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第1章
第5話 夢の約束は君への口づけ
しおりを挟む朝露がこぼれ落ちる音とともに、オレの意識は夢の世界を越えて七代前の家神一族の当主のもとへと舞い降りた。
「あれっ……ここは、どこだろう? ああ、夢の中か。天の声が輪廻について長く語るから、潜在意識がご先祖様の記憶をたどっているのか」
* * *
時代は、街をゆく人たちの服装から察すると、幕末から明治に切り替わる頃……といったところだろうか? ちょうど時勢が移り変わる時のようで、術師の立場も存続が危うかったと言われていた頃である。
オレの意識は、文明開化に沸く街並みを抜けて、やがて山奥までたどり着いた。場所は、家神一族が所有する山のどこかのようで、大きな池にはたくさんの蓮や睡蓮が咲き誇っていた。いわゆる花の見頃の時期なのだろう。
池のほとりを、ゆったりと散歩するオレのご先祖様である当主と妻。2人とも年の頃は、20代後半から30前後といったところ。霧がかかる中、2人は深刻そうな表情で何かを話し合っている。
「レン、ありがとう。レンゲ族の女神である君が嫁いできてくれたおかげで、術師存続の争いから逃れ、家神一族は滅ばずに済んだよ。けれど、そのために君の女神としての術力は、ほとんど使い切ってしまった……」
「いいのです、スグル様。私、女神のチカラが失われるのが分かっていてもそれ以上に……ひと目見た瞬間から、あなたに恋をしてしまいましたもの。大好きな人と一緒になれて、子どもを生むことが出来て……とても、とても幸せです。この先、女神ではなく人間として、現世でこの蓮華の花が朽ちようとも、思い残すことはありません」
妻の名前は、レン。オレの婚約者であるスイレンによく似た、美しいレンゲ族の女神様。当主の名前は、オレと同じくスグル。そうか、オレの今現在の名前は、ご先祖様からもらったものなのか。はたまた、ただの偶然か……。
オレの名前は、正式には家神傑(いえがみすぐる)という漢字である。この、ご先祖様の文字まで同じか否かは不明だ。
いろいろあって、家神一族の家系図は一度、不自然な形で抹消されており、ちょうど七代前のご先祖様の記録は残っていない。ぽっかりと、七代前のご先祖様に関する記録だけが欠けている。だが、こころなしか、顔立ちもオレに似ているような気がする。
おそらく、天の声が風呂場で話していた輪廻転生の2人とは、このご先祖様たちのことだろう。
すると、どこからともなく現れた猫耳姿の美少女お庭番が、ご先祖様達に緊急の異変を報告する。
「スグル様、レン様……。異界のあやかしが、ここから東方向に出現中ですにゃっ。すぐに指令を……」
「ああ、わかったよ。ミミ……任務ご苦労。すぐに戻るから。ミミはレンを守ってくれっ」
術力が弱っているレンのボディガードを猫耳お庭番に任せて、異界術師として出陣するご先祖様。
んっそういえば、うちの猫もミミちゃんだよな? また、偶然か。お庭番のミミさんは、人間の美少女姿に猫耳としっぽがある異界の猫神のようだが。
やがて、季節は移り変わり冬の訪れを告げるツグミ鳥が飛来、しばらくの間は穏やかな生活が続いた。
「あれっこの先どうなるんだろう。わっ急に記憶が進んで……。なんだか時代が変化したな、完全に明治時代になっちゃったよ」
そこから数年、時代が進む。激動のため、どうしてもレンゲ族の女神のチカラが必要となった異界。使いの者が、家神に嫁いだレンを連れ戻しにきた。わずかながらに残っているレンのチカラが、異界の争いに役立つか否かは分からない。
「嫌ですっ! 私、この現世でスグル様と添い遂げると決めているんです。異界には戻りたくありません」
「レン様……ですが、このまま異界が存続できなくては、やがて術師である家神一族やレン様のお子さまたちのお命も……」
「……! スグル様や子どもたちの命が……」
結局、レンは後ろ髪引かれる思いで異界へと戻る決意をする。すべては、愛する夫スグルや子ども達のため。
旅立ちの日、蓮の花や睡蓮、アヤメなどが咲き乱れる池のほとりで、レンとスグルはある約束を交わす。
「もしかしたら、これが今生の別れとなるかもしれません。だから、約束してくださいな。たとえ、死を迎える日、その場所が遠く離れていても……必ず、同じ蓮の花の上に転生すると……。おそらく、次の輪廻は七代先……」
「死してもなお愛を誓い、同じ蓮の花の上に生まれる。まさに、一蓮托生か。分かったよ、レン。必ず約束しよう……七代先の家神一族としてもう一度現世にこの身を持ったときには、君と同じ蓮の花の上に生まれて、生涯を夫婦としてともに生きよう」
そっか……偶然とはいえ、オレと同じ名前のご先祖様は一人の女性に愛を誓う約束を交わしたのか。一蓮托生って、前世からつながりのある2人が約束を守って愛し合うことなんだっけ……見習わないとな。すると、切ない気持ちで2人のやりとりを見守るオレの気配に気づいているかのごとく、妻のレンから気になるセリフが……。
「絶対、約束よ。あなたを好きになる女性は、きっとたくさんいるわ。知らないのはあなただけ……現に今だって。幼なじみの薙刀使いルリ子さんや他の術師の女性達からも、熱いまなざしをそそぎ込まれている。けれど、決して浮気をしないでね。そんなことをされたら、私……。嫉妬のあまり、蓮の花ではなく睡蓮の花に生まれ変わってしまうから……滅亡の呪いを胸に秘めた睡蓮の花に……」
幼なじみのルリ子さんというキーワードに、思わずドキッとする。オレの幼なじみも薙刀使いでしかも名前はルリだ。これが、俗に言う因縁なのか。しかも、浮気されたら睡蓮の花に生まれ変わるだと……?
