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第一章
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「あら、お久しぶりね……バッカス王子様。修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが、今更助けてなんて言わないですよね?」
自分でも声色が厳しくなっているのが分かる。
修道女になってから、ルイーゼはキツイ物言いをすっかりしなくなっていた。公爵令嬢という肩書きを失い、気が弱くなったのでは無いかと自分でも疑っていた。
だが、2年間息をひそめていた公爵令嬢ルイーゼは、爵位を取り戻した瞬間に再び現れた。それは、肩書きから来る自信なのか自らを追放した癖にノコノコ会いに来たバッカス王子に対する怒りなのかは定かでは無い。
「ははは……実はそんなに変わっていなかったんだな、ルイーゼ。久しぶりにキミの勝気な表情と、ハッキリとした口調が聴けて嬉しいよ。ずっとしおらしい聖女キャラのままだったら、僕まで気が狂いそうだ。キミまで聖女信仰にヤラレて、頭がおかしくなったのかと思った」
「貴方の口から、聖女信仰の批判を聞く日が来るなんて思っても見なかったわ。確かに、最近は認定基準が一気に広がった感じだし。信頼が落ちるのも無理はない……」
「違うんだっ。キミは、まだ【あの人】に会っていないから、そんな悠長なことを言っていられるんだ。本当に、からかいでもなければ喧嘩を売っているわけでも無い。真剣に頭を下げに来たんだよ! コルネード王国を救うにはキミのチカラが必要だ。詫びも謝罪も賠償も……なんでもするからっっ」
顔面蒼白、という言葉がピッタリな青ざめた目で、床に膝をついて手をつき、頭を下げてまで懇願し始めた。
(これは、美加が暮らしていた地球の日本にある謝罪文化の一つ、土下座……)
恥も外聞も全て捨てて、土下座までし出した元婚約者の変貌ぶりに、流石のルイーゼも動揺する。そんなに、バッカス王子が慌てるほど今の状況下はマズいのか、と。
「ごめんなさい。私だって、祖国コルネードに家族がいるのだから、とても心配よ。けれど、地母神の名まで使って祖国の土地を踏めないように追放したのはコルネード王家だわ。精霊との契約は絶対、もう私は一生祖国に立ち入ることは出来ない!」
「ああ。馬鹿なことをしたと、今でも後悔してる! あの時から、オレは上層部に嵌められていたんじゃないかと」
「でも、その追放方法を良かれと思って実行したのは他でも無いバッカス王子、貴方よ。もし、助け舟を出せるとしたら、家族をアランツに編成される辺境領土に呼ぶことくらい。それくらい私はコルネードに介入出来ないの」
自分の胸の内に秘めていた故郷への想いも全て吐き出して、ルイーゼは再びクエストに戻るべくポーションなどのアイテムをウエストポーチに詰めた。
今はクエストの成功が必須で、バッカス王子は後回しだ。
* * *
クエストは八十パーセント達成段階で、あとは賊をまとめていた魔族の巨体なトロールを倒すだけ。伝承の聖女には、お祈りをメインとして聖堂に篭る聖女、外に出て勇者のサポートをする聖女、いろいろなタイプがある。
けれど、聖女本人が先陣切ってバトルを仕切るタイプは少数派だろう。ある意味で今時の聖女が求められた結果、悪役令嬢のルイーゼに白羽の矢が立ったと言える。
「ボスのアジトはコロシアムから、少し離れた古代礼拝堂跡地だったわね」
「はい。古代に流行った邪教を復活させた感じで、通行人の人間を邪教の生贄に使ってたみたいです」
「最近は、人の行き来が頻繁になってたから。行方不明の商人とかは、物資を奪われた挙句生贄にされた可能性も……。恐ろしい」
