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四章 戦とアンジェ
5 暴走
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この白の賢者の能力は、屋敷に引き籠もっていたら気が付きもしないだろう。と言うか、読み飛ばす僕が悪いけど「クルト」の記憶にもないしなあ。たぶん普通の創世記の物語にはコレ書いてないんだな。僕はガッツリ明後日の方向に意識は行っていた。
「クルト聞いているのか?」
「ハッ!ご、ごめんなさい。聞いてません」
アンジェの大声にワタワタとごめんなさいと謝ると、自分の知らない自分の能力に驚いているんだろうが、後にしろって。はい、すみません。
「俺とお前は前回と同じく上空から攻撃。ヨルク様たち魔道士が地上で防御を担当。残りの騎士は残党を捕まえ駆逐する。大雑把にはこのようになる。理解したか?」
「はい」
細かくはとアンジェが話し始めるとラムジーが、後ろに私がいますよって。大丈夫、指示いたしますと力強い言葉をくれる。
「ありがとうラムジー。頼りにしてます」
「ええ、お任せを」
ふたりで見合ってうふふってしてたら、
「ラムジー甘やかせるなよ」
「すみません」
ラムジーが頭を掻いて大丈夫ですからって。僕はアンジェに目をやると、無表情で目が怖いアンジェ。この目は甘やかされてる部分じゃないところを……嫉妬?みたいな。おいおい……
「では出発の支度を整える間、おふたりはしばし休憩をしてて下さい。整い次第お声を掛けます」
「分かりました」
サミュエル様の指示で地図の前からザッと人が散り、僕らは案内された隅の簡易テーブルで、遅いお昼をいただき待っていた。
「アンジェ、目が怖いよ」
「うん。俺が騎獣を操れたらと常々思う」
「あはは……無理なことを」
分かってるんだよ。こんな国の存亡に個人的な感情を持ち込むのはおかしいことだと。でも、心の奥底に黒い感情が腹に溜まる。これは止められないんだと言う。
「俺はお前しか見えない。どんな状況でも愛しい気持ちが抑えられない。ダメなのは分かってるんだがな」
「ありがと。僕も大好きだよ」
ああ?って睨まれ、一番はお前の無防備さが悪いとお茶に口をつける。
「へ?いやいや、普通に接してるだけだよ?」
更に険しい視線を僕に向ける。なんでだよ。
「俺にはそうは見えない。悪い言い方をすれば、相手に媚を売っているようにすら見える」
「はあ?アンジェ……頭どうかした?」
「……どうかしてるんだろうな」
ちょっと来いと外に出て、人の目につかないテントの裏の木の影に連れ込まれた。なんだろ?
「クルト」
「はい?」
真剣な眼差しで僕を見つめていたけど、グイッと腕を引っ張られブチュウ……んふぅ……
「世の夫が妻を外に働きに出さない理由を、俺はこれでもかと味わっている。世のノルンが…ンッ…出さないのは…こう言うことなんだと……クルト…愛してる」
「んんっ…アンジェ……」
苦しいんだ。ノルンしかいないところでお前が笑ったりするのは、恥ずかしいが取られるような恐怖を感じる。城の催しとは違うんだと腕に力が入る。
「あっ…んっ…アンジェ……愛してます。僕は…はっ…あなたしか……んんっ見えない…から」
「うん……」
アンジェが落ち着くまでキスをされていた。クルトは俺のだと時々呟きながら嫌だって。番はアンの方が夢中になると習ったのに、これじゃアンジェの方が僕に夢中みたいじゃないか。
「ハァハァ……クルト。俺はこの先耐えられるか不安だ」
「ふふっ大丈夫だよ。僕はあなたしか愛さないから」
うんと強く抱き締めてありがとうって。あんまり長くされてたから、こんな時なのにあそこが勃って、萎えてからテントに戻った。素知らぬ顔してお茶を頂いて待っていると、それほど時間も経たずに迎えが来て出発。上空を安定して飛んでいるとラムジーがボソッ
