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第2章 二周目
ジーク少年時代目線:01
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おかしい、夢でも見ているのだろうか。
僕の記憶が確かなら、婚約者候補のご令嬢ヒルデも、ライバルとなるフィヨルド王子も、婚姻年齢に達している若者だったはずだ。
けれど、今僕の目の前にいるヒルデは、どこからどう見ても小学二年生くらいの幼い少女だった。貧血なのか、屋敷の階段から転びそうになっていたところを咄嗟に助け出す。
「大丈夫、ヒルデ。良かった怪我がなくて」
「ジーク……ありがとう。助けてくれて」
(良かった。夢の中なのかも知れないけれど。ヒルデが目の前で怪我しなくて)
ホッとしてヒルデを談話室まで連れて行くと、フィヨルドと思われる金髪碧眼の少年がヒルデを迎えに来た。そして、ヒルデだけではなくフィヨルドも、同様に縮んでいる。もちろん、僕も九年分くらい縮んでしまい、おそらく小学五年生くらいだろう。
最後の記憶が確かならば。ハタチだった頃の僕は、婚約者であるヒルデ・ルキアブルグ嬢の邸宅に邪魔していた。倒れたヒルデ見舞って、妙な暗闇に包まれて……詳しい事はよく覚えていない。
「ジーク、運転手に車を出してもらおうか?」
「あぁ大丈夫。歩いて帰るのは慣れているから」
話を合わせるのも辛いし、早々に退散しようとすると、フィヨルド少年が僕のために車を手配しようと気を遣う。普段は天然な割にこういうところは、小さな頃から王子っぽい。複雑な心境でルキアブルグ邸を出ると、外は綺麗な夕焼けだった。
* * *
賑やかなストリートを抜けて、自力で帰路に着くのは小さな頃からの習慣だ。ルキアブルグ邸から我が家までは、ゆっくり歩いて三十分ほど。良い運動になる距離だけれど、年齢的なものを考えると夜になる前に家へとたどり着きたいものだ。
頭身が縮んだおかげで妙な客引きに会わずに済んでいるが、代わりに『中学高校受験専門塾教室』の案内のポケットティッシュを手渡された。
(マジかよ、いや僕は見るからに小学生なんだろうな。それにしても進学塾か)
ポケットティッシュの広告には、『魔法使いコース、賢者コースなど難関クラスの合格者多数! 是非、ミカエル帝国西支部へ』と優秀な指導をアピールする内容が。
もはや、自分がどこからどう見ても、小学生に戻っていることを認識せざるを得ない。
いろいろと考えているうちに、我が家の前に到着してしまった。ヒルデの家に比べるとそれほど大きくはないが、古い伝統的な石造りの邸宅が僕の家だ。
「きゃうんっきゃうんっ」
「おっなんだ。バル、お前僕の帰りを待っていてくれたのか?」
門を開けると昔飼っていた愛犬のバルが、尻尾を振ってくっついてきて、嬉しさのあまり抱きしめた。狼系の魔犬であるバルは、難解クエストに同行させた際、魔物にやられて天国へと召されている。確か、僕が十八の頃だから、バルが死んでしまうのは七年後だ。
(ごめんな、バル。今度は無理してあのクエストを受けないから。お前は天寿を全うしてくれよ)
愛犬との再会に喜んでいると、さらに驚くような再会が僕を待っていた。
「お帰りっジーク。良いタイミングだったな。父さんもクエストから、帰ってきたばかりだぞっ!」
「えっ……父さんっ?」
家の門を開けて笑顔で僕の頭を撫でる大柄な男性は、亡くなったはずの僕の父だった。
胸の奥が驚きと感動で、ブワッと熱くなる。目が滲んできて涙が溢れそうだ。
(……父さん! まだ生きているんだ。あれっでも父さんは、フィヨルドがヒルデの家に下宿を始めた年の夏に、僕を庇って亡くなっているはず。嬉しいけれど一体、どういうことだ? 僕は……自分に都合の良い夢を見ているだけなのか)
