お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

32 都の御所 3

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 時雨様はナギと騒いでいたけど諦めたのか黙った。よかった。

「翠に嫌われたくないと天秤にかけると手を出せない。あ~あ」
「分かってるなら口にも出さないように」
「分かったよ。夏樹、抱かれたくなったらいつでも言って。俺はすぐに迎えに来るから」
「そんな時は来ませんよ」

 ちょうど翠が戻り、なぜか時雨がいると不機嫌になった。そして僕をジロジロと舐め回すように見つめ、隣に座ると僕を抱えるように抱いた。

「触ってねえだろうな時雨」
「どうかな?」

 からかうように時雨様はニヤニヤ。夏樹を見れば分かるからいいけど、今後も触るなよって睨む。僕はこのやりとりが不思議だった。雨月様とは敬語だったのにすぐ上の兄君はタメ口。この差はなんだろうか。年の差はかなりあるはずだ。上二人と翠には百年以上の差があったはずだ。敬う感じがなく、本当にただの兄弟のようだ。

「仲がいいんだね」
「ん?ああ、時雨兄君とはなんか……意地悪もされたけどかわいがってもくれたから」
「それは雨月様も同じでしょ?」
「まあ……なんでだろ」
「俺にも敬語で話せよ」
「嫌だよ」

 う~んと翠は悩み、「威厳かな?」と。長子らしい感じが敬語に結びつき、力の差もあると言う。「時雨は差もほとんどなく軽い男。そのせいだな」って言い放つ。ほんとうに遠慮がないね。時雨様はええー?って嫌そうにするけど。まぁそうだよねって感じが見て取れた。

「お前や兄君の前だけだよ。俺がこんなに砕けてんのは。他では凛々しいんだよ」
「……俺の前でも凛々しかったら敬語にするさ」

 今度は時雨様がうーんと唸り、面倒くさいってさ。気を抜けるのは兄弟の前と妻の前だけ。いつもきちんとしてたら疲れるそうだ。まあそうか。

「というか何しにきたんだよ」
「夏樹に会いに来たんだ。俺だけ会ってなかったから」
「そうかよ」

 この世界は結婚式はしない。したい人だけが人前式というか、友達や家族を集めて披露宴みたいのをするらしい。戸籍制度が元々ないし税金を集めてない。土地はたくさんあって、帝を含め貴族が禁足地に決めたところ以外なら好きに住んでいい。畑も田んぼも、それこそ商売も好きにやればいいになっているんだ。インフラ以外帝の役人は何もしてくれない。だから犯罪もよほどのことがなければ放置。本気の自由は自己防衛必須となる。

 でも発情期に絡むこと以外は犯罪は少ない。お金がとか、隣のあいつが憎いとかが少ないらしいんだ。気候がよく、昔話のような生活をするなら食べるのには困らない。恨みや物欲が絡む犯罪は本当に少ないらしいんだ。話してる横で僕はそんなことを考えていた。

 「夏樹?」と呼ばれてハッとした。

「聞いてた?」
「え……っとなんでしょう」
「お前は時々自分の世界に浸るよな」
「ごめんなさい」

 翠に呆れられながらも、測定会で俺は時雨様の次で、今後の人を含めても十番以内。帝にはなれないから安心しろって。はい。

「十日後に全部終わり宴がある。それで帰るから」
「え……長い」
「短い方だぞ。これでも」
「そうなのか」

 ここに呼ばれると仕事以外ではひと月コースは当たり前。二週間以内なら早い方だってさ。

「街を見てバスで帰るか?」
「えっいいの?」
「いいさ。急がないし」

 「やめろ、尻が割れるから」って時雨様。俺は以前乗ったけどかなり辛かった。牛車が利口だとお勧めされた。

「半日は辛いぞ。それも東の都までで、残りは歩きか馬を借りるかだ。お前んち遠いだろ」
「どうする夏樹。あちこち泊まりながら帰るのもあり」
「楽しそうだけど翠は?」
「俺はどっちでもいい」

