お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

40 暇でマオとおしゃべり

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 あの日、僕が山に考え事をしに行ったことは「失踪事件」となってしまった。

「どこに行かれる?夏樹様」
「どこにも。いいお天気だから庭の散歩です」
「さようか」

 こんな会話ばかりになってしまったのは僕の失敗である。使用人たちは僕の動向を目で追うようになってしまってね。正直息苦しい。

「だから出かける時は俺に声がけするか、連れて行かないとこうなるのよ」
「うん。反省してます」

 内門の横のベンチに転がるマオとおしゃべりを楽しんで?いた。マオは僕が悪いと言う、そのとおりだけどさ。でもね?僕は防御は完璧よ?例え熊に襲われても逃げることはできる。たぶん?と言えば、アハハッと盛大に笑われた。

「人は経験がないと動けないもんなの。防御のドームを作ってそのまま走るなんて芸当は慣れなんだよ。夏樹様にはムリムリ」

 顔の前で手を振り大笑い。失礼極まりないでしょうよ。僕は少しムッとして、

「分かんないじゃない。できるかもでしょ?」
「おお?反抗するか。でもな、経験がなきゃそこらの獣ですら怯えて動けなくなる。人なんてもっとだよ」

 小馬鹿にされました。確かにここの狼は大きいし、熊はツキノワグマだけど、なんか人の世界より大きくヒグマサイズな気もする。でも僕はやる時はやれる。はずだと話すとマオは呆れている。

「夏樹様、やれるとかじゃないのよ。あなたが万が一護衛なしで熊に殺されたとしましょう。我らも翠様に殺される。だから言ってんのよ」
「あ……」

 わんわんも俺も武芸だけではなく、元々戦闘好きな凶暴な部類で、闘争心が強目である。見た目じゃなく性格がだとマオ。だから、俺たちは僕の護衛の任もあるんだとは説明してくれた。

「神の獣は俺たちなんか子供か?と言うくらい強い。翠様は優しく穏やかだけど、力は化け物なんだよ。信仰の力抜きにしてもな」
「へえ……そんなに強いんだ」
「見せるところなんてないけど、一撃で相手は沈むんだ」

 帝はさらにで考えるだけで嫌だとマオ。

「あのさ夏樹様。この世界で竜が一目置かれてるのはそんな理由もあんのよ。竜の神は天帝の力もそうだけど物理的に強いんだ。それに人の世のように税金も取らない。だから都であんな優雅な生活をしていても誰も何も言わないんだ」
「そっか……」

 帝を人の世の「総理大臣や王様」のような立ち位置ではない。それは違うそうだ。インフラの維持は天帝の意向があるからやる。人のように暮らせる場所を作るのが帝の役目。だからしてるだけで、警察機能や裁判所なんてのは実はないらしい。いやでも、僕は町で制服の人たちを見かけましたが?ならあれは誰だよ。マオは僕の見かけた人はと少し考えて、

「あれは仕方なく用意した……そのなんだ、そうそう私兵団みたいなものかな」
「私兵団?」

 よく物語にあるだろとマオ。領主が個人的に領地を守るために雇ってる兵士。あれだと。だから帝直轄の正式な警察はない。東西南北の土地の責任者が雇って各地に配置、多少の治安維持目的だそう。へえ。

「殺人とか起きるとたまに揉事が起きるんだよ。それを防止するためかな」
「そっか」

 裁判所なんてなくて、その地の役人が仲介役になり、手打ち(示談)に持ち込むのが通例だそう。人を殺したから犯罪とはならないから(慣例以外の殺人、歯向かう場合はその場で天へ)そこは知っている。

「俺たちの縄張り意識は獣になった時点でない。相手を殺すような諍いも普通の生活の中ではほとんどないんだ」
「うん、それは知ってます」
「だが、伴侶を探す時は別。死ぬまで戦うことは少ないけどな」
「普通は劣勢の人が引くんだよね」
「そうだ。その引き際を見極められないとだな」

 発情期の興奮時のことだから、わざとじゃないのは殺された相手の身内も理解している。うちのが弱かっただけだ、悲しいけどそんなものとすぐに切り替える。だがなあってマオは僕をジーッと見る。若草色の瞳がキラリと光る。

「大店の跡取りとか特別な職人、役者やなんかの芸能関係の人になると話は別。稼ぎ頭がいなくなるからマイナスが大きいんだ。補償がとかの仲介が必要になるのよ」
「あー……」

 そんなこんなで物理的にも経済的にも自己防衛は必須。マオたちも同じだ。僕を死なせないようにするのは自分のためでもあるそうだ。僕は心からごめんなさいと謝った。するとマオは理解してくれればいい。まあ座れよってマオは起き上がり、空いた場所に僕は座った。

「だがそれは建前だ。俺は翠様が好きだし夏樹様もな。だから俺が間違って死んだとしても後悔はない」
「ありがとうございます。気をつけます」
「そうしてくれ」

 マオはここはとても人と似てる世界に見える。動物が穏やかに生活してるように見えるが、あくまでも見えるだけ。動物本来の気性の荒さが完全に取り払われてはいない。それに山の動物は人の世より獰猛で、我ら獣を襲って食うこともあるとマオは言う。

「あっちからしたら俺たちは人と同じ、食べ物でしかないんだよ。そこは変わらん」
「そっか」

 それに天帝の力で自然が多少歪められたのか、海は怪獣のような魚がいるし森の獣は大きいし、海の先には外国はない。どこまで行っても海しかない。ここは変な空間なんだそうだ。へえそれは知らなかった。

