月の破片を受け取って 〜夢の続きはあなたと共に〜

琴音

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二章 討伐とその後

2 僕しか出来ないことだから

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 僕は城から迎えに急ぎ玄関に向かった。外の車止めに馬車があり、入口の扉に立つ迎えの騎士の表情は固く「お早くと」急かされた。馬車に乗り込むと着くまでの間、空には小型の翼竜の群れが海の方に飛んで行くのをたくさん見かけた。その翼は攻撃を受けたのか、ボロボロになっていて、それでも必死に飛んでいるように見えた。

「あの魔獣たちは戦闘には不向きな穏やかな種類です。きっと怖くて逃げているのです」
「うん。僕も魔獣や魔物は調べたんだよ」

 同乗していた騎士の今の現状の説明を聞きながら、街道に小型のペットとして飼ったりもする、うさぎやネズミに似た魔獣が僕らの馬車など気にもとめず、大群で走っていた。彼らもやはり逃げてきたのか、馬車が近づくとスッと距離を取り、足を止めず走っている。

「クルト様。現状魔獣との戦闘は上手く行っていません。シュタルクの魔獣使いが術に失敗し、魔獣たちが暴走しているのです」

 彼の話によると、シュタルクの魔法使いが数人で森の主「火竜」を手に入れようと、森に入ったそうなんだ。
 火竜は森の中の深い場所の、地熱のある所を寝床として過ごす森の主。この森の火竜は大きいけど穏やかな生き物で、巣を突いたりしなければ襲っても来ない。長い年月を生き延びた個体は人と会話も出来るそうだ。まあ、手を出せば…うん。

「隷属の呪文を唱え、もうすぐというところで苦しんで吼えている火竜を他の火竜が見つけた。そして怒りに任せて魔法使いを攻撃。呪文が不完全なため、苦しんだ火竜は人の声が聞こえなくなりました。しかし、不完全な呪文は火竜の体に残り、痛みか精神の異常かは分かりませんが、暴れています」
「そっか……」

 その結果、森は火竜の吐く無差別攻撃の炎で燃え上り、弱い獣、魔獣は逃げ惑っている。

「最悪なことに、シュタルクは火竜を鎮めるために他の火竜を隷属させようとしました。ですが、森の仲間を守ろうとする、他の魔獣や火竜が魔獣使いを攻撃。更に失敗し火竜は二頭で暴れてます」
「はあ……?バカなのか」
「バカですね」

 このシュタルクの無謀な作戦の結果、森の五分の一はすでに消失。逃げ遅れた術士の遺体も数体あったそうだ。もう誰も止められない地獄のような有り様で、見るも無残だそう。僕はそんな説明をされながら城に到着。僕はすぐに作戦会議場所の晩餐会の会場に向かった。ここは隣に玉座の間があるんだ。

 会場の中は、もうきらびやかな会場ではなく、軍事施設そのもの。熱気と戦闘服の王や大臣、フード付きのマントを着た魔法使い、甲冑の騎士でひしめいていた。中央の大きなテーブルでは大きな地図を広げ、王やアンジェたちがなにかを話し指を指している。

「クルト様、到着しました!」

 一緒に来た騎士が声を張って報告すると、全員がこちらを向いた。するとひとりが動き、僕に駆け寄って抱きしめる。

「ごめん……俺たちだけで出来るはずだったんだ。俺はクルトを参加させたくなかった」
「ありがとうアンジェ」

 震える声で謝るアンジェ。二頭で暴れる火竜に手も足も出なくて、逃げ惑う危険な魔獣を国に入れないようにするだけ、それだけで手一杯になってしまったらしい。

「現況を説明する。来てくれクルト」
「はい」

 僕とアンジェは王の呼びかけに地図の前に歩み出る。

「すまないクルト。ここまでになるとは予想がつかなかった」
「いいえハルトムート様。僕の家はこのような時のための家です。お気になさらず」

 僕は「きっとあなたなら止めることが出来る」から心配するな。狂った火竜を浄化、呪文が掛けられる前に戻せばなんとかなるって言葉を、アルテミス様からもらっていた。だから僕は落ち着いていたんだ。それを王に話した。

「さすが白の賢者。天啓の指示があったか」
「はい」

 現在森の中央から西側が完全に焼失。シュタルクはすでに自国に入って来た魔物の討伐で森には関与していない。というか出来ない。

「報告では、シュタルクは森に近いゆえに、魔物の被害で人がかなり死んでいるんだ」
「対策はしてなかったのですか?」
「ああ、成功するしか頭になかったようだな」

 頭わる。リスクマネジメントをしてなかったのか。王がバカだと民にその負担が来る典型だな。他の国はやはり国境線で戦っていて、普段は手練れの冒険者でも苦労する魔獣がわんさかで、国を上げて頑張っているそうだ。

「僕はどうやってそこまで行けばいいでしょうか」
「その前にまずは見てくれ」

 地図を指さして、ここが火竜の巣があった場所だと、王が指を指した場所は森のほぼ中央、そして二頭でバルシュミーデの方向に移動中だそう。そちらに行かせないようバルシュミーデの戦士たちが戦闘中。後方は我が国とヘルテルの戦士が応戦中だそうだ。

