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佐治の伜か
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うぅ……寒い。息をすると身体の中が冷えるようだ。
起きるのを躊躇っているとゴソゴソと何かが布団に入ってくる。
「父上の布団はあっかい……」
「おはよう、起きないのか?」
「まだ父上の中にいたい」
「そうか……ならウメが起こしに来るまでこうしてるか?」
「うん」
抱き寄せると嬉しそうな幸太郎の笑顔に癒やされる。
「あのね?父上、私は今縄の編み方を板垣に教わっていますが……難しいですね」
手を擦り合わせてやって見せているがあれはまあ慣れだな。私も弦之助もこの頃はしていなくてせざるを得なくなった頃始めたのだが。う~ん……私は不器用でかなり苦戦した。縄編もだが草履なども……なあ。
これに関しては弦之助は器用だった。教わる端から大人顔負けにやってみせた。顔には出さなかったが悔しい気持ちでむきになってやったが弦之助は先に進んでしまい……嫌な事を思い出した。
「父上?いかがなされた?」
「ふふっ何でもない。頑張りなさい」
「はい!」
その時ガバっと布団を剥がされた。
「起きてくださいませ!!」
「寒いよウメ!!」
「寒いじゃありません!!もう朝餉の時間ですよ!幸三郎様も甘やかすんじゃありません!!」
起き上がりながら、
「済まぬ。だが冬くらいだろう?こうやって我が子と遊べるのは。のう?」
「そうですね。ですが!生活を乱すのは違います。きちんと朝起きて飯を食べ雪掻きして縄編んで………」
手を振りウメを遮った。
「悪かった!私が悪い!起きるからその辺にしてくれ!幸太郎も起きるぞ!」
「もう……ウメは意地悪だ。私は父上と楽しんでたのに……」
はあ?とウメは私に抱きついて文句を垂れている幸太郎の襟首を掴み立たせた。
「ほほう?ウメは何か間違ってますか?言うてみて下さいませ?ほら!」
ウメは幸太郎の顔に近づき威嚇した。……うん威嚇だよこれは。
「うぅ……ごめんなさい。ご飯食べますから……」
「ふふん!分かればよろしい。では顔をまず洗いましょうかね」
「うん……」
キッと私も睨まれたが分かったと言うと幸太郎の手を引き部屋を出て行った。うん……懐かしい起こされ方をしたがなくていいな。立膝をして立ち上がり私も顔を洗いに部屋を出た。
朝餉の後座敷の掘りごたつに入りお茶を飲む。咲も子供たちも一緒だ。
「大分積もりましたね」
「ああ。夏暑かったからこの冬は大雪かもな」
「皆雪下ろしが大変になりますね」
「そうだなぁ……毎年の事だが骨が折れるな」
縁側から少し戸を開けて外を眺める咲は憂鬱そうにしていた。しとみ板が嵌められている縁側からはあまり外は見えない。ある程度の雪を想定して上が二尺くらいしか開いてはいないからな。
「寒いから閉めてくれ」
「はい」
戸を閉めると咲はこたつに入りお茶を飲む。冬くらいだな朝ゆっくり出来るのは。股の間に幸太郎を入れて穏やかな時間を過ごしていた。
不意に襖が開いてそちらを見るとウメ。
「弦之助様がいらっしゃいました。こちらに?」
ふむ。
「座敷に通してくれ。火鉢もな」
「畏まりました」
見上げる幸太郎に、
「済まぬな」
「お仕事ですか?」
「多分な」
「なら仕方ありません」
私の股から出て咲の元へ行き弟を撫でている。
「咲……」
「はい。気になさらず」
立ち上がり客間に急いだ。中に入ると既にウメが茶を出していた。
「兄上突然申し訳ありません。お忙しい所を急ぎ確認したい事がごさいまして」
「別に其方なら忙しくてもなんとでもするからいつでも来ればいい」
兄弟の仲ではないか、遠慮はいらぬとそんな話をしながら用向きを聞いた。
「はい。では正月の不動尊の事ですが……」
言い淀んでいるな?何か佐治にあったのだろか。私は何も聞いてはおらぬが。
「佐治に何か?」
「あの……先日雪掻き中に腰を痛めてしまいその後の予後が思わしくなく音頭が取れそうもないと私の所に先程倅の光之介が来ました」
はあ……佐治は自分の歳を分かっているのか?全く。
「佐治の加減はどうなのだ?」
「ゆっくりは治って行っているようですが寒い中の指示は出来ないと言われましてね。冷えて痛いそうです」
「どうせ倅の目を盗んで雪掻きしてしくじったのだろうよ」
「その通りにございます……佐治ももう少し身体を気にして欲しいもんです」
佐治……本名は山本佐之介、父の腹心だ。我らのためにここに残った父代わりの一人だ。どうにも板垣、盛山と違い我らの言うことを聞いてはくれぬ厄介な爺なのだ。
一見優しげで物分りが良いように見えるが全くこちらの意見は聞いてはくれぬ……必ず違う意見を出してそれを押し通す参謀が身についている家臣だ。
二人でため息を付きながら茶を飲み私は火鉢を突いた。
「どうするかな……我らでやるか?」
「それなんですが伜がやると申しております」
え?光之介が?あの無口な男が?
「まことか?あれは……人と話すのが苦手で我らとは気安く話すが他は居るのか居ないのかわからんくらい存在感のない男だぞ……え?」
「兄上……ボロくそですね。もう少し言葉を飾って下さいよ」
ふんっと鼻を鳴らし、
「其方と二人で飾る必要もあるまい」
「確かに、あはは。本人はこれも自分には好機かもと奮い立っております。任せてみるのも私はいいかと考えております」
「まあ佐治が教えながらやるだろうから……其方が出来ると言うならば私は良いが」
ふふっと微笑み弦之助は茶をすすった。
「上手く出来ないと分かれば我らが手を貸せば済みますよ」
「ああ、そうだな。手順などは引き継いでいるのか?」
「ええそれは夏の神主の手配もあれがやっていますから。佐治の手足となって動いてましたからそこは心配いりません」
ならば任せてもしくじる事もあるまい。正月は神主の手配は要らないし村だけの物だからな。村の道に灯りを灯す事、除夜の鐘を鳴らす事、酒を振る舞う事……それは私の役目だな。最大は雪道の整備だな。男衆に頼まねばならぬがそこが一番苦労するか。
「まあ男衆の音頭を取れればなんとかなるさ」
「ですね。では光之介に頼むと言う事で宜しいか?」
「構わぬ」
では私はここで失礼をと帰ろうした。来たばかりなのに急ぎの事でもあるのかと訪ねた。
「いえ特別には。兄上も家族と団らんを楽しんでおられたのでしょう?邪魔しましたので帰りますよ」
「そんな事気にせずとも」
「私も時や子と一緒にいたいのです。兄上ともですが家族ともね」
ふふっそうだな、今年は暇が全く無かったからな。
「ならば良い。気をつけてな」
「はい。また遊びに参ります。兄上と話すのは楽しゅうございますから」
「ああ、私もだ」
サッと立ち上がると盛山!と声を掛け藁ぐつを履き帰って行った。
改めて考えてみると弦之助は落ち着いた雰囲気が出てきたな。やはり親になるという事は人を成長させる何かがある。きっと私もそうだったのだろう、自分では分からぬが。
さてとと立ち上がって居間に向かおうと襖を開けた。きっと幸太郎が待っておるだろうからな。これから大掃除だ正月だと忙しくなるし買い出しに出る予定の者もそろそろ出立する時期だ。
忙しくなる時期のほんの少し前の穏やかな数日を楽しんでも悪くないはずだ。根雪前までずっと働いたのだから少しくらい息を抜く所がなければ参ってしまう。
自分に言い訳しながら居間の襖を開けた。
起きるのを躊躇っているとゴソゴソと何かが布団に入ってくる。
「父上の布団はあっかい……」
「おはよう、起きないのか?」
「まだ父上の中にいたい」
「そうか……ならウメが起こしに来るまでこうしてるか?」
「うん」
抱き寄せると嬉しそうな幸太郎の笑顔に癒やされる。
「あのね?父上、私は今縄の編み方を板垣に教わっていますが……難しいですね」
手を擦り合わせてやって見せているがあれはまあ慣れだな。私も弦之助もこの頃はしていなくてせざるを得なくなった頃始めたのだが。う~ん……私は不器用でかなり苦戦した。縄編もだが草履なども……なあ。
これに関しては弦之助は器用だった。教わる端から大人顔負けにやってみせた。顔には出さなかったが悔しい気持ちでむきになってやったが弦之助は先に進んでしまい……嫌な事を思い出した。
「父上?いかがなされた?」
「ふふっ何でもない。頑張りなさい」
「はい!」
その時ガバっと布団を剥がされた。
「起きてくださいませ!!」
「寒いよウメ!!」
「寒いじゃありません!!もう朝餉の時間ですよ!幸三郎様も甘やかすんじゃありません!!」
起き上がりながら、
「済まぬ。だが冬くらいだろう?こうやって我が子と遊べるのは。のう?」
「そうですね。ですが!生活を乱すのは違います。きちんと朝起きて飯を食べ雪掻きして縄編んで………」
手を振りウメを遮った。
「悪かった!私が悪い!起きるからその辺にしてくれ!幸太郎も起きるぞ!」
「もう……ウメは意地悪だ。私は父上と楽しんでたのに……」
はあ?とウメは私に抱きついて文句を垂れている幸太郎の襟首を掴み立たせた。
「ほほう?ウメは何か間違ってますか?言うてみて下さいませ?ほら!」
ウメは幸太郎の顔に近づき威嚇した。……うん威嚇だよこれは。
「うぅ……ごめんなさい。ご飯食べますから……」
「ふふん!分かればよろしい。では顔をまず洗いましょうかね」
「うん……」
キッと私も睨まれたが分かったと言うと幸太郎の手を引き部屋を出て行った。うん……懐かしい起こされ方をしたがなくていいな。立膝をして立ち上がり私も顔を洗いに部屋を出た。
朝餉の後座敷の掘りごたつに入りお茶を飲む。咲も子供たちも一緒だ。
「大分積もりましたね」
「ああ。夏暑かったからこの冬は大雪かもな」
「皆雪下ろしが大変になりますね」
「そうだなぁ……毎年の事だが骨が折れるな」
縁側から少し戸を開けて外を眺める咲は憂鬱そうにしていた。しとみ板が嵌められている縁側からはあまり外は見えない。ある程度の雪を想定して上が二尺くらいしか開いてはいないからな。
「寒いから閉めてくれ」
「はい」
戸を閉めると咲はこたつに入りお茶を飲む。冬くらいだな朝ゆっくり出来るのは。股の間に幸太郎を入れて穏やかな時間を過ごしていた。
不意に襖が開いてそちらを見るとウメ。
「弦之助様がいらっしゃいました。こちらに?」
ふむ。
「座敷に通してくれ。火鉢もな」
「畏まりました」
見上げる幸太郎に、
「済まぬな」
「お仕事ですか?」
「多分な」
「なら仕方ありません」
私の股から出て咲の元へ行き弟を撫でている。
「咲……」
「はい。気になさらず」
立ち上がり客間に急いだ。中に入ると既にウメが茶を出していた。
「兄上突然申し訳ありません。お忙しい所を急ぎ確認したい事がごさいまして」
「別に其方なら忙しくてもなんとでもするからいつでも来ればいい」
兄弟の仲ではないか、遠慮はいらぬとそんな話をしながら用向きを聞いた。
「はい。では正月の不動尊の事ですが……」
言い淀んでいるな?何か佐治にあったのだろか。私は何も聞いてはおらぬが。
「佐治に何か?」
「あの……先日雪掻き中に腰を痛めてしまいその後の予後が思わしくなく音頭が取れそうもないと私の所に先程倅の光之介が来ました」
はあ……佐治は自分の歳を分かっているのか?全く。
「佐治の加減はどうなのだ?」
「ゆっくりは治って行っているようですが寒い中の指示は出来ないと言われましてね。冷えて痛いそうです」
「どうせ倅の目を盗んで雪掻きしてしくじったのだろうよ」
「その通りにございます……佐治ももう少し身体を気にして欲しいもんです」
佐治……本名は山本佐之介、父の腹心だ。我らのためにここに残った父代わりの一人だ。どうにも板垣、盛山と違い我らの言うことを聞いてはくれぬ厄介な爺なのだ。
一見優しげで物分りが良いように見えるが全くこちらの意見は聞いてはくれぬ……必ず違う意見を出してそれを押し通す参謀が身についている家臣だ。
二人でため息を付きながら茶を飲み私は火鉢を突いた。
「どうするかな……我らでやるか?」
「それなんですが伜がやると申しております」
え?光之介が?あの無口な男が?
「まことか?あれは……人と話すのが苦手で我らとは気安く話すが他は居るのか居ないのかわからんくらい存在感のない男だぞ……え?」
「兄上……ボロくそですね。もう少し言葉を飾って下さいよ」
ふんっと鼻を鳴らし、
「其方と二人で飾る必要もあるまい」
「確かに、あはは。本人はこれも自分には好機かもと奮い立っております。任せてみるのも私はいいかと考えております」
「まあ佐治が教えながらやるだろうから……其方が出来ると言うならば私は良いが」
ふふっと微笑み弦之助は茶をすすった。
「上手く出来ないと分かれば我らが手を貸せば済みますよ」
「ああ、そうだな。手順などは引き継いでいるのか?」
「ええそれは夏の神主の手配もあれがやっていますから。佐治の手足となって動いてましたからそこは心配いりません」
ならば任せてもしくじる事もあるまい。正月は神主の手配は要らないし村だけの物だからな。村の道に灯りを灯す事、除夜の鐘を鳴らす事、酒を振る舞う事……それは私の役目だな。最大は雪道の整備だな。男衆に頼まねばならぬがそこが一番苦労するか。
「まあ男衆の音頭を取れればなんとかなるさ」
「ですね。では光之介に頼むと言う事で宜しいか?」
「構わぬ」
では私はここで失礼をと帰ろうした。来たばかりなのに急ぎの事でもあるのかと訪ねた。
「いえ特別には。兄上も家族と団らんを楽しんでおられたのでしょう?邪魔しましたので帰りますよ」
「そんな事気にせずとも」
「私も時や子と一緒にいたいのです。兄上ともですが家族ともね」
ふふっそうだな、今年は暇が全く無かったからな。
「ならば良い。気をつけてな」
「はい。また遊びに参ります。兄上と話すのは楽しゅうございますから」
「ああ、私もだ」
サッと立ち上がると盛山!と声を掛け藁ぐつを履き帰って行った。
改めて考えてみると弦之助は落ち着いた雰囲気が出てきたな。やはり親になるという事は人を成長させる何かがある。きっと私もそうだったのだろう、自分では分からぬが。
さてとと立ち上がって居間に向かおうと襖を開けた。きっと幸太郎が待っておるだろうからな。これから大掃除だ正月だと忙しくなるし買い出しに出る予定の者もそろそろ出立する時期だ。
忙しくなる時期のほんの少し前の穏やかな数日を楽しんでも悪くないはずだ。根雪前までずっと働いたのだから少しくらい息を抜く所がなければ参ってしまう。
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