千夜の一夜な境界ランプ

星井ゆの花

文字の大きさ
4 / 52

第4夜 おとぎ話と母の思い出

しおりを挟む
『ココマデコイ。玉座ヲ手ニ入レロ』

 オレの意識は不思議な声に導かれ、何処かの古びた宮殿の玉座に向かっていた。
 宮殿の中では秘密裏に儀式が行われていた。扉は閉ざされ、さらに内部は幕屋で守られている。精霊たちが見守る中、かの帝国の魔導王は世界の全てを統べるため……その後継者を並ばせていた。

 真紅の絨毯に金糸で描かれた魔法陣、数人の若い選ばれた後継者候補たちが輪を作り、呪文を唱えている。幾つかの魔法のランプ、魔法文字の刻まれた指輪、聖杯に命の水を注ぎ永遠の時間を飲み干す。
 しかし、儀式に加わっていた1人の魔導師が王を裏切り破滅の呪文を唱えた。
 魔導王は自分の命と引きかえに裏切り者の魔導師を封印し、魔法のランプは永い永い眠りについていた。

 ――新しい持ち主が現れるまで……。

「ううん……」
 オレは少しずつ意識を取り戻していった。誰かがオレを膝枕してくれているようだ。懐かしい……オレが小さい頃、母さんが膝枕をしてよくおとぎ話を読んでくれたっけ。オレが自分で本を読めるようになると、次第に膝枕をしてもらうこともなくなり……代わりにオレは自分で考えたおとぎ話を母さんにきいてもらうようになったんだ。

「いつか、母さんに僕が作ったおとぎ話の続きをきかせてあげるね!」
「ふふっ、私、千夜の作ったおとぎ話大好きよ。楽しみにしてるわ」

 ――小さい頃の遠い約束。
 母さんはオレが10歳の時に亡くなり、永遠に叶わない《おとぎ話の続きを語る約束》は、オレの心の奥にある夢の向こう側へと追いやられた。

「千夜さん……気づきましたか?」
「キュー。マスター千夜気づいて良かったですキュ!」

 柔らかな温もりの正体……膝枕をしてくれていたのは精霊セラだ。傍では、ミニドラゴンのルルが澄んだ瞳でオレの顔を覗み、一瞬で現実に引き戻される。
「もう大丈夫だよ。ありがとう、セラ、ルル」

 オレは起き上がって部屋を見渡しふと異変に気付く、オレが休んでいた部屋はランプ店の休憩ルームだが、室内に貼られている異国の言葉のポスターが……正確には、その《異国の言葉》が何故か全て読めるのだ。
「あれっ、もしかして……」
「如何されました? 千夜さん」
「キュウ?」

 試しに部屋の棚に置いてある多国語の書物をパラパラとめくると、まるで自分の頭の中に翻訳機か何かがインストールされたかのように、スラスラと言葉が理解出来るのであった。
「読める……頭に自然と言葉が浮かんで……まるで魔法のような……」

 オレの様子を見て得意げに、
「ソロモン王は魔法の指輪のチカラにより、多国語を操り、動物や精霊語をも理解し、魔導のすべてを手に入れたと言われている。残念ながらソロモン王の指輪を手に入れることが出来なかったんでね、精霊王に挨拶に行く前にキミにソロモン王並みの言語理解能力を与えたのさ……この僕の魔法のスムージーでね!」
 と、説明し始めたのは不老不死の錬金魔導師リー店長だ。

「店長! 確かに効果は凄かったですけど……オレ意識なくしたんですよ! そういう飲み物なら前もって言ってください!」
 リー店長はルルをちょこんと肩に乗せて、
「いやあルルが飲んでも大丈夫だったからねえ。ルルはキミの十分の1しか飲んでないけど……」
「十分の1……それだけでルルは人間語を話すドラゴンになったのか……」

「さあ、もうすぐ日が暮れる、精霊王の晩餐会まであと僅か……支度をしたら全員で精霊王の宮殿までひとっ飛びするからね!」
 店長は、何処から出したのか、赤い石のついた細い杖をひと振り……するとオレたちはそれぞれパーティー用の正装に変身していた。

「えっ服が?」
 セラは普段の踊り子風衣装ではなく、白い清楚なチャイナドレス……スリットから美脚が覗きセクシーだ。
 ルルも首飾りに小さい青いリボンをつけている。
 店長は……悔しいけれどタキシードが恐ろしいほど似合っている。モデル顔負けのスタイルだ。

「みんなは正装がよく似合ってるよね……オレにこの借りてきたようなタキシードが似合うのか似合わないのか分からないけど……」
「千夜さん、素敵ですよ」
 とセラがお世辞でも言ってくれたので、まあいいか。

「でも、精霊王の宮殿って近いんですか? 」
「そのランプの名前忘れたの? 《境界ランプ》だよ。そのランプさえあれば、何処にでも瞬時に移動できるのさ。精霊王の宮殿に行きたいってランプに告げてごらん」

 「行きたいところに何処へでも行く事が出来る?」
 オレは手にした黄金のランプを見据えてひと呼吸してから、ランプに思い切って命じた。
「ここにいる全員を……精霊王の宮殿へ!」

 ランプに行き先を告げるとキラリとした輝きとともに魔法のチカラが発動し、ランプからは黙々とした紫色の煙が立ち込めて……。

 ――オレたちは見知らぬ宮殿の入り口に一瞬でワープしたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...