お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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花嫁〜獣の世界編

29 兄君の訪問 3

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 宴は続いていた。翠のご両親についてだ。

「両親はとても愛し合っていたんだ。なのに母君の美しさに帝が欲しがっただけ。竜が人の妻を寝取るのは日常茶飯事だからさ」
「へえ」

 僕に聞かせるように雨月様は話してくれる。

「味見というのかな。気に入れば誘い、断られれば強引に。元は動物でそこは本能なんだよ。悲しいことだが俺は大人になった時、親のことは仕方ないと割り切ったんだ」

 強く残る本能に逆らえないのが竜以外の獣も同じ。妻の方も素敵な人だと思えば体を許すし、夫もよその誰かをなんてのもある。動物あるあるだそうだ。

 帝はその頃たくさんいる后の一人が寿命で亡くなった。そんな時たまたま都に出向いていた父君たち夫婦。そこで出会ったのだそうだ。興味ないはずなのによく知ってますね、雨月様。

「母君は抵抗したけど無理で、そのまま連れ去られたんだ。父君は取り返そうと抗議したけど、側近たちに追い払われたらしい」
「あ……」

 その場に僕はいないけど目に浮かぶ気がした。その時父君が強く抵抗しなかったのは相手が「帝」だからだろう。戦って間違って殺してしまったなんてあってはならないから。どれだけの辛さがあったか、結婚した今の僕には理解できる。翠が取られたら?恐ろしくて考えたくない。

「それで父君は住まいを都からここへ移した。自分の妻でなくなった母君を見たくなかったんだ。それで俺たちも少しだけここに住んでたんだ」
「そうですか」

 でも父君も諦められなくて隙を見て会いに行き、翠が生まれた。帝は隠れての逢瀬も知っていて放置。その頃には兄君たちは御所で働いていてここにはいなくて、そう聞かされているとのことだ。ここは僕も聞いている。

「母君は父君への恋慕が強くなり、帝の傍にいることが苦痛だった。父君が何も言わないのは妻をそれほど好きではなく、自分への嫌がらせもあったのでは?と疑った」
「なぜ疑ったのですか?」

 雨月様は微笑み、竜は家族仲も兄弟仲もドライなのが普通。親は子を愛する気持ちは少なめ。乳母に丸投げで好きに生きるのが普通だそう。独立心が強く、この世界を守る者だと育てられるから「家や竜としての力を守る気持ちは強い」らしい。世界中の貴族や王族と同様、自分で子育てしない。その弊害かなあと少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「だからな、人ふうに言うならば為政者にしかなれない種類なんだ。生まれ持っての政治家。それ以外に生き方はない。翠も時々いないだろ?神社以外に御所での役目があるからだ」

 そう言えば数ヶ月に一度くらい十日ちょっと出かけるっていなくなるな。僕が嫁いだ一年目はなかったけど、翌年からは時々あった。そうだよね?と翠を見上げた。目が合うと、

「一年目はわんわんに頼んでたんだ。代理で行かせてな」
「へえ」

 雨月様はこのへんが俺たち兄弟を異端と見る向きが出る所以であると、ぐい呑みの酒を一気に飲み干した。

「竜なのに家族を大切にするのが不気味らしいよ。みんなはね。竜としての本能がないのかってな」
「でも……家族は大切なものではないのですか?僕も自分の両親と離れていても、忘れられても思いはありますけど」
「そうだな、普通はそうだ。人と同じように天帝は我らを変えたはずだったんだ。俺たち兄弟は異端だ」

 世間では突然変異の竜と思われている。竜は天帝の性格が強く出て「愛情と欲」は別。特に生まれた子に愛情が弱くなる「クセ」があるそうだ。竜としての責任は感じてるから大切に育てるらしい。だからあの結果は母君が悪いとか、父君自体が異端だったとかいろいろ言われるらしい。

「悪くはないんだがな」
「俺もそう思います」

 二人は生まれた子供に心を寄せるのはいいものだと微笑む。そして話は別の方へ行き、また僕は隣で聞いてるだけになる。子供を愛しいと思う心があまりない、その事実は受け入れがたいかなあ。僕は愛情たっぷりで育てられたから、竜の感覚に共感はできない。僕が庶民だからかもだけど。

 僕は目の前のイオが作ってくれた料理に舌鼓。二人の和やかな会話も、わんわんがツッコミ役なのかしらと思う掛け合いも楽しかった。そろそろお開きか?って時間になると。

「夏樹、来い」
「へ?どこへ?」

 僕は雨月様の差し出す手の意味が分からずフリーズ。この手は何?

