お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

50 夕陽様はお泊りに

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 昼食後、夕陽様はお昼寝しておやつ食べて、なんかしていたらまた寝てた。そして夕方に起きるとお風呂に入ると息巻いて使用人の人たちは走り回っていた。その間に侍女の方が来て、お着替えなんかを持ち込んでしまい……なんかしてたのは侍女の人に連絡してたっぽい。

「夕食はいつもどおりでいいわ。キッチンはこっちね。もう客らしくしなくていいわ。ここからは私的に来たことにするから」
「かしこまりました」

 侍女の方はすみません、お嬢様はいつもこんなでと翠に頭を下げた。

「翠のおうちはわたくしのおうち。妹が帰宅したと思ってちょうだい」
「はい。ではお泊りの部屋は二階、お風呂も二階をご利用下さいませ」
「はーい」

 わんわんの説明の間、翠は無言で目は死んでいた。キッチンの席に着くと、向かいに座る夕陽様を見つめている。夕陽様は兄君たちより図々し……いえ、それこそ本当の兄妹のような振る舞いをされる。

 来る回数はとても多く、視察に来たから泊まることも多い。その時はお付きの人たちもいるから大勢でね。屋敷はとても賑やかになるんだ。今日は侍女の方と二人だから静かだけど。

「お前ねえ、ここは俺んちなの。お前の別荘でも官舎でもないんだよ」
「いや~んお兄さまぁ、そんなこと言わないでよぉ」
「キモッ」

 クネクネしながら甘える夕陽様に冷たい態度の翠、気にしてない夕陽様。まるで兄妹です。でもこんな時間が僕は楽しい。それに家に女性がいると華やかだよね。夕陽様はおしゃべりが好きなのもあってさ。翠との掛け合いを見てるだけでも楽しいんだ。

 華やかな着物に袴姿。女性が好む暖色系の着物で鶴や水面の文様で、袴も一見単色のように見えるけど、同色の花の刺繍が施されてるんだ。男性はまじで武士の袴で無地の地味なものだからね。それに東西南北の責任者「国司」で女性は夕陽様だけ。小さな街とかの「郡司」には女性もいるそうだ。でも彼女は今いる竜の中でもかなり強い竜。かなり怖いお人でもある。

「イオ、これ美味しいわ」
「お褒めに預かりまして」

 ゼンマイの煮物を口にし満足そうだし、イオも褒められて嬉しそう。うちのゼンマイは昔ながらのやり方で「手揉み」しながら乾燥させる。肉厚でとても柔らかいんだ。筋なんてなくてね。

「引き抜こうかしら」
「やめろ。イオは俺んちの板前だ。夕陽の家も板前いるだろ」
「いるけどね」

 まあいいや、熱燗おかわりとイオにとっくりを突き出した。はいとイオはお盆で受け取り調理場に戻る。

「ここはお酒が美味しいわ」
「まあな。うちのは基本夏樹の村の奉納品だ」
「いいなあ。神様は人の物が手に入りやすくて。わたくしは人の神はしてないから」
「すれば?」
「忙しくて死ぬわよ」
「夕陽ならできそうだがな」

 やりたくないんだと刺し身を口にする。バカみたいに忙しく働くのは獣として許しがたい生活。昼寝しながらまったり働きたいらしい。イオが新しいとっくりを持って来てどうぞと御酌している。

「イオ、いつものお酒数本用意しておいて」
「かしこまりました」
「お前……来るたびに持っていくなよ」

 秋のお祭りはもうすぐ、残り少ないのにと翠は本当に嫌そうだ。

「お祭りが終わった頃また来るわ。イオ用意をね」
「はい。お嬢様のお好きな銘柄をご用意しておきます」
「よろしくね」

 イオが下がると翠は眉間にしわ。そして額に手をやりチッと舌打ち。実はね、神社のお祭りが僕の頃より盛大になり、奉納のお酒の数は多くなった。祭壇手前の壁一面にお酒で凄いんだ。それに、縁結びの御利益で有名になったおかげで普段の奉納も多くてね。

