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正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜
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しおりを挟む意外なことに、アッシュ王子が生まれた時に彼の命運についてご神託を下したのは、アメリアとギルドでパートナーを組む精霊ラルドだった。ラルドの予言が的中していれば、アッシュ王子は成人年齢になるまで王子であることを公表せずに双子の姉と離れて、民間人として生きていれば助かることになっている。
精霊国家アスガイアの次期王妃候補として、アメリアがペルキセウス国の主要メンバーと対面した際にアッシュ王子は居なかった。表向きペルキセウス国は、アッシュ王子の双子の片割れであるラクシュ姫を次代女王として就任させる予定だったのだろう。
(ラクシュ姫か……確か、トーラス王太子にやたら懐いていて、私のことは心よく思っていないはずよね。ううん、今はアッシュ王子を助けることに集中しなくちゃ)
よくよく考えてみれば、アッシュ王子はラクシュ姫と何処となく似ていることに気づき、黒髪青目の我儘美少女姫ラクシュの姿や声がチラつき出してしまう。
『トーラス王太子、なんて美しく賢く、麗しいお方なのかしら! あぁんっ。どうしてトーラス様のお相手がこのラクシュじゃないのっ!』
可愛らしくも甲高い声でトーラス王太子に纏わりつくラクシュ姫の態度に、懇親会に同席していたアメリアは肩身が狭かった記憶がある。
『あはは……オレもラクシュ姫みたいな可愛い子に懐かれて王子冥利に尽きるよ。まだまだキミは14歳、もしかしたら他に素敵な人が出来るかも知れないけど。将来お互い相手がいなかったら、オレのことも婿候補の数に入れてくれたまえ』
『えぇえっ! 本当にいいのっ? トーラス様ぁ。神殿の巫女と婚約しなきゃいけないんじゃないの』
『キミのペルキセウス国も聖女の血脈を継いでいるからねぇ。それにアメリアは今のところ恋人というより、占術や魔法の師を同じくする友人だし。要は聖女を娶るようにと神殿の神から予言されているだけで、相手はアメリアでもレティアでもどちらでも良いのさ。もちろん……ラクシュ姫でも……ね』
トーラス王太子は生来の女好きなのか、まだ当時14歳の少女だったラクシュ姫に対し満更でも無さそうな態度で接すると……。ラクシュ姫のご機嫌が、みるみるうちに良くなったことがアメリアの印象に残っていた。
『あーん! ラクシュ期待しちゃうっ! ナンバーワンイケメン王太子トーラス様のお嫁さんになれるように、たくさん古代神殿の神に祈願しちゃうからぁっ』
隣国とうまく行くためとはいえ、お姫様を妙なところで本気にさせてどうするのだろうと、当時アメリアは胃に穴が空きそうな思いだったが。
ペルキセウス国としては、ラクシュ姫の婚姻は同じ大陸内の王族の誰かに的を絞っていたらしい。
ラクシュ姫自身は『早く神殿の巫女姉妹と婚約破棄して!』と、トーラス王太子にラブコールとたくさんの贈り物をしていたようだった。周囲の人々からすると、現役王子ナンバーワンのモテ男トーラス王太子の例え話は、ラクシュ姫へのリップサービス程度にしか受け止められなかったようだ。
そのようなエピソードが延々と甦り、どうしてもラクシュ姫とアッシュ王子が重なって見えてしまい、集中力が途切れてしまう。
(駄目よ、アメリア。ラクシュ姫とアッシュ王子は双子だけどきっと人格は違うはずだわ。それに当時はもっと子供だったから、今ではだいぶ性格も変わっているかも。私と異母妹レティアが別人なように血縁だからと言って、イメージを被せちゃダメ! そうだ、何かマジックアイテムで魔力を上げて……)
心にかけられた呪いを解くためには、導きの魔法を使い相手の心に入って原因を探らなくてはいけない。マジックアイテムとして普段は失せ物探しなどの占いに使うペンデュラムを使用することにした。
おそらく、アッシュ王子に回復魔法が効かないのは王子自身にも心の奥底に抵抗があり、自らの回復を望んでいないのだとアメリアは推測する。彼はこのまま王にならず消えたいのか……アッシュ王子の本音を失せ物探しのように、探さなくてはならない。
「では、これから呪いを解くためにアッシュ王子の心の中に入ります。ポックル君、精霊の守りでサポートをお願い出来るかしら?」
「クルックー。お任せください、アメリア様。外部から干渉されないように、結界を張るくらいはこの精霊鳩にも出来ますぞ」
「任せたわよ。ポックル君……」
ペンデュラムの振り子が眠るアッシュ王子の上で、ゆらゆらと揺れる。やがて、アメリアも振り子の揺らぎに導かれて、アッシュ王子の心の中へと誘われていった。
* * *
アッシュ王子の心の深層の中は、古い御伽噺のペルキセウス村のようだった。魔法の箱を作る錬金術が盛んだった頃の、漁村と貿易でなんとかやっていた頃の古い古い風景だ。
「アッシュ王子は、どこかしら? ご先祖様の村にいるってことは、魂はまだ現世に留まっているのよね」
「ふむ、しかしながらアメリア様。先祖がいた時代に心の深層が落ちついているということは、このままあの世への船に乗ってしまう可能性もあります。急がなくては……」
「船……ということは、船着場に行けば彼があの世へ行くのを阻止出来るわよね。あれは……」
船着場の方へと足を進めると、黒髪青目の若者がキョロキョロと辺りを見回して落ち着かない様子でいた。
サラサラした前髪と後ろで結いた髪型は、横たわっていたアッシュ王子と同じである。アメリアがアッシュ王子の元に着いた時には、既に彼は目を瞑ってついたため、顔立ち自体はわからなかったのだ。
華奢な身体に吊り目がちの瞳が特徴の少年っぽさを残した風貌で、周辺を威嚇し警戒するような態度にも見える。黒い髪も相まって、その様子は気の強い黒猫のような印象を与えた。
ポックル君の悪い推理が的中しているのか、アッシュ王子らしき若者の手には船の乗船チケットが握られていた。
「このチケットに乗れば、オレは目的の場所に?」
「えぇ。もう心残りはないのですか」
「結局、オレは駄目だった。精霊や王族の血を引いているはずなのに、剣聖にも王にもなれやしない。だからオレなんか、居なくたって別に……」
(これは、まずいわ。早くしないと彼、あの世に行っちゃう……!)
「その乗船、ちょっと待って! 行っちゃダメよ」
「……貴女は、一体?」
船員に乗船チケットを渡そうとするところで、アメリアがアッシュ王子を呼び止める。そしてそれは皮肉なことに、精霊ラルドの予言はラルド自身も予想しない形で的中し始めていることを意味していた。
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