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正編 最終章
第04話 好きな気持ちが痛みになる
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オニキス生徒会長と両想いになっていたのは、あくまでもカルミア・レグラスだった。未来人レンカにとっては淡い片想いのはずが、カルミアに成り代わったタイミングで口付けられたことにより、レンカの理性のタガが外れてしまった。
(私は今日から、レンカを辞めてカルミア・レグラスになる。消えてしまった未来に、私が帰る場所はない。私の居場所はオニキス会長の腕の中だけ)
紳士的なオニキス会長はレンカをそのまま寄宿舎へと送り届けようとしたが、それを拒否したのはレンカ自身だった。
「今日は、帰りたくない。私……怖いの、もし地下都市移住が失敗して隕石が落ちて来たら、この国の人達は全員死んでしまう。オニキス会長に、こうして抱きしめられることさえ、出来なくなっちゃう。だから……今日は帰らない。私……オニキス会長のものになりたい!」
「カルミア……さん! 僕もだ……僕も本当は死ぬ前にキミと想いを通じ合わせたい。もし死んでしまうのであれば、最後の瞬間はキミと共にありたい」
どんなにレンカがオニキス会長に愛を伝えても、彼の返事はカルミアに対するものだけだった。それでも構わないからと、レンカは自分の心が暗くなるのに気づきながらも、彼の腕に抱かれることを選んだ。
オニキス会長の両親は王宮勤めのエリート幹部で、既に地下都市の王宮勤務者用住宅に移動していた。地上の学園に通う必要があるオニキスだけが、マンションに暮らしていて恋人を泊めても差し支えない状態だった。
皆、上手くいくか分からない地下都市移住に対して心に不安を抱え込んでおり、若い男が最後の時間を恋人と過ごすことを咎める者なんていないだろう。
――その日の晩、カルミアに成り代わったレンカはオニキス会長と深く結ばれた。
優しい口付けや肌の温もりは最初こそ心地よかったものの、生身の愛を貫かれて揺さぶられる初めての痛みは、かなりのものだった。だが、それよりもカルミアに対する愛の囁きがレンカの心をかき乱す。
(痛い、痛い、痛い、オニキス会長、好き、好き、好き……! 好きな気持ちが痛みになるなんて、どうして)
「カルミア、愛している……ずっとキミだけを……カルミアッ!」
「あっ……オニキス会長、好き、好き、大好き。貴方のためなら、何でも出来る。誰にでもなれる……!」
(そうだ、カルミアにならなきゃ。オニキス会長はレンカじゃなく、カルミアを好きなんだから……。ならなきゃ、カルミアにならなきゃ……!)
珍しく眼鏡を取った素顔の彼が優しく、激しく耳元で囁いてくれた愛は当然ながら、今は亡きカルミアに対するもので。レンカは彼と繋がり抱かれながらも、何も手に入らない苦しみに気づき……完全に壊れた。
* * *
数日後、『カルミア』は生徒会広報係としてギベオン王太子に呼ばれ、地下都市最後の出入り口を開く手伝いを頼まれた。何故なら、地下都市への最後の出入り口こそが王立メテオライト魔法学園の敷地内、体育館裏の空きスペースだったからだ。
立ち会いメンバーは、オニキス生徒会長、広報係カルミア、ギベオン王太子、そして扉を開けることが出来るルクリアだった。因縁深いメンバー構成だが、全てを変えた元凶であるネフライトがいないことだけが、唯一の救いだろう。
「お久しぶりです、ギベオン王太子様。うわぁこれが、工事用のゴーレムですか? 私、間近でこの子を見るの初めてっ。可愛い!」
レンカはすっかり『カルミア』に成り切っていた。が、伯母であるカルミアには優しく接して貰っていたため、二言目には『私は乙女ゲームの主人公よ!』などの自己アピールの強さを忘れてしまっていた。
異母姉の元婚約者という少しばかり遠巻きな人間関係のギベオン王太子だが、このカルミアがカルミアではないことをひと目見て気づいてしまう。
(どういうことだ? この子は、カルミアではなくレンカさんではないか。いや、タイムリープの記憶をそれほど持たないものには、バリエーション違いの主人公なんか見分けはつかないのか。本物のカルミアは……まさか、死んだのか?)
