月の破片を受け取って 〜夢の続きはあなたと共に〜

琴音

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最終章 僕が来る前に戻った……のか?

9 僕はなにを?

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 だるっ……そして苦しい。なに?

「起きたか?」
「アンジェ僕……っ」

 ガバっとアンジェから離れた。ここどこ?えっとベッドだ。なんで寝ているんだ?そんなのはいい。

「アンジェごめんなさい!お手紙書いてないよね!今すぐ!」

 僕は急いでベッドから降りて居間に向かっ!腕を掴まれた。

「離して!」
「嫌だ」
「カール!カール!どこなの!カール!ローベルトは?ローベルト!どこ!」
「誰も来ない!落ち着け!」

 落ち着けるかあ!嫌われたくないんだよ。これ以上は嫌なんだ!

「離して!こんなことしてここにはいられない。もうあなたの奥さんじゃないんだ!」
「子どもは!」

 子どもたち……ごめんなさい。ダメな母様で。

「あ……あなたに。どうか……新しい奥さんに頼んで下さい……ごめんなさい」

 育てる資格はない。こんな頭ユルユルな僕ではなく、家庭教師でもなんでも僕よりきっといいはずだ!離せ!

「クルト!俺は怒っちゃいない!聞けよ!」
「嘘だ!カール!カール!父様に連絡を!ねえ来てよ!」

 グイッと引っ張られてベッドにボスンと倒れた。なにすんだ!

「俺を見ろ!」
「見たらもっと悲しくなるでしょ!離して!」
「なあ。俺が今から上書きしてやるよ」

 は?上書き?やだ!触るな!

「カール!カール!お願いカール!」
「来やしない。俺が来るなって言ったから」
「なんで……」

 僕を逃さないようにギュッと締め付ける。

「俺はお前が誰と寝ても愛している」
「嘘だ!僕はアンジェが誰がを抱いたら嫌だもん!離して!」
「お前の代わりなどいないんだ!俺はお前がいないとダメなんだよ!」

 どう言ったら信じてくれる?ティモとキスしたくらいなんでもないと。なんでもあるだろ!

「自分が許せない。こんなに愛されてるのに怖くて抵抗出来なかった。そんな自分が嫌なんだよ」
「当たり前だろ?信じていた者に襲われて怖くないはずがない」

 あの状況でおかしくなっているティモを、お前は鎮めたんだ。すごいことだとアンジェは思ったそう。俺が叱ったのはお前とティモの主従関係に対してだ。それ以外は叱ってないと。

「でも……」
「ティモはお前の術で正気になったよ。愛しさが暴走しただけ。どうやったら側にいられるかと考えているうちに、愛情を欲と結びつけた。側仕えが無理なら愛人でもいいってなったんだ」
「そう……そこまで僕の側にと思ってくれたんだ」

 ティモの兄弟はノルンばかりで、彼が一人だけアンとして生まれた。それも末の子で親は大切に育てたが、世話好きな性格だから弟が欲しかったそう。それの代わりがお前だと言う。主なのに慕ってくれて、大人になって中身が変わろうとも慕ってくれるのが嬉しかった。主だけど家族のようでとても好きで行き過ぎた。そう言ってたそうだ。

「弟から離されると恐怖に飲まれたそうだ」
「ティモは?」
「もう領地に向けて出発した。二度とクルトの前に顔は出さないと泣いていたよ」

 彼の再就職でうちの屋敷に帰るはずだったけど、それは無理と父上が却下したそうだ。いくら側近のモーリスの子であろうと、やはり自分の子はかわいいからって。父様………

「僕はどれだけ寝ていたの?」
「三日かな」

 魔法で寝かされてたんだね。でも、それとこれは違う。やはり離縁してもらおう。

「アンジェ。僕はこうなった責任は自分にあると思う。番の解消をして下さい」
「嫌だよ」
「なぜ?白の賢者の仕事はこれからもします。アンジェとも一緒に働きます。ですから」

 お前は潔癖だなあって頭を撫でてくれる。キスくらい誰とでもするだろって。はあ?

「アンジェはベルント様以外に誰かと?」
「当然だろ。教育もあるし……まあハンネスやシリウスと遊んだこともある。向かなかったけどな」

 うそ……え?僕はアンジェに押さえつけられながらも顔を上げた。

「お前は俺がセックスだっけ?上手いって言ったろ?教育と番の能力だけで上手い訳ない。数こなさないとな」
「そ、そうなの……?」

 当たり前だ。娼館から呼んで別荘でしたもんだ。ユリアンが一番喜んでたけどなって。

「あの……」
「若いノルンが性欲我慢出来るはずないだろ。アンは初めてだということが貴族の常識。お手つきの者など嫁に出せないからな」

 以前お前は俺に聞いたろ?こんなこと話せば俺がお前に嫌われる。お前の世界にはないっぽかったからなって。まあ乱交パーティがない訳じゃないけど、日本じゃイケイケの人だけだろうなあ。僕はないし、大学でも社会人になっても聞いたことはない。

「貴族の嗜みで当たり前のことだ。アンは知ってはいるが気にもしない」
「へえ……」

 民はまた違うが、ユリアンはそれが楽しくてやめられなかったんだ。そんな者も昔からいる。子どもを残せば親は責めなかったからだそう。

「汚らわしいって言うならこの世界の成人のノルンは全部汚らわしいよ。番を持つまで遊ぶんだ」
「……はあ」

 お前はアンだし屋敷に籠もってたから知らなかっただけだよって。前のクルトはどこかで聞いていたかもだが、当然と受け止めて記憶にも残らなかったんだろうって。

「それ本当に?」
「嘘ついてどうする。じゃあどうやってお前を満足させてるんだ?ベルントは俺のセックスが拙いと言ったが、番の後は相性だよ」 

 貴族はそんな下半身事情なと口にはしない。品行方正に生活しているって顔するんだよと。

「あーやだやだ。俺が嫌われるだろ」
「え?……ああ」

 セックスが出来るようになる十五から十六頃の話だけどなって。俺は向かないとは思ったが、ベルントを喜ばせたくてそういったものに参加してたと。

「お前はこの体は初めてだろうが、経験はあるんだろ?」
「あ?ああうん」
「同じだよ」

 同じなのか?……分からんが経験と言うなら同じか。僕もこちらで言う娼館の人を買ってたみたいなものなのかも……?ああ?そうなの?

