緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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三章 東の城 

1 東の王の退位

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 東のアメーリア城の叔父様が、突然退位すると言い出した。西の王と二つ違いでとても聡明な方なんだけど、なんでだろ。

「妻とまったり余生を送りたくなったそうだよ」
「え……まだ五十なったかならんくらいでしょ?」
「まあなあ。今東はとても安定しててな。俺でなくてもいいだろってウィリアム様が言ってるそうだ」
「ふーん」

 東の王子たちも領地運営に携わり、特に問題もない。ロベールが引き継ぐなら余裕持ってするのが良かろうって。

「アーダルベルト様はまだ退位する気持ちはないのに、なんでだろ」
「叔父は多趣味で魔獣討伐も好き。東の王になってからは事務関係ばっかで楽しくなかったそうだ。自分の天命も見えてきたし、俺も嫁ももらって落ち着いたし?今が辞め頃だろって」

 簡単に言えば、体が動くうちに楽しみたいそうだ。へえ……

「お会いする機会は少なかったけど、アーダルベルト様同様大切にしてくれたんだよ。みんなの陰口に落ち込んでたら慰めてくれてね。妃殿下もさ」
「ああ。退位しても催しには出るはずだから、そこは変わらんだろ?」
「そっか」

 ただ身分は公爵に下がる。新規公爵家になって、今後は西に屋敷を構え、王の手助けをすることになる。

「でも、ほとんど城には来ないだろうな。奥さんと旅行に行くって言ってたから。王は行動制限も多く、他国に遊びに行くなんて出来なかったから、見聞を広げるんだと楽しそうだったよ」
「ああ、それいいね」

 それでな。俺たちはこれから東の城に行くことになる。心づもりをと言われた。そっか!

「王が退位したんだから当然だろう」
「そっか……そうだよね」

 僕らが東を統治するんだった。そっか……なんか実感が湧かないなあ。

「一年後だからすぐではないけど、覚悟はしておけ」
「はい。僕はなにかすることある?」
「特にはないよ。基本西が国を動かすんだ。俺たちがやることは、管轄の領地のお願いを聞いたり、いくつかある東の砦の管理だな」
「ふーん」

 東の王とは言うが、直轄地の領主みたいなもんなんだ。西が遠くて管理しきれず……嘘です。あちらは鍛冶職人の領地。荒っぼい領主が多く気が短い。すぐに城に文句を言いに来るから抑えなんだと、ロベールは嫌そうに言う。大昔、その対応窓口に毎日誰かしら来るから疲弊して、東の城を作ったらしい。うん、そういえば結婚前の教育で習ったよそれ。

「叔父上はなんかかわいらしいところがある人物に見えるだろ?あれ嘘だから。どこの野生の熊だって感じで、筋が通らない嘆願書なんか怒鳴りつけてたんだ。中身は父上とは大違いたけど、優しいのも本当」
「そんな感じ……あったな」

 僕の陰口が聞こえた時、リシャールちょっと外すよとニッコリしながら、陰口言ってる人の肩を組んでよく消えてたな、そう言えば。

「だろ?脅してたんだよ。まあ、効果は薄かったけど、その日くらいは効果ありだ。マジ怖いからね」

 常に西の城にいる訳じゃないから滞在中だけだけど、その人たちからの嫌がらせはなくなってたな。そっか……

「家族思いで身内を大切にする方だな。俺も子供の頃はあちらに遊びに行って、あちらの王子たちと走り回ってたんだ。今もだけど」

 あちらの王子は西の王にノルンの子が一人も生まれなかった時の予備になる。予備とは言い方が悪いけど、実際そうなんだ。たまにアンばかりの王がいるからなんだ。アンには王位継承はされない。竜の力うんぬん関係なくね。側室の子もね。

「なんでダメなの?」
「側室の子は母親の身分が低いからだ。伯爵以上の子どもしかダメだし、その、王の魔力の基準に達しない子がほとんどなんだ」
「なんで?」

 はあ……言うのとため息。ぶっちゃければ側室を愛してない王族が多く、それも下賜するための子どもだからその子にも愛情なんかない。体の相性を優先するそうだ。まあ、夜伽が子を産んでるようなもんなんだと、苦々しく吐き捨てる。

「え……」
「宰相とか、お前の父親とかの立場の人が認めた者がなるんだ。どの王族も好きで持ってはいない。政治の駒なんだ。側室も子どももな。全員ではないけどさ」

 なにそれ……呆然とロベールを見上げた。隣に座るこの人もいつか?そんな気持ちで側室を持つの?相手はそれでいいの?ロベールをとても遠くに感じた。

「リシャール?」
「へ?あはは……なんでもないです」

 ユアン様のように好かれてとか、僕らが好いてとかだと思ってた。なに……理解出来ない。ウソでしょ?

