お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

50 新たな帝の誕生

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 あの化け物熊事件から早五十年。

 僕は翠に愛され幸せに過ごしていた。町に遊びに行き、たまに別の地区に旅行にも行った。夕陽様とは恐ろしいほど仲良くなりお泊まり(翠が忙しい時に)にも出かけるようになっている。当然紅様ら翠のお友達や、その伴侶の御子様たちとも仲を深めた。

 かたや僕の生まれ育った村。元からの村人はかなり減っちゃったよね。僕の両親もとっくに天に帰っている。知らないうちに死んじゃってて、葬儀にも行けなかった。その後悔もあって今でも村に行く度にお墓参りは欠かさない。

 そして僕ら世代の雪斗たちは頑張った。ちんまりした民宿みたいな宿ばかりだった村に、有名リゾート会社を呼び込んだ。山を切り開き造成して一大リゾート地にしたんだ。翠の神社は大きくなり、新しく建て直されて祭りも盛大になった。

 それにリゾート運営には従業員は必要だよね。だから会社が空き家を寮にしたり、お店やるって人が移住してきてくれたんだ。学校も子どもが増えた。村は町と呼んでもおかしくないくらいの人口に。両親が子どもの頃くらいには人が増えて賑やかにね。

 僕は時の流れは遅いようで早かったと、改めて感じていた。

「夏樹は不妊?」
「失礼なこと言わないで。翠の僕への愛のたまもので……二人でいたいと言うからですッ」
「あらそうなの?翠様見た目によらずですわ」
「放っといて!」

 前の帝の辰巳様が昨年亡くなり、今日は雨月様の代替わりのお祝いの席なんだ。僕ら竜の妻や夫は宴席からの参加でね。僕は控室で久しぶりに会う仲のいい奥様たちと楽しいおしゃべりしていた。

 雨月様の奥様紫陽しよう様(猫)は、本来ここにいなくてもいいんだけど混ざっていた。私もみんなに会いたいんだもーんって無理を言ったらしい。

「私のところは早くから生まれてね。みんな成人してあちこち行っちゃったのよ」
「そうですか。寂しいですね」
「そうでもない。夫がいればいいかな」
「そ、そうですか……」

 他の奥様方も似たようなものだとうなずいている。奥様の一人がそうそうと、
 
「うちは争いに負けてもう玉になって帰ってきてる子もいるのよね」
「それは……何と慰めていいか」
「ああそれは大丈夫。強い者に立ち向かった結果だからしょうがないし」

 あっけらかんと話していて少し混乱気味。うちもよってあちこちから聞こえてくる。獣は暴力的になりがちだからねえってさ。知ってるけど、みんな引き際は考えてもいいのでは?とか思っていた。

 それに御子の皆さんは来た時の翌年にはお子様が生まれている人が多い。初めての子はすぐに出来るけどその後は間が空いてしまうそうだ。だから子育て中の方もいらっしゃる。

「そういえば、いつまで翠様は狐でいるの?皆さん姿を竜にしてるじゃない」
「そ、そこは翠の気持ち次第ですから」

 フフッと笑って誤魔化した。言えないでしょ、ふかふかな翠が好きだとは。あの尻尾と耳が捨てられない僕のわがままとはね。ニコニコを崩さずにいたらふーんとなった。そしたら話が次に移って僕は静かにした。余計なことを聞かれたくなくてね。

 狐でいるとさ。翠が気分でなくても僕は気持ちよくなれる……とは口が裂けても言えない。挿入したもの勝ちで翠は抱いてくれる。エッチな僕にはとてもいい股間なんだよね。でも翠は元々エッチだからそんなことは滅多にないけど、たまにある。

 みんなで近況報告を楽しんでいると、遠くの方からザワッとして静かになった。「紫の腕輪をもらった方はこちらへ」と聞こえる。ここは竜の伴侶を一堂に集めているからたくさんの人が反応する。

「夏樹と紫陽しようは行きなさい」
「はい」

 帝に近い身内から色分けされた数珠のような腕輪が伴侶に配られていた。呼ばれたら謁見の間(大)に順次行くためだ。一気に行くと混乱するからね。

「紫陽様、夏樹様、潮音しおん様はこちらへ。他の紫の方はこちらへ集まってくださーい」

 なぜか僕らは別にされた。なんで?と思いながら案内のうさぎさんに着いて行く。

「なにかしら?聞いてないわね」
「俺もわかんない。つか、俺は雨月様の兄弟じゃないし、夕陽の旦那……なんで?」

「それはわかんない」としか僕らには言いようがなく、紫陽様と声を揃えてしまった。

 潮音様は紫の腕輪を渡された時点でおかしいとブツブツ。今回は力の強さじゃなくて身内の近さだ。なんで俺なんだよと。そこは身内判定されてんじゃ?と言う他ない。夕陽様の旦那様だしねえ。

「帝の身内とかなんの冗談だよ。夕陽は親の兄弟の中では弱い方の……なんで……」

 潮音様の嘆きは止まらない。地方で夕陽とまったり生きる俺の計画はどうなるんだ。嫌なんだけどとか聞こえる。僕も以下同文。

 こちらでお待ちをと案内された部屋に入ると翠たちがいる。どう言うこと?帝のお傍にいるはずじゃないのと僕らはうろたえた。

「ご夫婦ごとにお掛け下さい」
「「「はい……」」」

 和室だけどテーブルで和洋折衷の部屋だ。僕らは理由も分からず伴侶の隣に座る。すぐにお茶が用意され、静かな部屋で口を利いていいかすら分からない。

「揃ったな。帝がもうすぐ来るから」
「「へ?」」

 もうお会いすることすら叶わないお立場になられたと思ってたけど?どういうこと?と翠に尋ねた。

「俺はなぜここに?」
「お前は夕陽の夫だろ?」
「そうですが、ここにいちゃダメじゃ……」

 夕陽様は私は帝に近い身内。翠のいる東の地方を国司として治めていて、これはとても重大なこと。翠の神社は人が増えて祈りの力が増えた。それにより翠は時雨様との力の差があまりなくなったらしい。はえ?

