Re:二周目の公爵令嬢〜王子様と勇者様、どちらが運命の相手ですの?〜

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
25 / 43
第2章 二周目

ジーク少年時代目線:03

しおりを挟む

 僕が九年前……つまり小学五年生に遡って、数日間が経過した。風邪が流行った影響で学級閉鎖が続き、長期クエストを終えた父さんはしばらく遅めのお休み。僕は、かつてのルートで父さんを失った『心の虚無』を埋めるように男同士のコミュニケーションを計っていった。

「ねえ、父さん。せっかくの休みだし、僕将来の進路のためにも、父さんにお願いがあるんだけど。そろそろ、父さんの持ってる必殺スキルの中で、ひとつくらい教えてもらいたいなって。一番、簡単そうなのでいいから」
「ふっ……お前もそんな年頃か、ジーク。この数日休んでばかりで、ちょうど腕がなまり始めていた頃だしな。いいだろう」
「ヤッタァ!」

 勇者候補の僕と現代の英雄である父さんのコミュニケーションといったら、ただ一つ。
 ズバリ、神聖ミカエル流奥義による剣の稽古である。と言っても真剣ではなく木で出来た練習用の剣だけど。

「準備できたよ、僕は魔法の講義も得意だけど。賢者受験生の子には、とてもじゃないけど敵わないし。やっぱり、父さんみたいな腕自慢を目指したい」
「ふむ。そろそろ、オールマイティーよりも固有のスキルを高めた方が、良い時期だからな。では、全体攻撃系の必殺スキルを教えていこう。まずは、構えから……!」

 父さんが亡くなっていた以前の世界線では、あり得なかった小学五年生秋の剣術稽古。秋の空気が心地よく、鍛錬にするにはもってこいの天候だ。

「ジーク、無茶しちゃダメよ」
「きゃうんんっ」

 自宅の裏庭で愛犬バルと母さんが見守る中、剣術指南をする父さんは、厳しくも優しい師匠だ。


 クタクタになるまで剣の指導をしてもらい、以前の記憶する人生ではあり得なかった稽古に満足していると。思い出したように、母さんが何かの案内チラシを僕たちに手渡す。

「んっ? 母さん、何これ。親子剣術の大会、十二月の部。優秀者は学費が無償化の可能性も。へぇ……そんなのがあるんだ」
「ええ。ジークはオールマイティーな勇者を目指していたし、スキルが偏るのはどうかなって思ってたんだけど。さっきの稽古を見たらそろそろ剣術に絞っても、いいんじゃないかって。実はこの大会、以前から先生に勧められていたのを思い出してね」

 見覚えのない大会のチラシは、親子参加が義務というファミリー向けのものだった。父さんが亡くなるルートでは参加自体不可能だったはずだから、僕がこの大会の案内を知らなくても無理はない。

「ほうっ。じゃあその日はスケジュールを開けて、ジークと剣術の大会に参加するかっ。どうせなら優勝を狙いたいが、こういうのは参加することに意味がある。何事もチャレンジが第一歩だ」
「うんっ! 頑張ろうね。父さんっ」

 自分が望んでいた失われたはずの少年時代が戻ってきた喜びで、僕はその大会の日付が別の予定と被っていたことに気づかない。

 本来のルートなら、魔力測定の『知恵の輪大会』に出場し、その大会で僕は優勝するというシナリオであったことも。

 こうして僕は、明かに一周目の『ジーク・ヘルツォーク』とは、違う人生を歩み始めたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

処理中です...