「蛇行しながら火竜は進軍しているが、アレの吐く炎で森は南北に延焼中、たぶん今頃は西側のほとんどが燃えてるはずだ」
「ふむ……被害が大きいですね」
「ああ」

 三国連合の別働隊が、必死に消火活動をして延焼を防いでいるそうだ。
 あの暗黒の森は「人にとって必要悪」のような森。開拓してなくせばいいなんて、簡単な話しではないんだ。動物や魔獣の巣で、このあたりの国のお肉、魔石、ペット、特殊な薬草の産地となっている。僕らの国、クラネルト王国と広さは同じくらいの大きな森で、人が侵略を「わざと」しない場所なんだ。その五分の一を焼くとは……どれだけの生き物が犠牲になったのだろうか。ボソッと僕が呟いたのを拾った王は、

「分からぬ。来る途中でも見ただろうが、弱いものはあちこちに逃げ、翼のあるものは対岸、海を超えた近場の無人島にでも行こうとしてるのだろう」
「ええ、畑にうずくまったり、群れで走り抜けるラミッテやミルミーをたくさん見ました」

 うさぎやネズミみたいなペット魔獣たち。猫や犬の魔獣は……ほとんどの種がペットにはならない中型種で、魔石取りの対象だ。たまに飼いならす人もいるけど、特殊な魔法使いばかりだな。

「大型の神獣フェンネルたちはとうに逃げてしまって、人に手を貸してはくれぬ。フェンネルと話せる者たちによると「我らは知らぬ。そなたら人の失態に関与はせぬ」と飛び去ったそうだ」

 はあ……さすがだな。賢く長生きた魔獣はとっくに逃げたか。

「ああ、あれらは神同様、白黒だけでことを審判する生き物だ。この討伐が終わり落ち着くまでは、我関せずで帰っても来ないだろう」
「僕もそう思います」

 まあ、今回は完全に人が悪い。大人しい火竜に手を出して森を燃やしてるんだからね。

「それでだ。クルトはアンゼルムとヘルテルの騎士らと共に現場に向かってくれ」
「はい。ですがなぜヘルテル?戦士を貸してくれたんですか?」

 僕が王に問うと、うちには空を飛べる技術はなく、馬のように乗り空を駆ける騎獣は、あの国の門外不出の技なんだ。人員は割けないから精鋭を少しと借りれたそうだ。

「あの国の強さの秘訣が騎獣で、空を飛べることなんだ。どんな魔法なのかは分からぬが、便利で羨ましいな」
「へえ……」

 王はうちにもあったらなあってアンジェを見る。それに、そんなん簡単に見つかるもんじゃないですよと、面倒臭そうにした。
 現在、我らの最前線の陣営は火竜の巣の近くある。もう魔獣も何もいなく、焼け野原にあるからすぐ見つかるそうだ。

「たった三日で五分の一の喪失だ。方向でも変えられたら森はなくなり、人ではもう手の施しようはなくなる」
「ええ」

 もう仕方ないんだという意志を王から感じた。この三日は風も良く吹いたそぅだ。

「すまぬが、これ以上の被害は食い止めたい。ふたりとも、今すぐ出立してくれ」

 アンジェが行くぞと、僕の肩にポンと手を乗せ微笑む。僕はうなずいて作戦本部を背に、城の前庭に急いだ。

「騎獣には一人ずつ乗せてもらう」
「はい」

 廊下を早歩きで移動しながら、アンジェはこれから僕のしなければならないことを説明する。

「到着まで約二時間。かなりの速さでの移動だから辛いとは思うが耐えてくれ」
「はい」

 それととアンジェは立ち止まった。ん?なんか他にあるのかな。不思議に思い見上げた。

「クルト」
「はい?」

 僕が見上げていると苦悶に顔が歪み、ガバッっと強く抱き締める。

「俺は本当は嫌なんだ。お前を……あんな危険なところに連れて行きたくない」

 僕はアンジェの腕をポンポン。嬉しいなあ、こんなに愛されるなんてね。

「アンジェ……これは僕の使命なんだ。行かないとみんな困るんだよ。アルテミス様は僕ならきっと出来るって言ってくれたんだから、きっと大丈夫だよ」
「うん……それでも嫌なんだ」

 わがまま言ってるのは分かってる。番の本能が言わせてるのか、それは関係なく俺が思ってるのか、もはや分からない。でも愛しいお前に危険な目にあわせたくないと、痛いくらい強く抱く。僕も気を緩めるとイヤだ!って思いが強くなる。怖くないはずはないんだよ。自分が戦闘に出るなんて想定もしてなかったから。穏やかで平和なこの国で、アンジェのこの腕の中でぽやぽやして過ごしたい。
 うん……だから行くんだ。これを守るために恐怖から一歩前に出るんだ。

「アンジェ、キスして?」
「ん…」

 優しいアンジェのキス。この腕の中を守るために僕は行く。みんなそれぞれあるであろう「暖かな家族、番の腕の中の幸せ」を、みんなの幸せを僕は守るんだ。守れる力が僕にはあるのだから。怖いは通らない、通らないんだ。

 異世界から転生、転移した勇者がこの使命の物語はよくあるし、僕も好きでよく読んでもいた。だけど、自分がやるとは夢にも思わなかったね。この生に付属した「白の賢者」を名乗るのならば、物語の勇者のように頑張るのみ!僕の生きる世界はここなのだから、行くところなど、もうどこにもないのだから。

「あふっありがとう。アンジェ」
「クルト……」

 騎士たちが走り回るエントランスホールでの抱擁は、通りかかる騎士たちにギョッとされた。アンジェらしくなくてね。僕の頰を撫でながら、アンジェの顔つきがゆっくりと引き締まった表情に変わる。

「行こう。クルト」
「うん」

 僕らは駆け足で前庭に急いだ。





     
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