月の破片を受け取って 〜夢の続きはあなたと共に〜

琴音

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四章 戦とアンジェ

2 驕り

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 クラネルトの陣営に戻るといきなりユリアン様に怒鳴られた。

「アンジェにクルト、あの音はなんだ!地面が揺れるほどの爆発はなにをしたんだ!どうせクルトだろうが吐け!説明しろ!」

 テントの幕を開けて、僕らだと確認しただけでユリアン様は怒鳴った。おちゃらけてる感じではなく、この世界の戦闘の仕方ではないと更に叫ぶ。こんなのは竜が暴れた時以来だって。
 ユリアン様は僕らの口を挟む余地のくらい捲し立てた。吐けえ!って。

「少し黙れユリアン」

 アンジェが静かな声で諌めた。

「ハァハァ……怖かったんだよ。遠くの爆音にここまで届く爆風。鳥が驚いて森から飛び立ち、獣は逃げた。あれはなんだクルトッ」

 アンジェがまずは座ろうと地図の周りの椅子にラムジーたちと座り、どうぞと文官に渡されるお茶を受け取る。うふぅ…美味い。

「あれは……」
「クルト待て、それは後で説明する。まずは結果から報告する」

 ユリアン様が口を開いたけど、ここにはラムジーたちもいるから説明することは出来ない。僕の出自に関わるからね。まあ、バレてるだろうけど。ハンネス様が丁度外から戻り、席についた。

「すでに捕虜がこちらに集められているが、あれが我が国に進軍した生き残りの全部だ。後は神の元に帰った」

 ユリアン様は、はあ…っと額に手を当てて深いため息。

「だろうな。あの爆発で生き残っただけでもすごいと僕は思うもの」
「ああ。生き残った者は爆発物の近くにいなかった者だけだ」

 一方的な戦闘だったけど、敵軍の陣営に到着後からアンジェが説明した。初めはこちらふうの通常攻撃をアンジェとふたりで一斉攻撃。だけどあちらの防御力が高く、シールドみたいなモノで全部弾いてしまったんだ。魔獣などには効果があるものだったけど、彼らにはほとんど効果が見られなかった。

「俺は黒の賢者の力を駆使することにして、アローの魔力を最大まで上げ数も増やした。クルトも同じかと思ってたんだが……彼の知識の爆発物をだ……な」
「ああ……うん。理解した」

 なんと説明したらいいのか……とアンジェが唸るから、僕は手のひらサイズで見本を出した。

「これです。これを出せるだけの魔法陣から下に落としました」
「こんなに小さいの?」

 僕の手のひらに乗るミサイルを繁々と見つめる。五センチ程度のロケット型に後ろに羽をつけたタイプだ。

「いいえ。そうですね……人の腕一本分くらいの長さで本来は発射台があるんですが、それは無視して上からばら撒きました。中身は爆発物の燃料で、ガソリンとか石油の加工品と着火剤かな。目的を定める追跡装置は入れてなくて、安定のための後方の羽だけで……」
「クルト。ガソリン?石油って……なに言ってるか解んないけど……」
「すみません」

 僕はミリオタじゃないからなあ。ゲームで使っているのを思い出して、その効果をイメージしただけで……たぶん本物とは違う。地面に触れたら盛大に爆発くらいしか考えてなかったんだ。

「あー……簡単に言うと、鉄の筒に燃える物体を詰め込んで地面に触れると大爆発……かな?」
「クルト……それを見せて欲しいんだが、大丈夫?」
「ああ、はい。見た目だけの生成です。はい」

 僕はユリアン様にミサイルの模型を渡した。彼は五センチのクレヨンに羽根つけた感じのをじっくり眺める。これが爆発するの?と。

「ええ。僕は本物を知りません。だから、想像の産物で僕のイメージで使用しました」
「ふーん……なあ、悪いんだが実演してみてくれよ。このサイズでね」
「いいですよ」

 みんなで外に出て、少し広くなってる原っぱに移動しながら、中身入りでもう一個作った。見ててねとユリアン様たちに声を掛けて、下手投げでポーンと僕は草むらに投げた。

 ドフン!とまぁまぁの爆発をした。みんなが使う魔弾くらいかな?