そしてそれは僕がタイムリープした先は、僕が知る未来とは『異なる世界線』であることを示していた。
僕の記憶が確かなら、婚約者候補のご令嬢ヒルデも、ライバルとなるフィヨルド王子も、婚姻年齢に達している若者だったはずだ。
けれど、今僕の目の前にいるヒルデは、どこからどう見ても小学二年生くらいの幼い少女だった。貧血なのか、屋敷の階段から転びそうになっていたところを咄嗟に助け出す。
「大丈夫、ヒルデ。良かった怪我がなくて」
「ジーク……ありがとう。助けてくれて」
(良かった。夢の中なのかも知れないけれど。ヒルデが目の前で怪我しなくて)
ホッとしてヒルデを談話室まで連れて行くと、フィヨルドと思われる金髪碧眼の少年がヒルデを迎えに来た。そして、ヒルデだけではなくフィヨルドも、同様に縮んでいる。もちろん、僕も九年分くらい縮んでしまい、おそらく小学五年生くらいだろう。
最後の記憶が確かならば。ハタチだった頃の僕は、婚約者であるヒルデ・ルキアブルグ嬢の邸宅に邪魔していた。倒れたヒルデ見舞って、妙な暗闇に包まれて……詳しい事はよく覚えていない。
「ジーク、運転手に車を出してもらおうか?」
「あぁ大丈夫。歩いて帰るのは慣れているから」
話を合わせるのも辛いし、早々に退散しようとすると、フィヨルド少年が僕のために車を手配しようと気を遣う。普段は天然な割にこういうところは、小さな頃から王子っぽい。複雑な心境でルキアブルグ邸を出ると、外は綺麗な夕焼けだった。
* * *
賑やかなストリートを抜けて、自力で帰路に着くのは小さな頃からの習慣だ。ルキアブルグ邸から我が家までは、ゆっくり歩いて三十分ほど。良い運動になる距離だけれど、年齢的なものを考えると夜になる前に家へとたどり着きたいものだ。
頭身が縮んだおかげで妙な客引きに会わずに済んでいるが、代わりに『中学高校受験専門塾教室』の案内のポケットティッシュを手渡された。
(マジかよ、いや僕は見るからに小学生なんだろうな。それにしても進学塾か)
ポケットティッシュの広告には、『魔法使いコース、賢者コースなど難関クラスの合格者多数! 是非、ミカエル帝国西支部へ』と優秀な指導をアピールする内容が。
もはや、自分がどこからどう見ても、小学生に戻っていることを認識せざるを得ない。
いろいろと考えているうちに、我が家の前に到着してしまった。ヒルデの家に比べるとそれほど大きくはないが、古い伝統的な石造りの邸宅が僕の家だ。
「きゃうんっきゃうんっ」
「おっなんだ。バル、お前僕の帰りを待っていてくれたのか?」
門を開けると昔飼っていた愛犬のバルが、尻尾を振ってくっついてきて、嬉しさのあまり抱きしめた。狼系の魔犬であるバルは、難解クエストに同行させた際、魔物にやられて天国へと召されている。確か、僕が十八の頃だから、バルが死んでしまうのは七年後だ。
(ごめんな、バル。今度は無理してあのクエストを受けないから。お前は天寿を全うしてくれよ)
愛犬との再会に喜んでいると、さらに驚くような再会が僕を待っていた。
「お帰りっジーク。良いタイミングだったな。父さんもクエストから、帰ってきたばかりだぞっ!」
「えっ……父さんっ?」
家の門を開けて笑顔で僕の頭を撫でる大柄な男性は、亡くなったはずの僕の父だった。
胸の奥が驚きと感動で、ブワッと熱くなる。目が滲んできて涙が溢れそうだ。
(……父さん! まだ生きているんだ。あれっでも父さんは、フィヨルドがヒルデの家に下宿を始めた年の夏に、僕を庇って亡くなっているはず。嬉しいけれど一体、どういうことだ? 僕は……自分に都合の良い夢を見ているだけなのか)
そしてそれは僕がタイムリープした先は、僕が知る未来とは『異なる世界線』であることを示していた。
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