「アンゼルム様は少し不安定になられてますね」
「あー……分かる?」
「ええ。こんなノルンばかりの中に妻がいて、あなたは私の騎獣に乗ってますからね」
ラムジーはアンジェを気の毒にと笑う。
「自分の妻がこの状況なら、やはり番の本能でモヤモヤします。アンゼルム様は強いですね」
「んふっ僕の大切な旦那様なんだ。尊敬出来るステキな旦那様なの」
ええ。私も尊敬しますね。色んな意味でねと。ほら、あそこ見えて来ましたと指を指す。作戦通りに行きますよと上空で旋回し、ヨルク様の防壁の後ろに降りた。
「来たか!撤退させるぞ」
「ハッ!」
数騎の騎獣が舞い上がり、前回アンジェが使った風魔法がスーッと流れ始める。届いた騎士からジリジリと下がり始めた。
「クルト様アンゼルム様は上空で待機!」
「はい!」
すぐにラムジーの隊は舞い上がり、下からの視認が難しいように太陽の逆光に隠れた。
「あと少しです」
「うん」
アンジェも厳しい視線を地上に落としていた。
「クルト、手加減はいらぬ。すればこちらの被害が拡大するだけだ。ヘルテルが取られるということは、このあたりが終わると言うことだ。気合いを入れろ」
「はい!」
我らはあなた方の足になる。いかようにも命令をとラムジー。他の騎士も術の最中の護衛はお任せをと胸を張る。
「頼む」
「ええ、アンゼルム様」
騎士がヨルク様の防壁の後ろにほぼ下がったのを確認。僕らにもスーッと緑の風が届いた。
「準備は整った。好きなだけ攻撃しろ」
風はヨルク様の声だ。確かに逃げ切ったようだな。
「行きます!」
「おう!」
アンジェと術の展開をする。空いっぱいのアンジェの赤の魔法陣、僕の白い魔法陣で埋まる。下からは異様な光景に見えるはずだ。
「アンジェ行きます!」
「一斉にな。三、二、一!」
「行けええ!!」
アンジェの極太アローと僕のミサイルが地上に向かって降り注ぐ。敵兵はなんだ?と見上げていたけど、近くになって気が付き走り出したが遅い!
ドドドッと着弾すると噴煙を上げ爆発。広範囲に隙間なく爆撃をしたんだ、簡単には逃げられない。味方の防壁がどのくらいか耐えるのかは分からないけど……見えんな。んーっと見ていると風が起こり視認出来た。ヨルク様が風魔法を使用したようだ。
「おお……?」
「昨日と同じようですね。あなたの術は破れていません」
「うん」
ヘルテルの騎獣がブワっと爆風の中から現れて敵兵を探す。多少生き残りがいたのか、なにかの金属の光が見えた。
「ここはもうよい。残党はこちらに任せて移動するぞ」
ヨルク様の声が届き、予定通り次の戦地に移動。そして術の展開。一万の敵兵は数千の単位でヘルテルのあちこちの街道沿いに陣営を張っていた。そこを僕らは次々に陥落させて行く。僕は腰のポーションを飲みながら人の数を見極め、魔力の出力調整もした。無駄に爆弾を落とす必要はないんだ。
「あのねラムジー。敵を捕虜にしないの?」
「もう要りませんから。敵の貴族でも見つけない限りね」
「ふーん」
敵兵は見つけ次第殺していたから、なんでだろうかと気になったんだ。次が最後だと到着したが太陽が陰ってしまった。空にはたくさんの雲が覆い、これでは地上から僕らが見えてしまう。
「マズいですね」
「ああ。あまりに高いと矢も爆弾も散り散りになって効果が出にくい」
ヨルク様の移動待ちで少し離れたところにいたんだけど、空の雲は増えるばかり。もう太陽は完全に見えなくなりそうだ。
「どうしますか?」
僕がラムジーに尋ねると、厳しい視線を地上に向けたまま、
「ここは敵の本陣です。たぶん今までのようにはいかないでしょう」
「だよねえ……」
魔道士も騎士も今までより強い者がいるはず。そして数もこの街道が一番多く、五千の兵がいるんだそう。
「開戦からどのくらい減らしている?」
「あー……拮抗してますからどちらも大して変わってないはずです。こちらの負傷者は多いが、死者は少ない。あちらも似たようなものでしょう」
