Re:二周目の公爵令嬢〜王子様と勇者様、どちらが運命の相手ですの?〜

星井ゆの花(星里有乃)

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第2章 二周目

第10話 似てるヒロインと未来の日付

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「今日の委員会が終わったら、みんなでこの書物の内容を確認してみましょう」
「はいっ。楽しみにしてますっセンパイ」

 なかなか手に入らなかった『悪役令嬢の御伽の書』は、我が校の図書館倉庫焚書コーナーにあったという。不思議なことに焚書となる対象の書物は、何度お焚き上げしても再びどこかの本棚に陳列されているというのだ。
 カラクリは分からないが、わたくしがタイムリープしているくらいだし、きっと書物も何らかの形で同じ時の輪に舞い戻ってくるのだろう。

 無事に午後の授業が終わり、委員会の会合がある図書室へと向かう。図書委員会の仕事は本当に無難なものばかりで、図書カードをチェックしたり、未返却図書のリストを作ったり。主に、ここで働く図書司書さんのサポート係を務めるというもの。

「そろそろ図書室を閉めますので、委員会以外の生徒さんは帰宅の準備をしてください」

(他の生徒さんが、皆帰りますわね。あとは、終わりの作業の合間にあの本の内容をちょっと確認するだけ)

 窓辺から差し込む光がオレンジ色に染まり、夕陽が暮れ始めた頃。一般生徒は立ち入り禁止となっている焚書部屋に移動。わたくし、ルーナ、リゼット、マリカの4人で例の書物の内容を確認。

「いよいよですわね、その悪役令嬢とやらはそんなにわたくしに似ているのかしら?」
「似ているっていうか、プロフィールとかモロにヒルデ先輩と被るんですよ。名前とか……」

 普段はノリの軽い後輩リゼットが、なんだか申し上げにくそうに説明をする。百聞は一見にしかず、最初の数ページだけでも読んでみることに。


 書物の内容は、想像以上にわたくしと被り……というより、ほぼわたくしの物語だった。


 * * *


 この物語は、焚書扱いとなっている『美貌の悪役令嬢の悲劇』という書籍を抜粋したものである。


 美貌の公爵令嬢ヒルデには、幼い頃から決められた許嫁がいた。他国の王子である婚約者と仲睦まじく過ごしていたが、結婚前のある日……旧知の中である勇者ジークと過ちを犯してしまう。

 きっかけは、神殿主催のダンスパーティーで、パートナーとして選ばれたことから。次第に触れ合う機会が多くなったヒルデとジークは、お互いの気持ちを抑えきれなくなったのだ。

 ジークと愛し合ったのち。
 ベッドの中でヒルデは、婚約者を裏切ってしまった後悔の念から、ジークに心中を持ちかける。生娘でなくなったヒルデが、婚約者の王子と関係を持つことは出来ないからだ。

「あぁジーク、わたくしはあなたに純潔を捧げてしまいましたわ! けれど、あなたにもわたくしにも他に婚約者がいる。わたくし達は罪人なのです……お願いだから、一緒に死んでくださいな」
「すまない、ヒルデ。僕には、勇者としての務めがあり、今すぐ君と死ぬことは出来ない。昨夜のことはお互い【無かったこと】にしよう」

「えっ……?」

 護身用の短刀を手に、死を促していたヒルデだが、意外なジークのセリフに心も身体も硬直する。無かったことになんか、生娘のヒルデに出来るはずがないのに。
 にも関わらずジークは、勇者の任務とドラゴン退治を理由に、ヒルデとの心中をあっさりと断ったのだ。

 心が壊れてしまったヒルデは、ジークを恨むようになる。やがて闇魔法に手を染めて、ジーク暗殺を目論むようになるのであった。


 * * *


「なっ……なんですのっこのお話。悪いのは、いい加減なスケコマシ野郎のジークの方だし。俗に言う【やり逃げ】されただけ、じゃないですかっ。わたくしだったら、損害賠償請求して法的に闘いますわっ」
「おっ落ち着きたまえ、ヒルデ嬢。ふむ、ヒルデとジークという名の男女が織りなす愛憎劇は、昔から定番だ。正確には、ブリュンヒルデとジークフリートだが」

 このメンバーの中では博学タイプの軍師志望ルーナが、物語の一般性を語る。ブリュンヒルデとジークフリートといえば、神話の世界ではメジャーな存在だ。

「そっそれに、このお話のヒルデさんはジークさんに誘惑されて、騙された可哀想な女性です。心中やらなにやら、思い詰めても仕方がないのでは? お話の影響でいろいろ言われては、全国のヒルデさんが困りますよ」

 さらに、オタク少女のマリカが物語のヒルデをフォロー。

 神話や御伽噺にあやかって名付けをする親も多いし、ジークとヒルデなんて組み合わせはこの帝国中に何組もいるだろう。流石に、長い御伽の書を委員会後の図書室で延々と読むわけにもいかず、ヒルデは自宅でこの書物の続きを読むこととなった。

(ふんっ。みんなこの御伽噺を元ネタに、わたくしを悪役令嬢扱いしておりましたのね。全部このお話を読み切って、別のルートを歩んでやりますわ)

 ヒルデはこの書物が、御伽噺ではなく俗に言う【伝記】の扱いであることに気付いていなかった。

 そして、書物の発行日が……神聖ミカエル暦2100年という八十数年先の未来の日付であることも。
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