千夜の一夜な境界ランプ

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
3 / 52

第3夜 魔法言語インストール

しおりを挟む
 ――魔法の境界ランプ、不可能と言われた不老不死の錬金術を成功させたリー老師が製作した、老師の最高傑作である。

 持ち主は魔導の力を与えられ、異世界との境界線を越えることが出来るようになる。そして、そのランプの持ち主こそが、魔導世界を統べる玉座に座ることが許される……これは、リー老師がかの帝国の今は亡き魔導王に依頼されて後継者を探し出す為に作られた特別なランプだからである。

 だが、境界ランプはリー老師が製作したもの以外にも数種類存在する。リー老師の友人であり、ライバルであった錬金魔導師達が彼に対抗する為に、己の全魔力を投じて他のランプを製作し、玉座を統べるチカラを得ようとしたからである。

 玉座を統べる後継者が決まる前に魔導王は亡くなり、やがて帝国は幻のものとされ、いくつかの魔法の境界ランプだけが各地に取り残された。

 魔法の境界ランプ達は、魔力の高い主を求めてさまざまな国や人間を渡り歩いた。そして、そのランプを持つ魔力に耐えきれずに、持ち主は次々と命を奪われ、境界ランプはリー老師をはじめとする錬金魔導師達の手によって、永きに渡り封印された。

 しかし、2000年代に入り精霊王ジンから魔法世界変革の兆しを告げられ、新たな魔導王を探し出すように任務が課せられた。

 リー老師達錬金魔導師は、人間界にごく普通の人間の姿でしばらく生活し、人間達の中から魔導王に相応しい才覚のある若者を連れてくるように……そしてその若者達の才知、魔力を競わせ真の魔導王を育成するように任命したのである。

「と、まあそんなカンジで……ようは、魔導王になれそうな才能のある若者をスカウトしてテストしてみよう! って話だよ。ボクの作った境界ランプが元祖境界ランプなんだけど、ボクのライバル達もなかなかに優秀なヤツらばかりでね! チートっぽい能力のランプがウジャウジャあるわけよ。それを千夜君の好奇心パワーで、ズバんと無双して魔導王になってくれたら嬉しいなーなんてね!」

「リー老師……っていうか店長……」
 老師とは名ばかりの、見た目20代後半から30代前半に見えるイケメン店長は、オレに持ち主はみんな死んだという不吉極まりない魔法の境界ランプを押し付けて、しかも他のランプの持ち主相手に無双しろとか言ってきた。

「魔法のランプって、この世にひとつだけじゃなかったんですか?」
 リー店長はオレの素朴な疑問を華麗にスルーし、楽しそうに今後の計画を語り始めて、店の奥にある冷蔵庫からガサゴソと取り出した。
「……まあ、ひと休みしたら精霊王に挨拶に行かなきゃ行けないから千夜君、この飲み物飲んで! ボクの特製魔法言語スムージーだよ。飲み干した人間は、どんな国の言葉でも魔法言語でも使いこなせるようになっちゃうミラクルジュース。グイッとどうぞ!」

 にこやかな笑顔でオレに濃い紫色したドリンクを手渡す店長。
 ヒンヤリとしたドリンクはガラスのコップに入っていて、どこにでもあるブドウジュースか何かに見える。

「……飲んで平気なんですか?」

 オレが疑って躊躇していると、ミニドラゴンのルルが、
「ボクもこのジュースを飲んで人間語が話せるようになったのですキュ! 平気ですキュウ!」
 と、つぶらな瞳で羽をぱた付かせながら語るので、一応信用してみることにした。
 ちなみにオレが信用したのは店長の事ではなく、純粋そうなミニドラゴンの証言の方である。
 
 ゴクゴクゴク……甘酸っぱい、けれど爽やかな喉越しのスムージーは、紫色芋を混ぜたような不思議な味が広がって……。

「あれ、なんともないや……」

 ――そう思った瞬間、オレの頭の中にあらゆる言語、文字列、記号、文化の知識が一気にインストールされ、オレはそのあまりの膨大な情報量に意識がなくなり……。

 白昼夢か蜃気楼か、オレの意識に誰かの姿が見える。
「誰だ?」
 玉座を支配する謎の影……。

『――ココマデコイ、玉座ヲ手ニイレロ』

 オレの意識は、そこでプツリと切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...