「早く取れよ」
「なんでですか?」

 やめて兄君と翠。わんわんもやめろって僕の目の前の手をスパンっと叩いた。

「夏樹様は人です。獣ではありませぬ。こちらの倫理観を教えなくていいのですよ」
「獣だろ?人という種類の」
「そうですが止めて下さいませ」
「ええ?気に入ったらと楽しみにしてたのに」

 やはりかと二人はゲンナリしていた。なら百歩譲って翠が来いと雨月様はニヤリとし、翠は寝言は寝て言えと嫌そうだ。

「夏樹様は他の男や女は知らなくていいのですよ」
「でもさあ。え?他を知らないの?来た時俺は二十五と聞いてたけど?」
「グッ」

 わんわんの言葉に反応した雨月様に、僕はドキリとして喉が鳴った。正座してた膝に強く拳を当てて真っ赤になる。そうだよね、経験があって当然だよね、今どきならさ。翠が邪魔しなきゃ僕だってあったかもしれない。いや、ひとりやふたりあったはずだ。あったはずなんだと心の中は言い訳だらけ。もしかしたら関係ない可能性が頭にちらつく。

「兄君に話したでしょ。夏樹を小さい頃から見守ってたのを」
「ああ、あれ本気で邪魔したのか。夏樹のこの顔はさ。お前悪い男だなあというか、陰湿だよ」
「自覚はしていますが嫌だったのです。でもあなたには言われたくないですね」
「ふーん」

 雨月様はさすが俺の弟、性格悪いわって大笑い。人の子の純潔を所望するとは恐れ入ると呆れながら楽しそう。

「夏樹辛かっただろ」
「ええ。ものすごく」
「アハハッ」

 でもね、今はそれでよかったと思ってもいる。翠はいい旦那様だし満足している。それどころか初恋みたいなものだから翠しか興味ないしね。そう言うと策士だな翠と雨月様はニヤリとした。

「俺だけを愛して欲しかったのです。俺らしいでしょうよ」
「まあな。俺も似たようなもんだからな」

 上の兄君たちはつまみ食いはするらしいけど、奥様にバレないように立ち回る。愛しているからだそうだ。妾などいない。でもたまに欲を強く感じる者がいるそうだ。

「興味はあるがやめておこうかな」
「そうして下さい」

 雨月様はわんわんに町から誰かを呼べ。高ぶったこの体では寝られない、早くって。

「かしこまりました」

 わんわんはブスッととした声で出て行った。その後に続くように「また明日」と雨月様も出て行った。僕は彼らの姿が見えなくなると、大きな安堵のため息が出た。

「よかった……」

 翠はバカだなあと笑う。さすがに僕を差し出したりしない。先ほどのこともあったから、もし何かあれば戦う意思はあったようだ。そりゃよかった。

「差し出すはずないだろ」
「……疑わしい気持ちもありました」

 そんなこと言うなと苦笑いを浮かべ、さっきはごめんと僕の頬を撫でる。

「お前の部屋でのことは反応が遅れただけだ。こうなるかもと初めは隠してたんだ。自分が疑わしくて」
「自分が疑わしい?」

 僕がしっかり彼の目を見るとふと目をそらした。翠は反応が遅れるかもだし力じゃ勝てない。兄君は好きだけどこの部分は信用していない。警戒はしてたけどわんわんに助けられてしまった。不甲斐なくてごめんともう一度、目を合わせずにね。

「翠にも苦手や勝てないものがあったんだね」
「そりゃあるさ。兄君たちだけはダメなんだ。すぐに幼い頃の気持ちに戻ってしまう部分があってさ。だからあんまり会いたくない」
「ふーん」

 なんてかわいいんだろ。末っ子っぽい感じがとてもかわいい。頬を染めて照れてるというか、不貞腐れているというか。翠にはこんな一面もあったんだね。

「抱いて翠。とてもしたい」
「え?」

 驚いて僕を見つめる翠。僕はこんなかわいい翠を見るのは初めてだった。自分から翠の頭を抱えキスをした。守ってもらえたことが嬉しかったんだ。

「なつ……んっ」
「大好き翠……」

 僕は翠を押し倒し貪った。すると、お前が求めたんだから分かっているだろうなと唇が離れた。もちろん。

「朝まで付き合えよ」
「うん」

 キスだけで僕のお尻はぬるぬる。気持ちが高ぶってしょうがないんだ。当然前も勃ってて、僕は腰を押し付けていた。

「エロいな」
「翠がかわいいからだよ」
「だろう?」

 部屋に戻ろうと翠が僕を下ろして、「誰にも触らせない。これだけは約束する」心がこもっていると感じられる声色だった。

 そしてその晩僕らは愛を確かめるように体を重ねた。気分が乗っている時、僕は得がたい心の満足感がある。エッチとかセックスとか軽い言葉では足りない気分になる、そんな夜だった。





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