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正編 第一章

第13話 オークション再開

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 ミンク幻獣連れ去り未遂事件が起こり、オーナーの弟が襲撃され、波乱含みだったオークション午前。結局、中断されて午前のオークション分と午後の分を合併して、時間をずらして開催されることになった。
 出品される品にも変化があったらしく、オーナーのジェダイト氏からオークション再開前に説明が入る。

「皆さん、本日はせっかくお集まり頂いたのに騒動が起きてしまい大変ご迷惑をお掛けしました。深くお詫び申し上げます。さて、今回のミンク連れ去り未遂騒動ですが、実は犯人達の本来の狙いは別の特別品だったとの情報が入りました。ミンクはその代わりだったのでは無いかと……」

 意外なことに、密輸入組織の真の狙いはミンク幻獣では無いという説が浮上したようだ。

「彼等は常にカワウソやミンクなどのイタチ系の生き物を密輸入する組織だったらしく、てっきり今回もその線だと思われていたわけですが。別口で他の高級品も奪って来るように依頼されていた模様です。おそらく、手慣れているミンクも捕獲しようとして、今回失敗したのではということ。よって、最高ランクの品に関してだけは、出品者との話し合いが必要となってしまいました。ご了承ください」

 最高ランクの品物が欲しかった人々にとってはガッカリするような情報だったらしい。ザワザワと会場内で話し声が飛び交い、これから始まるオークションについて再検討している様子。

『えー……最高ランクの商品をおとすためにわざわざ来たのに、どうしようかな』
『けど、実際に役に立つかも不明瞭な品のために、命を落とす危険までしなくても良いんじゃないか。この魔法の楽器なんか、ただの古い楽器かも知れないし、未来が書かれている予言書に至ってはよくある誰かの占いの書物だろう』
『言われてみれば、そうよね。精霊が描かれている絵画とかも、出品見送りになっちゃうのかしら』
『予算にも限りがあるし、今回のオークション参加すべきか辞めるべきか』


 今回のオークションは見送ろうかと話し合う人々もチラホラ。だが、一体何の商品が狙われていたのかはイマイチよく分からないようで、安全が確認されたものから出品されることになった。

「ねぇギベオン王太子、これって私達が狙っていた攻略本も危ういのかしら」

 ルクリアは自分達の目当てである【夢見の聖女と彗星の王子達完全攻略公式ガイドブック】も危ういのではないかと不安になっていく。
 一方でギベオン王太子は、万が一攻略本が手に入らなくとも、そこまで気にしていないような素振りを見せる。

「うん。未来が書かれている予言書なんて正直言って信憑性のないものだし、取り下げても誰も困らないような品だからね。もしかすると、今回は出品されないかも知れないな」
「そう。けど、その攻略本って実は妹のカルミアの部屋にあるはずよね。どうにかして妹から本を借りられれば良いだけなんだけど。無理か」

 本来は家にあるはずの攻略本を、わざわざ高額オークションで落とさなくてはいけないのも不思議な話だが。
 それくらいルクリアとカルミアという異母姉妹には、並々ならぬ亀裂があった。だが、その反面でカルミアは、自分が乙女ゲームの主人公であることをしきりにアピールしたがる。そういう承認欲求の強さにつけ込めば、意外とあっさり攻略本を見せてくれる可能性もありそうだ。


「一応、僕に証拠を見せるために書物の内容をチラ見せしてきたけど、全てを見せるつもりはなかったようだよ。向こうにとっても、不都合な情報があるんだろうね。それに、そのゲームって続編というかスピンオフでもっと裏設定が明かされているらしいから、攻略本は情報の一部でしか無いんだ。カルミアは気づいていないようだけど」
「えっ……そうだったの? 言われてみれば、人気シリーズのゲームは次々と続編やらスピンオフやら出るから、設定も基本作品だけで全て分かるはずないのよね」

 ギベオン王太子は攻略本そのものに執着しているわけではなく、一つでも多く情報を得たいだけだったよう。その理由は、ルクリアが想像しているよりも、ずっと納得のいくものだった。つまり、ギベオン王太子は元からこの異世界で起こる乙女ゲーム上での内容よりも、もっと先の情報を欲していたと推測される。

「うん。僕が関わりのない将来の世界の情報を得るなんて、大それたことをしようと考えていると思うんだけどね」
「関わりのない世界? ギベオン王太子は、メインキャラクターから外されてしまうの? 私がそうなるなら分かるけど……」
「あっ……オークションが始まるよ。取り敢えずは品を一つずつ確認しよう」

 けれど、ギベオン王太子は不思議とそのスピンオフについて詳しく語りたがらない。自分が関わることのない世界という部分まで理解しているのに、話題を逸らしてしまった。

 壇上では商品が次々と運ばれていて、ついにオークションが再開されるのだとよく分かる。司会者の男性とアシスタント役の女性が現れて、商品にかかっていた布が取り払われた。

『えーでは、まずは手頃な中級ランクの商品からです! かつて、魔法石を浄化するために重宝されていたというトレジャーメノウ。そして、風水氏御用達のアメジストドーム! これは玄関口に飾ると運気が上がるとお金持ちの邸宅や企業の入り口にも好評です。では、落札スタート!』

 いつの間にか、不穏な空気は消えて賑やかさを取り戻したオークション会場。参加者達もすっかり出品される商品に気が入ってしまい、落札のために手を挙げて予算を検討している。

 ルクリアもこれ以上は追及することが出来ずに、オークションの流れを見守るより方法がなかった。
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