月の破片を受け取って 〜夢の続きはあなたと共に〜

琴音

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三章 愛される存在に

10 穏やかな時は短い

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 僕とアンジェに二人目の子どもが生まれ、屋敷は賑やかになっていた。今日はアンジェのお休みの日で、お庭に出てリーンハルトと日向ぼっこ。

「母様!こっちきてぇ」
「はーいリーンハルト」

 二人目は僕に似ていてね。こりゃあアンだなって感じ。でもさ、アンとノルン一人ずつならいいじゃない。リーンハルトが跡継ぎで、コンラートはどこかにお嫁に行けばね。公爵の子ならもらい手はたくさんのはずだ!僕は走り回って疲れたから、ガゼボで座ってうははと高笑い。先にいたアンジェがボソッと、

「俺は家に置いておきたいがな」
「なにを!コンラートはお嫁に行かせないつもり?」
「いやいや、婿もらって城勤めでもしてもらってな。クルトそっくりだし…かわいいんだよ。父親はアンは家に置きたくなるもんなんだ」
「ふーん」

 リーンハルトは庭師のモーガンに纏わりついているのに飽きて、トコトコとこちらに走って来た。抱っことせがんでアンジェが膝に抱くと、まあよく似てる。真っ青な瞳の色も目鼻立ちもね。僕の要素がなにもない。だけど、髪色は僕寄りかな。金色が濃い。コンラートは反対でアンジェの要素が少なくて、目が青いくらいしか似てない。僕の緑の目はどこに行った!

「あははっそんなもんだよ。俺たちは母様の青い目が似たが、父上は金色だったんだ」
「そうか。金色出なかったのね」
「ああ」

 こんななんでもない日常を僕は楽しんでいた。そして僕はもうすぐ二十一になろうともしていた。アンジェに今のシュタルクの戦況を聞いた。

「とうとう……か」
「うん。あの連合軍に勝てるとは思わなかったが……」

 シュタルク王国は王が討ち取られて、先日国が終わった。城下町だけになってもかなり頑張っていたようだけど、助けてくれる国が全てなくなり無理だったようだ。あんなになっても助けてくれる国があるとは驚きだけど。

「最後まで援助していた国はシュタルク王の元々の国だからな。だが、隣国の手前もあって、もう助けられなくなったようだ」
「ふーん。またアンジェ帰ってこない?」
「かもな」

 アンジェが屋敷にいるのに慣れちゃってなんだか寂しく感じる。また、子どもたちとだけになるのか。お昼にお庭で話したことが思い出された。

「そんな顔するな」
「だって……」

 就寝前の時間。不貞腐れた僕にアンジェは僕の体を引き寄せて額にチュッ。

「なんて俺は幸せなんだろな。こんなに愛されて」
「んふっ僕はアンジェ大好き。いつも側にいて欲しい」
「うん」

 僕は常々そう思っていた。こんな幸せが僕に来るなんてね。諒太とも幸せだったけど、こんな未来は来なかったはずで、なんたって自分の子どもが持てた。厳密には違うかもだけど、今僕は「クルト」なんだ。この体も僕のものってことは僕の子どもなんだよ。

「体は魂の入れ物でしかない。今はレンの魂はクルトの体にありそれがクルト。お前の子だ」
「うん」

 翌日からやはりアンジェの帰宅は遅くなった。シュタルクは今や無法地帯になっているんだ。討ち取った連合軍は国が欲しくて起こした戦じゃないから、そのまま放置して撤退。そして誰も管理なんてしない。でもあの国の人はこんなことに慣れてて、商人は早々に逃げた。地方の農民は我関せずで畑を耕す。何よりすごいのは農民が強いんだ。
 何代もこんなことが起きるから武装してて、ちょっとした盗賊や魔物なんか自分でなんとかしてしまう。無理なら基金とかあって、村ごとに冒険者を護衛に雇うシステムすらある。農民は逃げないんだ。

「すごいよね」
「ええ。人は環境に合わせるんですね」
「はあ……人は強い。生きるために色々がんばったんだろうけどさ。でもなんか気の毒だよね」

 ティモとお茶を飲みながら、王に振り回される民は気の毒だと同意してくれる。

「新しい王が来て、だんだんおかしくなっていくのは「またか」と思うか「悲しい」と思うのかどうなんだろうね」
「人によりでしょうね」

 シュタルクは国の名前が変わって、どこかで復活するだろうけど……話に聞くかぎり街の復興は大変そう。あの討伐の跡みたいになってるのを街に戻す……イヤだね。

「どの国にも「白の賢者」はいます。その方が頑張るんでしょう」
「うん。新しい国ではまず白の賢者探しからだね」
「ええ。アルテミス様の加護は簡単にはもらえませんから」

 ー白の賢者ー

 どの国にもひとりいるけど能力は様々らしい。僕は神の失態付きだからかなり優遇されてるようだけど、他の方はどうなんだろうねえ。ティモは僕が知る限りですがと前置きして、

「治癒に特化した医神のような方、クルト様のようにある程度神の力を引き出せる方、浄化に特化して土地を活性化する方とかもいるらしいですよ。昔気になって文献を調べたことがありまして、そんな感じでした」
「ふーん」

 これからどうなるんだろうか。僕が出なくちゃならないなんてこともあるのかなあと、ぼんやり考えた。考えたところで僕のところに話しが来る時とは、どーにもならなくなった時だからなあ。拒否権なんてないだろうし、そんな時が来ないことを願うだけだな。

 そして夜アンジェと寝ていると、すっげぇ美しい人にが夢に現れた。なんだこのイケメン。黒髪に長身、憂いがある感じで伏し目がちに微笑む。真っ白な雲の中のようなあの空間……

「クルト、いえ蓮ですね。会うのは初めですが、私がアルテミス」
「ほえ?アルテミス様……?」

 僕に話しがあると夢に現れたそうだ。
 彼は薄く微笑みながら、今シュタルクはかなりの荒廃で、目も当てられないくらいになっている。あと少しすると人を率いてやって来る者が現れる。すでにかなりの数がその者の周り集まり、組織化し始めて進軍しているそうだ。
 郊外はその者たちとは違う盗賊たちが農地、農民を攻撃、略奪。民は逃げたり殺されたりで減ってしまって農地は荒れている。それがどういうことか分かりますか?と問われた。

「国土全体が荒廃して、食料の確保が困難になり始めているのだと思います。それにその者はアレス神の加護がある者ということですよね」
「ええ」

 それは王予定者だろうか。カリスマがありマジでアレス神のよう。だけど今は賢く周りを動かしているそうだ。

「あなたに忠告です。きっとあなたは戦場に立つでしょう。あなたは自分の能力で撃退出来る。でもね……」

 哀しそうに微笑むアルテミス様。以前彼に言われた言葉が思い浮かぶ。きっと僕は人の死に夢中になるんだ。ゲームの陣地取りのような、あの楽しさに支配される。この世界ではあの画面いっぱいのNPCは「生きている人」なんだ。今ここで息をして生活をしている人々なんだ。ゲームの無機質な記号ではない。

「アンゼルムに必ず隣にいてもらいなさい。彼の声ならあなたに届くはずだから」
「はい。そうならないように心します」

 そうは思うけど多少不安ではある。僕はそんなに強くないんだよね。自分を律せるか、そこが鍵だな。

「ええ。あなたの心の負担にならぬ戦略を、王に求めなさい。避けられるかは五分五分です」
「はい」

 また会いましょうねと、アルテミス様は消えていき、僕は目が覚めた。不吉な天啓の夢だった。







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