どうするのがいいかと悩んでいると、ふわっとヨルク様の声が届く。
「こちらで閃光を起こす。消え次第攻撃してくれ」
ラムジーはニヤリとした。目が眩むような閃光はヨルク様は得意だそう。戦局が悪くなった時、無駄に頑張るより逃げる方が利口だから、この閃光をヨルク様は身につけたそうだ。ほほう
「下で対策をしてくれるか。ならば閃光が見え次第移動、おふたりはすぐに攻撃に移れるように待機して下さい」
「はい!」
地上の敵兵から見えない高さの上空で待機し、地上を見つめる。ドフンッバフンッと爆風と、剣の鍔迫り合いの音、そしておおーっと雄叫びが聞こえる。
「いつ閃光が起こるか分かりません。気を抜かずに」
「うん!」
僕ら五騎はじーっと地上を見続けていた。ここは簡単には騎士を撤退させられないようで、時間が掛かっている。
「あのね。ラムジーたちのこの鎧って他国との差はあるの?なにか術がかけてあるとか」
「はい?……特に他国との大きな差はないはずですが」
「この鎧で識別できないかと思ったんだ。出来れば僕の爆弾は敵のみを追撃して仕留められる」
えっ?とラムジーは驚き……うーんと考えてくれた。鎧は今回国が全部用意した、ヘルテルの国軍の鎧。国の家紋は入ってるけど、物理防御と魔法の強化くらいしか掛けてかなったよなあって。
「誰か知ってるか?」
「ああ、他国との違いですか?」
魔法省の者がやってるからなあ。ヨルク様だけがしてるなら分かりそうだけど、違うしとみんな悩んだ。うん、無理くせえな。
「チート技が可能かと思っただけですから。ありがとう」
「ちーと?意味は分かりませんがズルが出来るという方向で合ってますか?」
「うん」
でも一応ヨルク様に聞いてみますよとギーが風魔法を使った。おお!ギーも出来るのか。
「我らは誰一人として同じ属性が得意という者はいません。だから最小の班がこの人数なんですよ」
「へえ」
ギーは少しすると横に首を振る。ダメかやっぱり。
「私が掛けた者だけは識別可能だが、他はなあって返事です」
「そっか」
ならしくじると巻き添えありだな。もうすぐだから待てとヨルク様は言っているそうだ。
「なら待ちますか」
「うん」
このやり取りの間、アンジェは考え込んでいる感じだったな。うちに導入でも考えてたかな?
「閃光です!移動します!」
「はい!」
ギーの声にグワンッと下降して狙いが定まる位置で停止。閃光が消えるのを待つ。僕らは閃光に耐えられるゴーグル、まあサングラスのようなものを付けていた。
「クルト、魔法陣の展開を始めろ」
「はい!」
ブワッと空にふたりで出して見守る。とても長い時間に感じたけど……たぶん一分もなかったはず。
「閃光が消え始めました!今です!」
「おう!」
僕らは閃光が収束して、地上の敵兵が確認出来たところで地上に向けて発射!無数の燃える赤い矢と白い爆弾が落ちて行く。
「いっけえ!」
着弾寸前、大きな緑の魔法陣が展開され、半分以上が防壁に当たり防がれた!マジか!
「チッ対策を取られたか!昨日逃げたやつがいたんだな」
「仕方ない!アンジェもう一度しよう!」
「ああ」
その時、イタッなに?僕は頬に熱いなにかを感じた。痛いところを手で触ると、ぬるっとして真っ赤な血が手のひらに。
「敵の騎獣が来ます!」
「クルト防壁展開!下がれ!」
「はい!」
敵の後ろから味方の騎獣もたくさんこちらに向かってくるけど、間に合わない!
「味方に当たらないように防壁展開を指示して!シャイニングアロー!」
「ハッ!」
僕はありったけの矢を放った。が、防壁に阻まれて半分も当たらない!マズいマズい!背中にイヤな汗が流れた。あの暗い場所……あんなところで永遠の時を過ごすなど!アンジェと離れて誰かの体などあり得ない!恐怖で僕は手足が冷たくなるのを感じていた。イヤダイヤダイヤダ。お前は白の賢者だろ!なんとか出来るはずなんだ。考えるんだ!考えろよ!バカな頭で考えろ!いくら矢を放っても当らないんだ。いやあああ!
