Re:二周目の公爵令嬢〜王子様と勇者様、どちらが運命の相手ですの?〜

星井ゆの花(星里有乃)

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第2章 二周目

第15話 奇跡の回復薬草を探しに

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 雷事件のあと順調に身体を回復していくフィヨルドだったが、精神年齢は相変わらず低いままだ。毎日リハビリに励み、歩行などは出来るようになってきたが、わたくしのことを天使のような笑顔で『お姉ちゃん』と呼ぶ姿は実年齢とは遠い。

「ヒルデお姉ちゃん! ジークお兄ちゃん、お見舞いに来てくれたんだね。うわぁ今日は、メロンだぁ」
「うふふっ。しかも、フィヨルドの大好きなミカエル農園のマスクメロンよ」
「ねぇ、早く食べよう!」

 お見舞いのメロンを見てはしゃぐ姿は、小学低学年くらいの少年なら微笑ましいだろう。しかし、十八歳のフィヨルドの外見では、精神年齢とのギャップが激しくわたくしの胸を痛めつける結果となった。

 そんなある日、わたくしは図書館の焚書コーナーで、呪いを解く禁断の薬草の記述を発見する。

(雷の呪いなどの禁呪により、ゴルディアスの結び目が刻印された者の回復方法。フィヨルドの記憶は、例のゴルディアスの結び目が縛っているのかしら?)

 錬金の焚書には、鈍い時の詳しい方法や薬草が咲くスポットが記されていた。この奇跡の回復薬草が手に入れば、フィヨルドを記憶喪失や呪いから解放できる可能性がある。

『雷雲の渓流に咲く黄色い花を錬金で煎じて飲めば、次第に呪いや記憶喪失から解放されるであろう』

 一縷の望みを掴んだわたくしは、早速手帳にメモをして、学園のギルドコーナーで雷雲の渓流採取クエストを受注出来るか確認する。

「雷雲の渓流採取クエストですか、ええと冒険者ランク中級から上級以上。初級者のヒルデさんが受注する場合には、剣士職上級ランクの付き添いが必要ですね」

 ギルドに入って間もなく、フィヨルドが入院したため、看病につきっきりだったわたくしは未だに初級ランクだった。魔法力のステータスそのものは、比較的高いわたくしだけど、冒険者としての経験は不足していると言える。

「えぇっ? わたくしじゃ初級ランクだから、他の冒険者の付き添いが必要なのね」
「それに、剣士職上級ランク以上の学生は我が校にはいませんし。雷雲の渓流は、ハイランクモンスターの生息地なので危険ですよ。そのクエストは他校のギルドに依頼してみては、如何でしょう?」

(フィヨルドのチカラになるって決めたのに。わたくしじゃ、彼を救うことは出来ないの? 剣技に長けている上級ランクの知り合いといえば……)

 真っ先に浮かんできたのは、幼馴染で英雄王の子孫である勇者ジークだった。忙しい合間を縫って、時折フィヨルドのお見舞いにも来てくれるし、知り合いの学生では最も強い人物である。
 だが、数年前にわたくしとフィヨルドに因縁をつけてきた回復魔法使いのプラムは、ジークのギルド仲間だ。今は話すら聞かなくなったし、プラムとジークが組んでいるかは不明だが。彼の学校の依頼して、果たしてクエストが上手くいくだろうか。

「ねぇ、他校生を一人ゲストとして迎えて、クエストを受注することは出来るかしら?」
「その方法でも大丈夫ですけど、最低でもあと3人は我が校の冒険者が必要ですね」
「そう。分かりましたわ」


 * * *


 わたくしは、愛するフィヨルドを救うために決意した。勇者ジークに助っ人を依頼して、フィヨルドを雷の呪いから救い、実年齢の精神状態に戻してあげたいと。
 かつてのわたくしだったら、ジークの取り巻きが嫌だとか、悪役令嬢と噂されるのが嫌だとか、そんなことばかり気にしていたが。フィヨルドを元通りに戻せるのであれば、どのような嫌な思いでも我慢しようと決めたのだ。

 ジークが通う高校はそれほど遠くはないが、やはり他校生が制服で敷地内を歩くと注目される。わたくしは好奇の視線を集めながらも、ジークが所属するギルドのクエストカウンターへ。

 すると、運悪くかつてわたくしに因縁をつけてきた『回復魔法使いプラム』の姿があった。

「あら、もしかして【うちのジーク】に用があってきたのかしら? 宜しければ、私が話を伺うわよ悪役令嬢さん」
「……! あなた、まだわたくしのことを一方的にライバル意識を燃やしていますのね。わたくしは、愛する人を救いたいだけなのに」

 わたくしの意思は無視されて、半ば連行されるようにギルドの談話室に連れて行かれる。幸か不幸かわたくしとプラム以外の学生の姿はなかった。

「ふぅん……フィヨルド王子って、本当にお身体が悪くなっちゃったんだ。カワイソー、悪役令嬢なんかと一緒にいるからそんなことに……」
「そ、それは……」
「アンタが変な御伽噺の悪役令嬢とそっくりだから、周りの人が不幸になるのよ。あーあフィヨルド王子じゃなくて、アンタが雷に撃たれてばよかったのに」

 バシンッ!

 言ってはいけない一言を発言したプラムの頬をぶったのは、プラムのチームリーダーである勇者ジークだった。

「プラム、キミってやつは。ヒルデがうちのギルドに来たって言うから、心配して来てみたら。ヒルデもフィヨルドも、僕の大事な友達なんだ」
「何よっ! 散々、私のSランク回復魔法に頼っておいてっ。この剣士学園において回復能力トップの私がいるから、ジークは勇者の称号が得られたんでしょう? こんな女の為に、その栄光が無くなってもいいのっ? 我がチームのギルド内での【人権】は、私のお陰なのよ。あなた本当は馬鹿なの?」

 プラムの言い分は、まるでジークのチームが成り立っているのは、プラムの回復魔法のおかげのような言い回し。

 わたくしは、攻撃タイプのギルドがどのように活動しているのか分からないけど。ハイレベルの回復魔法使いの中には、自惚れとプライドの高いものも多いと聞く。
 彼女のような特別な魔法力の持ち主を【人権】と、呼ぶ者すらいるらしい。プラムは、そのような【人権持ちを振りかざす回復魔法使い】の代表と言えるのだろう。

「馬鹿はキミの方だ、プラム! そもそも勇者とその仲間は、依頼者のために尽くさなくてはいけない……命懸けで。キミが【人権スキル持ち】と呼ばれようと、レアなSランクだろうと、冒険者失格だっ。今日をもって、キミは僕のチームメンバーから離脱してもらうっ」
「……ふんっ。私抜きで、果たしてクエストが成功するかしらね。サヨナラ、ジーク……きっとあなたは運命に負けて死ぬわ。御伽噺のように」

 捨て台詞を吐いて、プラムはすぐさまジークのチームどころか、所属ギルドからも離脱した。Sランク回復魔法使いは引く手数多だと言うし、余裕なのだろう。

 けれど、ギルドメンバーと仲違いしてもなお、わたくしに優しく微笑むジークは正真正銘の勇者様だった。

「気分を害してしまって、済まなかったヒルデ。僕で良かったら、チカラになるよ。いや、是非そうさせてくれ……フィヨルド君のためにも!」
「あぁ、ジーク。本当に、本当にありがとう」

 きっと、大丈夫……フィヨルドを元通りにしてみせる。わたくし達は必ず、奇跡の回復薬草を見つけ出す!
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