「……ミニゴーレムとは言っても、機嫌を損ねると危ないからね。あんまり触らない方がいいと思うよ」
「あ、ごめんなさい。ギベオン王太子様。ルクリアお姉様と会わなきゃいけなくて、緊張していますよね。つい……はしゃいじゃって」
「ううん、気を遣わないでくれ。ところでオニキス君とは上手くやっているのかい? お付き合いし始めたんだろう」
ルクリアが来る前にこの子がレンカかカルミアか、判別しようとするギベオン王太子。まずは、お付き合いをし始めたというオニキス生徒会長のことから、聞き出すことに。
「え、はい。オニキス生徒会長は凄くカッコよくて優しくて、私には勿体無いくらい素敵な人です」
「そうか、彼は目立つポジションだし、眼鏡が似合うインテリで成績も優秀だ。スタイルも良くてイケメン俳優のような容姿、きっとライバルも多かっただろう。未来に帰ったっていうレンカさんも、彼に想いを寄せていただろうし。いや、ちょっと意地悪だったかな、この話はよそう」
まさか自分がカルミアに成り代わって、意中の男を堕としたんじゃないだろうな……という嫌味が、レンカに通じているかは分からない。あまり追及すると、ギベオン王太子も騙されている側のオニキス生徒会長の命だって危ない。
慎重に、けれど鋭く、痛いことを言ったつもりだが、『カルミア』は目に光が入っていない雰囲気で、ギベオン王太子をじっと見つめた。
「へぇ……ギベオン王太子って意外と……ううん、何でもありません」
「いや、自分がルクリアに振られたから上手くいってるカップルに嫉妬しているんだよきっと。ごめん、忘れて……」
「……はい」
(もし、彼女がカルミアではなくレンカだとしても。オニキス君にそのことを伝えるのは酷だろうな……愛しい女性が死んでいて、別の女性を恋人だと勘違いしているのだから)
それ以上は二人の会話は続かず、体育館裏で他のメンバーの到着を待つのみだった。
(私は今日から、レンカを辞めてカルミア・レグラスになる。消えてしまった未来に、私が帰る場所はない。私の居場所はオニキス会長の腕の中だけ)
紳士的なオニキス会長はレンカをそのまま寄宿舎へと送り届けようとしたが、それを拒否したのはレンカ自身だった。
「今日は、帰りたくない。私……怖いの、もし地下都市移住が失敗して隕石が落ちて来たら、この国の人達は全員死んでしまう。オニキス会長に、こうして抱きしめられることさえ、出来なくなっちゃう。だから……今日は帰らない。私……オニキス会長のものになりたい!」
「カルミア……さん! 僕もだ……僕も本当は死ぬ前にキミと想いを通じ合わせたい。もし死んでしまうのであれば、最後の瞬間はキミと共にありたい」
どんなにレンカがオニキス会長に愛を伝えても、彼の返事はカルミアに対するものだけだった。それでも構わないからと、レンカは自分の心が暗くなるのに気づきながらも、彼の腕に抱かれることを選んだ。
オニキス会長の両親は王宮勤めのエリート幹部で、既に地下都市の王宮勤務者用住宅に移動していた。地上の学園に通う必要があるオニキスだけが、マンションに暮らしていて恋人を泊めても差し支えない状態だった。
皆、上手くいくか分からない地下都市移住に対して心に不安を抱え込んでおり、若い男が最後の時間を恋人と過ごすことを咎める者なんていないだろう。
――その日の晩、カルミアに成り代わったレンカはオニキス会長と深く結ばれた。
優しい口付けや肌の温もりは最初こそ心地よかったものの、生身の愛を貫かれて揺さぶられる初めての痛みは、かなりのものだった。だが、それよりもカルミアに対する愛の囁きがレンカの心をかき乱す。
(痛い、痛い、痛い、オニキス会長、好き、好き、好き……! 好きな気持ちが痛みになるなんて、どうして)
「カルミア、愛している……ずっとキミだけを……カルミアッ!」
「あっ……オニキス会長、好き、好き、大好き。貴方のためなら、何でも出来る。誰にでもなれる……!」
(そうだ、カルミアにならなきゃ。オニキス会長はレンカじゃなく、カルミアを好きなんだから……。ならなきゃ、カルミアにならなきゃ……!)
