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第2章 二周目
ジーク少年時代目線:02
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まさに奇跡というべきだろうか、僕は亡くなったはずの父さんと一緒に夕飯を囲んでいる。今日は特別に、愛犬のバルも部屋に入って愉しいひと時を過ごせることになった。
何故、このような展開になったのかは分からないけれど。ハタチだったはずの僕は、小学五年生の頃の僕に戻っている。タイムリープというものを体験したばかりではなく、この時点で『本来亡くなっているはずの父が生存している』という異なる分岐点、世界線とも言うべき場所に降り立ったのだ。
「んっ? なんだジーク。今日は少食だなぁ。もっといっぱい食べないと、大きくなれないぞ」
「う、うんっ!」
目の前には、父さんの長期間出張の帰りを祝うかのように、母さんが腕によりをかけた手作り料理が並んでいた。ビーフステーキ、ピリ辛チキンの煮こみ、巨大深海魚のこってりバター焼き、ロブスター入りパエリア、彩り野菜の贅沢チーズフォンデュ、MP回復ポテトの冷製スープ、回復果物を盛ったサラダタワーなど。
一般家庭では食べられないようなメニューも混ざっているが、冒険者の栄養は特殊な食材でなければ補えない。
「今日はお父さんが大型クエストを成功させて帰還した日だから、ちょっとだけ贅沢しちゃったわ。うふふっこれからも頑張ってね、あなた!」
「ああっ! この英雄王の腕前をジークにきちんと、伝えなくてはいけないからな。まだまだ現役で、お手本になるよ」
なんだか随分と仲が良く、まるで新婚みたいな雰囲気。
さらに、父さんはミカエル帝国特製ビールとナッツ類もプラスして、ほろ酔い気分のようだ。
「そういえば、今日。ヒルデとフィヨルドに会いに行ったんだ。ヒルデが風邪ひいちゃって、ちょっと心配なんだけど」
「ふむ。オレが小さな頃は、真冬に乾布摩擦をして鍛えたものだが。まぁ流石に女の子のヒルデちゃんや、フィヨルド君のような王子様に勧めることも出来んしな」
(父さん、この世界線ではフィヨルドの存在を知っているんだ。いろいろ人間関係が変わりそうだ)
久しぶりに会った父は、思ったよりも若くて。本来ならば、随分と早死にさせてしまったのだと実感する。我が家は一応、英雄王の末裔という立派な家柄のはずだが、かと言って今は王様という訳ではない。
新聖ミカエル帝国では、ご神託によって皇帝が決まるため、現在では僕の家は中流貴族といったところだ。土地をそれほど所有していないことから、父さんが難解クエストをこなしてようやく生活レベルは他の中流貴族と釣り合う程度。
父さんのワイルドなバトルクエストから得られる収入が良い金額のおかげで、ヒルデ達との付き合いが出来ている。
「そういえば、ヒルデちゃんはこのままフィヨルド君と結婚しちゃうのかしらね? ジークは寂しくないの」
「えっっ? あの2人は今のところ恋人というより兄妹みたいな感じだから、将来はどうなるか分からないよ。見てて微笑ましい感じというか」
将来のいざこざを思い出し内心ぎくりとしつつ、適当に話を誤魔化した。すると父さんが笑って、さらに世界線が変化しそうなことを語り始めた。
「兄妹か……。ジークにも妹か、弟が必要……かな」
「もうっ! あなたったらっ。けど、ちょっと年の離れた妹か弟がいてもいいわよね」
「はっはっは! ジーク楽しみにしてとよっ。もしかすると、来年にはお兄ちゃんになっているかも知れんぞ」
「う、うん。期待してる……」
以前の世界線では父が亡くなり、母は夜の飲食店で美貌を武器に働き、女手一つで生活を支えた。しばらくしてお客さんとして来店をしたお金持ちと、身請けのような形で再婚。
連れ子である血の繋がらない姉と妹が、僕の周囲にいつもいて、気がつけばハーレム勇者度を高めていた。血の繋がらない姉や妹とやましい関係ではないのだが、ヒルデはそう勘違いしていた気がする。
けれど、父が存命の今……。
母は夜の商売に行くこともなく、僕に血の繋がりのない姉と妹が出来ることもないだろう。実の妹が、出来そうな雰囲気はあるが。
