマグロの刺身や鯛の活き作り、残暑厳しい時期には嬉しい鰻重など。野菜不足解消のために、姉がはまっている青汁やグリーンスムージーもドリンクとして用意されている。
だがそれだけじゃ満足できなかったのか、まだ暑苦しい季節にも関わらず鍋料理がグツグツと煮えたぎり、誕生日でもないくせにホールケーキにろうそくがオレの年の数だけ用意されていた。さらに、クリスマスでもないくせに七面鳥の丸焼きまで。
おかしいだろ、常識的に考えて。春夏秋冬節目の行事を一気に行うつもりなのか?
「スグル、おめでとう……。お姉ちゃんね、スグルの人生の記念日が本当に嬉しくて。車でいろんなスーパーをはしごして、ありとあらゆる料理を揃えたわよ。魚屋さんに鯛の活き作りを注文したり……」
「お兄ちゃん、私もお姉ちゃんと一緒に荷物を運んだり宅配の注文をしたり頑張ったんだから! 偉いでしょ」
「にゃーんみゃーんっにゃにゃーん」
我が家のある地域は山奥とはいえ、自家用車を使えば、地元の商店街はもちろんのこと大型のスーパーやショッピングモールをはしごして、それなりのご馳走を揃えることは可能だろう。だが、肝心のお祝いが何なのか思いつかない。
一応、若年最強と謳われているためSSSランクのあやかし退治は定期的に行っているし。今さら騒ぐ事なんて……はっ、まさか。
「うふふ、しかしまぁスグルがこんな綺麗な女神様と婚約するなんて! お姉ちゃん術師として鼻が高いわ。それにしても、あんたって案外積極的な一面があったのね。まさか、すぐに一目惚れしたスイレンさんにプロポーズするなんて……かっこいいわよ。見直しちゃった!」
「だよねっ! 任務に向かってすぐに、スイレンさんのご家族から娘をよろしくってお電話があったし」
「にゃーんっ」
そんなバカな、まさかオレとスイレンの出会った瞬間プロポーズ事件は、双方の家族一同に筒抜けだったのか。これが、異界の神のチカラ?
すると、慎ましくオレの背後でおとなしく控えていたスイレンが三つ指をついて恭しく挨拶の儀式をし始めた。おい、待てよスイレン、オレとお前は今日初対面で出会ってからまだ数時間だぞ。
だが、オレが何か言葉を発する前に、家族から無言で黙ってろという圧迫のオーラを感じ取る。
「お姉さま、妹さん、それに猫ちゃんまで。私とスグルさんの婚約のお祝いにここまでしてくださるとは……感動で涙が溢れんばかりですわ。私、生まれは異界の女神ですが、嫁として入るからには、人間社会に馴染むように努力をし……。今日から同居人として、きっちりと……」
「えっ一緒に暮らす? 同居するのこれから……スイレンと?」
そういえば、顔合わせをしたいとうちまで着いてきたスイレン。もうあの時点で、同居が確定していたのか。ハイスピードで進む公認の婚約者としてのポジション確立、そしてまさかの同居。あまりの話の早さに気持ちが追いつかないオレ。
「……わらわと一緒に暮らすのは……嫌か?」
なんだかんだいって一目惚れしたのはオレの方だ。潤んだ眼差しで見つめられたら、同居を断れるはずもなく……。
「えっと、あの……これから、よろしくお願いします」
ときめきと独占欲に溢れた異界の女神様との同居生活が、幕を開けるのであった。
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