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帝の代替わり編
30 都の御所 1
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兄君の訪問から半年過ぎた。嫌だと思ってることは駆け足でやってくるものだよね。
僕らは早朝屋敷に迎えに来た「空飛ぶ牛車」で都に向かった。
この牛車は当然先導する人がいるんだけど、怖いことに空中をまるで「地面」があるように歩く。何もないのに。そして当然ながら平安のころのような速さじゃない。自動車並みなのスピードなのに「歩いて」いるんだ。狩衣や烏帽子が乱れることもなくね。完全な不思議現象であるが、突っ込んだら負け。僕はこの世界では当然なのだと受け入れている。
「翠、これやばい。揺れる」
「まあな。ふわふわするかな」
揺れるとは違うか、上下にふわふわするんだ。遊園地の飛行機の乗り物みたいな感じでさ。それもゆっくりふわふわして何とも嫌な感じ。
「酔いそうなんだけど」
「酔うとは?」
「ああはい。いいです」
不思議そうにされたので、乗り物酔いは知らなさそうだ。僕は仕方なく横になった。牛車の中は二畳より少し広い畳の部屋みたいで座布団がある。足を伸ばして寝るのに問題はない。
「翠足伸ばして」
「え、なんで?」
いいからと抱かれていた体を離し、彼の片足を掴んで伸ばした。僕はその足を枕に横になる。何してるの?と不思議そうな声が上からする。僕は乗り物酔い起こしそうだから横になるんだと説明した。ふーんと翠。
「横になると楽なのか?」
「起きてるよりはね。そのうち慣れるかもだからそれまでは」
「ふーん」
こんな感じで都に向かってたんだけど、前の日に早起きだからと断ったのにエッチに持ち込まれ、僕は疲れてたからすぐにウトウト。どのくらい経ったのか肩を叩かれ起こされた。
「下を見ろ。都が見えるぞ」
僕はのそりと起き上がり横の引き戸の窓を開けた。眼下には大きな街があった。少し前の昭和三十~四十年代かな、高度成長期のような町並み。僕らの住む町よりずっと近代的に見える。そして通りには人がたくさん行き交う。
「すごい。ここってこんなに人がいたんだね」
「便利だからな。都に人が集まるのは夏樹の世界と同じだよ」
「そっか」
都を眺めていると林が増え、そして少し小高い丘の上に、歴史の教科書の絵巻よのうな御所が見えてきた。
「マジかッこの時代錯誤なこの……なんだこれ!」
奥は低い山が連なり、その手間に広大な屋敷群がある。周りは塀が囲み、東西南北に大きな出入り口が見えた。もう平安時代の御所がそのまんまあるようだ。すごーい。
「タイムスリップしたみたい」
「ここは今お前が着ている狩衣が普段着だった時代からある。時が止まったように確かに見えるな」
「へえ」
当然火災が起きたりもしてるけど、同じように建て替えるから見た目は千年以上変わらないらしい。その前はもっと簡素だったそうだ。僕はあまりの景色に言葉をなくし、ただただ眺めていると下降し始めた。
「正式な訪問だから朱雀門か」
翠の独り言が聞こえてきた。僕は御所の入り口の名前など知らない。たぶんあの頃の呼び名を真似ている可能性は高いけどね。僕には知識がない。その頃の風習や生活様式なんて学校の習ったくらいで何も分からない。絶対翠から離れないようにしなくては迷子確定だよ。それに何か粗相をして彼に恥をかかせてしまうのも確定みたいなものだ。翠が僕の横から外を眺め、
「もう着くぞ」
「はいっ」
緊張のあまり声が大きくなって翠がビクッとした。ごめんなさい。
「緊張しなくていいから。隣にいればいいから」
「はい。ごめんなさい」
僕の肩を叩いていつもどおりでいい。お前がここに来ることなんて、どんな長い人生でもそうそうあるものでもない。この時だけ我慢してくれと頬にキスをくれる。
「がんばりますっ」
「い、いや。頑張らなくてもいいんだけど」
そんな話をしていると門の前に到着。広い屋敷群と同じだけの広場が門の内側に広がっていた。牛車は石畳をゆっくり走り、屋敷群の階段前に止まる。どう見ても正門だ。
