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帝の代替わり編
49 僕の先祖だった
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僕はその場で考え込んでいた。過去を遡り……うーん?
「皆様中にお入り下さいませ」
わんわんの声にハッとして、翠たちが戻る後に続き僕も客間に戻った。夕陽様はニヤニヤしてて翠はいつもどおり。
「あの後ばあちゃんが死んで……それから?じいちゃんちにはなかったし。ならうちにあったはずだよね?」
席に戻っても考えていた。そうだ、大学受験の時母さんが僕にお守りだと小さな革袋に入れてくれたんだ。先祖代々大切にしてるうちの秘宝だ。きっと受験のお守りになるとくれたんだった。そうだよ!
「翠大変!あの玉僕のマンションに置きっぱなしだったよ!」
「知っている。回収してご両親の家の仏壇に戻しておいた」
「はあ?戻したって……知ってるってなんでだよ!」
やはりと夕陽様は笑い、翠はそうかなとは思ってたそうだ。
「あの玉は俺の両親だな」
「あの……?いいの?」
「あれは夏樹の家の秘宝になってるからな。構わん」
ご両親だよ?いいのかともう一度聞いたけど「いいんだ」としか翠は言わなかった。そう……近くに置かなくてもいいのか。そっか。僕はなぜ近くに置かないのか理解ができなかった。親には特別な気持ちがあるものではないの?と思考が止まった。
「だから翠は夏樹に惹かれたのね」
「どうかな」
僕は置いてきぼりで話は進んでいた。
二人の話ではご両親は人として埋葬はされた。でもあの頃僕の村は土葬と火葬が混じっている時代だったそうだ。ご両親の子供たちは貧しく土葬を選択。自分ちの見晴らしのいい山の中に埋葬した。その後何かのきっかけ(天災や動物が掘った)で見つけた子孫が大切にしてたんだろう。そう二人は説明してくれた。
「俺がお前を全く調べないとでも思ったか?」
「いえ……まあそうだよね」
嫁にもらった頃は調べてなかったが、共に生活するうちになんかおかしいと思うことがあった。辰巳様(帝)の指摘かに気になって、ちまちまと調べたそうだ。調べないとは言ったけど、気になってしまったらしい。
「都に行くときにあちらで道具を借りたりして過去を見たり……かな」
「そんな道具があるの?」
夕陽様はあるのよとクスクス。閻魔様の鏡の話は知ってる?と言われた。亡者の過去をみる鏡ですよねと言えばそうだと。
「黄泉の世界などないのよ。死ねば終わり」
「やっぱりそうなんで……いやいや、鏡はあるんですよね?」
やあねえ夏樹はとさらに笑う。なんだよもう!と憤慨したけど僕は顔には出さない。
「こちらに来て戻った人がいるのよ。その人が話したことがなぜか宗教に組み込まれただけなの」
神隠しにあったということにして帰した人は昔からいた。勝手に来る人がいたのも事実だそうだ。春と秋の彼岸の頃は、世界の境界線が曖昧になる。空間に歪みがあちこちに発生し、そこに間違って足を踏み入れる人間がいたそうだ。こちらの獣が踏み入れてもそれはそれ。帰って来る方法があるから困らない。でも人はねえと夕陽様。
「そんな人がここは神様の世界だとか、黄泉の国だとか伝えてしまったのよ」
呼ばれてない人は見つけたら基本帰していた。今は陰陽寮の人が、ここでの記憶を消してから返す場合もある。でも昔は対策なしで仕方ないと二人。
「今はいないのですか?」
「いなくはないけどね。そこはこちらも対策してるからすぐ捕まえて戻すの」
見つければ即座に知らせるようこちらは周知していている。ここの人がおかしな人間と思えば交番(警察部隊の詰め所)にすぐに届ける。そして交番の役人がすぐに元場所に捨ててくる。捨ててくるとは言い方が悪いけど、呼ばれていない人間がここで生活するには厳しい。誰の庇護もなくすぐに歳を取ってしまう人間はいてもらっては困るらしい。
「まあ……たまに山で死体に……もあるかしら」
「コワッ」
「仕方ないのよね」
どこに現れるかなんてわからない。わたくしが悪いんじゃないと夕陽様。そうねとしか言いようがない。
「この世界の山の中に出てくることもあるのよ。人の世界とは違うから山は安全じゃない。知ってるでしょ夏樹」
「はい。存じております」
狼しかり熊しかり。ここはサイズがおかしいからね。元々凶暴なのにさらにだから。話がそれたけど、僕が翠の両親の末裔だとずいぶん前に気がついてたそうだ。なんで話してくれなかったの?と聞けば顔を背けた。ああ?
