お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

37 考え事は一人で

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 僕らは都の宿に泊まり、街を楽しんでから帰宅することにした。もうね、人の繁華街だよね。現代の店が半分くらいあって街並みは遜色ない感じに見えた。僕らの住んでいる地区はかなりの田舎なんだと実感もした。

 お店もチェーン店化してて軒を連ね、人の世界にあるあらゆるブランドのテナント(どうやってるかは不明だけど蓬莱支店らしい)を構えている。悲しいことに、僕には代わり映えのしない街中でしかなかった。だからその中でも「こちらの世界特有のお店」を覗くことが多くなってしまう。小間物屋さんとかCDショップとか。後は地方のアンテナショップ的なお店かな。

「つまらないか?」
「そ、そんなことはありませんッ」

 愛想笑いをして誤魔化したけど、翠は僕が楽しそうに見えなかったんだろう。焦ってしまい取り繕うつもりが敬語になったし、余計怪しくなってバレたと思う。翠は「そうか」と一言。その後は無理にはしゃいだけど、翠は気がついていたと思う。

 そして僕は街を見ながら自分の置かれた立場について考えた。この世界の生活や文化に触れて、彼らがどれほどの努力をしてこの世界を作り上げたのかを考えたんだ。

 ここに来てずいぶん時は経ったのに、僕はお客の気分で過ごしていたと気がついてしまった。「この世界に馴染めばいい」ってみんなの言葉を鵜呑みにして生活してただけ。

 自発的に物を考えたり行動に移すことがなかったんだ。あるがままを受け入れ「そうなんだ」と納得してただけ。まるで観光客のような気持ちだった。あの都の街並みを見て気がついたんだ。お店の「蓬莱支店」ってなんだ?がきっかけだね。

 時代を取り入れ進化し続ける世界。天帝の意を忠実に守ろうとする御所の人たちに、尊敬の気持ちが湧いたんだ。なら、竜の妻に迎えられた僕ができることとは何だろうとね。まず身近なことから始めるのが一番だと思い至った。

 帰宅した僕は、翌日から翠の部屋には行かず自室に籠もった。少し考えたかったんだ。翠はその間仕事をしていたけど、寝る時以外は放っておいてくれたのは嬉しかった。

「だけど何をしたらいいのかな」

 何も浮かばなかったんだ。将来を考えるなら、こんな気持ちのまま子供なんて産めないでしょ。不安定な親が子育てとかダメだと感じた。みんなに任せれば育つとは思うけど、それはアリなのかな?と疑問に思う。だから気がついた今考えるのが得策と……なのに何も浮かばない。

 こちらの人々との交流……はしている。おうちの人とも仲良くしてて、困らせてはいないと思う。というか、神の妻は何すんのが正解なのかな。夫を支える……支えてるのか?支えてもらってるだけだろ僕は。かわいいかわいいと大切にされてるだけ。これでいいはずはない。

 みんなに聞けば「いるだけでいい」としか言わない。僕がいることにより翠が安定し、より力が増すからって。それは分かるんだよ。だけどさあ、何かしてあげたいじゃない。僕にしかできない何かを。エッチじゃなくてその他で。まずそこからでしょ。

「ウワーッ何も浮かばねえ!外に行くか!」

 悶々と床に転がってみてもこの数日何も思い浮かばない。こんなにも僕は使えない人間とはね。悲しさ通り越して自分に呆れた。

 僕は立ち上がり、縁側の草履を履いて門に向かう。門近くのベンチにはマオが寝ていていつもの光景だね。このところそれなりに力も使えるようになって(暇な時に訓練して防御だけはできる。あのドームのやつね)マオを横目に外に出た。

「春は外と内の差がなくて快適だなあ」

 柔らかな日差しと穏やかな風が頬を撫で、空を仰げば木漏れ日は美しく眩しい。坂を下り外の提灯の門を出た。郊外のせいで誰もいないのはいつものこと。僕は山に向かった。木々は緑が鮮やかで美しく、歩くのは楽しい。でも何も浮かばない。翠は何して欲しいかなと考えながら歩いていた。すると遠くから滝の音がドドドッと聞こえる。