「リシャール」
「は、はい」

 スッとロベールの腕が肩に回ったのを無意識に払い除けてた。

「なんで?……え?」
「あ!ごめんなさい!」

 ロベールは何か察したようで話を続けた。

「妻がこんなになるから父上の代から持たなくなったんだよ。兄上はいるけど、兄上を慕っている者ばかりを選んだそうだ」
「そう……アルフレッド様はどう思ってるのかな」

 聞いたことはないが、四人とも学園時代の知り合いだそう。少なからず多少の好意はある人たちだそうだ。身分が下で恋愛の対象にならなかった友人で、こんな場合、アルフレッド様ならば側室になろうと手を上げた人たちなんだって。そっか、気持ちのある人たちなんだね。よかった。

「昔みたいに子を産むためだけの側室など持たないよ。愛人はそのまま愛してる人。愛しいが身分が側室に出来ない庶民とか、貴族なんだ」
「そう……愛人の方が愛されてるのか」

 悪く言えばペットだよ。屋敷を与えかわいがるだけの人だ。みんな足繁く通うよって。

「側室の方は?」
「……子が出来れば行かなくなる人が大半」

 だから辞めることもいつでも出来るようにしている。愛のない生活はいくらお金があっても辛いものだからと、小さな声になった。

「東に行ったらロベールも持つの?」
「はい?俺は持たないよ。好きでもない人にちんこ勃たないもん」
「うそ。ノルンはアンとは違うって聞いてる。好みのアンであれば勃つって」

 そ、それは人によるとしか言えないそう。なら、好みだから抱きたいとかないの?好みの人が迫ったら?抵抗しないでしょう?と見上げたら、バカなの?と目が言ってるような?

「お前なに言ってんの?そんなに俺が信用ならないの?」
「なる方がどうかしてる。あなた第二王子で東の王になるんだよ?どこを信用しろと?」

 今の話聞いてなにを信じればいいの?僕はユアン様を拒否したけど、それは僕が純粋な王族ではないからだ。もし元々王族なら躾されてるから、そっかなと思うかもと考えた。

 叔父様が退位すると、東では王族が身近にいなくなるんだ。僕らだけで、元王子たちは近くにいて手伝ってくれるのは知ってるけど、この部分は期待出来ない。彼らもロベールとある意味同じ立場だから。こんなことに口を出してくるのは臣下だけだ。

 ロベールは怒りと哀しみに似た顔をする。僕はどんな顔をしているか分からないけど、疑ってるって顔をしているのだろう。

「ごめんなさい。そんな愛情のない人を囲うことが王族は出来る人なのかと思ったの。僕には出来ないから……ごめんなさい」

 目の端ではクオールもミレーユもハラハラして見ていた。口を出そうかどうしようか躊躇っているように見えた。

「リシャール、俺がそんな人に見えるのか?」
「分からない。僕はあなたの全部を知ってる訳じゃないから。心の内など分からない」
「そうだな」

 そう言うとロベールは黙った。僕も言葉が思い付かず黙っていた。

 アンとノルンは見た目も能力も遜色なく、ぱっと見区別はつかない。よく見れば少し滑らかな体付きってくらいしか差はないんだ。だけど、考え方は当然違う。子を産む性なためか、アンは繊細な感性を持つ人が多く、手先が器用だったりする。そして性に関することは全く違う。それこそアンは生涯の相手を探すけど、ノルンは手当たり次第食っ散らかす人もいる。性風俗もノルンのための物ばかり。アンのためのなんかちょっとあればいい方だ。