 「こらこら、問題はそこじゃない。それは全部終わったらだ」と叱られた。明日から身内の謁見ラッシュがあるらしい。何の話ですかと尋ねれば、

「夏樹を見せろってあっちこっちからな。雨月の片腕の妻だからだ」
「なんでですか。僕は仕事しませんけど」
「そうなんだが、顔は知っておきたいってのがここの人たちだからな。我慢しろ」
「……はい」

 帝が弱ったといってもあと数十年はある。これから引き継ぎになるだけらしい。それに代替わりしたからと祭りがあるものでもない。静かに代わるだけ。民には簡単なお触れみたいに号外を配って終わりだそうだ。帝が代わっても、世界は何の変化もない、顔が見られるわけでもない。必然的に興味が薄くなる。

「天帝が代替わりするとかなら理解するけどな」
「え?代替わりなんてあるのですか?」
「ないね。不老不死と聞いているから」

 時雨様はさも当然そうである。なら言うな。それに帝以外とちゃんと会話する人はおらず、不明な人だそうだ。

「翠はお話したことあるの?」
「元気か?とか、狐の姿で困ったことはないか?とかくらいだな」

 時雨様もそんなものだそうだ。来た時はみんなに声をかけるけどその程度。困りごとの人も会話はあんまりないそうだ。だから性格は分からない。

「力の強い竜としか分からない人だね」
「ふーん」

 ここの獣みたいに妻を差し出せとも言わないし、この世界も何のためかも分からない。道楽か実験場かなと、この世界の人は考えているそうだ。困りもしないからそれでよしだよって時雨様。

「そこに関しては考えても無駄。帝すら理解してないはずだから」
「はい」

 てなことで、「夏樹は今晩俺の寝所に来い。夜伽を命じる」と。はあ?と僕が固まってると、翠は「一度死ぬか?」と低い声。

「言ってみたかったんだよ!俺はこれでもよそんちの奥様に手を出したことないの!兄君とは違うんだよ!」
「「嘘くさい」」
「本当だってば!」

 恋人は取ることはあるけど、妻になった人には手を出さない。「俺の流儀なのよ」って笑う。

「恋人を取るのもそいつにふさわしくないと感じるからだ。別の人にしなって言っても理解しないやつだけな。竜にしては俺は真っ当なのだ」
「……聞いてはいたが、本当だったんだ」
「もちろん」

 でもチャラい噂は立ってしまったらしい。「見境なく寝取る奴」って。不本意だとむっすり。

「翠は?」
「俺は清いから色街だけだよ。人の女や男は触らない」
「ふーん。清いとは言わないけどね」
「ここでは清いんだよ」

 翠の言い分は正しいと時雨様。だから竜らしくない、俺たちはなと笑った。だから異端だと陰口も出る。竜は力を持ち貴族でもある。モテるのもあるが人から奪うのも当然で、しない奴はどこかおかしいと思われるそうだ。いや、僕からしたら奪う方がどうかしている。

「竜種は何でもありで奔放に生きる。それこそが竜種なんだ。だから一定数から増えないけどね」
「やめればいいのでは?そうすれば増えますよ」
「出来るならとっくにだよ。夏樹」

 俺たちでも性欲は化け物並みだ。発情期でなくてもしたい。そういう生き物なんだって言い切る。我慢したら死ぬかもねって。何その性竜……

「呆れんなよ。俺たちは本能に忠実なんだよ。天帝が性欲お化けなんだろと俺は考えているけどな」
「さようですか」

 翠もたぶんそうだと思うって。この世界で性欲が異常なのは竜のみ。だから選りすぐりのエッチな妻を探すそうだ。ん……え?ええ!?

「僕は……あの……」
「夏樹は違うのを知っている。でも最近は俺に慣れて、だろ?」
「ふえ?」

 やっぱり抱きたいーって時雨様は叫ぶ。かわいい子が俺の股で喘ぐのを見たい。夏樹はきっとかわいいはずだと訴える。やめれ。

「アレは気にするな」
「はい」

 だけど確かに最近は抱かれるの好き。いや?最初から気持ちよくて……イヤーッ! 僕が翠に選ばれた理由の一つが「エッチだから」が入っているとかイヤーッ




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