28 / 43
第2章 二周目
第06話 結び目が見せる没落の夢
しおりを挟むゴルディアスの結び目の魔力に誘われて、ヒルデの魂はゆらゆらと遠い世界線へと舞い落ちた。
「う……ここは、どこですの?」
先ほどまで小学生だったはずのヒルデの魂は、再び十七歳の乙女に戻っていて。この魂が本来の自分自身のものであることに気づく。
教会の鐘の音が鳴り響き、ヒルデの目の前では結婚式が執り行われていた。そこで、ヒルデはあり得ない光景を目撃する。
「ヒルデ、フィヨルド、結婚おめでとう!」
そう……結婚式を挙げていたのは、他ならぬヒルデ自身であった。だが、魂のヒルデの存在には誰も気づかず、純白のウエディングドレスに身を包み、ブーケを投げるヒルデに注目が集まる。
だが、参列者にはジークの姿が見えない。それ以外は、特に変なところは見当たらなかった。
(これは、フィヨルドと結婚した場合の世界線ですのね。なんだ……滅亡だの没落だの騒がれていたルートの割に、順調そうじゃない)
想像よりも上手くいってそうなフィヨルドとの結婚の様子に、ヒルデは神殿がタイムリープをしてでもやり直しを強制したことに疑問を持った。
だが、その疑問はすぐにある答えとして、氷解する。
結婚式からしばらく時が経ち、ヒルデが出産したようだ。夫であるフィヨルドは、待望の我が子の誕生に喜んでいたが、次第にその表情は曇っていく。
「その、フィヨルドさん。大変申し上げにくいのですが……この赤ちゃんは、フィヨルドさんの子供ではない可能性が。けど、以前の婚約者が亡くなったことを知っていてご結婚されたのですから、そういう可能性も。あの、フィヨルドさん?」
出産に立ち会った医師や看護師の表情も次第に暗いものに変化していき、それは今後のルキアブルグ家の滅亡の未来を暗示しているようだった。
生まれてきた子供は、黒髪碧眼で英雄王の子孫ジークにそっくりだった。夫であるフィヨルドは金髪碧眼で、碧眼という点は共通している。けれど、黒髪の遺伝子を持つ者はフィヨルドの一族には見あたらず、ヒルデの一族にも黒髪はいないのである。
ヒルデとフィヨルドの遺伝子が合わさったとしても、生まれてこないはずの赤ん坊の誕生。そして、DNA鑑定による絶望的な数値、赤ん坊とフィヨルドが親子である可能性はゼロに等しく、フィヨルドは次第に心を病んでいった。
「愛する妻ヒルデは自分を裏切り、不貞を犯していた。彼女は自分を夫としながら、その裏では英雄王の末裔である勇者ジークに抱かれていたなんて。オレは、妻にも友人にも裏切られていたんだっ!」
「待ってよ、フィヨルド。あなたは私がジークの子を身篭っていてもいいから、結婚しようって。死んだジークの分まで面倒を見るって、言ってくれたじゃない。なんで、あれは嘘だったの?」
「煩いっ! そんな話、オレは知らないっ」
優しく明るかったはずのフィヨルドは、『裏切られた哀しみ』からついに自害をはかる。一命を取り留めたものの、他国の第4王子を謀った悪女として、ヒルデの立場は急激に悪くなっていく。
既に『この世にいなかったジーク』に助けてもらうことも出来ず、ヒルデの家は次第に没落していった。
* * *
「なっなんですの。このいかにもドロドロとしたストーリーは? わたくし、浮気なんかしませんわっ。しかもジークは、亡くなっているじゃありませんか」
『これは、君がジークと死別したのち、フィヨルドと付き合った場合の顛末なんだよ。既に同居をしていたジークの子を身篭っても、不思議ではないからね』
奇妙な話である。
後家や未亡人のような立場で結婚したのであれば、前の婚約者の子に驚いているフィヨルドの方が違和感を感じる。
「そんなっ。じゃあ、フィヨルドだってそういう可能性があったのは、分かっていたのに。お腹の赤ちゃんも一緒に引き取ったのではないの?」
『フィヨルドには、その流れに辿り着くまでの記憶がないのさ。彼は神殿のご神託が遺したジーク以外の救済手段。いざという時に使えるように、常に記憶は消去される。可哀想に……』
これは、ヒルデの人生が『絶望』となったルートなのだから、腑に落ちない終わりでも仕方がないのだろう。次に、ゆらゆらと揺れて誘われたのは、ジークが生存してそのまま婚姻を続けた場合のルートだった。
(ジークルートの場合は、一体どんな没落が待っているというの。というより、もしかしてわたくしって、どちらと結婚しても没落するわけ?)
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる