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第1章
第7話 悲願に咲くリンドウの花
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急ブレーキをかけたスクールバスは、落石のようなものに衝突してピクリとも動かなくなった。オイル漏れの臭いが車内に漂い、身の危険を感じさせる。
だが、危険の種はそれだけではなかった。ひび割れた窓の向こうは暗闇に包まれ、切り裂かれたように異界への入り口が開いていく。さらに、身動きがとれなくなった車体は、闇の向こう側へ引きずられるように異界の入り口へと吸い込まれていく。
パリンッ! 干からびた鬼のような容貌のあやかしの長い爪が窓ガラスを無理矢理叩き割り、生徒の1人が胸を突かれる。
『滅亡を……裏切り者の子孫達に、滅亡を……ぐるぅうううううっ!』
『メツボウ、メツボウ……滅亡の呪いがはじまるぞ。裏切り者には、死を……』
「きゃぁあああっ」
「おいっあやかしがバスに進入してくるぞっ早く、逃げろっ。ぐはぁあっ」
「どうして、なんでここに異界の扉が? お願い、家神君……助けてっ」
一瞬のうちに、次々とあやかしに襲われていく生徒達。あやかしの数は、ちょうど生徒達の数と同数程度だが、霊力を失っている家系の生徒も多く不利な状況だ。
あまりの強襲の早さに焦りを感じながら、オレとルリは手動でバスのドアをこじ開けバスを襲撃するあやかしの撃退を開始する。
「おかしい、どうして急に異界の扉が……? 結界が破られたのか。くっ術式! 我のしもべよ、眷属となりて魔を払えっ。星詠みの式っ!」
札を手に祝詞を唱えると、退魔スキルの高い星詠みの式神が一斉に召還される。
『キュイイイイイッン!』
『ふぅううぃいいいッ!』
夜空の綺羅星のように青白く輝く星詠みの式神が、あやかしたちの魔のオーラを浄化していく。何かに取り憑かれたような異常な雰囲気で襲いかかってきたあやかしだったが、魔の空気から解放されたのか……おだやかな表情で成仏していった。
「はぁああああああっ」
『グギャアッウウウッ』
続いて、ルリも術師用の薙刀を手に、あやかしをなぎ払っていく。
「はぁはぁ……なんとかやれたな。けどどうして……しかもここって、地獄道か……早く、現世に戻らないと」
見渡すと、既にバスは異界にまるごと異世界転移してしまったようだ。しかも、場所は地獄道でその名の通り地獄の一種だ。生きている人間が長居する場所とは言えないだろう。
「大丈夫、スグル? 若年最強と謳われているだけあって相変わらず強いけど……でもなんか、いつもの滅裂術を使わなかったよね」
「ああ、スイレンの霊力拠点がまだ自宅に設置できていないから、自分1人の霊力で戦うしかないんだ」
「スイレンさん……スグルの婚約者の女神様のことだね」
いつもだったら、もっと強力な術式を操れるのだが……。それでも、一般術師からみればかなり高度な術式のひとつだけど。薙刀術を操れる幼なじみのルリが一緒で助かった。
残りのあやかしたちもすべて討伐し、これからの事を検討する。
昨晩、家神に嫁いできたパートナーである女神スイレンの霊力装置が家神の敷地外でも活動できるように完成してくれないことには、最高レベルの術は使えない。もしかしたら、家に残っている姉がスイレンの霊力拠点となる睡蓮鉢を設置してくれていれば……と期待したが、使える術式の様子から見るとまだ設置は完成していないようだ。
「仕方がない、少し時間はかかるけど自力でワープゲートの術式陣を作って、そこからバスを現世に再転移させよう。そうすれば、現世へと皆戻れるはずだ」
長居できない環境に焦りを感じながらも、指に霊気を発動させて地面に術式陣を描いていく。発動まで時間がかかる術式のため、スピーディーに術式陣を描かなくてはいけない。地面の砂を指でえぐりながら、術式陣を完成させて術の発動を促す……白く地面が輝きだした。およそ20分ほどで、転移が完成するだろう。
「ふぅ……なんとか、術式陣が完成したな。少しだけ、みんなに耐えてもらうことになっちゃうけど。でも、あのあやかし達、妙な事を口に出していたな。裏切り者の子孫とか、滅亡とかって……何だったんだ」