「よろしくねじゃねえよ。毎年毎年さあ」
「いいじゃない。飲みきれないんだから」
「それとこれは違うんだよ。俺があちこち土産に持っていく分もあるんだよ」
「それでも余裕でしょ?」
「余裕なくなるときもあんの!お前のせいで!」
「ならあちらで買ってくればよろしい。店で稼いでいるの知ってんだから」

 ウグッと喉を鳴らす翠。あー言えばこう言う夕陽様である。「はいはいウナギも焼けましたよ。熱いうちにどうぞ」とイオがいい匂いをさせて持ってくる。

「うなぎ!嬉しいーッ」

 今日は夕陽様いるからコースのようにイオは出してくれている。普段は全部出しだけど、こんなのもたまにはいいもの。お客様が来てる感じがしてね。僕は翠の隣で静かに料理を楽しんでいた。人の会話をこうして聞くのも楽しいよね。

「夏樹、今日は大人しいわね」
「お二人が楽しそうなので、水を差したくないだけですよ」
「そう?そういえばあなたたち赤ちゃんはいつの予定?」
「ふえ?」
「そういうのは聞かないものなんだよ」

 翠はハラスメントはやめなさいとたしなめた。ここにはそんな言葉はありませんとどこ吹く風の夕陽様。

「まさか……あなた番の珠を夏樹にあげてないとかないわよね?」
「やめなさい。そういったことは聞かないの」
「ええ~いいじゃない。夏樹来てからずいぶん経ったわよね?」

 僕は真っ赤になり下を向いた。僕の様子にそれはないか。ウナギ美味しいとか言っている。

「あの夕陽様。僕はまだ翠と二人の時間が欲しいのです。もっともっと仲良くなって、心から赤ちゃんが欲しくなった時、その時にと考えています」
「ふーん。わたくしには息子がひとり。かわいいわよ?」
「あの、差し支えなければご夫婦になって何年目に?」

 夕陽様は少し考え込んだ。ずいぶん前のことを聞くわねと、うーんと唸る。

「えっと、二十年前だから……結婚して二年目かしら」
「早いのですか?」
「初めの発情期で妊娠しやすいかしらね。その後は人によるかな」
「夕陽は成人してすぐに結婚したんだよ」

 竜の成人は百年前後。それに夕陽様はいいところのお嬢様だから許嫁がいた。だからだよと翠が説明してくれた。男性は結婚が遅めだと言う。夕陽様は竜でも神になっていない人は寿命が少し短く、急ぐのはそういう理由もあるそうだ。

「人からの祈りの力がないからよ。まあ……平均は八百年前後かしらね」
「そうでしたね」

 獣は人の世界の神になると竜以外も二百年くらい寿命が伸びる。長生きがなんでもかんでもいいとは思わないが、我ら獣は長い時間楽しむすべがある。時を指折り数えて生活などしていない。そのせいもあり長生きも悪くない。毎年特別変化があるものではないが、悠久の時の流れに身を任せ、その時々を楽しむのも悪くないものと夕陽様はお猪口に口につける。

「人間のような考え方をしているとここでは辛くなるわ。本来の寿命の頃に辛くなるの。だからこちらに合わせる努力をしなさい夏樹」
「はい」

 今は理解できないかもしれないが、合わせてても辛い時が来る。覚悟をしているだけでも心は守れるからと夕陽様。どういうことかは僕には分からない。本来の寿命?僕が八十くらいかな。

「夏樹。百年近くなるとお前が関わった人は誰もいなくなるんだよ」
「あ、そっか。そうか……」

 全く考えていなかった。そうだ、両親も雪斗たちもいなくなる。村に行っても誰も知らないとは言わないけど、同世代はいなくなる。そっか……僕だけを残してみんな……

「毎年村の人に会うし、一緒に祭りを楽しんでるだろ?全く知らないとはならないよ」
「うん」

 村も変わるし人も世代も代わる。今から千年前は平安時代末期かな。藤原氏の時代なんて想像もつかない。ここの都はそれを模している感じだったし、街並みは江戸から昭和の頃のビル少なめな感じだ。時の流れを一気に見られる世界。そう考えれば先のことを考えても無駄だな。顔見知りがいなくなる頃、心を強く持てば生きていけるはずだ。きっとね。

「その頃には俺たちの子どもがいるよ。大丈夫だ」
「はい」

 翠の赤ちゃんかあ、狐の赤ちゃん。きっとかわいいわあと夕陽様。ふわふわでえ……と手を合わせうっとりして、ピタッと止まった。ん?