目の前に敵が近づいて来る、極限の恐怖に耐えられくなった、僕の中のなにかがブツンとキレた音がした。すると体が熱く、怒りが全身に満ちる。
「……僕の邪魔をするな。僕の愛する国、人々を殺すな」
僕は僕の幸せを壊そうと向かってくる敵兵を睨み、殺してやると強く思った。何もしてない僕らを、楽に物を手に入れようとするその浅ましい考え方に虫酸が走る。
「みんな死ね」
ブワッと全身に溜まった魔力を白い矢に変えて放出。敵だけを追撃して行け、どこまでもな。
「あはは!僕の邪魔するやつはみんな死ね!あはは!落ちて行く!みんな落ちろ!」
防壁の横から矢は敵に刺さる。そんな前だけの防壁なんか役に立たないよ?なんだか騎獣の落ちる様が楽しくて高笑いした。こんなに簡単に出来るなら最初からすればよかったんだ。こちらの戦死者なんて出さなくてよかったんだよ。
「ほらほら、逃げてもムダだよ?僕の矢からは逃げられない。んふふっ」
たーのしー!どんどん落ちて行く。地上の敵も追いかけてるね。んふふっみんな死ねばいい。僕を怒らせたのが悪いんだ。人に迷惑なんか掛けちゃダメなんだよ?あはは!どんどん倒れていくな。いい気味だあはは!みんな死ね!
大量の白い矢は敵を追い続けた。どこに隠れようが僕の矢は捜し出し打ち取るんだ。ホラホラ、逃げれるものなら逃げてみろ。僕はお前らを許さない!白の矢は敵を探して地上を飛び回る。まだいるだろ、ほらほら僕のかわいい矢たち、敵を探せ!
「クルトもういい!敵はいないってヨルク様が!」
僕は声の方をゆっくり向いてニッコリ。
「アンジェ~?まだ隠れてるかもでしょう?ラムジーの国も僕らの国も迷惑なんだよぉ。国作るなら勝手にすればいいけどさぁ。メイワクハチガウヨネ?ネェアンジェ?チガウ?」
「ク、クルト……」
なんでそんな不安そうな顔すんの?敵は全部殺せば済むでしょ?んふふっ僕はやめない。みんな殺すまでやめない。どこかな敵は、かくれんぼかな?出てこいよ!その木の影?草の中?出てこいクソども!みんな死ねよ。僕の邪魔をするなあああ!
「クルト聞いているのか?」
「ハッ!ご、ごめんなさい。聞いてません」
アンジェの大声にワタワタとごめんなさいと謝ると、自分の知らない自分の能力に驚いているんだろうが、後にしろって。はい、すみません。
「俺とお前は前回と同じく上空から攻撃。ヨルク様たち魔道士が地上で防御を担当。残りの騎士は残党を捕まえ駆逐する。大雑把にはこのようになる。理解したか?」
「はい」
細かくはとアンジェが話し始めるとラムジーが、後ろに私がいますよって。大丈夫、指示いたしますと力強い言葉をくれる。
「ありがとうラムジー。頼りにしてます」
「ええ、お任せを」
ふたりで見合ってうふふってしてたら、
「ラムジー甘やかせるなよ」
「すみません」
ラムジーが頭を掻いて大丈夫ですからって。僕はアンジェに目をやると、無表情で目が怖いアンジェ。この目は甘やかされてる部分じゃないところを……嫉妬?みたいな。おいおい……
「では出発の支度を整える間、おふたりはしばし休憩をしてて下さい。整い次第お声を掛けます」
「分かりました」
サミュエル様の指示で地図の前からザッと人が散り、僕らは案内された隅の簡易テーブルで、遅いお昼をいただき待っていた。
「アンジェ、目が怖いよ」
「うん。俺が騎獣を操れたらと常々思う」
「あはは……無理なことを」
分かってるんだよ。こんな国の存亡に個人的な感情を持ち込むのはおかしいことだと。でも、心の奥底に黒い感情が腹に溜まる。これは止められないんだと言う。
「俺はお前しか見えない。どんな状況でも愛しい気持ちが抑えられない。ダメなのは分かってるんだがな」
「ありがと。僕も大好きだよ」
ああ?って睨まれ、一番はお前の無防備さが悪いとお茶に口をつける。
「へ?いやいや、普通に接してるだけだよ?」
更に険しい視線を僕に向ける。なんでだよ。
「俺にはそうは見えない。悪い言い方をすれば、相手に媚を売っているようにすら見える」
「はあ?アンジェ……頭どうかした?」
「……どうかしてるんだろうな」
ちょっと来いと外に出て、人の目につかないテントの裏の木の影に連れ込まれた。なんだろ?