チームメイトのハンナ、カナリヤと、ボスの情報について確認をする。ボスは魔術師系で、呪いなどの特殊技が得意。魔法は封じられる可能性が高く、回復はアイテムを中心として乗り切らなくてはいけない。
「こちらの魔法は封じられるだろうから、ポーションを多めに持って来たわ」
「あと毒消しや痺れ対策のアイテムも用意しました」
「炎や氷の魔法に耐性を持たせたかったけど、防御魔法は使えないだろうから、早めに倒すしか無いわね」
現在時刻は昼間の2時。
今から長時間戦うと夕刻すぎて、魔の気配が強くなってしまう。
ボスが拠点とする古代礼拝堂跡地に向かうと、あちらも待っていたようで、生贄の祭壇を整えていた。
「ひひひ……ようこそ、生贄達。追放された身でありながら、人間の味方をするなんて随分とお人好しなお嬢さんだなぁ。ルイーゼ嬢、噂はかねがね。故郷の地母神と縁が切られたせいで、まさかグラディエーターの地母神と契約してしまうとは。運が良いのか悪いのか」
「残念ながら追放された国にはノータッチよ。元から体術や剣にも興味があったから、グラディエーター転向は私にとっては好都合だったわね」
「ほう? その中途半端な髪色のように、まだ心に迷いがあるように見えたが見当違いか」
中途半端な髪色とは、ルイーゼの亜麻色ともダークピンクとも呼べる曖昧さを指しているんだろう。
「子供の頃はピンク色と認められず、今更ピンク判定で聖女認定されたけど。上層が使いたいうちは聖女として扱われるでしょうね」
「いやいや、私が言ってる中途半端はピンク色の方ではありません。その先に待つ魔女特有の赤毛のことですよ」
「赤毛……?」
魔力が高い女性は赤毛が多いとされている。
歴代の大魔女はみな髪色が赤いらしい。
ルイーゼのダークピンクの髪は、確かに亜麻色をベースにピンクだが赤には届いていない。
「あなたの髪は、亜麻色ともダークピンクともつかない。そして、将来的に災厄の魔女たる赤毛になる資質がある。実に勿体ない……とお伝えしたかったまでです」
「災厄……ですって?」
自分でも声色が厳しくなっているのが分かる。
修道女になってから、ルイーゼはキツイ物言いをすっかりしなくなっていた。公爵令嬢という肩書きを失い、気が弱くなったのでは無いかと自分でも疑っていた。
だが、2年間息をひそめていた公爵令嬢ルイーゼは、爵位を取り戻した瞬間に再び現れた。それは、肩書きから来る自信なのか自らを追放した癖にノコノコ会いに来たバッカス王子に対する怒りなのかは定かでは無い。
「ははは……実はそんなに変わっていなかったんだな、ルイーゼ。久しぶりにキミの勝気な表情と、ハッキリとした口調が聴けて嬉しいよ。ずっとしおらしい聖女キャラのままだったら、僕まで気が狂いそうだ。キミまで聖女信仰にヤラレて、頭がおかしくなったのかと思った」
「貴方の口から、聖女信仰の批判を聞く日が来るなんて思っても見なかったわ。確かに、最近は認定基準が一気に広がった感じだし。信頼が落ちるのも無理はない……」
「違うんだっ。キミは、まだ【あの人】に会っていないから、そんな悠長なことを言っていられるんだ。本当に、からかいでもなければ喧嘩を売っているわけでも無い。真剣に頭を下げに来たんだよ! コルネード王国を救うにはキミのチカラが必要だ。詫びも謝罪も賠償も……なんでもするからっっ」
顔面蒼白、という言葉がピッタリな青ざめた目で、床に膝をついて手をつき、頭を下げてまで懇願し始めた。
(これは、美加が暮らしていた地球の日本にある謝罪文化の一つ、土下座……)
恥も外聞も全て捨てて、土下座までし出した元婚約者の変貌ぶりに、流石のルイーゼも動揺する。そんなに、バッカス王子が慌てるほど今の状況下はマズいのか、と。