「お疲れ様でした」
お付きの方が扉を開けてくれて、僕は翠に続き車を降りた。衣服を整え屋敷の方を向くと、僕の心は完全に凍りついた。
「うっ」
まるで京都御所の玄関でございます。見渡す限り修学旅行で見たあのまんま。人が観光客ではなく働いている人たちなだけ。
「こちらへ翠様、夏樹様」
「ああ。夏樹来なさい」
「ひゃい、はいっ」
呆然としていた僕は急な声がけに声が裏返った。
「緊張しなくていい」
「はいっ」
翠はため息混じりに笑い、周りの人は見なかったことにしてくれているのか反応なし。ギクシャクとしながらも翠の後に着いて行く。階段を登り草履を脱ぐ。そのまま入れと言われ広く長い廊下を歩いた。
「左側は帝家族の私的エリア。中央の建物はすべて仕事の場所だ。右はその縁者の私的エリア」
「へえ……」
建物は十九の建物で分かれているらしいが、平安の頃のような間取りではないらしい。もう少し細かく分かれているそうだ。そしてすれ違う人たちの手にはスマホやタブレット、モバイルノートの人がちらほら……なんだこれ。不思議に思ったけど黙って着いて行く。建物はあの頃のままので襖絵も豪華。畳のいい香りがする。
「どこまで歩くのかな」
「まだ先だ」
最初の建物を抜け渡り廊下を越え、また建物の中を歩く。これを三度ほど繰り返すと右に曲がる。そして一番奥の屋敷の部屋に通された。
「こちらでお待ち下さいませ」
案内の猫さんが扉を開けると見慣れた和室だ。翠の家の客間のようだが広い。二間で奥は寝所、手前は居間として使うと翠の説明。
「昼餉をお持ちしますので少々お待ち下さいませ」
「ああ」
案内の猫そんは一礼して下がった。今回わんわんも着いてきてない。二人きりなんだ。……不安しかない。
「あの翠…その……」
和室の上座に座る翠に声を掛けたらすぐに別の人が失礼しますと入って来た。僕はビクッとして固まった。
「驚かせましたか?失礼しました」
いつものわんわんのような格好(着物に袴)の柴犬ふうの方がニコニコと入ってきて、入り口で正座し頭を下げる。
「この屋敷にいる間のお世話をさせていただくユウでございます。なんなりとお申しつけ下さいませ」
「久しぶりだなユウ」
「はい翠様」
突っ立ってないで座れと言われ僕も翠の向かいに座る。現代の和室のような家具で座椅子と和テーブルだ。彼は初めての僕に説明してくれた。
「お手洗いは出て右の突き当たりにございます。お風呂はその先に大浴場がございます。そうですね、旅館のような感じですかね」
「はいっ」
この最奥の屋敷は外観だけで、旅館のように改装しているそうだ。こうして内裏に来た方の宿泊施設として運営されているそう。
「昔にのっとったままではやりにくうございますから」
「へえ」
ちなみに彼はわんわんの末の弟だそうだ。よく見ればにてるかな。
「兄は長子ですね」
「何人兄弟ですか?」
「さて。数えたことはありませんが……残る者は多くはありませんね」
犬は一度でたくさん生まれる。毎年産むものではないが、それでも何度かは産む。二~三十人くらいかなあって。親はもういなくて兄弟もちりじり。どこで何してるかも分からない人も多いそうだ。
「獣はひとり立ちすると親兄弟より自分になりますから、付き合いは薄くなりますね」
親もいなくなると顔を合わせるとこがなくなる。それは人も同じでしょう?とユウは笑う。まあそうかもね。僕も年に一度も実家に帰らなかったし。廊下から物音がして襖が開いた。食事が運ばれてきたんだ。僕は黙って配膳を見つめていた。
「どうぞ召し上がれ。お腹が空いてますでしょう」
「はい」
僕らは豪華なお昼をいただくことにした。順番に運ぶ方式ではなく全部並べている感じだ。メインのお肉以外にもたくさん品数がある。小さなお造りもあるし、酢の物や目にも美しいものばかり。
「美味しい」
「それはようございました」
上品なお味なんだ。家よりもさらに洗練された感じかな。これなんだろ?とか翠と楽しく食べた。そして食後のお茶をすすっているとユウが、
「この後測定がありますが、夏樹様はここで待機となります」