「あの、翠はなぜ今も狐なの?なぜ竜にならないの?」
「ああうん、それなあ」

 数年前、帝直轄の博士たちが「竜が伴侶なのに相手の姿で生まれる謎」を解明したと夕陽様が。ええ?僕知らないよ。解明が終わっとか聞いてないと驚いた。

「言ってないからな」
「なぜ言わない!」
「お前、狐の姿喜んでたろ?だからだ」
「うっまあ……フカフカの耳や尻尾大好きだけどさあ」
「ならここままでいいだろ」
「そう?今後雨月様が帝になったらなんか言う人増えるわよ」

 面と向かって言うわよと夕陽様。言ってればいいさと翠。それでいいの?よくないでしょうよ。僕は二人の会話を聞いていた。

「雨月様自体が言うかもよ?」
「ならそん時だけ耳と尻尾隠して擬態する。疲れるけどやれなくはない」
「またあなたは……」

 赤ちゃんが狐で生まれ、何か言われたら可哀想だと夕陽様。翠はよく泣いてたらしい。

「わたくしが慰めてたのお忘れ?」
「子を作る前に考えるからいいの」
「ふーん。発情期なんて興奮でいろいろ忘れるわよ」
「今んところ大丈夫だ」
「そうですか。でもねえ、あの発明されたものは成人後でないとダメらしいわよ。力がある程度溜まるまでは使えない」
「知ってる」

 嘘!僕の好みとか言ってる場合じゃない。子どもに苦労をかけたくはないもの。翠が繊細なのもそれが一因だろうし。僕は翠のかわいい耳を触れないのか、五本にした尻尾は大型犬のお腹に入れてもらったような心地よさで、捨てがたいのも事実。でも子供に苦労は……僕は知らないうちに彼の耳に手が伸びていた。

「なに夏樹?」
「ハッごめんなさい」
「うふふっ名残惜しいのね夏樹は」
「あ……す、すみません」

 僕はサッと手を引いた。耳の毛は特に柔らかく、付け根付近は特に柔らかくて気持ちいいんだ。翠も触られると目を閉じて「気持ちいい」と言っくれる。

「もう少し耐えて翠。ごめんなさいだけど……狐の翠が好きなんだ。ハッそうじゃなくて!中身も好き!」
「バーカ。お前に許可なく姿は変えないよ。安心しろ」
「うん」

 狐臭いは確かになくなるかとふむと納得している。竜はほとんど匂いがないと夕陽様は楽しそうだ。

「そうねえ……竜の発情期は湿っぽい匂いかしら。梅雨時の空気みたいな、雨の匂いに近いかしら」
「そうなの?」
「俺は分からん。竜を抱いたことはないから」
「そう」

 そうそうと夕陽様は楽しそうになる。ここんちの兄弟は身持ちがいいと評判。時雨様は遊び人の異名を持つけど、実はそうでもない。雨月様はつまみ食いだけで他人の伴侶を奪ったりもしない。竜としては腰抜け一族と噂になっているのを知ってるかと聞かれて、僕は知ってますと答えた。他の御子たちと関わるうちに聞いていたんだ。

「でもわたくしはすてきだと思ってます。伴侶を大切にしている証でしょう?腰抜けなんじゃありませんもの」
「僕もそう思います」

 わたくしは夫のみ。夫がどう思ってるかは分かりませんが、今どちらにも妾なといないそうだ。

「……見つけたら殺しますけどね」

 ボソッと怖い一言が聞こえた。「わたくしは翠の兄弟の一員のようだと昔から言われ、異端児と友だちからも馬鹿にされ……みんなうるさいわ。夫一筋の何が悪い。そんな人がいてもいいでしょうよ」とブツブツと早口で呟いている。金色の瞳がキューと縦に細くなり目つきが悪い。マジでむかついている様子だ。

「他人は気にするだけムダだよ。夕陽」
「分かってますが……こんな話はやめて夕食を楽しみましょう。夏樹、翠は子供の頃ね……」
「やめろ!」

 夜遅くまで宴は続いたんだ。






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