「今回あの辺りの郡司が年取って引退した。そして俺に白羽の矢が立ったんだ」
「ええ!聞いてないよ」
「言ってないから」

 なにシレッとしてんの!と騒ぐとまあ聞けと翠。生活は変わらないし、毎日出勤するものでもないって。夕陽様の補佐みたいなものだから、夕陽様に呼ばれなきゃそのままらしい。それ、市町村の長みたいな仕事なんじゃないの?ねえ!僕は翠に食って掛かるような言い方になってしまった。

「そうかもな。でも週に一日くらいだし、部下は夕陽のとこの人、でそいつらがメインで俺は書類整理かな」
「夏樹、あなたも一緒に行けばいいのよ。翠の仕事の間別の部屋で寝てればいいわ」
「それ可能なのですか?」
「ええ。わんわんやマオと行けばいいわ」

 神社にも行かないとでしょ?そちらがメインだし、僕が考えているような面倒はないらしい。役人と言ってもその地方の人のもめ事の仲裁とか、人の世界から買い付けた物の分配とかの管理だけ。大して仕事ないからって。……嘘くさいけど決まったものは覆らないのはここの常識。僕は引き下がった。

「俺は?」

 潮音様は完全に怯えていた。俺は幼い頃から夕陽が好きで、許嫁も逃がしたくなくて親に頼み込んだ。ただ好きで嫁にもらっただけだ。自分は役人の仕事なんてしてないし、呉服屋の店主なだけと早口でまくし立て、泣きそうになっている。

「あなたはこれから祝いやなんかの宮中行事に絶対参加になったの。だからここにいるの」
「うそ……今までは来なかったのに」
「それはわたくしの母君が麗様と些細なことで仲違いしてしまってね。我が家は御所にほとんど来てなかったのよ。代替わりで普通に戻っただけ」
「そう……なら諦める」
「よろしい」

 ちょうど話が終わった時に帝、雨月様が入って来た。お披露目のためにものすごく豪華な最上級の束帯姿だ。深い紫で水の意匠、袴は白。頭には烏帽子と垂れが揺れている。

「おお、夏樹久しぶりだな。俺の側室になる気になったか?」
「なりません」
「なれよ。待ってんだから」
「待ってもそんな日は来ません」

 見た目は帝だったけど、雨月様は雨月様だった。

「開口一番に俺の妻を取ろうとしないで下さい。み、か、ど!」
「いやさあ、毎回会った時に確認しなきゃだろ?気が変わるかもだし」
「なりません兄君」

 みんなの装束が最上級なだけで会話はいつもどおりである。雨月様の中身は変わっていなかった。あまり付き合いがないのか潮音様は真っ白になっているし、時雨様の奥様は知ってるからまたかよってお顔。

「ごめんなさいね夏樹」
「いいえ。おぼろ様、慣れましたし受ける気もございません」

 朧様は雨月様の奥様。后になられる方だ。この方は先々代の流れのお嬢様だそうで当然竜。夕陽様と同じくとても美しい。この方は色が白く儚げで……名前のとおり朧月のような見た目の方だけど、中身まで朧月のように儚げな人のはずはなく見た目だけだ。

「夏樹は見ないうちに獣らしくなりましたね」
「ありがとう存じます」

 ウフフッと二人で笑い合う。苛烈な方だけどいい人なのは間違いないんだ。正義感が強くてそれで暴走すると言うか。いいおうちの方だから規律を重んじる。竜はこの世界を維持する役目がある一族だ。役人にならずとも協力はしなさいって人でそこはうるさい。二人がゆっくり席に着いた。

 雨月様はここに呼んだのは他でもない。帝になると簡単に俺に会うことが叶わなくなる。単純に忙しいから。人の神の相手もあるし、実はこれが一番の仕事になっているそうだ。

「あいつらマジで怖いんだよ。俺たちとは系統の違う力を使うんだ。これだけの力があるのに力負けする」

 はあ?と全員絶句。人の神はケタ違いなんだそうだ。信者の数も違うし外国由来もいる。その神はインド由来(昔来て定着したらしい)が多いそうだ。攻撃的な神の代表的なのは七福神。他も戦闘の神とかいるし面倒くさい神様ばっかだそうだ。少ない知識の僕でも戦闘系の神様が頭に浮かんだ。

「その神たちは神使を求めに来るばかりじゃない。なんというか……ペット?愛人?夜伽?よく分からんが神使としてじゃないのも含んでいる」
「え……」

 みんな思うところがあり目を伏せる人、呆れる人などなど。言いたくはないが、ここの世界は人の神の世界より格下なのは事実、遊びに来る神様も多数らしい。

「もちろんいい神様はたくさんいる。あの人間が神様になるんだ。自分を律するのは並大抵じゃないと俺は思うんだ」

 帝の声に「だろうね」ってみんな。人は我らのように「欲に絡む争いを抑制された生き物」じゃない。それがどういうことか、野生の動物を見れば分かるだろうと雨月様。

 僕らは各々思うところがあって黙って考え込んでいた。僕の浅い知識でもいろいろね。






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