珍しく眼鏡を取った素顔の彼が優しく、激しく耳元で囁いてくれた愛は当然ながら、今は亡きカルミアに対するもので。レンカは彼と繋がり抱かれながらも、何も手に入らない苦しみに気づき……完全に壊れた。
* * *
数日後、『カルミア』は生徒会広報係としてギベオン王太子に呼ばれ、地下都市最後の出入り口を開く手伝いを頼まれた。何故なら、地下都市への最後の出入り口こそが王立メテオライト魔法学園の敷地内、体育館裏の空きスペースだったからだ。
立ち会いメンバーは、オニキス生徒会長、広報係カルミア、ギベオン王太子、そして扉を開けることが出来るルクリアだった。因縁深いメンバー構成だが、全てを変えた元凶であるネフライトがいないことだけが、唯一の救いだろう。
「お久しぶりです、ギベオン王太子様。うわぁこれが、工事用のゴーレムですか? 私、間近でこの子を見るの初めてっ。可愛い!」
レンカはすっかり『カルミア』に成り切っていた。が、伯母であるカルミアには優しく接して貰っていたため、二言目には『私は乙女ゲームの主人公よ!』などの自己アピールの強さを忘れてしまっていた。
異母姉の元婚約者という少しばかり遠巻きな人間関係のギベオン王太子だが、このカルミアがカルミアではないことをひと目見て気づいてしまう。
(どういうことだ? この子は、カルミアではなくレンカさんではないか。いや、タイムリープの記憶をそれほど持たないものには、バリエーション違いの主人公なんか見分けはつかないのか。本物のカルミアは……まさか、死んだのか?)
「……ミニゴーレムとは言っても、機嫌を損ねると危ないからね。あんまり触らない方がいいと思うよ」
「あ、ごめんなさい。ギベオン王太子様。ルクリアお姉様と会わなきゃいけなくて、緊張していますよね。つい……はしゃいじゃって」
「ううん、気を遣わないでくれ。ところでオニキス君とは上手くやっているのかい? お付き合いし始めたんだろう」
ルクリアが来る前にこの子がレンカかカルミアか、判別しようとするギベオン王太子。まずは、お付き合いをし始めたというオニキス生徒会長のことから、聞き出すことに。
「え、はい。オニキス生徒会長は凄くカッコよくて優しくて、私には勿体無いくらい素敵な人です」
「そうか、彼は目立つポジションだし、眼鏡が似合うインテリで成績も優秀だ。スタイルも良くてイケメン俳優のような容姿、きっとライバルも多かっただろう。未来に帰ったっていうレンカさんも、彼に想いを寄せていただろうし。いや、ちょっと意地悪だったかな、この話はよそう」
まさか自分がカルミアに成り代わって、意中の男を堕としたんじゃないだろうな……という嫌味が、レンカに通じているかは分からない。あまり追及すると、ギベオン王太子も騙されている側のオニキス生徒会長の命だって危ない。
慎重に、けれど鋭く、痛いことを言ったつもりだが、『カルミア』は目に光が入っていない雰囲気で、ギベオン王太子をじっと見つめた。
「へぇ……ギベオン王太子って意外と……ううん、何でもありません」
「いや、自分がルクリアに振られたから上手くいってるカップルに嫉妬しているんだよきっと。ごめん、忘れて……」
「……はい」
(もし、彼女がカルミアではなくレンカだとしても。オニキス君にそのことを伝えるのは酷だろうな……愛しい女性が死んでいて、別の女性を恋人だと勘違いしているのだから)
それ以上は二人の会話は続かず、体育館裏で他のメンバーの到着を待つのみだった。
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