「はい」
迷子にならない程度に過ごせと言われた。外には庭もあるし、めったに来ない場所でしょうから歩き回るのもいいかもねって。
「人の姿でもここは目立ちませんから、街より快適ですよ」
ユウの言う通りで、この部屋に来るまでにたくさんの人型の方とすれ違ったんだ。翠や紅様たちみたいな尻尾と耳だけの人々や、少し顔に鱗がある方やトカゲの尻尾だけとか。完全な人のような方も見かけた。
「完全な人型は人の神かもしれませんね。各地に祀られている神様が遊びや勧誘に来ますから」
「え?」
ユウによると、人の神様は神使を雇いに来るらしい。気に入った者を近くに置きたくてだそうだ。そして人の神は我らとは違い怖いとユウは言う。
「気性の激しい神が多いのですよね……」
「そうだっけ?」
僕は神様詳しくないからなあ。ユウは昔の神話に出てくる神様は皆人だった。各地の有力な豪族や武人がほとんどで、物語ふうになっているだけ。今に語り継がれるだけあって力も半端ない。怒らせると山一つ吹き飛ばすなんてのも昔はあったらしい。コワッ
「我ら獣より短気な方もいらっしゃるのですよ。自分に正直と申しますか……なんでしょうかね」
「へえ」
僕はユウからそんな話を聞いていた。翠は当たり前なのか黙って僕を穏やかに見つめるのみ。楽しく話していると迎えが来て、翠とユウは出かけて行った。
さてどうするかな。まずトイレを確認して用を足すかとテクテクとトイレに向かう。廊下では誰にも会わなかった。
「ここは……」
まるでショッピングモールのトイレの見た目である。多目的トイレがないかな。中に入るとそのまんま。温水便座まで完備。洗面台も鏡もきれいである。
「なんか建物とのミスマッチ感はあるな」
まあいいやと用を足し出る。廊下の戸は全部下は曇りガラスで上は障子。庭は日本庭園そのもので、松や低木もよく手入れされている。僕は部屋の近くの廊下に腰を下ろした。
「静かだ」
測定会っていうからもっと人が来てるのかと思ったけど、そうでもない感じだ。竜は二百から三百はいると翠に聞いていたのにね。
「成人している人限定だからかもね」
僕はぼんやりと外を眺めていた。
僕らは早朝屋敷に迎えに来た「空飛ぶ牛車」で都に向かった。
この牛車は当然先導する人がいるんだけど、怖いことに空中をまるで「地面」があるように歩く。何もないのに。そして当然ながら平安のころのような速さじゃない。自動車並みなのスピードなのに「歩いて」いるんだ。狩衣や烏帽子が乱れることもなくね。完全な不思議現象であるが、突っ込んだら負け。僕はこの世界では当然なのだと受け入れている。
「翠、これやばい。揺れる」
「まあな。ふわふわするかな」
揺れるとは違うか、上下にふわふわするんだ。遊園地の飛行機の乗り物みたいな感じでさ。それもゆっくりふわふわして何とも嫌な感じ。
「酔いそうなんだけど」
「酔うとは?」
「ああはい。いいです」
不思議そうにされたので、乗り物酔いは知らなさそうだ。僕は仕方なく横になった。牛車の中は二畳より少し広い畳の部屋みたいで座布団がある。足を伸ばして寝るのに問題はない。
「翠足伸ばして」
「え、なんで?」
いいからと抱かれていた体を離し、彼の片足を掴んで伸ばした。僕はその足を枕に横になる。何してるの?と不思議そうな声が上からする。僕は乗り物酔い起こしそうだから横になるんだと説明した。ふーんと翠。
「横になると楽なのか?」
「起きてるよりはね。そのうち慣れるかもだからそれまでは」
「ふーん」
こんな感じで都に向かってたんだけど、前の日に早起きだからと断ったのにエッチに持ち込まれ、僕は疲れてたからすぐにウトウト。どのくらい経ったのか肩を叩かれ起こされた。
「下を見ろ。都が見えるぞ」
僕はのそりと起き上がり横の引き戸の窓を開けた。眼下には大きな街があった。少し前の昭和三十~四十年代かな、高度成長期のような町並み。僕らの住む町よりずっと近代的に見える。そして通りには人がたくさん行き交う。
「すごい。ここってこんなに人がいたんだね」
「便利だからな。都に人が集まるのは夏樹の世界と同じだよ」
