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第5夜 精霊王のパーティー
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精霊王のパーティーには、すでに招かれた境界ランプの持ち主たちが数人集まっていた。立食形式のようで料理人達が各国の料理を運んで準備している。
精霊王の到着まであと少し……。皆、他の境界ランプの持ち主のことが気になるのか、お互いを意識するような雰囲気が漂う。
――その中に、ひときわ目立つ美少女がいた。
紫色の羽の生えた猫を肩に乗せた少女、金髪をポニーテールに結び、グリーンの大きな美しい瞳をしている。肌色は白く、まるで生きた西洋人形のようだ。彼女の可愛らしさを一層引き立てるのは、胸に大きなリボンのついた可愛らしい淡いピンク色のパーティードレス。だが、せっかくドレスを着ているのに猫の爪でダメにならないのだろうか……。
オレも含めて皆使い魔を肩に乗せているので、これはそういう決まりか何かがあるのだろうと考えることにした。
「あら、あなた私のことをジロジロ見て……ここはナンパの場所じゃなくってよ! 」
鈴を転がしたような甘い声色、少し背伸びをしているのか口調はやや大人っぽい。西洋人形のような少女は、どうやら勝気な性格の様子。成長期特有の膨らみ始めた胸をグイッと張って、威嚇するような態度でオレに対峙するものの、愛らしい容姿が強調されるだけでオレは思わず苦笑いをした。
そういえば、少女は外国語を話しているが頭の中でスラスラ翻訳されるので、この多国籍なパーティーでも会話くらいはできるだろう。
「はは……別にナンパのつもりで見ていたわけじゃないけど……」
「そうですの⁈」
「ゴメン……その猫のことが気になって。オレは響木千夜(ひびきせんや)、日本人、キミは?」
オレは失礼のないように自分から自己紹介したが、少女は慌ててオレを人気のないテラスに引っ張り耳打ちした。
「あなた……ここは魔導師の集まる晩餐会ですのよ! 魔導師の世界で名前を名乗るというのは、魔導のチカラを見せる宣言をするようなもの……まさかさっきのお名前、真名(しんめい)じゃないでしょうね?」
「魔導のチカラ? 真名? えっと、なんのこと?」
少女はいわゆるジト目でオレの目を見つめ直し、ため息をついた後、
「……あなた、まだ魔導師名持っていないんですの?」
と、俺の耳に清楚な唇を寄せて小声で尋ねてきた。
いわゆる内緒話をする時のような耳打ち状態だが、密着した少女から年相応のシャボンの香りがしてきて、思わず緊張でクラクラしてしまう。
「う、うん。考古学者を目指していたから……」
ドギマギしている胸の動悸を隠すように、目線をずらして答えるオレを、ただ単に魔導歴の浅さを恥じていると誤解したようだ。
「はあ、呆れた……かの有名なリー老師が連れてきた人だから、もっと魔導に長けているのかと思ったのに……私の名前はシャルロット……魔導名は秘密ですが正当な魔導師貴族の出身ですの。でも、この猫のことが気になるのはお目が高いですわ。この子は魔法猫の血統証付き……名をアイリーンちゃんですわ。品の良さが一般人から見てもにじみ出ていますのね」
魔法猫アイリーンは自慢げに「ニャア」と鳴いた。
猫語は分からないが、何となく挨拶をされた気がする。
「へえ、シャルロットとアイリーンか……宜しく」
モフモフとした紫色の毛並みは抱き心地が良さそうだが……この猫、魔法界の血統証付きだったのか? 適当に猫が気になると言っただけなのに、そんなレアな猫だったとは……。
「キュウ! ボクはミニドラゴンのルル、よろしくキュウ!」
ルルも魔法猫アイリーンに挨拶するが、ルルをチラリと見て、ツーンとした態度を取った。
「キュ、キュウー! ツン、とされたキュウ‼」
「さすが高級な魔法猫、つれないなぁ……ルル、ちょっと可哀相だけど気にするなよ、レディとはいきなり仲良くなれないんだよ」
「キュウウー」
「この子、そう簡単には相手に心を開きませんの……それに私達一応ライバルですもの。千夜さんっておいくつですの?」
「オレ? 16だけど……」
「私は今14歳ですわ。私が最年少かしら? 他のライバル達は皆大人に見えますわ。私の従兄弟も来ているけど、彼はもうハタチ過ぎているし……」
「ライバル……魔導王の玉座を狙うライバルか……」
確かに筋肉ムキムキのマッチョな魔導師ファッションの男性や、もう高齢であろう品の良いお爺さんなど思ったより年齢層が高い。
「でも、リー老師は若者を集めてるって言ってたしなぁ」
「そうですわね……新しい魔導王候補は、皆若者だと私も従兄弟も聞かされていますわ。どういうことかしら?」
オレとシャルロットがテラスで雑談していると、精霊の大御所に挨拶に行くと言ってどこかに消えていた精霊セラが戻ってきた。セラのチャイナドレスから覗く美脚に気がいくものの、令嬢シャルロットの視線を意識して、あまりジロジロ見ないように心がける。
「……千夜さん、なんだか楽しそうにご令嬢とお話しされているようですが、このお方もライバルだということをお忘れないように!」
セラは何故かちょっと怒っているようだ。
「おやおや、お嬢さん彼氏を取られてご機嫌斜めかな?」
精霊セラに品の良いお爺さんが話しかけてきた。魔導師だろうか?