「スグル……ちょっと話しても良い? 現世に戻ったら、話す機会がなくなっちゃうと思うから……」
ルリが、思い詰めたような表情でオレの隣に座った。ちょうど、倒木が椅子の代わりになってくれている。
「なんだよ、急に改まって……」
「あのね、スグル……実は私、スグルに黙っていたことがあるの。私の家の……凛堂(リンドウ)家の秘密……」
凛堂家は、古くから続く由緒正しい薙刀使いの一族だ。代々、あやかしと戦う一族であるため何かしらの因縁は持っているだろうが、ルリの様子を見ると何だか戦いによる因縁とは違いそうだ。
「秘密? もしかして、さっきのあやかしたちが言っていたことと関係あるのか? 裏切り者の子孫たちとかなんとか……」
「うん、多分。ねぇ……スグルの家って、七代前の家系図だけぽっかりと情報が消えているんでしょう。実は、消えた家系図は、凛堂家が所持しているの。ある秘密を隠すために……」
我が一族の失われた家系図は、凛堂家が所有していたのか。どうして、もっと早く教えてくれなかったんだろう。
「秘密って、何だよ。しかも、家神とも関わり合いが……この2つの一族は何かの関係あるのか」
焦らされて、多少のイラつきを覚えながらも真剣なルリの眼差しに圧倒されて、責めることが出来なかった。
「実はね、裏切り者の子孫っていうのは、凛堂家の生き残りである私の事なんだ。ううん、多分私だけじゃない……おそらくこの学校の生徒にも何人か裏切り者の子孫はいる」
裏切り、滅亡、そのキーワードからオレの魂の記憶が思い出す相手は、オレの七代前のご先祖様にあたる女神レンの顔だった。潜在記憶がもたらしてくれた夢の記憶が事実ならば、確か彼女は裏切られたら蓮の花ではなく睡蓮の花に生まれ変わると宣言していたはずだ。
『スグル様が浮気をしたら、蓮の花ではなく睡蓮の花に生まれ変わってしまいます。だから、絶対に浮気はしないでね』
そして、あれから七代目にあたるオレの目の前に現れたのは、蓮の女神ではなく睡蓮の女神だった。同じ蓮華とされながらも、似て非なる睡蓮の花。
「なぁ……一体誰に対する裏切りなんだ、どうしてこんな風に命を狙われて……」
本当は、オレの中では答えが見え始めていた。けれど、自らの口からは、その答えを言ってはいけない気がしてルリからの回答を待つ以外選択肢はなかった。
女神レンは、別れの際に薙刀使いである幼なじみルリ子さんとの浮気を懸念していた。おそらく、ルリ子さんは、凛堂家の女性だろう。
つまり、あの今生の別れに後に裏切りが行われたのだ……七代前の当主スグルとルリ子さんの間に……裏切りの愛の花が咲いたんだ。
「本当は、もうスグルも気づいているよね……。スグルって、小さい頃から気持ちを隠す時に口元に手を置く癖があるから……。私、スグルのことなら何でも知っているんだ……だってスグルは私の初恋の人だもん! きっと、私のご先祖様も同じ気持ちだったはず……」
「……! ルリ……じゃあ、お前も、家神一族の血を……」
本当は……ルリが自分に想いを寄せていてくれていることは、とっくに気づいていた。けれど、それはオレの中で、見て見ないふりをしなくてはいけない禁忌のような行為に感じ取られていた。
「うん……そうだよ。私も家神の血を引いているの……七代前の家神一族当主と凛堂の跡継ぎ娘との間に生まれた不義の花。裏切り者の子孫……それが、私……。だから、そのうち滅亡の呪いが降りかかる……。滅亡の花言葉を持つ睡蓮の女神様が、この地の水面に咲き始めた頃にね……」
やはり……そして、裏切り行為をした不義の花である子孫達は、ルリ以外にもこの地域にいるそうだ。
「滅亡の花言葉……そうか、滅亡の意味は睡蓮の花言葉だったのか……。けど、スイレンはオレが浮気をしなければ、滅裂術は使わないって約束してくれた。ルリ……心配しなくても、大丈夫だよ。凛堂家も家神一族の他の子孫たちもみんな滅んだりしないから」
「……スグル……あなたは、本当に睡蓮の女神様を信じているのね。でもね、スグル……この世には宿命ってものがあるの。だって、私は滅亡の憂き目にあっても良いくらい、あなたの事が好きなんだから……」