穏やかな幸せは本当に夢のようで、風呂の浸かり布団に入って……眠るのが怖かった。
目が覚めたら、父さんが消えてしまう気がして……なかなか寝付けずにいた。
何故、このような展開になったのかは分からないけれど。ハタチだったはずの僕は、小学五年生の頃の僕に戻っている。タイムリープというものを体験したばかりではなく、この時点で『本来亡くなっているはずの父が生存している』という異なる分岐点、世界線とも言うべき場所に降り立ったのだ。
「んっ? なんだジーク。今日は少食だなぁ。もっといっぱい食べないと、大きくなれないぞ」
「う、うんっ!」
目の前には、父さんの長期間出張の帰りを祝うかのように、母さんが腕によりをかけた手作り料理が並んでいた。ビーフステーキ、ピリ辛チキンの煮こみ、巨大深海魚のこってりバター焼き、ロブスター入りパエリア、彩り野菜の贅沢チーズフォンデュ、MP回復ポテトの冷製スープ、回復果物を盛ったサラダタワーなど。
一般家庭では食べられないようなメニューも混ざっているが、冒険者の栄養は特殊な食材でなければ補えない。
「今日はお父さんが大型クエストを成功させて帰還した日だから、ちょっとだけ贅沢しちゃったわ。うふふっこれからも頑張ってね、あなた!」
「ああっ! この英雄王の腕前をジークにきちんと、伝えなくてはいけないからな。まだまだ現役で、お手本になるよ」
なんだか随分と仲が良く、まるで新婚みたいな雰囲気。
さらに、父さんはミカエル帝国特製ビールとナッツ類もプラスして、ほろ酔い気分のようだ。
「そういえば、今日。ヒルデとフィヨルドに会いに行ったんだ。ヒルデが風邪ひいちゃって、ちょっと心配なんだけど」
「ふむ。オレが小さな頃は、真冬に乾布摩擦をして鍛えたものだが。まぁ流石に女の子のヒルデちゃんや、フィヨルド君のような王子様に勧めることも出来んしな」
(父さん、この世界線ではフィヨルドの存在を知っているんだ。いろいろ人間関係が変わりそうだ)
久しぶりに会った父は、思ったよりも若くて。本来ならば、随分と早死にさせてしまったのだと実感する。我が家は一応、英雄王の末裔という立派な家柄のはずだが、かと言って今は王様という訳ではない。
新聖ミカエル帝国では、ご神託によって皇帝が決まるため、現在では僕の家は中流貴族といったところだ。土地をそれほど所有していないことから、父さんが難解クエストをこなしてようやく生活レベルは他の中流貴族と釣り合う程度。
父さんのワイルドなバトルクエストから得られる収入が良い金額のおかげで、ヒルデ達との付き合いが出来ている。
「そういえば、ヒルデちゃんはこのままフィヨルド君と結婚しちゃうのかしらね? ジークは寂しくないの」
「えっっ? あの2人は今のところ恋人というより兄妹みたいな感じだから、将来はどうなるか分からないよ。見てて微笑ましい感じというか」
将来のいざこざを思い出し内心ぎくりとしつつ、適当に話を誤魔化した。すると父さんが笑って、さらに世界線が変化しそうなことを語り始めた。
「兄妹か……。ジークにも妹か、弟が必要……かな」
「もうっ! あなたったらっ。けど、ちょっと年の離れた妹か弟がいてもいいわよね」
「はっはっは! ジーク楽しみにしてとよっ。もしかすると、来年にはお兄ちゃんになっているかも知れんぞ」
「う、うん。期待してる……」
以前の世界線では父が亡くなり、母は夜の飲食店で美貌を武器に働き、女手一つで生活を支えた。しばらくしてお客さんとして来店をしたお金持ちと、身請けのような形で再婚。
連れ子である血の繋がらない姉と妹が、僕の周囲にいつもいて、気がつけばハーレム勇者度を高めていた。血の繋がらない姉や妹とやましい関係ではないのだが、ヒルデはそう勘違いしていた気がする。
けれど、父が存命の今……。
母は夜の商売に行くこともなく、僕に血の繋がりのない姉と妹が出来ることもないだろう。実の妹が、出来そうな雰囲気はあるが。
穏やかな幸せは本当に夢のようで、風呂の浸かり布団に入って……眠るのが怖かった。
目が覚めたら、父さんが消えてしまう気がして……なかなか寝付けずにいた。
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