「わ、私と千夜さんは恋人とかそういう関係では……」
「ほほう、じゃあこの千夜君という若者が他のお嬢さんとお話していても、嫉妬してはいけませんなぁ。精霊に私情は禁物、ランプの主人に命を捧げるのであれば嫉妬心は無くさないと使命は果たせない……どんなに千夜君に恋焦がれても……覚えていてくだされ、精霊セラ。君に《輪廻の魂》を捧げる覚悟があれば話は別ですがね」
どうやらこの老紳士は、セラがランプの精霊だということを、ひと目で見抜いたようだ。
「輪廻の魂……はい……あの、あなたは一体……」
すると、品の良い魔導師風の老人はオレを見てニッコリ微笑んだ。
「初代境界ランプの持ち主の千夜君、伝統ある魔導師貴族の令嬢シャルロット……君達のような新たなランプの持ち主達全員の活躍を期待しているよ」
老人は、宙に浮き会場の中心に移動した。手にしていたランプの煙に包まれ……30代くらいの姿に身を変えた。用意されていた壇上に降り立つ。男は長い杖をドンっと響かせ叫んだ。
「ようこそ! 精霊王のパーティーへ! 私は精霊王ガイアス、今宵は楽しみましょう!」
会場がザワついている。
「精霊王ジンは何処に?」と言った声がチラホラと聞こえる。
確かにオレ達を招いた精霊王の名前はジンだった気がするけど、今目の前にいる精霊王の名はガイアス……何か事情があるのだろうか?
多少の疑問を抱えたまま、主賓を迎えて宴が本格的に始まった。
精霊王の到着まであと少し……。皆、他の境界ランプの持ち主のことが気になるのか、お互いを意識するような雰囲気が漂う。
――その中に、ひときわ目立つ美少女がいた。
紫色の羽の生えた猫を肩に乗せた少女、金髪をポニーテールに結び、グリーンの大きな美しい瞳をしている。肌色は白く、まるで生きた西洋人形のようだ。彼女の可愛らしさを一層引き立てるのは、胸に大きなリボンのついた可愛らしい淡いピンク色のパーティードレス。だが、せっかくドレスを着ているのに猫の爪でダメにならないのだろうか……。
オレも含めて皆使い魔を肩に乗せているので、これはそういう決まりか何かがあるのだろうと考えることにした。
「あら、あなた私のことをジロジロ見て……ここはナンパの場所じゃなくってよ! 」
鈴を転がしたような甘い声色、少し背伸びをしているのか口調はやや大人っぽい。西洋人形のような少女は、どうやら勝気な性格の様子。成長期特有の膨らみ始めた胸をグイッと張って、威嚇するような態度でオレに対峙するものの、愛らしい容姿が強調されるだけでオレは思わず苦笑いをした。
そういえば、少女は外国語を話しているが頭の中でスラスラ翻訳されるので、この多国籍なパーティーでも会話くらいはできるだろう。
「はは……別にナンパのつもりで見ていたわけじゃないけど……」
「そうですの⁈」
「ゴメン……その猫のことが気になって。オレは響木千夜(ひびきせんや)、日本人、キミは?」
オレは失礼のないように自分から自己紹介したが、少女は慌ててオレを人気のないテラスに引っ張り耳打ちした。
「あなた……ここは魔導師の集まる晩餐会ですのよ! 魔導師の世界で名前を名乗るというのは、魔導のチカラを見せる宣言をするようなもの……まさかさっきのお名前、真名(しんめい)じゃないでしょうね?」
「魔導のチカラ? 真名? えっと、なんのこと?」
少女はいわゆるジト目でオレの目を見つめ直し、ため息をついた後、
「……あなた、まだ魔導師名持っていないんですの?」
と、俺の耳に清楚な唇を寄せて小声で尋ねてきた。
いわゆる内緒話をする時のような耳打ち状態だが、密着した少女から年相応のシャボンの香りがしてきて、思わず緊張でクラクラしてしまう。
「う、うん。考古学者を目指していたから……」
ドギマギしている胸の動悸を隠すように、目線をずらして答えるオレを、ただ単に魔導歴の浅さを恥じていると誤解したようだ。