「そっか」
都を眺めていると林が増え、そして少し小高い丘の上に、歴史の教科書の絵巻よのうな御所が見えてきた。
「マジかッこの時代錯誤なこの……なんだこれ!」
奥は低い山が連なり、その手間に広大な屋敷群がある。周りは塀が囲み、東西南北に大きな出入り口が見えた。もう平安時代の御所がそのまんまあるようだ。すごーい。
「タイムスリップしたみたい」
「ここは今お前が着ている狩衣が普段着だった時代からある。時が止まったように確かに見えるな」
「へえ」
当然火災が起きたりもしてるけど、同じように建て替えるから見た目は千年以上変わらないらしい。その前はもっと簡素だったそうだ。僕はあまりの景色に言葉をなくし、ただただ眺めていると下降し始めた。
「正式な訪問だから朱雀門か」
翠の独り言が聞こえてきた。僕は御所の入り口の名前など知らない。たぶんあの頃の呼び名を真似ている可能性は高いけどね。僕には知識がない。その頃の風習や生活様式なんて学校の習ったくらいで何も分からない。絶対翠から離れないようにしなくては迷子確定だよ。それに何か粗相をして彼に恥をかかせてしまうのも確定みたいなものだ。翠が僕の横から外を眺め、
「もう着くぞ」
「はいっ」
緊張のあまり声が大きくなって翠がビクッとした。ごめんなさい。
「緊張しなくていいから。隣にいればいいから」
「はい。ごめんなさい」
僕の肩を叩いていつもどおりでいい。お前がここに来ることなんて、どんな長い人生でもそうそうあるものでもない。この時だけ我慢してくれと頬にキスをくれる。
「がんばりますっ」
「い、いや。頑張らなくてもいいんだけど」
そんな話をしていると門の前に到着。広い屋敷群と同じだけの広場が門の内側に広がっていた。牛車は石畳をゆっくり走り、屋敷群の階段前に止まる。どう見ても正門だ。
「お疲れ様でした」
お付きの方が扉を開けてくれて、僕は翠に続き車を降りた。衣服を整え屋敷の方を向くと、僕の心は完全に凍りついた。
「うっ」
まるで京都御所の玄関でございます。見渡す限り修学旅行で見たあのまんま。人が観光客ではなく働いている人たちなだけ。
「こちらへ翠様、夏樹様」
「ああ。夏樹来なさい」
「ひゃい、はいっ」
呆然としていた僕は急な声がけに声が裏返った。
「緊張しなくていい」
「はいっ」
翠はため息混じりに笑い、周りの人は見なかったことにしてくれているのか反応なし。ギクシャクとしながらも翠の後に着いて行く。階段を登り草履を脱ぐ。そのまま入れと言われ広く長い廊下を歩いた。
「左側は帝家族の私的エリア。中央の建物はすべて仕事の場所だ。右はその縁者の私的エリア」
「へえ……」
建物は十九の建物で分かれているらしいが、平安の頃のような間取りではないらしい。もう少し細かく分かれているそうだ。そしてすれ違う人たちの手にはスマホやタブレット、モバイルノートの人がちらほら……なんだこれ。不思議に思ったけど黙って着いて行く。建物はあの頃のままので襖絵も豪華。畳のいい香りがする。
「どこまで歩くのかな」
「まだ先だ」
最初の建物を抜け渡り廊下を越え、また建物の中を歩く。これを三度ほど繰り返すと右に曲がる。そして一番奥の屋敷の部屋に通された。
「こちらでお待ち下さいませ」
案内の猫さんが扉を開けると見慣れた和室だ。翠の家の客間のようだが広い。二間で奥は寝所、手前は居間として使うと翠の説明。
「昼餉をお持ちしますので少々お待ち下さいませ」
「ああ」
案内の猫そんは一礼して下がった。今回わんわんも着いてきてない。二人きりなんだ。……不安しかない。
「あの翠…その……」
和室の上座に座る翠に声を掛けたらすぐに別の人が失礼しますと入って来た。僕はビクッとして固まった。
「驚かせましたか?失礼しました」
いつものわんわんのような格好(着物に袴)の柴犬ふうの方がニコニコと入ってきて、入り口で正座し頭を下げる。
「この屋敷にいる間のお世話をさせていただくユウでございます。なんなりとお申しつけ下さいませ」
「久しぶりだなユウ」
「はい翠様」