「翠?」
「話したくない」
「なんで?」
「なんでも」
夕陽様はくぷぷっと口を押さえ笑いを堪えている。夏樹、察してあげなさいと言いながら、我慢できなかったのか盛大に笑った。なにを察するのかさっぱりだよ。あの村の人を選ぶなら、翠のご両親の末裔はたくさんいたはずだ。僕を選ばなくても東狐の身内は血の繋がりがあるんだ。昔は従兄弟で結婚も珍しくなかったから。僕には何を察するのか分からなかった。
「夏樹、翠は末っ子で、麗様にも上の兄君たちからも大切にされ育てられたの」
「はい。それは聞いてます」
でも両親がいない寂しさは常にあったはずだと夕陽様。どんなに身内に大切にされようが、親のいる子が羨ましかった気持ちは常にあった。人の姿が取れない幼い頃は人の噂にも苦しんだ。両親を慕う気持ちと憎む気持ちがいつも交錯していたはず。ねえ翠?と。
「聞かせなくていいよ夕陽」
バツの悪そうな翠。聞かせたくないわりには夕陽様を強くも止めない。彼女には弱いんだよね翠は。夕陽様もそれを知っててグイグイ押すからもある。翠は完全に横を向いた。
「わたくしは従兄弟の中でも翠とは気があって仲よかったの。だから時々聞いてたのよ」
「へえ」
「やめろよ」
「止めませーん」
夕陽様はきっとそんな心があなたを選んだ。わたくしはそう感じている。ご両親の直系の子孫の僕。特別に見えてもおかしくはないとニッコリした。
「でも雪斗もじいさんの兄弟の孫だったよ?他に男はいたし」
「それは好みもあるから」
「あ、そりゃそうか」
血があればいいものでもないか。そうだよね。僕が翠の立場だったとしたら、やはり好みの子を探すだろうし。村にいなければ他も探すだろうしねえ。
「マザコンと言われるかもと思ったんでしょ、翠」
「違います」
「嘘おっしゃい」
「嘘ではありません」
「その敬語がおかしいわよ」
「気のせいです」
翠には自信がないところがある。かわいいでしょ?と夕陽様は楽しそうだ。うるせえよと翠はとうとう完全に背を向けた。もう帰れと投げやりだ。
「そうねえ、もうお昼かしら。わんわんご飯」
「用意しております。隣のお部屋に」
「はーい」
夕陽様はすっくと立ち上がりわんわんの後に続く。ここの食事は美味しいから楽しみだと足取りも軽い。その半面翠は見る影もなく丸くなりぐったりしていた。
「あいつは化け物退治より疲れる……」
「あはは」
僕は翠の傍に行き、丸くなる翠の背中をを抱いた。温かな背中に頬をつけた。何の反応もないけど僕の気持ちを伝えたい。そう思ったんだ。
「僕はどんな理由があってもあなたが好き。それは変わらない」
「……」
返事はないね。神社に来る人は切羽詰まった人たちもいるだろうし、願いを聞いてるうちに人に対して偏った思考になってるのかもね。困った人だねえ。
「あのさ、マザコンは家族の仲が良好とも取れるでそょ?不倫の子と蔑む人がいる一方で、あなたのご両親の場合は真実の愛を貫いたとも言える。ね?」
「……」
「翠?」
いつもはゆとりがあって格好よく、慌てずなんでも優雅にこなすんだ。なのにこんなになっちゃってもう。
「僕は隠すことなどなにもない。隠すことがないからね」
「……知ってる」
やだなあ。童貞なのは言いたくなかったけど、原因はあなたのせいだからね?ねえ翠。ため息で背中が揺れた。
「俺が嫌だったんだ」
「うん」
お?しゃべった。僕は今なんの後悔もない。両親と他人みたいになったのは辛い部分だけど、子どもは自分が死ぬまで親とはいられない。いつかは離れるものだし、それが少し早かったと思えば割り切る努力はする。
「翠と夫婦になって僕は弱くなったんだ。あなたが傍にいないと……とても寂しい。あなたがいないと心細くなるんだ」
これは言うつもりはなかったんだ。こんなに依存してしまう自分が嫌だったから。この世界でひとりぼっちの人間という獣。他にも人間はいるけど、同じ人間だというだけの他人で頼るべき身内じゃない。
