Re:二周目の公爵令嬢〜王子様と勇者様、どちらが運命の相手ですの?〜

星井ゆの花

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第2章 二周目

第14話 記憶を無くしても彼は彼

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 フィヨルドが修学旅行中に、雷に撃たれたことはかなりのビッグニュースになった。他国の王子様というだけでなく神童とされていたイケメンの悲劇の展開は、人々の関心を呼ぶ。神聖ミカエル帝国の各地で、号外が配られた。

『速報! フィヨルド王子、サキュバスに襲われそうになるが、雷魔法で撃退』
『悲劇の王子フィヨルド。愛し合うご令嬢と引き離されて、あわや命と貞操の危機』

 号外のチカラも手伝って、サキュバス一族が元老院の幹部一族になり代わり、フィヨルド王子の貞操と命を狙っていたことは、瞬く間に神聖ミカエル帝国中に知れ渡った。テレビのワイドショーもネタがないのか、連日フィヨルド絡みの情報やサキュバス関連の特集を組んでいる。

『いやぁ、大変なことになりましたねぇフィヨルド王子。さて、テレビを御覧のみなさんにもサキュバスの特徴について、ご説明しましょう』
『しかし、可哀想ですね。フィヨルド王子は……学生の淡い純愛をサキュバスなんかに邪魔されて』
『今時珍しい、純粋な若者なのでしょうフィヨルド王子という人は。しかし、噂では記憶喪失と囁かれておりますが……』

 フィヨルド王子は婚約者であるヒルデ・ルキアブルグ嬢の命を守るために、果敢に一人でサキュバスに立ち向かい雷魔法で倒したのだとされている。
 御伽噺の美少女ヒロインさながらに、自らの純潔を守り抜いたフィヨルド王子に称賛の声が上がった。だが、雷の魔法は本来的には禁呪であり、それはフィヨルド王子の記憶をも奪う恐ろしいものだった。


 * * *


 わたくしの婚約者であるフィヨルドが、怪我の後遺症により子供帰りをして数ヶ月が経った。ようやく他人と面会出来るようになり、あとは地道にリハビリを重ねていくだけだという。最初はわたくしのことを初対面だと思い込み、ヘラヘラと挨拶をしてきて軽くショックでしたわ。
 もう大好きな彼は、戻って来ないと思っていた。けれど……フィヨルドはフィヨルドだった。

「ヒルデお姉ちゃんって、美人で可愛いね! 将来は、オレのお嫁さんになってよっ」
「……あぁっフィヨルド! うん、分かったわ。わたくし、あなたのお嫁さんになるから、約束よ」
「ゆーびきーりげーんまーん!」

 現在のフィヨルドの精神年齢は、五歳ほどとのことですが。親しくなると、すぐにわたくしにプロポーズしてきて、思わず涙が止まらなかった。
 すっかり子供帰りしているフィヨルドには、以前のような端正さはないけれど、妙ないじらしさがある。

「……ヒルデ、邪魔しちゃ悪いし。僕、先に帰ろうか。フィヨルド君、また遊びに来るからね」

 様子の一部始終を見守っていたジークは、お見舞いの花束を花瓶に移し替えると、話すこともないのかすぐに帰ろうとする。

「えっ。ジークお兄ちゃん、帰っちゃうの? ちゃんと、ヒルデお姉ちゃんのボディガードしなきゃ駄目だよ。ヒルデお姉ちゃんは、オレの大切なお嫁さんなんだからっ」
「……フィヨルド君」

 すると、フィヨルドからはジークにわたくしを守るようにと、子どもらしくも男らしい指示が。思わず目頭が熱くなったジークは、ほどほどに話しを合わせて病室から出た。
 珍しく、溢れ落ちそうな涙をハンカチで抑えている。もしかすると、フィヨルドを助けられなかったことを、後悔しているのかも知れない。

「フィヨルド君、元気そうだったね。頭や心にはダメージがあるみたいだけど、以前と変わらず可愛い系のイケメンだった。それだけが救いかな? あの時、僕がもっと詳しい事情を聞いていれば、こんなことには」
「仕方ありませんわジーク。まさか、強制圧迫デートの相手が、男性の精気を吸いとって殺すサキュバスだったなんて。想像出来ませんもの。可哀想に、イケメンに生まれたばかりに狙われて……」

 頭には包帯、身体にも火傷の跡、けれど奇跡的に天使のような可愛らしい顔は守られていたフィヨルド。きっと神様が、彼の取り柄である可愛らしい顔を奪うことを躊躇ったのでしょう。

「……ヒルデ、残酷なことを言うようだけど。もしかすると神殿は、フィヨルド以外の男を結婚相手に勧めてくるかもしれないよ」
「誰が来ても、お断りしますわ。けど、婚約契約を提出する頃までに、フィヨルドの精神面が戻るかどうか……」
「一応、第二候補として僕がヒルデの婚約者に名乗り出ておこう。そうすれば、フィヨルド君の後遺症の様子を見ながら、将来のことを検討出来る。それに……僕はまだキミのことが好きだから」

 ジークはわたくしを家に送り届けると、言いたいことだけ告げてそのまま自家用車で去っていった。フィヨルドが入院している間に、ジークは十八歳になり運転免許を取得していたのだ。
 本来なら、フィヨルドも免許を取って、ドライブを楽しんでいたかも知れない。同世代の男性と差が開きつつあるフィヨルドに同情しながら、ジークの厚意にも感謝する。

(ジーク、ありがとう。でも治療を行えば、フィヨルドは次第に元に戻るというし。わたくしが、フィヨルドを支えよう。やっぱり、フィヨルドを捨てることなんて出来ないわ)

 一時は、フィヨルドが他の女とデートするなら命を絶って、消えてしまいたいと思っていたけれど。これからの人生は全て、フィヨルドに費やしていこうと考えるようになっていた。例え、フィヨルドと男女の肉体関係が持てないとしても、そういう愛の形もあるのだろうと。

 その時は、サキュバス事件やフィヨルドの雷の後遺症のインパクトが大きすぎて、わたくしはすっかり今のルートが『二周目』であることを失念していた。

 そして、解決のヒントであるゴルディアスの結び目の紋様が、フィヨルドの身体に火傷跡としてくっきり浮かんできていることも、想像出来なかったのである。
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