「あのねクルト。これ腕一本サイズってどのくらい爆発するの?」
「うーん。見てた感じ、二~三発でこの陣営は吹き飛びますかね」

 ユリアン様はヒッと息を飲んだ。アンジェたちは見てたからそんな感じかなあって。

「これが何発かは分からんが、雨のように俺のファイアーアローと混ざって落ちていってな。まあ、想像はつくか?」
「……うん。想像力のユリアンと言われてるんだ。お手の物だよ」

 ユリアン様は芸術面に長けている方で、言葉を絵に起こすとかは得意だ。宝石のデザインとかが本業で、この間視察でつけてた指輪はユリアン様デザインだそう。こんな戦場に出るようなタイプではない芸術の人。
 なのにこの人がまたマルチな才能があって、なんでも出来るんだ。天は二物を与える見本のような人。なのにこの才能は加護の賜物ではなく、彼自身の才能。美の神アフロディーテ様に加護は貰えそうだが嫌だそう。こんな凡庸な僕には羨ましいを通り越してすげぇとしか言葉はない。

「こちらの敵を討ち取ってから、バルシュミーデ側が近かったから同じようにして来た」
「あはは……そう」

 アンジェの言葉にみんな茫然自失。お前ら怖すぎだと引きつりながら笑う。

「失礼なこと言うな。早く解決してやったのに。戦は長引けば死者が増えるだろ」
「まあなあ……だが…」

 言い淀んで口をつぐみ、ユリアン様がテントに戻ろうと歩き出す。ラムジーたちは何か察したように我らはいない方がいいでしょうと、一礼して自分たちのテントに向かった。ラムジーたちが見えなくなると、

「お前らさあ、他国がいるところでそのなんだ、ミサイルとか使うなよ!手の内を晒すな!」
「あの…ごめんなさい。あんまり効果がなかったから…つい」

 あまりの剣幕に僕が間違ってたのかなと思った。これだけ叱られるのなら、前の世界の物は持ち込むべきじゃなかったのかもだな。でもね、今回の戦は、僕は個人的に死者を出来るだけ出したくなかったんだ。
 前回のあの討伐の光景はトラウマで、僕はあの討伐までは人の命が一気に消える場所にいたことはなかった。だから身近な人がいなくなった悲しみに、あのテントで泣いていた騎士たちの姿が辛く、苦しかったんだ。
 敵もそうだとは理解している。でも……僕らの国を、命を狙って来る者にまで親切には出来ない。

「クルト。お前は間違ってない」
「うん……ごめんなさい」

 アンジェが気遣う言葉をくれるけど、そのまま受け取れない。僕はこの世界にない物に頼るんじゃなくて、ある物の中から探すべきだったんだろう。改良するとか……そうしなきゃいけなかったんだと今は感じる。

 ああそうだ。僕はこの世界の人より知識があることに…おごっていたのかもしれない。白の賢者になれたのも、どこか喜んでたんじゃないのか。特別な力に浮かれてる部分はなかったのだろうか。だから効果がなかった時に、躊躇わず使えたんだ。そっか……
 
 はは……なんと僕は傲慢ごうまんなんだろう。こんな感情が自分の中にあるとは自分に失望するね。みんなの後をトボトボ歩いているうちに、自分に失望して涙が溢れた。自分の中のいやらしい気持ちに悲しくなって、こんな気持ちで助けられても嬉しくないよね。みんなにも申し訳なくて、涙は止まらなかった。

「ごめ……んな…さ…い…ぼく…ごめんなさ…い…良かれと思って……ごめんな…さい」

 気がつけば泣き崩れ、もう立っていられなくてテントの手前で地面に座り込んだ。自分の傲慢さ、優秀なアンジェにもこの知識で隣に立てるんだっておごりがあったんだ。この世界での生は短くても、対等に渡り合えるかもと。バカだ。
 この世界に生まれた人に、数年で同等に追いつけるなんて思う方がどうかしてる。アンジェもユリアン様も、言わないだけですごく努力したからここに立ってるんだ。王族だからだけではここには立てないのは僕でも分かる。
 王の信頼を勝ち取り、前線の統括をしてるんだよね。騎士団長でもないのに、団長の隣にいられるくらいの才能と努力があったはずなんだ。泣き続ける僕に、アンジェは隣に片膝付いて肩に手を置く。

「クルトは悪くない」

 僕は首を横に振り否定した。僕が悪いんだよ。この世界にない物を持ち込んで攻撃だなんて。結果だけではなく、経過も加味しなければならなかったんだ。郷に入れば郷に従うのは当然なんだよ。