わんわんたちはお仕事で僕に接するからどこか一歩引いている。あなたにしか僕の本当の気持ちは話せない。あなたがいないと、半身がもぎ取られたような気分で眠れないこともある。数日ならともかくね。こんなになるとは思わなかったんだと、つらつらと独り言のように僕は話していた。
「翠、僕は……僕はね。こんなに他人を愛せ……」
「もう言わなくていい。分かるから」
「でも」
「うん。分かってるから」
翠は体を起こし僕を抱いてくれた。ごめん、弱いところは見せたくなかった。生い立ちのせいか、心を許した人に拒絶されることを極端に嫌うところがある。僕に肯定されると幸せを感じた。兄君たちとは違う、あったかい気持ちになった。だから余計なことを言って幻滅されたくなかった。それだけだったそうだ。
「番だからじゃないなにか。辰巳様が言うように、お前はどこか母君に似てるのかもな」
「もらった力のクセかもね」
「そうかもな」
抱きたい、今すぐに。愛しくて愛を確かめたくなるが、飯にしようと軽く触れるような口づけ。僕は唇が離れると翠を見つめた。
「離れていた時間僕は心細かった。何もできないし怖かったんだ」
「ごめんな」
抱き合ってると隣から「飯だ!」とわんわんの怒鳴り声。はーいと僕は返事をした。襖で仕切られてるだけだから翠が立ち上がり開けた。目の前には夕陽様がそれは幸せそうに食べている。
「話し合いは終わった?」
「ああ」
「そう。美味しいわよ、特にこの鹿刺し」
「だろ?うちの山の鹿は肥えてるからな」
わんわんがこちらへと手招きし僕らも席についた。お料理を今お持ちしますからと、廊下側の襖から出て行った。お客様をもてなすため、うるし塗りの御膳にお客用の器に料理が盛り付けられていた。目にも楽しく美しい料理たち。御膳にするだけで豪華に見えるね。いや、普段が豪華なんだよ。
「お酒も欲しいわね。わんわん用意を」
戻ったわんわんは僕らに鹿刺しを配膳すると「かしこまりました」と廊下から料理のお盆を受け取る。翠は酒?と不審そうになり、
「お前帰らないのか?」
「ん?お昼寝してからのつもりだけど?」
「ではお布団のご用意もいたしますね」
「おねがーい」
「え?は?」
わんわんは忙しく動き回り、翠は眉間に深いシワ。僕らが食べ始めると、夕陽様は改めて化け物退治を話してあげると言われた。
「どうだったのでしょうか?」
「えっとね」
二人は都からダッシュ出戻り山に向かった。化け物を確認すると、警察の人に下がれと命令。後退したのを確認後、僕がさっきしたみたいな火の玉を撃ち込み一撃で終わり。特に困らなかったわと。あっけない終わりだったそうだ。
竜の力は「天帝の力」が混じっているからだそう。この世界を維持するための不思議成分らしい。
「わたくしたちがいれば戦闘は起こらないのよ。あんなに森を燃やすこともない。部下の判断ミスね」
「そ、そうですか……」
隣で翠もうんとうなずいていた。今回はタイミングが悪かったとしか言いようがないそうだ。退治の話は終わり。楽しい話をしましょうと、退治の話はサラリと終わった。
夕陽様は都でふわふわのワンピースを買ったから見に来てと誘われたり、この地の都では今人の世界の映画(最新でDVDになっていない)物の上映してるから観に来るといいわよと、多岐にわたる情報がもらえた。が、映画だけは解せん。なぜ最新が上映できるの?と聞けば、
「んふふっ内緒よ」
楽しそうに微笑む夕陽様。この世界の不思議はまだまだありそうだな。僕が全部理解するのはいつのことやらだね。
「皆様中にお入り下さいませ」
わんわんの声にハッとして、翠たちが戻る後に続き僕も客間に戻った。夕陽様はニヤニヤしてて翠はいつもどおり。
「あの後ばあちゃんが死んで……それから?じいちゃんちにはなかったし。ならうちにあったはずだよね?」
席に戻っても考えていた。そうだ、大学受験の時母さんが僕にお守りだと小さな革袋に入れてくれたんだ。先祖代々大切にしてるうちの秘宝だ。きっと受験のお守りになるとくれたんだった。そうだよ!