突っ立ってないで座れと言われ僕も翠の向かいに座る。現代の和室のような家具で座椅子と和テーブルだ。彼は初めての僕に説明してくれた。
「お手洗いは出て右の突き当たりにございます。お風呂はその先に大浴場がございます。そうですね、旅館のような感じですかね」
「はいっ」
この最奥の屋敷は外観だけで、旅館のように改装しているそうだ。こうして内裏に来た方の宿泊施設として運営されているそう。
「昔にのっとったままではやりにくうございますから」
「へえ」
ちなみに彼はわんわんの末の弟だそうだ。よく見ればにてるかな。
「兄は長子ですね」
「何人兄弟ですか?」
「さて。数えたことはありませんが……残る者は多くはありませんね」
犬は一度でたくさん生まれる。毎年産むものではないが、それでも何度かは産む。二~三十人くらいかなあって。親はもういなくて兄弟もちりじり。どこで何してるかも分からない人も多いそうだ。
「獣はひとり立ちすると親兄弟より自分になりますから、付き合いは薄くなりますね」
親もいなくなると顔を合わせるとこがなくなる。それは人も同じでしょう?とユウは笑う。まあそうかもね。僕も年に一度も実家に帰らなかったし。廊下から物音がして襖が開いた。食事が運ばれてきたんだ。僕は黙って配膳を見つめていた。
「どうぞ召し上がれ。お腹が空いてますでしょう」
「はい」
僕らは豪華なお昼をいただくことにした。順番に運ぶ方式ではなく全部並べている感じだ。メインのお肉以外にもたくさん品数がある。小さなお造りもあるし、酢の物や目にも美しいものばかり。
「美味しい」
「それはようございました」
上品なお味なんだ。家よりもさらに洗練された感じかな。これなんだろ?とか翠と楽しく食べた。そして食後のお茶をすすっているとユウが、
「この後測定がありますが、夏樹様はここで待機となります」
「はい」
迷子にならない程度に過ごせと言われた。外には庭もあるし、めったに来ない場所でしょうから歩き回るのもいいかもねって。
「人の姿でもここは目立ちませんから、街より快適ですよ」
ユウの言う通りで、この部屋に来るまでにたくさんの人型の方とすれ違ったんだ。翠や紅様たちみたいな尻尾と耳だけの人々や、少し顔に鱗がある方やトカゲの尻尾だけとか。完全な人のような方も見かけた。
「完全な人型は人の神かもしれませんね。各地に祀られている神様が遊びや勧誘に来ますから」
「え?」
ユウによると、人の神様は神使を雇いに来るらしい。気に入った者を近くに置きたくてだそうだ。そして人の神は我らとは違い怖いとユウは言う。
「気性の激しい神が多いのですよね……」
「そうだっけ?」
僕は神様詳しくないからなあ。ユウは昔の神話に出てくる神様は皆人だった。各地の有力な豪族や武人がほとんどで、物語ふうになっているだけ。今に語り継がれるだけあって力も半端ない。怒らせると山一つ吹き飛ばすなんてのも昔はあったらしい。コワッ
「我ら獣より短気な方もいらっしゃるのですよ。自分に正直と申しますか……なんでしょうかね」
「へえ」
僕はユウからそんな話を聞いていた。翠は当たり前なのか黙って僕を穏やかに見つめるのみ。楽しく話していると迎えが来て、翠とユウは出かけて行った。
さてどうするかな。まずトイレを確認して用を足すかとテクテクとトイレに向かう。廊下では誰にも会わなかった。
「ここは……」
まるでショッピングモールのトイレの見た目である。多目的トイレがないかな。中に入るとそのまんま。温水便座まで完備。洗面台も鏡もきれいである。
「なんか建物とのミスマッチ感はあるな」
まあいいやと用を足し出る。廊下の戸は全部下は曇りガラスで上は障子。庭は日本庭園そのもので、松や低木もよく手入れされている。僕は部屋の近くの廊下に腰を下ろした。
「静かだ」
測定会っていうからもっと人が来てるのかと思ったけど、そうでもない感じだ。竜は二百から三百はいると翠に聞いていたのにね。
「成人している人限定だからかもね」
僕はぼんやりと外を眺めていた。
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