「ごめんなさい。私だって、祖国コルネードに家族がいるのだから、とても心配よ。けれど、地母神の名まで使って祖国の土地を踏めないように追放したのはコルネード王家だわ。精霊との契約は絶対、もう私は一生祖国に立ち入ることは出来ない!」
「ああ。馬鹿なことをしたと、今でも後悔してる! あの時から、オレは上層部に嵌められていたんじゃないかと」
「でも、その追放方法を良かれと思って実行したのは他でも無いバッカス王子、貴方よ。もし、助け舟を出せるとしたら、家族をアランツに編成される辺境領土に呼ぶことくらい。それくらい私はコルネードに介入出来ないの」
自分の胸の内に秘めていた故郷への想いも全て吐き出して、ルイーゼは再びクエストに戻るべくポーションなどのアイテムをウエストポーチに詰めた。
今はクエストの成功が必須で、バッカス王子は後回しだ。
* * *
クエストは八十パーセント達成段階で、あとは賊をまとめていた魔族の巨体なトロールを倒すだけ。伝承の聖女には、お祈りをメインとして聖堂に篭る聖女、外に出て勇者のサポートをする聖女、いろいろなタイプがある。
けれど、聖女本人が先陣切ってバトルを仕切るタイプは少数派だろう。ある意味で今時の聖女が求められた結果、悪役令嬢のルイーゼに白羽の矢が立ったと言える。
「ボスのアジトはコロシアムから、少し離れた古代礼拝堂跡地だったわね」
「はい。古代に流行った邪教を復活させた感じで、通行人の人間を邪教の生贄に使ってたみたいです」
「最近は、人の行き来が頻繁になってたから。行方不明の商人とかは、物資を奪われた挙句生贄にされた可能性も……。恐ろしい」
チームメイトのハンナ、カナリヤと、ボスの情報について確認をする。ボスは魔術師系で、呪いなどの特殊技が得意。魔法は封じられる可能性が高く、回復はアイテムを中心として乗り切らなくてはいけない。
「こちらの魔法は封じられるだろうから、ポーションを多めに持って来たわ」
「あと毒消しや痺れ対策のアイテムも用意しました」
「炎や氷の魔法に耐性を持たせたかったけど、防御魔法は使えないだろうから、早めに倒すしか無いわね」
現在時刻は昼間の2時。
今から長時間戦うと夕刻すぎて、魔の気配が強くなってしまう。
ボスが拠点とする古代礼拝堂跡地に向かうと、あちらも待っていたようで、生贄の祭壇を整えていた。
「ひひひ……ようこそ、生贄達。追放された身でありながら、人間の味方をするなんて随分とお人好しなお嬢さんだなぁ。ルイーゼ嬢、噂はかねがね。故郷の地母神と縁が切られたせいで、まさかグラディエーターの地母神と契約してしまうとは。運が良いのか悪いのか」
「残念ながら追放された国にはノータッチよ。元から体術や剣にも興味があったから、グラディエーター転向は私にとっては好都合だったわね」
「ほう? その中途半端な髪色のように、まだ心に迷いがあるように見えたが見当違いか」
中途半端な髪色とは、ルイーゼの亜麻色ともダークピンクとも呼べる曖昧さを指しているんだろう。
「子供の頃はピンク色と認められず、今更ピンク判定で聖女認定されたけど。上層が使いたいうちは聖女として扱われるでしょうね」
「いやいや、私が言ってる中途半端はピンク色の方ではありません。その先に待つ魔女特有の赤毛のことですよ」
「赤毛……?」
魔力が高い女性は赤毛が多いとされている。
歴代の大魔女はみな髪色が赤いらしい。
ルイーゼのダークピンクの髪は、確かに亜麻色をベースにピンクだが赤には届いていない。
「あなたの髪は、亜麻色ともダークピンクともつかない。そして、将来的に災厄の魔女たる赤毛になる資質がある。実に勿体ない……とお伝えしたかったまでです」
「災厄……ですって?」
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