「キスくらいしてないのと同じだ。だが、番になってからはやはり堪えた。お前にティモの強い匂いはな」
「ごめんなさい……」

 でもまあ、病の時でなくてよかったよって。あの時なら反射でティモを殺めていたかもって。コワッ

「この世界はきっとお前が考えているような世界じゃない。見目麗しいイケメンですらなにしてるか分からん。国によっては体を合わせなければ嫁にはもらわないなんてのもある。アンの初めてより、その先を大切にするんだ」
「へえ……それは前の世界の価値観に近いね」

 人は昔に比べてかなり増えた。病が昔より治るし、ポーションも優秀になった。世界が落ち着けば娯楽を求めるのは必然。その一つにセックスがあるんだとアンジェは穏やかに話してくれる。

「戦の暴力でアンを襲うのは意味が違うし、戦士が戦場でしたがるのは死への恐怖だから」
「うん。その違いは分かるよ」

 こんな話をしていたら外から鳥の声がする。もう朝か。でもなあ、こんな話を聞いても僕の間違いは消えない。妻としてかなりの問題行動でしょ?家臣のコントロールも出来ず襲われるとか。逆はまあありそうだけどさ。やっぱり公爵家の者としてはどう考えても能力不足。妻としてダメ過ぎるもん。

「アンジェ。話してくれてありがとう。だけど僕は奥様としてどうしようもなく足りないよ。あなたの妻でいることがいいことではないと感じるんだ。もっとステキな方がいるんじゃないかな」
「はあ?」

 子どもは僕が産んだからいらない人でもいい。きっと公爵夫人として、立派に立ち回れる人がどこかにいるはずだ。離れるのは身を切られるほど辛いけど、公爵家として考えると僕は足りなさ過ぎる。
 
 こうなって過去を考えれば、いつまでも僕は大人になりきれず、奥様としての仕事はほとんどしない。お茶会を開き情報収集もしないし、仲間を増やしたりもしない。身内や気の合う奥様と少人数で楽しくとしか考えてもいなかった。
 
 子どもの教育も転生者を盾に取り、屋敷の者に丸投げ。可愛がるばかりで何もしていない。ただアンジェにかわいいねって大事にされてるだけ。これ奥様失格じゃねえの?ねえアンジェ?

「ふむ。一理あるが、俺はお前の考え方が面白くて好き。こちらの人では思いつかない考え方をするし、ティモのこともそうだ。恐怖の中でもティモを思いやる強さがある。お前は俺にたくさんの物をくれたよ」
「それと奥様の仕事は違うでしょう?」
「そんなものどうでもいい。変わった家だと言われても気にもならない。妻がいたらなくて謝るのは得意だから」

 そ、それ……得意になっちゃダメなヤツ。僕が更にやったら本当に特技になる。

「でもね?僕みたいなのは白の賢者はともかく、奥様としては目立たず、頭の中身が僕くらい残念な方がいいような気がするんだ。こんなに年取っちゃったけどさ」
「頬に手形つけるか?」
「え?」

 アンジェは怒鳴るようにグタグタうるせえぞ!黙って俺の妻でいればいい。俺がそうしたいんだからそれでいいんだ。黙れと叱られた。

「ごめんなさい……最後にね。僕はあなたの妻でいることは過分だと思います。貴族の身分はこんなところに出るんだと感じてます。だからみんな同じくらいの家に嫁ぐんだとつくづく思いました。きっとこの先も僕はアンジェの嫌なことをする。気が付かずにするはずなんだ。だから……」
「ベルントで慣れた。あれほどの嫌がらせを受けることはこの先ないはずだ。気にするな」
「ゔっはい」

 ベルント様を出されると僕は霞むかな?そこまで暴れる度胸はないしアンジェが……好きなんだ。とても好きなんだ。たから……迷惑になりたくない。お前の迷惑や嫌な行動なんて今回くらいだ。今までなかったからと笑った。え?ええ?なんにもなかった?そんなはずは……

「ないよ。俺はお前を宝物くらいに思ってるから。だから他人に触られるのも嫌がったんだ。俺の本当に大切な人なんだよ」
「そう……ありがとう」

 正直子どもよりお前なんだ。キスしていいかって。ゔっ……ちょっと怖い。

「触れるだけならいいか」
「う、うん」

 顔を上にされてチュッってされた。……唇が硬い。ティモより硬くて違う人と分かる。唇も厚くてノルンだ。でも気持ちよさより怖い。

「どうだ?」
「……怖い。ティモにされたことが頭に浮かんで…怖い」
「そうか。なら少しずつ慣らしていこう。まずは朝のキスから」
「うん」

 まだ早いから風呂入ろう。お前ずっと洗浄魔法だったからなって。えっと……これトラウマになってるぞ。セックスに繋がりそうなことに拒絶感がある。……どうしよ。


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