お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

48 思ってたのと違う……

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 夕陽様と外に出て正面を向き見つめ合う。なんだこれ。彼女は緊張感もなく僕を上から下まで確認するけど、僕は心臓バクバク。

「翠はエッチなやり方をしたでしょうが、わたくしはしません」
「あ、ありがとう存じます」

 翠はエッチして僕が気を失った間に何かしたと言っていた。その翌日の訓練では、不安定だった防御のドームが安定し、訓練を重ね翠くらいまでの強度になった。広さも硬さもね。珠じゃないから見せる必要もないとかなんとかと言っていたんだ。

 夕陽様は先ず説明すると人さし指を立てる。

 人は力をもらっても上手く発動できないことの方が多く、伴侶の獣が手助けするのが一般的。もちろんみんな力の強い神様クラスしか人を妻や夫にしないのもある。命や番の珠のおかげで繋がりができ、獣の方に似た力が発現すると言われてるそうだ。だから僕は防御に振り切っていたらしい。

「狐の神使は攻撃しないんじゃないの。神様が半端なく強いからしなくて済むだけなのよ」
「そうなのですか?」
「ええ。人の世界の神話のとおり。神使にも攻撃力はあるの。使わないだけ」

 でもねえと夕陽様。翠の母君は特に優しい方で、悪い人でも傷つけることを嫌った。だから翠には攻撃の力(火属性)が発動しない。母君由来の力は守るのみに特化しているそうだ。竜由来の水や雷ははできるけどね。

「翠がかわいかったのよ。二人にとってとても大切な息子だったの」
「ええ……なんとなくわかります」

 逃げた先で生まれた子。人ではなく「こちらの世界の獣」として生まれた我が子。最後の不思議な力で生まれた子。これで完全に自分の力がなくなり、人間と同等になると東雲様たちは感じたはずだ。身を切る思いで帝に託したんだろうなあ。翠の両親に思いを馳せていると胸に手が刺さっていた。はあ?死ぬ?死ぬでしょ!と僕は叫んだ。

「死なないわよ。じっとしてなさい」
「でも!」
「いいから黙りなさい!」
「は、はいッ」

 強く言われて静かにした。なんか胸のあたりでゴソゴソとこねくり回している感じはする。

「また厳重に術が掛けてあるわね」

 封印が厳重だわね、ほうほうとか言いながらなにかしている。

「よしっ夏樹、手を上にして火を出すイメージを持ちなさい。そして上に飛ばす感じかしら」

 そう言いながら胸からズボッと手を抜いた。僕は恐怖もあり胸を確認。なんともなってないし、着物にも穴はないなと胸を擦る。

「早くなさい」
「は、はいッ」

 僕は右手を天にかざし、危ないからライターくらいの火のイメージで「炎よ出よ」と唱えた。口に出した方が力の行使は楽なんだよ。

 手のひらの中で小さな炎が渦を巻き、次第に大きくなった。何これってって思ってるとゴウッと音を立てた。

「あの……これ?」
「打ちなさい!」
「はい!」

 大きな火球がドーンッと音を立てて僕の手のひらから空に飛び去った。ええ……っと?

「やっぱり翠の番だわ、力が半端ない。ウフフッ」

 火の玉は尾ひれをつけて飛んでいく。僕は呆然と見上げていた。自分がやったんだけどあれなに?と見ていると失速し霧散。これ怖いと僕は火球が消えた空を眺めていた。

「ほらな。夏樹の力だとこうなると思ったんだよ。だからそのままにしてたのに」
「あら、攻撃は最大の防御よ。悪くないわ」
「そうだけどさあ」

 翠が客間から出てきてあーあと空を眺める。わんわんも縁側に出て呆然としていた。玄関側の方を向けばマオもほうきを持ったまま固まっていた。

「夏樹、また訓練に励めよ。危険だから」
「……はい」

 これはいらなかったかな?と言うのが正直な感想だ。こんなに威力があるとは思わなかったんだよ。どうすんのこれ?あまりのことに動けずにいると、背中から優しく抱かれた。

「夏樹」
「どうしよう翠。僕には過ぎたる力に感じました」
「そうだな。狐は火が得意だ。でも竜に引きずられてる部分もあるだろうから水もいけるかもね」
「そう……」

 僕の頭の中は「どうしよう」しかなかった。これコントロールできるようにしても使いたくはない。当たれば確実に相手が死ぬでしょ?今回みたいに殺していい人ならまだしも。いやいや、僕は人を殺せる自信などない。動けなくするくらいのイメージだったんだ。僕は振り返り翠に抱きついた。

「いつも傍にいて。僕は使うのを躊躇いそうだ」
「うん。努力する」

 後ろで夕陽様がこれで名実ともに翠の妻ね。よかったよかった、うんうんと満足そうだ。よかったのかな?と疑問に思う。そう思わずにはいられなかった。自分が望んだことだけどさ。後悔先に立たずだよ。

「ああそうだわ。夏樹見たことないでしょう。見せてあげるわ」

 振り返ると夕陽様が着物の袂から何かを探して出している。僕らに近づくと手のひらを広げた。

「これがさっきの熊」
「は?」

 手のひらには赤黒い大きめのガラス玉のようなものがコロンとある。わりと禍々しい感じではある。血のような赤と墨のような黒が混じり合っている大きなビー玉みたいだ。

「化け物になると魂の色がこんな色になるのよね」
「え?まさか死ぬとこれになるのですか?」
「うん。夏樹はこの世界でお墓や墓地を見たことある?」
「ないですね。そう言えば」

 この世界の生き物「獣たち」は天帝の力を受け取ったがために最終的にはこうなるそうだ。

「通常は死んで七日後に体が消えてこうなるのよ」
「へえ……」
「あなたもよ」
「僕も?」
「当たり前でしょ」

 今回は我らが手を出したからすぐにこうなったけどねと笑う。この色になった人の魂は都に届けなければならないそうだ。供養だと持ってると、陰の気に当てられてその人も化け物になるそうだ。なんだその呪物は!

「だから出回らないようにしてんのよ」
「そうですか。そうですよね」

 都にこうなった魂をなんとかする部署があって「陰陽寮」と名がついてるそうだ。ああ、イメージが湧きました。

「少しの間持ってたからとどうこうはないんだけど、何年もしないうちに……んふふっ」

 嫌な笑いをする夕陽様。上目遣いで僕を見てニヤリとする姿は、僕をからかってる色が見えた。

「ちなみに普通の方のは持ってても?」
「なんともないわね。天帝の力も抜けちゃっているし、その人の色が少しあるだけかな。黄色っぽいとか緑っぽいとか」
「ふーん」

 七日のタイムラグがあるのは死を悼む時間らしい。身近な人が思い出話をしながら食事をしたり、傍に寄り添い悲しみを消化するためらしい。それがここでの葬式になるそうだ。

「獣は死の割り切り方は早いのよ。だから七日くらいがちょうどいいの。その人がいなくなったことを納得するにはね」

 家族はこの魂の玉を根付け(巾着の紐に着けて腰紐に通して落とさないようにする装飾)にしたりもするらしい。いつも一緒にいられるから。

 野生の動物なら死を数日かその場で納得する。その後は後腐れなく過去にして前を向き歩き出す。自分が生きることに集中するんだ。それが野生で生きる知恵だから。でも獣は人に近くなったから、そこまで感情が割り切れないと夕日様は説明してくれた。だから番の魂の玉を身につける人が多いそうだ。

「……なんか思い出しそう。なんだっけなあ」
「どうした?」

 僕はこの玉をどこかで見た気がするんだ。子どもの頃……だと思う。ひいばあちゃんが持っててそれからどうしたっけ。う~んと……二個あってオレンジっぽいのと緑というかエメラルドグリーンというかでさあ。う~ん?

「あのね翠。これうちにあったんだよ」
「ほう」
「うちの祖父母は結婚が早くてさ。ひいばあちゃんが生きてた頃見せてくれてね」
「ふーん」

 あれどこにやったんだっけ。その後ばあちゃんが大切にしてて、仏壇に置いてあった。それから?それからどうした?ばあちゃんが死んで、じいちゃんだけになったら玉は仏壇で見かけなくなっていた。どこに?仏壇の引き出しにでもしまってるのか?分からない。

 僕は必死に思い出そうとしていた。




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