ルリの吸い込まれそうな瞳は、不義の覚悟を決めた散る間際の花のようで……拒否するよりも早く、オレの唇はルリに奪われていた。
ルリから重ねられた罪の口づけに、オレは絶望とわずかながらの甘美を味わう。
スイレンを、愛する婚約者を裏切らないって約束したのに……そうすればルリだって助かるのに……何で? 慌てて、ルリの身体を引き離す。
「ルリ……何を……駄目だっ! どうして、こんなことを……何を考えて……。あれ……お前、その腹の傷……血が……そんなに……」
いつのまにかルリの腹からは血が滲んでおり、その流れはドクドクと止まらない。
「ねぇ……スグル……大好きだよ。だけど、どうして私を選んでくれなかったの……? どうして、睡蓮の女神様に一目惚れなんかしてしまったの。あなたの隣には、いつだってリンドウの花が、私が咲いていたのに」
すがるように、泣きながら訴えてくるルリはまるで別人のようだ。ボーイッシュで活発なルリ……男友達のような関係……それがオレ達の間柄だった。
初めて見る凛堂ルリの『女』としての顔。思わず胸が罪悪感で揺さぶられる……きっとルリは、怪我の影響で自棄を起こしているのだ。そうに違いない。
「ルリ……もういいからっ早く、現世に帰ろうっ。そろそろ、時間……」
「こんな傷だし……すぐには現世に戻れないよ、きっと。霊体のこの身体がこんなに傷ついているんじゃね……。現世の身体は意識不明の重体……なんじゃないかな。現実的には落石によるバスの事故として扱われる。けど、待っていて……この傷を癒したら、現世に戻って……必ずあなたの隣を取り戻すから」
現世へと戻る転移の術式が発動し始めた。世間からの扱いが『落石によるバスの事故』だろうと、ルリの魂をここに放置しておくわけにはいかない。遠ざかるルリに手を伸ばすが、頑なにオレの手を拒否する。
「ねえ……スグル。リンドウの花言葉……教えてあげるね。まるで私みたいなのよ……その花言葉……。私は、スグルの心に苦しみでも良いから、私の花を咲かせたい。他の女を好きになったあなたが憎いから……それでも、あなた以外の男を好きになることなんて、出来ないからっ。聞いてスグル……リンドウの花言葉はね……」
消えゆく意識とともに聞こえた花言葉……それは、オレに対するもう1つの呪いのように胸に刻まれるのだった。
リンドウの花言葉は、『苦しんでいる時のあなたが好き』……。
だが、危険の種はそれだけではなかった。ひび割れた窓の向こうは暗闇に包まれ、切り裂かれたように異界への入り口が開いていく。さらに、身動きがとれなくなった車体は、闇の向こう側へ引きずられるように異界の入り口へと吸い込まれていく。
パリンッ! 干からびた鬼のような容貌のあやかしの長い爪が窓ガラスを無理矢理叩き割り、生徒の1人が胸を突かれる。
『滅亡を……裏切り者の子孫達に、滅亡を……ぐるぅうううううっ!』
『メツボウ、メツボウ……滅亡の呪いがはじまるぞ。裏切り者には、死を……』
「きゃぁあああっ」
「おいっあやかしがバスに進入してくるぞっ早く、逃げろっ。ぐはぁあっ」
「どうして、なんでここに異界の扉が? お願い、家神君……助けてっ」
一瞬のうちに、次々とあやかしに襲われていく生徒達。あやかしの数は、ちょうど生徒達の数と同数程度だが、霊力を失っている家系の生徒も多く不利な状況だ。
あまりの強襲の早さに焦りを感じながら、オレとルリは手動でバスのドアをこじ開けバスを襲撃するあやかしの撃退を開始する。
「おかしい、どうして急に異界の扉が……? 結界が破られたのか。くっ術式! 我のしもべよ、眷属となりて魔を払えっ。星詠みの式っ!」
札を手に祝詞を唱えると、退魔スキルの高い星詠みの式神が一斉に召還される。
『キュイイイイイッン!』
『ふぅううぃいいいッ!』
夜空の綺羅星のように青白く輝く星詠みの式神が、あやかしたちの魔のオーラを浄化していく。何かに取り憑かれたような異常な雰囲気で襲いかかってきたあやかしだったが、魔の空気から解放されたのか……おだやかな表情で成仏していった。
「はぁああああああっ」
『グギャアッウウウッ』
続いて、ルリも術師用の薙刀を手に、あやかしをなぎ払っていく。
「はぁはぁ……なんとかやれたな。けどどうして……しかもここって、地獄道か……早く、現世に戻らないと」