「もうこんなところまで歩いたのか。ぼんやり歩いていたから時間感覚なかったよ」

 せっかくだからと滝に向かう。本道から脇の細い道を下ると目の前には小さな滝。少し涼しく水辺は緑の成長が少し遅いかな。僕は河原の大きな岩に座った。

「あーあ」

 愛しい人には何かしてあげたい。この気持ちは問題ないはずだ。どう行動に移すかだな。

「僕は恋人がいたことなくて経験値ゼロ。相談できる友達は現在皆無。この世界の人はこの問題に関してはいいアドバイスはくれない。そうなると……人の世界に?」

 なーんて考えてみたけど、翠の許可がなければあの鏡は通れない。僕だけじゃ通れないようにされてしまったんだよね。それに翠に許可を取るんじゃ意味はない。完全にテンパったか。僕はため息をついて辺りの音に耳を傾ける。

 小鳥の鳴き声とホーホケキョと春らしいうぐいすのさえずり。土の香りに水しぶきが湿っぽいけど気持ちいい。人の気配もなく静かだ。畑はここから離れているし、翠の山を通る人は元々少ない。

「そもそも僕は翠のどこが好きなのか……」

 ゲイでもなかった僕。初めての時も大した抵抗もせず受け入れた。そして翠はいつも大好きオーラ全開で僕を大切にしてくれた。そしたらあっという間に僕の方が好きだと思うようになった。愛されたから愛したが正しいかも。珠のせいもあるかもだけど。

「なんだよこの回答。恋愛経験のなさがとんでもない方向に……ヤダもう」

 僕は頭を抱えた、物理的に。なんなのこれはさあ。確かに流されたよ?愛されれば嬉しいし、好き全開のイケメンの笑顔がかわいく見えて胸がときめいた。男同士だからと嫌悪感が初めからなかった。これは不思議だけどね。

 この気持ちは僕にあって当然で、会社の同僚に迫られたらと考えれば自ずと分かる。僕は突き飛ばすし暴れるはずだ。同僚としては好きだけど、好きの意味が違うもの。そんな意味で触られたら恐怖と嫌悪感に震え上がる。ならこの好きな気持ちは翠の力なのかな。変な疑いが生まれてしまった。

 子供の頃から僕に決めて見守ったと言っていた。確実に手に入れるために何かの力を……?

「まさかな。そんなの本当の愛じゃないでしょ。僕ならそんな愛は欲しくない」

 僕は顔を上げた。ここは動物的と言ってたけど、目的のためには手段を選ばないなんてことは……なくはないだろう。でも僕がここに来て見ていた翠には感じなかった。立場上不倫の子だから(本人には大ごと)周りが見えなくなるほど悩む人だもの。違ったけど違ってないのか?そこはよく分かんないけどね。

 これに関して僕は後日考えたんだ。僕が不倫の末の子なら、今の性格ではないはずだって回答だ。よその家庭を壊してか、不快にさせて生まれた事実に悲観したはずだし、親を汚らわしいと感じるかも。母は愛人の立場のはずで、経済的にも困って父を恨んだだろう。お金持ちの道楽?で妾を持つ時代じゃないからね。

 でもここは文化が違うから翠の受け取り方も違うかもだけどさ。そもそも論で、そんな捻くれてる僕を欲しがったかは疑問だね。僕ならいらない。

「違うだろ、そこじゃない。えーっと、僕が翠を愛しく感じているこの愛情に間違いはないはずだ。なら何をしたら喜んでくれるかな」

 結局スタート地点に戻っただけか、ふむ。

「ワオーン……オオーン」

 遠くで狼の遠吠えが聞こえた。空を見上げると太陽が傾き始めていた。何も考えつかなかったけど帰るかな。僕は岩から降りて細道を登った。この世界には普通の熊や狼がいるんだよ。天帝は全ての動物を獣にはしなかった。襲われたら防御しか使えない僕はそこから動けなくなるもんね。足早に屋敷に向かった。いなくなって心配して……いや、マオがいたから気がついてたはずだ。大丈夫だよね。

「まあいいや。、帰り道もう少し考えよう」

 僕は峠のような道を下り始めた。空は少し赤みを帯びてきている。心配はしてなくても、夕食に間に合わないのはイオに悪いもの。なんて思いながらさっきまでの思考を続けていた。



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