「翠大変!あの玉僕のマンションに置きっぱなしだったよ!」
「知っている。回収してご両親の家の仏壇に戻しておいた」
「はあ?戻したって……知ってるってなんでだよ!」
やはりと夕陽様は笑い、翠はそうかなとは思ってたそうだ。
「あの玉は俺の両親だな」
「あの……?いいの?」
「あれは夏樹の家の秘宝になってるからな。構わん」
ご両親だよ?いいのかともう一度聞いたけど「いいんだ」としか翠は言わなかった。そう……近くに置かなくてもいいのか。そっか。僕はなぜ近くに置かないのか理解ができなかった。親には特別な気持ちがあるものではないの?と思考が止まった。
「だから翠は夏樹に惹かれたのね」
「どうかな」
僕は置いてきぼりで話は進んでいた。
二人の話ではご両親は人として埋葬はされた。でもあの頃僕の村は土葬と火葬が混じっている時代だったそうだ。ご両親の子供たちは貧しく土葬を選択。自分ちの見晴らしのいい山の中に埋葬した。その後何かのきっかけ(天災や動物が掘った)で見つけた子孫が大切にしてたんだろう。そう二人は説明してくれた。
「俺がお前を全く調べないとでも思ったか?」
「いえ……まあそうだよね」
嫁にもらった頃は調べてなかったが、共に生活するうちになんかおかしいと思うことがあった。辰巳様(帝)の指摘かに気になって、ちまちまと調べたそうだ。調べないとは言ったけど、気になってしまったらしい。
「都に行くときにあちらで道具を借りたりして過去を見たり……かな」
「そんな道具があるの?」
夕陽様はあるのよとクスクス。閻魔様の鏡の話は知ってる?と言われた。亡者の過去をみる鏡ですよねと言えばそうだと。
「黄泉の世界などないのよ。死ねば終わり」
「やっぱりそうなんで……いやいや、鏡はあるんですよね?」
やあねえ夏樹はとさらに笑う。なんだよもう!と憤慨したけど僕は顔には出さない。
「こちらに来て戻った人がいるのよ。その人が話したことがなぜか宗教に組み込まれただけなの」
神隠しにあったということにして帰した人は昔からいた。勝手に来る人がいたのも事実だそうだ。春と秋の彼岸の頃は、世界の境界線が曖昧になる。空間に歪みがあちこちに発生し、そこに間違って足を踏み入れる人間がいたそうだ。こちらの獣が踏み入れてもそれはそれ。帰って来る方法があるから困らない。でも人はねえと夕陽様。
「そんな人がここは神様の世界だとか、黄泉の国だとか伝えてしまったのよ」
呼ばれてない人は見つけたら基本帰していた。今は陰陽寮の人が、ここでの記憶を消してから返す場合もある。でも昔は対策なしで仕方ないと二人。
「今はいないのですか?」
「いなくはないけどね。そこはこちらも対策してるからすぐ捕まえて戻すの」
見つければ即座に知らせるようこちらは周知していている。ここの人がおかしな人間と思えば交番(警察部隊の詰め所)にすぐに届ける。そして交番の役人がすぐに元場所に捨ててくる。捨ててくるとは言い方が悪いけど、呼ばれていない人間がここで生活するには厳しい。誰の庇護もなくすぐに歳を取ってしまう人間はいてもらっては困るらしい。
「まあ……たまに山で死体に……もあるかしら」
「コワッ」
「仕方ないのよね」
どこに現れるかなんてわからない。わたくしが悪いんじゃないと夕陽様。そうねとしか言いようがない。
「この世界の山の中に出てくることもあるのよ。人の世界とは違うから山は安全じゃない。知ってるでしょ夏樹」
「はい。存じております」
狼しかり熊しかり。ここはサイズがおかしいからね。元々凶暴なのにさらにだから。話がそれたけど、僕が翠の両親の末裔だとずいぶん前に気がついてたそうだ。なんで話してくれなかったの?と聞けば顔を背けた。ああ?