「クルト」
「はい?」
真剣な眼差しで僕を見つめていたけど、グイッと腕を引っ張られブチュウ……んふぅ……
「世の夫が妻を外に働きに出さない理由を、俺はこれでもかと味わっている。世のノルンが…ンッ…出さないのは…こう言うことなんだと……クルト…愛してる」
「んんっ…アンジェ……」
苦しいんだ。ノルンしかいないところでお前が笑ったりするのは、恥ずかしいが取られるような恐怖を感じる。城の催しとは違うんだと腕に力が入る。
「あっ…んっ…アンジェ……愛してます。僕は…はっ…あなたしか……んんっ見えない…から」
「うん……」
アンジェが落ち着くまでキスをされていた。クルトは俺のだと時々呟きながら嫌だって。番はアンの方が夢中になると習ったのに、これじゃアンジェの方が僕に夢中みたいじゃないか。
「ハァハァ……クルト。俺はこの先耐えられるか不安だ」
「ふふっ大丈夫だよ。僕はあなたしか愛さないから」
うんと強く抱き締めてありがとうって。あんまり長くされてたから、こんな時なのにあそこが勃って、萎えてからテントに戻った。素知らぬ顔してお茶を頂いて待っていると、それほど時間も経たずに迎えが来て出発。上空を安定して飛んでいるとラムジーがボソッ
「アンゼルム様は少し不安定になられてますね」
「あー……分かる?」
「ええ。こんなノルンばかりの中に妻がいて、あなたは私の騎獣に乗ってますからね」
ラムジーはアンジェを気の毒にと笑う。
「自分の妻がこの状況なら、やはり番の本能でモヤモヤします。アンゼルム様は強いですね」
「んふっ僕の大切な旦那様なんだ。尊敬出来るステキな旦那様なの」
ええ。私も尊敬しますね。色んな意味でねと。ほら、あそこ見えて来ましたと指を指す。作戦通りに行きますよと上空で旋回し、ヨルク様の防壁の後ろに降りた。
「来たか!撤退させるぞ」
「ハッ!」
数騎の騎獣が舞い上がり、前回アンジェが使った風魔法がスーッと流れ始める。届いた騎士からジリジリと下がり始めた。
「クルト様アンゼルム様は上空で待機!」
「はい!」
すぐにラムジーの隊は舞い上がり、下からの視認が難しいように太陽の逆光に隠れた。
「あと少しです」
「うん」
アンジェも厳しい視線を地上に落としていた。
「クルト、手加減はいらぬ。すればこちらの被害が拡大するだけだ。ヘルテルが取られるということは、このあたりが終わると言うことだ。気合いを入れろ」
「はい!」
我らはあなた方の足になる。いかようにも命令をとラムジー。他の騎士も術の最中の護衛はお任せをと胸を張る。
「頼む」
「ええ、アンゼルム様」
騎士がヨルク様の防壁の後ろにほぼ下がったのを確認。僕らにもスーッと緑の風が届いた。
「準備は整った。好きなだけ攻撃しろ」
風はヨルク様の声だ。確かに逃げ切ったようだな。
「行きます!」
「おう!」
アンジェと術の展開をする。空いっぱいのアンジェの赤の魔法陣、僕の白い魔法陣で埋まる。下からは異様な光景に見えるはずだ。
「アンジェ行きます!」
「一斉にな。三、二、一!」
「行けええ!!」
アンジェの極太アローと僕のミサイルが地上に向かって降り注ぐ。敵兵はなんだ?と見上げていたけど、近くになって気が付き走り出したが遅い!