見渡すと、既にバスは異界にまるごと異世界転移してしまったようだ。しかも、場所は地獄道でその名の通り地獄の一種だ。生きている人間が長居する場所とは言えないだろう。
「大丈夫、スグル? 若年最強と謳われているだけあって相変わらず強いけど……でもなんか、いつもの滅裂術を使わなかったよね」
「ああ、スイレンの霊力拠点がまだ自宅に設置できていないから、自分1人の霊力で戦うしかないんだ」
「スイレンさん……スグルの婚約者の女神様のことだね」
いつもだったら、もっと強力な術式を操れるのだが……。それでも、一般術師からみればかなり高度な術式のひとつだけど。薙刀術を操れる幼なじみのルリが一緒で助かった。
残りのあやかしたちもすべて討伐し、これからの事を検討する。
昨晩、家神に嫁いできたパートナーである女神スイレンの霊力装置が家神の敷地外でも活動できるように完成してくれないことには、最高レベルの術は使えない。もしかしたら、家に残っている姉がスイレンの霊力拠点となる睡蓮鉢を設置してくれていれば……と期待したが、使える術式の様子から見るとまだ設置は完成していないようだ。
「仕方がない、少し時間はかかるけど自力でワープゲートの術式陣を作って、そこからバスを現世に再転移させよう。そうすれば、現世へと皆戻れるはずだ」
長居できない環境に焦りを感じながらも、指に霊気を発動させて地面に術式陣を描いていく。発動まで時間がかかる術式のため、スピーディーに術式陣を描かなくてはいけない。地面の砂を指でえぐりながら、術式陣を完成させて術の発動を促す……白く地面が輝きだした。およそ20分ほどで、転移が完成するだろう。
「ふぅ……なんとか、術式陣が完成したな。少しだけ、みんなに耐えてもらうことになっちゃうけど。でも、あのあやかし達、妙な事を口に出していたな。裏切り者の子孫とか、滅亡とかって……何だったんだ」
「スグル……ちょっと話しても良い? 現世に戻ったら、話す機会がなくなっちゃうと思うから……」
ルリが、思い詰めたような表情でオレの隣に座った。ちょうど、倒木が椅子の代わりになってくれている。
「なんだよ、急に改まって……」
「あのね、スグル……実は私、スグルに黙っていたことがあるの。私の家の……凛堂(リンドウ)家の秘密……」
凛堂家は、古くから続く由緒正しい薙刀使いの一族だ。代々、あやかしと戦う一族であるため何かしらの因縁は持っているだろうが、ルリの様子を見ると何だか戦いによる因縁とは違いそうだ。
「秘密? もしかして、さっきのあやかしたちが言っていたことと関係あるのか? 裏切り者の子孫たちとかなんとか……」
「うん、多分。ねぇ……スグルの家って、七代前の家系図だけぽっかりと情報が消えているんでしょう。実は、消えた家系図は、凛堂家が所持しているの。ある秘密を隠すために……」
我が一族の失われた家系図は、凛堂家が所有していたのか。どうして、もっと早く教えてくれなかったんだろう。
「秘密って、何だよ。しかも、家神とも関わり合いが……この2つの一族は何かの関係あるのか」
焦らされて、多少のイラつきを覚えながらも真剣なルリの眼差しに圧倒されて、責めることが出来なかった。
「実はね、裏切り者の子孫っていうのは、凛堂家の生き残りである私の事なんだ。ううん、多分私だけじゃない……おそらくこの学校の生徒にも何人か裏切り者の子孫はいる」
裏切り、滅亡、そのキーワードからオレの魂の記憶が思い出す相手は、オレの七代前のご先祖様にあたる女神レンの顔だった。潜在記憶がもたらしてくれた夢の記憶が事実ならば、確か彼女は裏切られたら蓮の花ではなく睡蓮の花に生まれ変わると宣言していたはずだ。
『スグル様が浮気をしたら、蓮の花ではなく睡蓮の花に生まれ変わってしまいます。だから、絶対に浮気はしないでね』
そして、あれから七代目にあたるオレの目の前に現れたのは、蓮の女神ではなく睡蓮の女神だった。同じ蓮華とされながらも、似て非なる睡蓮の花。
「なぁ……一体誰に対する裏切りなんだ、どうしてこんな風に命を狙われて……」
本当は、オレの中では答えが見え始めていた。けれど、自らの口からは、その答えを言ってはいけない気がしてルリからの回答を待つ以外選択肢はなかった。