「翠?」
「話したくない」
「なんで?」
「なんでも」
夕陽様はくぷぷっと口を押さえ笑いを堪えている。夏樹、察してあげなさいと言いながら、我慢できなかったのか盛大に笑った。なにを察するのかさっぱりだよ。あの村の人を選ぶなら、翠のご両親の末裔はたくさんいたはずだ。僕を選ばなくても東狐の身内は血の繋がりがあるんだ。昔は従兄弟で結婚も珍しくなかったから。僕には何を察するのか分からなかった。
「夏樹、翠は末っ子で、麗様にも上の兄君たちからも大切にされ育てられたの」
「はい。それは聞いてます」
でも両親がいない寂しさは常にあったはずだと夕陽様。どんなに身内に大切にされようが、親のいる子が羨ましかった気持ちは常にあった。人の姿が取れない幼い頃は人の噂にも苦しんだ。両親を慕う気持ちと憎む気持ちがいつも交錯していたはず。ねえ翠?と。
「聞かせなくていいよ夕陽」
バツの悪そうな翠。聞かせたくないわりには夕陽様を強くも止めない。彼女には弱いんだよね翠は。夕陽様もそれを知っててグイグイ押すからもある。翠は完全に横を向いた。
「わたくしは従兄弟の中でも翠とは気があって仲よかったの。だから時々聞いてたのよ」
「へえ」
「やめろよ」
「止めませーん」
夕陽様はきっとそんな心があなたを選んだ。わたくしはそう感じている。ご両親の直系の子孫の僕。特別に見えてもおかしくはないとニッコリした。
「でも雪斗もじいさんの兄弟の孫だったよ?他に男はいたし」
「それは好みもあるから」
「あ、そりゃそうか」
血があればいいものでもないか。そうだよね。僕が翠の立場だったとしたら、やはり好みの子を探すだろうし。村にいなければ他も探すだろうしねえ。
「マザコンと言われるかもと思ったんでしょ、翠」
「違います」
「嘘おっしゃい」
「嘘ではありません」
「その敬語がおかしいわよ」
「気のせいです」
翠には自信がないところがある。かわいいでしょ?と夕陽様は楽しそうだ。うるせえよと翠はとうとう完全に背を向けた。もう帰れと投げやりだ。
「そうねえ、もうお昼かしら。わんわんご飯」
「用意しております。隣のお部屋に」
「はーい」
夕陽様はすっくと立ち上がりわんわんの後に続く。ここの食事は美味しいから楽しみだと足取りも軽い。その半面翠は見る影もなく丸くなりぐったりしていた。
「あいつは化け物退治より疲れる……」
「あはは」
僕は翠の傍に行き、丸くなる翠の背中をを抱いた。温かな背中に頬をつけた。何の反応もないけど僕の気持ちを伝えたい。そう思ったんだ。
「僕はどんな理由があってもあなたが好き。それは変わらない」
「……」
返事はないね。神社に来る人は切羽詰まった人たちもいるだろうし、願いを聞いてるうちに人に対して偏った思考になってるのかもね。困った人だねえ。
「あのさ、マザコンは家族の仲が良好とも取れるでそょ?不倫の子と蔑む人がいる一方で、あなたのご両親の場合は真実の愛を貫いたとも言える。ね?」
「……」
「翠?」
いつもはゆとりがあって格好よく、慌てずなんでも優雅にこなすんだ。なのにこんなになっちゃってもう。
「僕は隠すことなどなにもない。隠すことがないからね」
「……知ってる」
やだなあ。童貞なのは言いたくなかったけど、原因はあなたのせいだからね?ねえ翠。ため息で背中が揺れた。
「俺が嫌だったんだ」
「うん」
お?しゃべった。僕は今なんの後悔もない。両親と他人みたいになったのは辛い部分だけど、子どもは自分が死ぬまで親とはいられない。いつかは離れるものだし、それが少し早かったと思えば割り切る努力はする。
「翠と夫婦になって僕は弱くなったんだ。あなたが傍にいないと……とても寂しい。あなたがいないと心細くなるんだ」
これは言うつもりはなかったんだ。こんなに依存してしまう自分が嫌だったから。この世界でひとりぼっちの人間という獣。他にも人間はいるけど、同じ人間だというだけの他人で頼るべき身内じゃない。
わんわんたちはお仕事で僕に接するからどこか一歩引いている。あなたにしか僕の本当の気持ちは話せない。あなたがいないと、半身がもぎ取られたような気分で眠れないこともある。数日ならともかくね。こんなになるとは思わなかったんだと、つらつらと独り言のように僕は話していた。
「翠、僕は……僕はね。こんなに他人を愛せ……」
「もう言わなくていい。分かるから」
「でも」
「うん。分かってるから」
翠は体を起こし僕を抱いてくれた。ごめん、弱いところは見せたくなかった。生い立ちのせいか、心を許した人に拒絶されることを極端に嫌うところがある。僕に肯定されると幸せを感じた。兄君たちとは違う、あったかい気持ちになった。だから余計なことを言って幻滅されたくなかった。それだけだったそうだ。
「番だからじゃないなにか。辰巳様が言うように、お前はどこか母君に似てるのかもな」
「もらった力のクセかもね」
「そうかもな」
抱きたい、今すぐに。愛しくて愛を確かめたくなるが、飯にしようと軽く触れるような口づけ。僕は唇が離れると翠を見つめた。
「離れていた時間僕は心細かった。何もできないし怖かったんだ」
「ごめんな」
抱き合ってると隣から「飯だ!」とわんわんの怒鳴り声。はーいと僕は返事をした。襖で仕切られてるだけだから翠が立ち上がり開けた。目の前には夕陽様がそれは幸せそうに食べている。
「話し合いは終わった?」
「ああ」
「そう。美味しいわよ、特にこの鹿刺し」
「だろ?うちの山の鹿は肥えてるからな」
わんわんがこちらへと手招きし僕らも席についた。お料理を今お持ちしますからと、廊下側の襖から出て行った。お客様をもてなすため、うるし塗りの御膳にお客用の器に料理が盛り付けられていた。目にも楽しく美しい料理たち。御膳にするだけで豪華に見えるね。いや、普段が豪華なんだよ。
「お酒も欲しいわね。わんわん用意を」
戻ったわんわんは僕らに鹿刺しを配膳すると「かしこまりました」と廊下から料理のお盆を受け取る。翠は酒?と不審そうになり、
「お前帰らないのか?」
「ん?お昼寝してからのつもりだけど?」
「ではお布団のご用意もいたしますね」
「おねがーい」
「え?は?」
わんわんは忙しく動き回り、翠は眉間に深いシワ。僕らが食べ始めると、夕陽様は改めて化け物退治を話してあげると言われた。
「どうだったのでしょうか?」
「えっとね」
二人は都からダッシュ出戻り山に向かった。化け物を確認すると、警察の人に下がれと命令。後退したのを確認後、僕がさっきしたみたいな火の玉を撃ち込み一撃で終わり。特に困らなかったわと。あっけない終わりだったそうだ。
竜の力は「天帝の力」が混じっているからだそう。この世界を維持するための不思議成分らしい。
「わたくしたちがいれば戦闘は起こらないのよ。あんなに森を燃やすこともない。部下の判断ミスね」
「そ、そうですか……」
隣で翠もうんとうなずいていた。今回はタイミングが悪かったとしか言いようがないそうだ。退治の話は終わり。楽しい話をしましょうと、退治の話はサラリと終わった。
夕陽様は都でふわふわのワンピースを買ったから見に来てと誘われたり、この地の都では今人の世界の映画(最新でDVDになっていない)物の上映してるから観に来るといいわよと、多岐にわたる情報がもらえた。が、映画だけは解せん。なぜ最新が上映できるの?と聞けば、
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