「俺はリシャールを愛してる。生涯お前だけでいいと思っている。当然側室は持たない」
「ふーん」

 ロベールは僕の返答が気に入らないのか、頭をガシガシ掻いて唸ってグアーっと大声を出した。

「俺も普通のノルンでしかないんだ。いつか愛人は持つかも知れない。こればかりは否定出来ない。お前以上の人が現れれば……そのな」
「うん」

 これは俺ばかりじゃない。お前もだ。お前の血も特別だから、ユアン様の件はモーリッツが騒いだんだ。彼は魔力も多く人柄もいい。側室にうってつけで、ブランデンブルグ家にとってはいい話だった。だからお前が断ったのをいつまでも根に持っていて、王に無理やりにでもと相談をしていたそう。ゲッ……
 父上なにも言ってなかったけど。お前が嫌だといったんだからと、一応は納得してたからな。諦めが悪いだけだが、王に未だに話してるそうだ。父上は……もう。

「俺もお前も、相手を信用させる言葉など持っていない。それはここにいるふたりもだ。彼らも身分が高く、子の能力次第ではありうる」
「そうだね」

 我らはあなたたちとは違う!普通の貴族はエロいとか性欲魔人とかじゃなければ愛人など持たないよと、オロオロ。

「でも、ゼロじゃない」
「それは……そうですが」

 愛人にしなくても浮気もあるだろう。結婚の契約はそういったことに縛らない。ならなにを持って信じるんだ?と問われたけど、分からない。

「ならお前は肌感覚が合ったなら、ユアン様を側室に迎えたのか?」

 はい?何バカなこと言ってんだ!どこからそんなセリフが出てくるんだ!

「迎えるわけないでしょ!あなたが好きなんだもん。他の人はいらないんです。僕はあなたで満足してますから」
「それが答えだ。その相手を思う気持ちがある限り信用になる」
「あ……」

 だろ?俺も同じだ。お前をとても愛してる。俺の側にいて欲しいのはお前だけ。他は目に入らないし、側室は断っている。好きになれないからなって。断ってる?

「お前も言わなかったろ?俺にも来るんだよ。クオール」
「ハッ」

 ほらこれって、たくさんの釣書を見せてくれた。まだ来てたのか!

「来なくなるはずないだろ。死ぬまで来るよ」
「そうなのか」

 生活が苦しいとは言わないが、楽したいって姫は正直いるんだよ。まあ、親が側室のお手当を当てにしてると言うのが正解だがなって。子を産んでくれるからそこそこの金は出るんだ。それを横流しさせる当主は多い。だから死ぬまで来るんだよって。当然本人が死ぬまでで、側室を辞めても当座の支度金として結構なお金が辞める時に出る。

「実際家の都合も大きいものなんだ。金は邪魔にならんからな」
「はあ……」

 お前みたいないいところの姫には想像出来ない世界がある。身分の低い家はもちろん、何かで失敗して負債が多いとかもある。そんな時に姫を王族に売るんだ。当然他国にも売りに出してるそう。売るとは言葉は悪いが事実だよと。マジか……

「この国は一見裕福だが全員じゃないし、いつもでもない。その受け皿になる部分もあるが王はそれを嫌った。俺も嫌だ」
「そうなんだ」

 だから本気でヤバそうなお家には、こっそり貸付したりしているそうで、立て直したら返せって出世払いだそうだ。へえ。

「東に行くことになって不安になったのか」
「うん。ごめんなさい」

 お前が嫁に来てから、あまり後ろ暗いところは見せないようにしていたんだ。お前繊細でこうなるかなって思ったから。俺をよく純粋だねって言ってくれるが、そんなはずはない。王族は見なくていい物をたくさん見聞きする。それでも俺はそれに染まりたくないとやって来た。だからだと。

「王も他の兄弟もだ。悪い事柄とは隙も多く魅力的だが、それに染まれば終わる。それが当たり前になった人物に人は魅力を感じないものだ」
「はい」

 まあまあこの辺でお話は終わりにして夕食に参りましょう。多少遅くなってますからお二人だけかもしれません。行きましょう!とふたりは話を遮った。

「そうだな。これから一年はある。その間にリシャールは心を強く持ってもらわねばな」
「はい。努力します」

 無理して頑張らなくてもいいと軽く唇にキスをしてくれる。

「俺はお前にあげたんだ。それにきっとこの先愛人など作らないと感じる。お前以上の妻は見つからないと確信してるから。モーリッツのようにな」
「ありがとう。そうなることを願うよ」
「俺もだ」

 さあ、飯にしようと立ち上がった。







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