「ごめんなさ…い…アンジェ。ユリアン様もハンネス様も…ごめんなさい。僕の判断ミスです」

 悔しくて声を殺して泣いた。なんだろうな、みんなの役に立ちたかった気持ちは間違いない。頼られるのならその期待に応えたかったし、白の賢者の仕事を両親や兄様に褒めてもらいたかったのも嘘じゃない。ハハッ褒めてだってよ。僕はなんて浅ましいことを。

「ユリアン、ハンネス。報告はこれで終わりにしてくれ。俺たちは明日ヘルテルの援護に行く」
「あ、ああ。そうしてくれ」

 ユリアン様は僕の前にしゃがんで、僕はクルトを責めてるんじゃないよって。使う前に相談して欲しかっただけなんだ。言い方が悪かったね。ゴメンって。

「それにな、使えるものを使ってなにが悪いんだと思ってる。僕が君ならジャンジャン使ってるよ。それにこれだけやれば君が「神の奇跡」とバレてるし、僕らは君を全力で守る。国としても従兄弟の妻としてもね」
「そうだ。何も悪くない。戦を早く終わらせたかったのは俺も同じだ。だからバルシュミーデでお前に戦わせたんだ」

 ハンネス様も隣にしゃがんで、クルト様って優しい声色。

「戦は人が死ぬ。それをどんな方法であれ、防ぐことに否定などしないよ。泣かないでクルト様」

 月明かりの中、テントの前の草むらで泣き続ける僕をみんなは慰めてくれる。どの言葉も嬉しくは思うけど、自分の中の浅ましさに折り合いがつかない。ユリアン様たちは後はアンジェ頼む、また明日と立ち上がった。

「今夜はゆっくり休めよ。僕は君が我が国に来てくれたことを本当に嬉しく思ってる。嘘じゃないよ」
「俺もだ。よくやった、クルト様」

 そう言いながらユリアン様は手をヒラヒラさせてハンネス様とテントに戻って行った。

「クルト、俺たちも戻ろう」
「ううっ…アンジェだけ戻って。僕は……あなたの隣にいられない。自分がイヤなんだ。自分の……クッ…ごめんなさい」
「嫌だ。お前が戻らないなら俺もここにいる」

 自分の醜い部分はアンジェには見せたくない。かわいいクルトでいたいんだ。リーンハルトたちのかわいいお母さんでいたいんだ。

「お願い、ひとりにして」
「嫌だ」
「アンジェお願いだよ。僕は自分が許せないんだ。明日までには気持ちを立て直すから」
「いや」
「アンジェ!」
「嫌だよ」

 いつものアンジェなら引くのになんで!

「嫌だから」
「なら僕がどっか行く」

 涙でぐちゃぐちゃだけど立ち上がり、森の方に歩こうとすると腕を掴まれた。

「アンジェ!」
「一緒に行く」
「イヤなの!あなたの隣にいると余計惨めになる!離して!」

 僕が泣きながら見上げると、月明かりに照らされた彼は、哀しそうな顔をしていた。

「クルト。夫婦は隠しごとしないってお前が言い出したんだろ?話せよ」
「イヤ!言いたくない!」

 グイッと腕を引っ張られて抱き締める。

「離して!」
「嫌だ。なあ、話してくれよ」
「イヤなの!あなたに嫌われたくないの!」

 強く抱き締めて嫌ったりしない。愛してるよって。イヤ!言ったら嫌われるもん。僕の汚い部分に引くもん!ジタバタ暴れたけど、体格差はいかんともしがたく腕から抜けられない。

「話してくれるまで離さない」
「離してアンジェ!お願いだから!」

 イヤだと暴れたけどハァハァ……あれ…足に力が入らない。ズルズルと下半身の力が抜けて地面に落ちそうになった。

「あれだけ魔力を使って疲れてないはずないんだよ。騎獣に乗りっぱなしで気が付きにくかっただけだ」
「ンッ…グッ!立つもん!」

 クソッぐおーっと体に力を入れて立ち上がり、逃げようと一歩前に足を出したけど、べちょっと垂直倒れした。むー……もういい。ここで泣いてるから。グスッ

「アンジェ。あっち行け」
「いや」

 草むらに倒れてる僕の横に座って頭を撫でてくれる。ちくしょう!嬉しいとか思っちゃうだろ!こんなことしてもらえる立場じゃないのに……うっ…なんで僕こんななんだろ。もうヤダ。




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