「死後の世界とも違うんだ。人を死後連れてきても死体のままだし、魂なんて見たことない」
「試したことあるんだね」
「大昔な。こちらにも博士って呼ばれる研究者はいるんだよ。だから図鑑とか歴史書もある」

 帝は何も語らない。語らないんじゃなくて知らないんじゃないとみんな思っている。天帝は知ってることも全てを開示してないのではないかとね。俺もそう思ってるってさ。

「人の神もこの辺は知らないらしい。知り合いの神使に聞いたことあるんだよ」
「ふーん」

 人の神は人の世に常駐で見えないだけで、社に普通に住んでいる神もちらほら。あ?あの神社に住んでんの?何食べてんの?と僕が驚くとマオは、

「どうしてるのかは分からんけど、人に紛れて普通に生活してるって聞いている。俺たちはそこまで興味ないし、神使にでもならなきゃ興味なんて持たんよ。ここに来れるようになってるのも大昔からだから、なんかあんだろ」

 マオはもしかしたらだぞ?と前置きして、こんな世界があちらにもあって生活してるのかもなあ。俺たちがそうならそんな世界があってもおかしくはない。

「高天原、神のおわす場所」なんて言葉が人の世界にはあるからたぶんそこだろうが、仲間の神使は口が固くそこは教えてくれないそうだ。

「俺たちは分からないを当然として生きてんのよ。それで困らないから。追求してもいいことない気がしてるんだ。第六感というか動物の勘だな」
「ふーん」
「だから、天帝という神を信じて生きるんだ」

 マオはここまで語ると、人は知りたいことが多く何でも探索というか、知らないことに恐怖する。俺たちは先のことなど「なんとかなるさ」としか考えない。宵越しの金は持たねえとは言わないがと笑う。

「ならさ、天帝の気分である日動物に戻されたらどうすんの?」

 アハハッとマオはさらに笑い、動物として生きるだけだ。元に戻るだけだろ?また森に住処を作り隣人を襲い食う。それだけだよって。そっか。

「夏樹様たちは無理だろうなあ。人に原野で生きろはな」
「現代人の僕らは早々に死にそうだね。そんな日が来ないことを願うしかないね」
「もっともだな」

 じゃあまたなとマオは立ち上がり、外の見回りに行ってくると門を出て行って、僕も立ち上がった。んーっと背伸びして息を吐く。

「完全な不思議世界なんだなここは。いろいろあるんだろうけど僕には居心地はいい」

 僕は歩き出した。小腹が空いたからトマトを盗みに……もとい、つまみ食いしに屋敷裏の小さな畑に向かう。

「翠は朝からどこかに出かけたし、何しようかな」

 畑に着くと僕は真っ赤に熟れたトマトをもぎ取り、お腹に擦り付けてからガブリ。甘みも強く美味しい。

「この世界の不思議は考えないようにしよう。あるがままを受け入れて翠と楽しく生きればいい」

 でも妻として何もせずマオたちと楽しく語らい、美味しいご飯を食べてるだけは心苦しい。食べ終わってう~むと僕は腕を組んだ。

「農作業は体力なくて邪魔にしかなってないし、料理はイオに任せてた方が美味しい。冬の雪かきと草刈りくらいなんだよなあ。後は何ができるかな」

 掃除を手伝おうとしたら遠慮されたし、庭木の剪定の枝とか片付ける程度。みんなに「雑用はしなくてよろしい」とやんわり断られる。

「発情期も僕に気を使ってるのか、最近は翠のお店から食事が届くようになって……なら何か習うかなと考えたけどさ」

 書道は練習して困らなくなった。紅様の御子、梅子様にもお手紙を書けるようにもなった。梅子様は大正の頃にこちらに来たそうだ。僕らは時々行き来してお茶会したり、リョク様(アマガエルの神)や、山吹様(イタチの神)の御子様にもその時にお会いしてね。お二人も古い時代の方で、世代が違いすぎて僕が今を説明するばかりになっている。楽しいんだけど疲れもする。いやいやそこじゃない。

「トマト食べきったし部屋に……」

 そう思い自分の部屋の方を向けば翠がいた。少しほほ笑んで僕を見つめる。

「つまみ食いか?」
「おかえり。お菓子ばかりだと太りそうでね」
「そう?」

 なんで浮かない顔をしているんだ?誰かに何か言われたかと翠。そんなのはないよと僕は答えた。なら何だと小首をかしげる。

「翠に言われて納得したつもりだったけど……暇なんだろうね。何かしたいんだ」
「ああ、それね」

 こっちに来いと言われて、縁側に腰を降ろした翠の隣に座った。

「何もしないことに慣れないんだな」
「たぶんそう。翠がいない日とか特にそう思ってしまうんだ」

 人は大変だなあと翠は笑って僕の腰に手を回す。獣はぼんやりすることに慣れている。お日様が気持ちいいとウトウト、ひなたぼっこで何時間でも過ごせる。それができないんだなと。そうです。

「僕は何もしない時間なんて今までなかったんだ。ここに来て暇な日はとても辛く感じる。何かしたくて仕方なくなるんだ」
「ふーん」

 お前が俺に何かしたいって気持ちの根底に、そんな気持ちがあるからなのか?と胸に入れてくれる。分かんないけど手持ち無沙汰に慣れてないんだ。ここでは疲れて寝てるってこと自体少ないし。

「昔は暇が欲しくて堪らなかった。なのに暇が手に入ったらすることが思いつかない。映画もゲームもひとりじゃつまらない。僕どうしたんだろう」
「そっか」

 そう言うと翠は黙って僕を抱いてくれ、遠くの青く霞む山を見つめ黙っていた。




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