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第2章 二周目
第06話 結び目が見せる没落の夢
しおりを挟むゴルディアスの結び目の魔力に誘われて、ヒルデの魂はゆらゆらと遠い世界線へと舞い落ちた。
「う……ここは、どこですの?」
先ほどまで小学生だったはずのヒルデの魂は、再び十七歳の乙女に戻っていて。この魂が本来の自分自身のものであることに気づく。
教会の鐘の音が鳴り響き、ヒルデの目の前では結婚式が執り行われていた。そこで、ヒルデはあり得ない光景を目撃する。
「ヒルデ、フィヨルド、結婚おめでとう!」
そう……結婚式を挙げていたのは、他ならぬヒルデ自身であった。だが、魂のヒルデの存在には誰も気づかず、純白のウエディングドレスに身を包み、ブーケを投げるヒルデに注目が集まる。
だが、参列者にはジークの姿が見えない。それ以外は、特に変なところは見当たらなかった。
(これは、フィヨルドと結婚した場合の世界線ですのね。なんだ……滅亡だの没落だの騒がれていたルートの割に、順調そうじゃない)
想像よりも上手くいってそうなフィヨルドとの結婚の様子に、ヒルデは神殿がタイムリープをしてでもやり直しを強制したことに疑問を持った。
だが、その疑問はすぐにある答えとして、氷解する。
結婚式からしばらく時が経ち、ヒルデが出産したようだ。夫であるフィヨルドは、待望の我が子の誕生に喜んでいたが、次第にその表情は曇っていく。
「その、フィヨルドさん。大変申し上げにくいのですが……この赤ちゃんは、フィヨルドさんの子供ではない可能性が。けど、以前の婚約者が亡くなったことを知っていてご結婚されたのですから、そういう可能性も。あの、フィヨルドさん?」
出産に立ち会った医師や看護師の表情も次第に暗いものに変化していき、それは今後のルキアブルグ家の滅亡の未来を暗示しているようだった。
生まれてきた子供は、黒髪碧眼で英雄王の子孫ジークにそっくりだった。夫であるフィヨルドは金髪碧眼で、碧眼という点は共通している。けれど、黒髪の遺伝子を持つ者はフィヨルドの一族には見あたらず、ヒルデの一族にも黒髪はいないのである。
ヒルデとフィヨルドの遺伝子が合わさったとしても、生まれてこないはずの赤ん坊の誕生。そして、DNA鑑定による絶望的な数値、赤ん坊とフィヨルドが親子である可能性はゼロに等しく、フィヨルドは次第に心を病んでいった。
「愛する妻ヒルデは自分を裏切り、不貞を犯していた。彼女は自分を夫としながら、その裏では英雄王の末裔である勇者ジークに抱かれていたなんて。オレは、妻にも友人にも裏切られていたんだっ!」
「待ってよ、フィヨルド。あなたは私がジークの子を身篭っていてもいいから、結婚しようって。死んだジークの分まで面倒を見るって、言ってくれたじゃない。なんで、あれは嘘だったの?」
「煩いっ! そんな話、オレは知らないっ」
優しく明るかったはずのフィヨルドは、『裏切られた哀しみ』からついに自害をはかる。一命を取り留めたものの、他国の第4王子を謀った悪女として、ヒルデの立場は急激に悪くなっていく。
既に『この世にいなかったジーク』に助けてもらうことも出来ず、ヒルデの家は次第に没落していった。
* * *
「なっなんですの。このいかにもドロドロとしたストーリーは? わたくし、浮気なんかしませんわっ。しかもジークは、亡くなっているじゃありませんか」
『これは、君がジークと死別したのち、フィヨルドと付き合った場合の顛末なんだよ。既に同居をしていたジークの子を身篭っても、不思議ではないからね』
奇妙な話である。
後家や未亡人のような立場で結婚したのであれば、前の婚約者の子に驚いているフィヨルドの方が違和感を感じる。
「そんなっ。じゃあ、フィヨルドだってそういう可能性があったのは、分かっていたのに。お腹の赤ちゃんも一緒に引き取ったのではないの?」
『フィヨルドには、その流れに辿り着くまでの記憶がないのさ。彼は神殿のご神託が遺したジーク以外の救済手段。いざという時に使えるように、常に記憶は消去される。可哀想に……』
これは、ヒルデの人生が『絶望』となったルートなのだから、腑に落ちない終わりでも仕方がないのだろう。次に、ゆらゆらと揺れて誘われたのは、ジークが生存してそのまま婚姻を続けた場合のルートだった。
(ジークルートの場合は、一体どんな没落が待っているというの。というより、もしかしてわたくしって、どちらと結婚しても没落するわけ?)
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