戦国武将の子 村を作る

琴音

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人が変わろうとする瞬間に立ち会った

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大晦日の昼過ぎに不動尊に弦之助と向かった。手は借りぬと光之介は宣言したものだから我らは本気で手を貸さず見ていただけだ。

「兄上どうなんでしょうか」
「分からぬな」

弦之助は不安な表情で歩く。何となく無言になり雪を鳴らしながら歩いた。

「おおっ兄上!あれを!」

先を見ると指を指し何やら指示を出している光之介が見えた。ふむ……見る限りでは様になっておるが。

「光之介!」
「弦之助様に幸三郎様も!ご苦労さまです!」
「上手くやれているか?」

えへへと言わんばかりの笑顔で、

「ええ!皆協力的で私の指示にも従ってくれます。父がきちんとやっていたお陰ですね」
「そうか!良かったな光之介!」
「はい!ありがとう存じます」

弦之助も任せるとは言ったが心配だったのだろう、いい顔で笑っている。

「光之介、佐治はどうだ?」
「はい、幸三郎様。大分良くなっては来たのですがこの寒さのせいもあり痛みは中々引かないようですがまあ、生活するには困っていないようです」
「無理をするなと私が言っていたと伝えてくれ」
「畏まりました。父は……お二人を本当に大切に思っているようですから幸三郎様の言葉なら聞くかもしれません」
「あはは。無理だろうな。我らの話を一度で聞いた試しはないからな」

弦之助もわははと笑い、

「兄上の言う通り!まあ倅からよりは聞くかな?程度だぞ?」
「ふふっそうかもですがそれでもです」

あれはほんに人の話は簡単には鵜呑みにはしない。裏を表をどこまでも精査してからでないとと思っているようで……面倒くさい。慎重過ぎて石橋を叩き割る勢いだからな。

「光之介!!これでいいのか?」

遠くから万造の声がして失礼と立ち去った。

「上手く行ってるじゃないか」
「ええ……」

万造と何やら話しているが時折笑顔も見せている。人はきっかけさえあれば変わるものなのだな。あれ程影が薄く人前に出たがらなかった光之介が……こんな瞬間に立ち会えるのもまたいいものだな。

「では全体を見て戻りますか?」
「そうたな、社まで行ってお参りして帰るか」

二人で少しの参道を登り社についた。寒さもあるため火鉢を多く置いている。板床は冷たいから座布団もきちんと持ち込んでもいる。酒も一尺半の蝋燭も……これは中々の金子が掛かるが年に一度と用意している。

他の道中には通常の大きさの物を雪に穴を開けて置いたりする。晴れていれば手作りの簡素な行灯のこともある。今はチラチラと小雪が降っている。山笠や箕を真っ白にするほどは降ってはいない。

空を見上げると雲が薄くなって来て明るくなってきているようにも感じるが……

「兄上帰って少し寝ましょうか」
「そうだな……夜中から朝まで起きていなければならぬしな」

光之介や男衆に頼むぞ!!と声掛けしてそれぞれの屋敷に帰り日が変わる一刻前にまた会おうと別れた。

私は布団を敷いて寝ようと横になったが……眠れやしない。目を瞑り横になっていると部屋の外の物音が気になる。

ウメの声や板垣……幸太郎のはしゃぐ声、歩く足音に何かがガサゴソと擦れたりドンッと何かが落ちるのか落としたのか……

そっと襖が開く音がして目を開けた。

「あ……すみません。起こしましたか?」
「いや……眠れなくてな。何だ咲」
「ちょっとこれを取りに来ました」

手には小さな半纏、幸太郎と幸之介のか。

「着てなかったのか」
「ええ、寒さなど気にせず走り回ってますよ、あっうるさいですか?」
「昼間に寝る私が悪いのだから気にしなくていい」

咲こちらへと招いて抱き締めた。

「済まないが少しこうしててくれ……」
「ええいいですがどうなされたんですか?」
「何となく……だ。咲を抱いていると寝られる気がしてな」
「ふふっなんとまあ……かわいい事を」
「二人の時くらい甘えさせてくれ」
「ええ……」

咲も腕を回し抱いてくれ……人の身体の温かさが気持ちいい。暫く抱いていたが……

「ありがとう」
「どういたしまして。今晩は忙しいのですから少しでも寝て下さいませ」
「ああ」

身体を離し横になるのを確認すると咲は部屋を出て行った。思い付きだったが咲の温もりに本当に眠くなりウメに起こされるまで寝ていた。本当は優しく咲に起こされたかったのだかな。激しく布団を引っ剥がし起されたのは解せない。

仕方ないと居間に行くと子に乳を飲ませている咲が目に入り、仕方ないかとついため息を付いてしまった。その様子を見逃すはずもないウメが、私では不服ですか!と笑いながら言われてしまった。

ああ!不服だ!!
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