ドドドッと着弾すると噴煙を上げ爆発。広範囲に隙間なく爆撃をしたんだ、簡単には逃げられない。味方の防壁がどのくらいか耐えるのかは分からないけど……見えんな。んーっと見ていると風が起こり視認出来た。ヨルク様が風魔法を使用したようだ。
「おお……?」
「昨日と同じようですね。あなたの術は破れていません」
「うん」
ヘルテルの騎獣がブワっと爆風の中から現れて敵兵を探す。多少生き残りがいたのか、なにかの金属の光が見えた。
「ここはもうよい。残党はこちらに任せて移動するぞ」
ヨルク様の声が届き、予定通り次の戦地に移動。そして術の展開。一万の敵兵は数千の単位でヘルテルのあちこちの街道沿いに陣営を張っていた。そこを僕らは次々に陥落させて行く。僕は腰のポーションを飲みながら人の数を見極め、魔力の出力調整もした。無駄に爆弾を落とす必要はないんだ。
「あのねラムジー。敵を捕虜にしないの?」
「もう要りませんから。敵の貴族でも見つけない限りね」
「ふーん」
敵兵は見つけ次第殺していたから、なんでだろうかと気になったんだ。次が最後だと到着したが太陽が陰ってしまった。空にはたくさんの雲が覆い、これでは地上から僕らが見えてしまう。
「マズいですね」
「ああ。あまりに高いと矢も爆弾も散り散りになって効果が出にくい」
ヨルク様の移動待ちで少し離れたところにいたんだけど、空の雲は増えるばかり。もう太陽は完全に見えなくなりそうだ。
「どうしますか?」
僕がラムジーに尋ねると、厳しい視線を地上に向けたまま、
「ここは敵の本陣です。たぶん今までのようにはいかないでしょう」
「だよねえ……」
魔道士も騎士も今までより強い者がいるはず。そして数もこの街道が一番多く、五千の兵がいるんだそう。
「開戦からどのくらい減らしている?」
「あー……拮抗してますからどちらも大して変わってないはずです。こちらの負傷者は多いが、死者は少ない。あちらも似たようなものでしょう」
どうするのがいいかと悩んでいると、ふわっとヨルク様の声が届く。
「こちらで閃光を起こす。消え次第攻撃してくれ」
ラムジーはニヤリとした。目が眩むような閃光はヨルク様は得意だそう。戦局が悪くなった時、無駄に頑張るより逃げる方が利口だから、この閃光をヨルク様は身につけたそうだ。ほほう
「下で対策をしてくれるか。ならば閃光が見え次第移動、おふたりはすぐに攻撃に移れるように待機して下さい」
「はい!」
地上の敵兵から見えない高さの上空で待機し、地上を見つめる。ドフンッバフンッと爆風と、剣の鍔迫り合いの音、そしておおーっと雄叫びが聞こえる。
「いつ閃光が起こるか分かりません。気を抜かずに」
「うん!」
僕ら五騎はじーっと地上を見続けていた。ここは簡単には騎士を撤退させられないようで、時間が掛かっている。
「あのね。ラムジーたちのこの鎧って他国との差はあるの?なにか術がかけてあるとか」
「はい?……特に他国との大きな差はないはずですが」
「この鎧で識別できないかと思ったんだ。出来れば僕の爆弾は敵のみを追撃して仕留められる」
えっ?とラムジーは驚き……うーんと考えてくれた。鎧は今回国が全部用意した、ヘルテルの国軍の鎧。国の家紋は入ってるけど、物理防御と魔法の強化くらいしか掛けてかなったよなあって。
「誰か知ってるか?」
「ああ、他国との違いですか?」
魔法省の者がやってるからなあ。ヨルク様だけがしてるなら分かりそうだけど、違うしとみんな悩んだ。うん、無理くせえな。
「チート技が可能かと思っただけですから。ありがとう」
「ちーと?意味は分かりませんがズルが出来るという方向で合ってますか?」
「うん」
でも一応ヨルク様に聞いてみますよとギーが風魔法を使った。おお!ギーも出来るのか。
「我らは誰一人として同じ属性が得意という者はいません。だから最小の班がこの人数なんですよ」
「へえ」
ギーは少しすると横に首を振る。ダメかやっぱり。
「私が掛けた者だけは識別可能だが、他はなあって返事です」
「そっか」
ならしくじると巻き添えありだな。もうすぐだから待てとヨルク様は言っているそうだ。
「なら待ちますか」
「うん」
このやり取りの間、アンジェは考え込んでいる感じだったな。うちに導入でも考えてたかな?
