9 / 13
09
しおりを挟むコンコンコン!
長旅の疲れをメイドさんが用意してくれた紅茶で癒していると、私が泊まっている超豪華な客室のドアをノックする音が。
「マリッサさん、体調は如何ですか。夕食はシェフの作る料理で愉しみましょう」
「あっはい。ドレスコードは、このワンピースでも大丈夫でしょうか?」
「ええ、夜会とは違ってプライベートな食事会ですから。お洒落なワンピースなら大丈夫ですよ。それに……マリッサさん、すごく可愛いらしいですし」
クラインさんは、歯に絹を着せない褒め言葉を私の耳元でサラッと囁いて……。思わず照れて無言になる私の肩を抱き、スマートにホールへと案内してくれます。
(うぅ……クラインさんって、なんて言うか。お友達になろうって誘ってきた割に、かなり異性として意識させることばかり言いますよね。しかも超イケメンだし。はっいけない……つい頬が赤くなってしまう)
今日のお泊りデートは、実のところ異世界転生者同士のオフ会のようなものですが。お母様達が娘の婚活と見做して、アレコレ準備してくれた影響もあって、なんだか不必要に意識しちゃいます。気を取り直して、平静を保たなくては!
* * *
お泊まり初日の夕食はそれはもう豪華なフルコースメニューで、流石は公爵家といった感じです。
「一応、年齢的にもこのお屋敷では僕が当主でしてね、両親とは別に暮らしているんです。お嫁さんをいびる姑はおりませんので、マリッサさんは我が家にいるような感覚でリラックスしてください」
「えぇっお嫁さんって?」
「あははっ。ほら、まずは前菜から」
からかっているのか本気なのか、クラインさんの掌の上で私の乙女心はクルクルと弄ばれていく感じです。もうっこれだからモテ男は。
オードブルは、見た目の美しさにこだわった野菜や魚介類を飾ったもの。染み入るような野菜たっぷりスープ、ポワソンはキュートなエビさんのチーズ焼きです。
ちょっぴりコクのあるエビさんのチーズ焼きで慣れた舌を爽やかなソルベでリフレッシュ! 口当たりの優しいバニラのテイストで、気分をすっきりさせたらついにメインのお出ましとなります。シェフ自ら、本日の牛フィレステーキについて解説。
「本日のメインは、我がクライン領自慢の牛フィレステーキでございます。ジュリアス様がどうしてもマリッサさんに振る舞いたいと仰っておりまして。赤ワインでじっくり煮込んだソースが、ポイントです。是非、ゆっくり味わってください」
「まぁ! この地域の名産品ですね。うんっまるでお肉が口の中で蕩けるみたいっ。すごく美味しいですっ」
クラインさんも「マリッサさんが、我が家の料理を気に入ってくれて良かった!」と、無駄に女を落とすような色気のあるイケボで柔らかく微笑みながら、牛フィレステーキを堪能している様子。
「ところで、例の手作りハンバーガーですが。明日の午前中から作り始めてランチメニューにしようと思うんです。実は今日のステーキの牛と同じものを使う予定なんですよ」
「へぇ随分と高級なハンバーガーが作れそうですね。うふふっ。今から楽しみ」
最後にデザートのケーキを頂いて、夕食会は無事に終了。専用の客室を与えられて猫脚付きのバスタブで泡風呂に浸かり、天蓋付きのベッドで眠りにつきました。
(あぁまるで、超高級ホテルに泊まりに来たみたい。ずっとこんな暮らしが出来たら幸せだろうなぁ)
すっかり飼い慣らされてしまった私は、この至れり尽くせりのもてなしが契約結婚のフラグであるなんて、全く気づかず。ふわふわとした気持ちで、夢の世界に落ちていくのでした。
12
あなたにおすすめの小説
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
パン作りに熱中しすぎて婚約破棄された令嬢、辺境の村で小さなパン屋を開いたら、毎日公爵様が「今日も妻のパンが一番うまい」と買い占めていきます
さくら
恋愛
婚約者に「パンばかり焼いていてつまらない」と見捨てられ、社交界から追放された令嬢リリアーナ。
行き場を失った彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな村だった。
「せめて、パンを焼いて生きていこう」
そう決意して開いた小さなパン屋は、やがて村人たちの心を温め、笑顔を取り戻していく。
だが毎朝通ってきては大量に買い占める客がひとり――それは領地を治める冷徹公爵だった!
「今日も妻のパンが一番うまい」
「妻ではありません!」
毎日のように繰り返されるやりとりに、村人たちはすっかり「奥様」呼び。
頑なに否定するリリアーナだったが、公爵は本気で彼女を妻に望み、村全体を巻き込んだ甘くて賑やかな日々が始まってしまう。
やがて、彼女を捨てた元婚約者や王都からの使者が現れるが、公爵は一歩も引かない。
「彼女こそが私の妻だ」
強く断言されるたび、リリアーナの心は揺れ、やがて幸せな未来へと結ばれていく――。
パンの香りと溺愛に包まれた、辺境村でのほんわかスローライフ&ラブストーリー。
婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました
鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。
絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。
「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」
手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。
新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。
そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。
過去に傷ついた令嬢が、
隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。
――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる