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第2章 二周目
第07話 回避ルートは、目覚めた時に
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『では、ヒルデ。次に勇者ジークが生存した状態で、没落するルートを覗いてみましょう』
ゴルディアスの結び目から発する声は、意気揚々と別の没落の記録をヒルデに見せつけてきた。
「記憶障害となったフィヨルドに、いろいろ疑われてシングルマザーにして没落するコースも、かなり気が重いのに。他にも没落がありますの?」
『ええ。見てください……今度は、ジークとの結婚生活がギクシャクしています。女性のギルド仲間達との縁を切って欲しいとあなたが頼むので、ジークは一人でクエストを行うようになります。そして、クエストを失敗してしまうのです』
英雄王の末裔であるジークのクエスト失敗回数が増えた原因は、ギルド仲間達との決裂であると世間から叩かれると言うものだ。ヒルデが悪妻だからジークは勇者として活躍出来なかったとの意見が増えて、やがてルキアブルグ家は没落してしまう。
「う~ん。ジークにはギルド仲間と縁を切り、側室を娶らせずに、一夫一妻制で働いてもらうのね。けれど、ジークは女の仲間ばかり増やしておかしいですわっ。この展開に文句を言うのは、可笑しいんじゃありませんこと?」
『あなたがこのルートで悪妻と呼ばれる理由は、分かりますか?』
質問に質問で返されてしまい、ヒルデは不機嫌だったが、やがて自分なりの答えを出す。
「……クエストの仲間との縁を切らせたことでしょう? けれど、感情問題で、自分の夫が長期間他の女性、しかも恋仲の女と一緒にいるのを承認出来る人なんて滅多にいないわ。わたくしは、クエストには参加出来ないのに……あら?」
ヒルデは、自分で言ったセリフに何か妙な引っ掛かりを覚える。『クエストに参加出来ない』のではなく、『参加しない』の間違いであることに本当は気づいていた。
『自分でも、気づき始めているのですねヒルデ。あなたは、本当は魔法を使えるのにそれを使おうとせず。他の女性がジークに寄り添うために努力するのに、それもしようとせず。フィヨルドに一途でいれば良いものの、それもしなかった。結局、このままではどのルートを選んでも絶望は免れません』
「ちょっと! あなた、ゴルディアスの結び目だかなんだか知りませんが、わたくしのこといろいろ言い過ぎですわよ。そもそも、深窓の令嬢ポジションで魔法も剣技も習わなかったわたくしに、ドラゴン退治の手助けが出来るはずないじゃありませんの?」
するとゴルディアスの結び目は、チカラのない女性であっても手助けは出来ると主張し始める。
『例えば、チカラを持たない乙女であれば、男の帰りを待ち神に祈るだけでしょう。ですが、彼を癒すために手料理のひとつでも振る舞うことで、女性の役割を果たしているかも知れません』
ジークの母親は、良いところのご令嬢でクエストの類は一切出来ない人だと言う。けれど、大好きな夫のために冒険者向けの料理を研究して、健康管理を手伝うことでクエストに貢献している。
没落ルートのヒルデは、そう言うサポート的な活動も一切しなかったのだろう。
『あなたの悪いところは、自己評価の低さとクエストに対する怠惰さです。その2点を改めれば、相手がどちらの男性であっても、没落のシナリオから逃れられるでしょう。おや……そろそろ時間のようですね。知恵の輪大会、期待してますよ』
「自己評価の低さと怠惰が原因って、まるでわたくしに何か才能が僅かでもあるような言い方、やめてくださいな! 魔法も剣技もさっぱりなのですから」
美しいヒルデのコンプレックスは、自身の魔法や剣の才のなさだった。美容ばかり追究して、何も勉強しなかったせいでもある。ジークのギルドメンバーに、魔法などの実力で負けていることを嫌と言うほど認識しているのだ。
『それは、あなた自身がそう思い込んでいるだけです。あなたは、ゴルディアスの結び目を解くことが出来る稀有な方。自分の可能性に気付いて……ヒルデ」
ゴルディアスの結び目は、ヒルデの中に未知の可能性が秘められていることを示唆すると、光と共に消えていった。
* * *
やがて、ヒルデの魂は元通りの知恵の輪大会会場に戻っていて、彼女は再び小学二年生の姿だった。
「う……うん? あれっ……わたくし、さっきまで何を?」
ゆっくりと目を開くと、コロシアムのギャラリーがざわつきながら、ヒルデに一同注目している。意識を失っているうちに、何か失敗でもしたんじゃないかと、ヒルデは不安になった。
(ああっ。やっぱり、こんな大会出るんじゃなかったわ。みんな震えた表情でわたくしを指差して)
「すげえっ。ルキアブルグ家のご令嬢が、こんなに強い魔力を持っていたなんてっ」
「いや、でもあの家は。先祖に神殿直属のワルキューレがいたらしいから、先祖帰りかなんかなんじゃ?」
「再来だ……伝説の女魔導士ブリュンヒルデの再来だ……!」
混乱する会場は、わたくしの算出された潜在魔力で持ちきりみたい。
伝説の女魔導士ブリュンヒルデって確か、わたくしのご先祖様だったかしら。
ふと、魔力数値の桁を数えるといち、じゅう、ひゃく、せん、まん……?
「……わたくしの魔力数値……高すぎっっ?」
ゴルディアスの結び目から発する声は、意気揚々と別の没落の記録をヒルデに見せつけてきた。
「記憶障害となったフィヨルドに、いろいろ疑われてシングルマザーにして没落するコースも、かなり気が重いのに。他にも没落がありますの?」
『ええ。見てください……今度は、ジークとの結婚生活がギクシャクしています。女性のギルド仲間達との縁を切って欲しいとあなたが頼むので、ジークは一人でクエストを行うようになります。そして、クエストを失敗してしまうのです』
英雄王の末裔であるジークのクエスト失敗回数が増えた原因は、ギルド仲間達との決裂であると世間から叩かれると言うものだ。ヒルデが悪妻だからジークは勇者として活躍出来なかったとの意見が増えて、やがてルキアブルグ家は没落してしまう。
「う~ん。ジークにはギルド仲間と縁を切り、側室を娶らせずに、一夫一妻制で働いてもらうのね。けれど、ジークは女の仲間ばかり増やしておかしいですわっ。この展開に文句を言うのは、可笑しいんじゃありませんこと?」
『あなたがこのルートで悪妻と呼ばれる理由は、分かりますか?』
質問に質問で返されてしまい、ヒルデは不機嫌だったが、やがて自分なりの答えを出す。
「……クエストの仲間との縁を切らせたことでしょう? けれど、感情問題で、自分の夫が長期間他の女性、しかも恋仲の女と一緒にいるのを承認出来る人なんて滅多にいないわ。わたくしは、クエストには参加出来ないのに……あら?」
ヒルデは、自分で言ったセリフに何か妙な引っ掛かりを覚える。『クエストに参加出来ない』のではなく、『参加しない』の間違いであることに本当は気づいていた。
『自分でも、気づき始めているのですねヒルデ。あなたは、本当は魔法を使えるのにそれを使おうとせず。他の女性がジークに寄り添うために努力するのに、それもしようとせず。フィヨルドに一途でいれば良いものの、それもしなかった。結局、このままではどのルートを選んでも絶望は免れません』
「ちょっと! あなた、ゴルディアスの結び目だかなんだか知りませんが、わたくしのこといろいろ言い過ぎですわよ。そもそも、深窓の令嬢ポジションで魔法も剣技も習わなかったわたくしに、ドラゴン退治の手助けが出来るはずないじゃありませんの?」
するとゴルディアスの結び目は、チカラのない女性であっても手助けは出来ると主張し始める。
『例えば、チカラを持たない乙女であれば、男の帰りを待ち神に祈るだけでしょう。ですが、彼を癒すために手料理のひとつでも振る舞うことで、女性の役割を果たしているかも知れません』
ジークの母親は、良いところのご令嬢でクエストの類は一切出来ない人だと言う。けれど、大好きな夫のために冒険者向けの料理を研究して、健康管理を手伝うことでクエストに貢献している。
没落ルートのヒルデは、そう言うサポート的な活動も一切しなかったのだろう。
『あなたの悪いところは、自己評価の低さとクエストに対する怠惰さです。その2点を改めれば、相手がどちらの男性であっても、没落のシナリオから逃れられるでしょう。おや……そろそろ時間のようですね。知恵の輪大会、期待してますよ』
「自己評価の低さと怠惰が原因って、まるでわたくしに何か才能が僅かでもあるような言い方、やめてくださいな! 魔法も剣技もさっぱりなのですから」
美しいヒルデのコンプレックスは、自身の魔法や剣の才のなさだった。美容ばかり追究して、何も勉強しなかったせいでもある。ジークのギルドメンバーに、魔法などの実力で負けていることを嫌と言うほど認識しているのだ。
『それは、あなた自身がそう思い込んでいるだけです。あなたは、ゴルディアスの結び目を解くことが出来る稀有な方。自分の可能性に気付いて……ヒルデ」
ゴルディアスの結び目は、ヒルデの中に未知の可能性が秘められていることを示唆すると、光と共に消えていった。
* * *
やがて、ヒルデの魂は元通りの知恵の輪大会会場に戻っていて、彼女は再び小学二年生の姿だった。
「う……うん? あれっ……わたくし、さっきまで何を?」
ゆっくりと目を開くと、コロシアムのギャラリーがざわつきながら、ヒルデに一同注目している。意識を失っているうちに、何か失敗でもしたんじゃないかと、ヒルデは不安になった。
(ああっ。やっぱり、こんな大会出るんじゃなかったわ。みんな震えた表情でわたくしを指差して)
「すげえっ。ルキアブルグ家のご令嬢が、こんなに強い魔力を持っていたなんてっ」
「いや、でもあの家は。先祖に神殿直属のワルキューレがいたらしいから、先祖帰りかなんかなんじゃ?」
「再来だ……伝説の女魔導士ブリュンヒルデの再来だ……!」
混乱する会場は、わたくしの算出された潜在魔力で持ちきりみたい。
伝説の女魔導士ブリュンヒルデって確か、わたくしのご先祖様だったかしら。
ふと、魔力数値の桁を数えるといち、じゅう、ひゃく、せん、まん……?
「……わたくしの魔力数値……高すぎっっ?」
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