「はあ、呆れた……かの有名なリー老師が連れてきた人だから、もっと魔導に長けているのかと思ったのに……私の名前はシャルロット……魔導名は秘密ですが正当な魔導師貴族の出身ですの。でも、この猫のことが気になるのはお目が高いですわ。この子は魔法猫の血統証付き……名をアイリーンちゃんですわ。品の良さが一般人から見てもにじみ出ていますのね」
魔法猫アイリーンは自慢げに「ニャア」と鳴いた。
猫語は分からないが、何となく挨拶をされた気がする。
「へえ、シャルロットとアイリーンか……宜しく」
モフモフとした紫色の毛並みは抱き心地が良さそうだが……この猫、魔法界の血統証付きだったのか? 適当に猫が気になると言っただけなのに、そんなレアな猫だったとは……。
「キュウ! ボクはミニドラゴンのルル、よろしくキュウ!」
ルルも魔法猫アイリーンに挨拶するが、ルルをチラリと見て、ツーンとした態度を取った。
「キュ、キュウー! ツン、とされたキュウ‼」
「さすが高級な魔法猫、つれないなぁ……ルル、ちょっと可哀相だけど気にするなよ、レディとはいきなり仲良くなれないんだよ」
「キュウウー」
「この子、そう簡単には相手に心を開きませんの……それに私達一応ライバルですもの。千夜さんっておいくつですの?」
「オレ? 16だけど……」
「私は今14歳ですわ。私が最年少かしら? 他のライバル達は皆大人に見えますわ。私の従兄弟も来ているけど、彼はもうハタチ過ぎているし……」
「ライバル……魔導王の玉座を狙うライバルか……」
確かに筋肉ムキムキのマッチョな魔導師ファッションの男性や、もう高齢であろう品の良いお爺さんなど思ったより年齢層が高い。
「でも、リー老師は若者を集めてるって言ってたしなぁ」
「そうですわね……新しい魔導王候補は、皆若者だと私も従兄弟も聞かされていますわ。どういうことかしら?」
オレとシャルロットがテラスで雑談していると、精霊の大御所に挨拶に行くと言ってどこかに消えていた精霊セラが戻ってきた。セラのチャイナドレスから覗く美脚に気がいくものの、令嬢シャルロットの視線を意識して、あまりジロジロ見ないように心がける。
「……千夜さん、なんだか楽しそうにご令嬢とお話しされているようですが、このお方もライバルだということをお忘れないように!」
セラは何故かちょっと怒っているようだ。
「おやおや、お嬢さん彼氏を取られてご機嫌斜めかな?」
精霊セラに品の良いお爺さんが話しかけてきた。魔導師だろうか?
「わ、私と千夜さんは恋人とかそういう関係では……」
「ほほう、じゃあこの千夜君という若者が他のお嬢さんとお話していても、嫉妬してはいけませんなぁ。精霊に私情は禁物、ランプの主人に命を捧げるのであれば嫉妬心は無くさないと使命は果たせない……どんなに千夜君に恋焦がれても……覚えていてくだされ、精霊セラ。君に《輪廻の魂》を捧げる覚悟があれば話は別ですがね」
どうやらこの老紳士は、セラがランプの精霊だということを、ひと目で見抜いたようだ。
「輪廻の魂……はい……あの、あなたは一体……」
すると、品の良い魔導師風の老人はオレを見てニッコリ微笑んだ。
「初代境界ランプの持ち主の千夜君、伝統ある魔導師貴族の令嬢シャルロット……君達のような新たなランプの持ち主達全員の活躍を期待しているよ」
老人は、宙に浮き会場の中心に移動した。手にしていたランプの煙に包まれ……30代くらいの姿に身を変えた。用意されていた壇上に降り立つ。男は長い杖をドンっと響かせ叫んだ。
「ようこそ! 精霊王のパーティーへ! 私は精霊王ガイアス、今宵は楽しみましょう!」
会場がザワついている。
「精霊王ジンは何処に?」と言った声がチラホラと聞こえる。
確かにオレ達を招いた精霊王の名前はジンだった気がするけど、今目の前にいる精霊王の名はガイアス……何か事情があるのだろうか?
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