なんで嫉妬に狂うと睡蓮の花に生まれ変わるんだ? 滅亡の呪いって何、睡蓮って綺麗なイメージだけど何か秘密のある花なのか。そのからくりが理解できないまま、2人の会話はなお進む。
「ふっバカなことをいうな。オレは一生……何があっても、レンだけだよ。オレの愛する……美しい蓮の花……」
じゃあどうして、生まれ変わったレンさんは睡蓮の花の女神スイレンに転生しているんだよ。そういえば、オレの婚約者のスイレンって異様に嫉妬深いし……幼なじみの話をしただけでやたら反応していたし。もしかして、もしかすると……オレのご先祖様って……。
はっ、家神一族って部分的に家系図が不自然に残っていないじゃん? まさか、ただ単に不都合な箇所を消しているだけなんじゃ。どうなってるの、この家の家系図……。
「スグル様……最後に誓いの口づけをして下さいな。一生、あなたの事を忘れないように」
愛し合う2人が誓いの口づけを交わす。何とも言えない複雑な気持ちでいると、潜在意識が夢の世界からやがて現実へと回帰していった。そろそろ、朝が近いようだ……目を覚まさないと。
* * *
「スグルどの、スグルどの……」
「う……ん……。あれっスイレン、お早う」
目を覚ますと、婚約者スイレンがオレを優しく揺さぶる姿。清楚な淡い水色のワンピースにフリル付きのエプロン姿で、新妻チックである。可愛いなちくしょう……まったく、浮気なんてするはずないのに。夢の事なんて、忘れてしまおうそれが良い。
「ふふっお早う。大切な旦那様……今朝は、頑張って現世の定番朝食を作ったのじゃ。さっ起きてっ」
スイレン手作りの朝食は……炊き立て白米、豆腐とわかめの味噌汁、ちょっと甘めの卵焼き、焼き鮭、茄子とピーマンの炒め物、きゅうりのつけものなど。オーソドックスな現世の朝食メニューで構成されていた。
普段は、精進料理の類を食事のメインとしている神も多いはず。スイレンが、現世に……人間特有の暮らしに馴染もうとしているのが伝わってくる。
家族で美味しく朝食タイムを楽しみ……オレと妹は学校に行かなくてはならない。しばしの時間、スイレンと離れることになる。スイレンは、まだ現世におりてきたばかりの身体なので、結界のある家神の敷地を離れて活動は出来ない。少し、心配だが幸い、姉ツグミが大学休みであるため一人きりにならないで済んでいる。
「じゃあ、行ってくるけど……きちんと術力の拠点になる睡蓮鉢を設置しすれば、家神家の敷地外でも活動できるようになるから。それまで、我慢な」
「うん。今日はお姉さんもいるし、それに猫のミミちゃんがボディガードしてくれるそうじゃ。スグルどの……学校には幼なじみのおなごもおるのじゃろう? その……」
「ははっミミちゃんはボディガードか。じゃあ、安心だな。スイレン……大丈夫、浮気なんかしないよ……ほら、目をつむって……。んっ。行ってくる」
今朝の夢の内容がやたらリアルだっただけに、ちょっぴり罪悪感があるオレは不安がるスイレンをなだめるように、行ってきますの口づけを交わす。朝からの口づけに、姉に冷やかされながらも……妹と家を出てバス停へ。
バス停には、同じクラスの友人や幼なじみの姿も……。何故か、オレとスイレンが婚約したことがクラスメイト中の噂になっていて、質問責めにあうのは、この少し後のことである。
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