追放される氷の令嬢に転生しましたが、王太子様からの溺愛が止まりません〜ざまぁされるのって聖女の異母妹なんですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
54 / 94
正編 最終章

第02話 感傷に浸る二人は気づかない

しおりを挟む

 未来人レンカ・ジェダイトが、突然学校に姿を現さなくなった。

『レンカちゃん、一体どうしちゃったんだろう。寄宿舎の部屋も空っぽだし、地下都市移住計画でレンカちゃんの未来まで変わっちゃったのかなぁ』
『でも、レンカちゃんって多分、ルクリアさんとネフライト君の子供でしょう。二人は正式に婚約したし、レンカちゃんが生まれる未来は守られているはずだよね』
『カルミアちゃんも、落ち込んじゃってあんまり詳しく話してくれないし。ただ、レンカは無事だとしか……』

 クラスメイト達は皆心配したが、事情を担任教師が説明をすることになった。

「実は、レンカさんは緊急で未来へ帰ることになってしまったそうです。理由としては、今の私達の世界線とレンカさんの未来の世界線が、イコールでは無くなってしまったからだとか」
「えっ。どういうことですか、私達の未来ではレンカちゃんに会えないの?」
「それはまだ分かりません。別のレンカさんが存在する未来はあるでしょう。このことにより、レンカさんのいる未来との通信は現時点で途絶えてしまい、皆さんへの報告が遅くなりました」

 騒つく教室、未来が変わったことによる動揺が走る。

『レンカちゃんがいた未来は、オレ達のパラレルワールドってこと?』
『多分、これから先の未来では私達の国は地下都市アトランティスとしてやっていくから、隣国との付き合いも変わってしまうんじゃない?』
『状況がこんなだから、仕方がないとはいえ残念だな。レンカちゃんともっといろんな話をしてみたかった』

 今の時間軸に、俗に言うパラレルワールドというものが発生してしまったのではないか、という意見が飛び交う。
 まさに、その発想は合ってはいるだろうが、レンカが消えているという解釈自体が実はトリックだ。しかし、この場にいる全員がこの話しを鵜呑みにしている様子。

「当初の予定にあった二十年後の保証も期待は出来ませんが、どっちみち死ぬ運命だった我々が生きていける二十年後を得られたことに意味があると思います。パラレルワールドの未来人レンカさんのことは、私達の心にずっと刻んでいきましょう。このクラスの全員がレンカさんを忘れないことが、彼女が生きた証拠になることを願って!」

 担当教師が生徒達を傷つけないようにうまくまとめて、ホームルームの時間が終了する。伯母様と慕われていたカルミアは、ずっと俯いて今にも泣き出しそうだった。クラスメイト達のうち何人かは、一番辛いのは懐かれていたカルミアだろうから、自分達でカルミアを支えていこうと話していた。
 そして、必ず地下都市移住を成功させて、素敵な未来を作るのだと……。


 クラスメイトが親切で頑張り屋で有ればあるほど、カルミアの心は傷んで真実を告げられないことが悔しくて仕方がなかった。

(違う、違うの! そうじゃないのよ、みんな。いなくなったのは、消されたのはカルミア伯母様なの。乙女ゲームの主人公本体に、中の人だった未亜さんは消されてしまったの。そして、今ここにいるカルミアこそが……未来人レンカなのよ! お願い、誰か気づいて!)


 主人公カルミア・レグラスの第二アバターとして作り直されたレンカは、銀髪を金髪に変更したことにより、完璧にカルミアに似ていて素人目には違いは分からない。
 もし、違いが分かる人物がいたとしたら、その人はカルミア・レグラスの本体に匹敵するくらいこのゲームのタイムリープを体感している者だけだろう。


 * * *


 隣国への移住が従来のシナリオよりもずっと早くなったルクリアは、婚約者のネフライトと共に自宅で荷造りをしていた。

「ルクリアさん、結局高校は辞めることになっちゃうね。ごめん、王立メテオライト魔法学園をきちんと卒業したかった?」
「ううん。法改正で思ったより早く入籍出来そうだし、それに昔の倭国の人は女学校在学中に見そめられて退学して嫁いだそうよ。隣国モルダバイトは倭国の影響を色濃く受け継いでいるし、そんなに浮かないわよ。それよりも、花嫁修行をしないとね。料理とかお裁縫とか……」
「ふふ、ルクリアさんの手料理楽しみにしてるよ。ところで、モフ君って出国の許可降りた?」

 荷造りをしているそばで、ミンク幻獣のモフ君がふらふらと様子を見ている。自分が運ばれるためのケージが用意されなくて、不安なのかも知れないとルクリアは思った。

「実はね、モフ君って地下都市出入り口を見つけられる特別な幻獣ってことで、まだ出国出来ないのよ。数ヶ月遅れで、隣国に届けてくれるそうよ。しばらく、お別れになっちゃうけど……」
「そっか、モフ君にもモルダバイトの美味しいペット用おやつを、食べさせてあげたかったな。けど、また合流出来るか……」
「そうよね、ごめんね。モフ君……」

 ルクリアが自分の髪色に似た銀色のモフ君の小さな頭を撫でてやると、嬉しそうにつぶらな目を瞑って甘えてきた。

「もきゅん、もきゅきゅん!」
「また会おうぜ、相棒って言ってるみたいだね。ルクリアさん」
「まぁネフライト君ったら……」

 初めのうちはお互い笑っていたが、段々と本当に祖国との別れの日が近づいていると思うと、ルクリアの瞳から涙が溢れ出した。すると、ネフライトが涙そっと拭って口付ける。

「ん……ネフライト君」
「オレのわがままで、いろんな人達と別れる羽目になってごめん。その代わり、幸せにするから……」
「うん……約束よ……」

 二人は何度も口付けを交わし、お互い温もりをもっと感じられるように抱きしめ合った。まだ、口付けと抱擁以上のことはしていない関係だが、既にルクリアはネフライトに純潔を……心の全てを捧げる覚悟が出来ていた。
 駆け足で大人になることになったネフライトに対して、せめて年上の自分がしっかり彼を支えられるように。彼が大人になった時に、妻がルクリアで良かったと思われるように。

 だから感傷に浸る二人は、ルクリアの異母妹カルミアが死んでいることに気づかない。そして、自分達の未来の娘レンカと入れ替わったなんて夢にも思わなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。 全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。 持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……? これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...