「閃光です!移動します!」
「はい!」
ギーの声にグワンッと下降して狙いが定まる位置で停止。閃光が消えるのを待つ。僕らは閃光に耐えられるゴーグル、まあサングラスのようなものを付けていた。
「クルト、魔法陣の展開を始めろ」
「はい!」
ブワッと空にふたりで出して見守る。とても長い時間に感じたけど……たぶん一分もなかったはず。
「閃光が消え始めました!今です!」
「おう!」
僕らは閃光が収束して、地上の敵兵が確認出来たところで地上に向けて発射!無数の燃える赤い矢と白い爆弾が落ちて行く。
「いっけえ!」
着弾寸前、大きな緑の魔法陣が展開され、半分以上が防壁に当たり防がれた!マジか!
「チッ対策を取られたか!昨日逃げたやつがいたんだな」
「仕方ない!アンジェもう一度しよう!」
「ああ」
その時、イタッなに?僕は頬に熱いなにかを感じた。痛いところを手で触ると、ぬるっとして真っ赤な血が手のひらに。
「敵の騎獣が来ます!」
「クルト防壁展開!下がれ!」
「はい!」
敵の後ろから味方の騎獣もたくさんこちらに向かってくるけど、間に合わない!
「味方に当たらないように防壁展開を指示して!シャイニングアロー!」
「ハッ!」
僕はありったけの矢を放った。が、防壁に阻まれて半分も当たらない!マズいマズい!背中にイヤな汗が流れた。あの暗い場所……あんなところで永遠の時を過ごすなど!アンジェと離れて誰かの体などあり得ない!恐怖で僕は手足が冷たくなるのを感じていた。イヤダイヤダイヤダ。お前は白の賢者だろ!なんとか出来るはずなんだ。考えるんだ!考えろよ!バカな頭で考えろ!いくら矢を放っても当らないんだ。いやあああ!
目の前に敵が近づいて来る、極限の恐怖に耐えられくなった、僕の中のなにかがブツンとキレた音がした。すると体が熱く、怒りが全身に満ちる。
「……僕の邪魔をするな。僕の愛する国、人々を殺すな」
僕は僕の幸せを壊そうと向かってくる敵兵を睨み、殺してやると強く思った。何もしてない僕らを、楽に物を手に入れようとするその浅ましい考え方に虫酸が走る。
「みんな死ね」
ブワッと全身に溜まった魔力を白い矢に変えて放出。敵だけを追撃して行け、どこまでもな。
「あはは!僕の邪魔するやつはみんな死ね!あはは!落ちて行く!みんな落ちろ!」
防壁の横から矢は敵に刺さる。そんな前だけの防壁なんか役に立たないよ?なんだか騎獣の落ちる様が楽しくて高笑いした。こんなに簡単に出来るなら最初からすればよかったんだ。こちらの戦死者なんて出さなくてよかったんだよ。
「ほらほら、逃げてもムダだよ?僕の矢からは逃げられない。んふふっ」
たーのしー!どんどん落ちて行く。地上の敵も追いかけてるね。んふふっみんな死ねばいい。僕を怒らせたのが悪いんだ。人に迷惑なんか掛けちゃダメなんだよ?あはは!どんどん倒れていくな。いい気味だあはは!みんな死ね!
大量の白い矢は敵を追い続けた。どこに隠れようが僕の矢は捜し出し打ち取るんだ。ホラホラ、逃げれるものなら逃げてみろ。僕はお前らを許さない!白の矢は敵を探して地上を飛び回る。まだいるだろ、ほらほら僕のかわいい矢たち、敵を探せ!
「クルトもういい!敵はいないってヨルク様が!」
僕は声の方をゆっくり向いてニッコリ。
「アンジェ~?まだ隠れてるかもでしょう?ラムジーの国も僕らの国も迷惑なんだよぉ。国作るなら勝手にすればいいけどさぁ。メイワクハチガウヨネ?ネェアンジェ?チガウ?」
「ク、クルト……」
なんでそんな不安そうな顔すんの?敵は全部殺せば済むでしょ?んふふっ僕はやめない。みんな殺すまでやめない。どこかな敵は、かくれんぼかな?出てこいよ!その木の影?草の中?出てこいクソども!みんな死ねよ。僕の邪魔をするなあああ!
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