女神レンは、別れの際に薙刀使いである幼なじみルリ子さんとの浮気を懸念していた。おそらく、ルリ子さんは、凛堂家の女性だろう。
つまり、あの今生の別れに後に裏切りが行われたのだ……七代前の当主スグルとルリ子さんの間に……裏切りの愛の花が咲いたんだ。
「本当は、もうスグルも気づいているよね……。スグルって、小さい頃から気持ちを隠す時に口元に手を置く癖があるから……。私、スグルのことなら何でも知っているんだ……だってスグルは私の初恋の人だもん! きっと、私のご先祖様も同じ気持ちだったはず……」
「……! ルリ……じゃあ、お前も、家神一族の血を……」
本当は……ルリが自分に想いを寄せていてくれていることは、とっくに気づいていた。けれど、それはオレの中で、見て見ないふりをしなくてはいけない禁忌のような行為に感じ取られていた。
「うん……そうだよ。私も家神の血を引いているの……七代前の家神一族当主と凛堂の跡継ぎ娘との間に生まれた不義の花。裏切り者の子孫……それが、私……。だから、そのうち滅亡の呪いが降りかかる……。滅亡の花言葉を持つ睡蓮の女神様が、この地の水面に咲き始めた頃にね……」
やはり……そして、裏切り行為をした不義の花である子孫達は、ルリ以外にもこの地域にいるそうだ。
「滅亡の花言葉……そうか、滅亡の意味は睡蓮の花言葉だったのか……。けど、スイレンはオレが浮気をしなければ、滅裂術は使わないって約束してくれた。ルリ……心配しなくても、大丈夫だよ。凛堂家も家神一族の他の子孫たちもみんな滅んだりしないから」
「……スグル……あなたは、本当に睡蓮の女神様を信じているのね。でもね、スグル……この世には宿命ってものがあるの。だって、私は滅亡の憂き目にあっても良いくらい、あなたの事が好きなんだから……」
ルリの吸い込まれそうな瞳は、不義の覚悟を決めた散る間際の花のようで……拒否するよりも早く、オレの唇はルリに奪われていた。
ルリから重ねられた罪の口づけに、オレは絶望とわずかながらの甘美を味わう。
スイレンを、愛する婚約者を裏切らないって約束したのに……そうすればルリだって助かるのに……何で? 慌てて、ルリの身体を引き離す。
「ルリ……何を……駄目だっ! どうして、こんなことを……何を考えて……。あれ……お前、その腹の傷……血が……そんなに……」
いつのまにかルリの腹からは血が滲んでおり、その流れはドクドクと止まらない。
「ねぇ……スグル……大好きだよ。だけど、どうして私を選んでくれなかったの……? どうして、睡蓮の女神様に一目惚れなんかしてしまったの。あなたの隣には、いつだってリンドウの花が、私が咲いていたのに」
すがるように、泣きながら訴えてくるルリはまるで別人のようだ。ボーイッシュで活発なルリ……男友達のような関係……それがオレ達の間柄だった。
初めて見る凛堂ルリの『女』としての顔。思わず胸が罪悪感で揺さぶられる……きっとルリは、怪我の影響で自棄を起こしているのだ。そうに違いない。
「ルリ……もういいからっ早く、現世に帰ろうっ。そろそろ、時間……」
「こんな傷だし……すぐには現世に戻れないよ、きっと。霊体のこの身体がこんなに傷ついているんじゃね……。現世の身体は意識不明の重体……なんじゃないかな。現実的には落石によるバスの事故として扱われる。けど、待っていて……この傷を癒したら、現世に戻って……必ずあなたの隣を取り戻すから」
現世へと戻る転移の術式が発動し始めた。世間からの扱いが『落石によるバスの事故』だろうと、ルリの魂をここに放置しておくわけにはいかない。遠ざかるルリに手を伸ばすが、頑なにオレの手を拒否する。
「ねえ……スグル。リンドウの花言葉……教えてあげるね。まるで私みたいなのよ……その花言葉……。私は、スグルの心に苦しみでも良いから、私の花を咲かせたい。他の女を好きになったあなたが憎いから……それでも、あなた以外の男を好きになることなんて、出来ないからっ。聞いてスグル……リンドウの花言葉はね……」
消えゆく意識とともに聞こえた花言葉……それは、オレに対するもう1つの呪いのように胸に刻まれるのだった。
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