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帝の代替わり編
49 誰しもが疲れていた
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朝目を覚ますと翠はすでに着替えていた。僕も起きなきゃと布団に手をついてベッドから降りた。そして歩こうとすると足に力が入らずヘナヘナと座り込んでしまう。またか。
「翠、僕も悪いけど手加減をね?」
「できなかったんだよ。お前がかわいいこと言うから」
「なんか言った?」
ほら立てと手を貸してくれて立ち上がる。まだガクガクする気はするけどなんとかだな。
「ここにずっといればいいのに。お前はそう言ったんだ」
僕のお腹を擦り笑った。ああ、そんなこと言ったね。だってずっと一緒にいたかったんだもの。
「ここにいてくれたらずっと一緒でしょ?取り外せないかな」
「怖いこと言うなよ」
ほら着替えろ、夕陽を待たせるとうるさいぞと翠。でもと僕を引き寄せて抱いてくれる。どんなに抱かれようと、何度でも嬉しい抱擁だ。
「愛してる、心から。お腹に俺がいなくても愛してる」
「うん」
夏樹様の今日のお着物はこれをと言いながら、わんわんがスパンッと襖を勢いよく開けて入ってきた。僕らが離れると私が着せて差し上げましょうと、ふんどしまで付けてくれる。いつもと違い真面目な雰囲気のわんわん。
「我らは主の意向を尊重すべきでした。通常はなんて関係ないのです。そこが足りておりませんでした。辛い思いをさせて申し訳ございませんでした」
「いいえ。僕がもう少しちゃんとしていればよかったんだ。こちらこそすみません」
わんわんは「親しくなるとどこか主との線引きが緩くなる」悪い癖がある。それが今回顕著に出てしまった。すみませんって。いやいや、僕はわんわん信頼してるから気にしないで欲しいと話すと、
「でも」
「いいえ。わんわんはお父さんみたいなものでしょ?家司でもあるけど、僕らには特別な人なんだよ」
「はい……ありがとう存じます」
そんな話をしながら着付けてもらい、出来上がった着物が……ねえ?すでに気を取り直りていたわんわんは僕を満足そうに見つめる。
「かわいい、夏樹様は赤が似合います。すてきです」
「そう?」
「ええ。夕陽様も本日は紅色の着物でしたしお揃いです」
「そ、そう……」
今日一日くらいいいじゃない。かわいくいましょうよとわんわんはニコニコしている。シェルター暮らしでみんな辛かった。なら目に映る物くらい明るくしよう。私も持ってる着物の一番明るい小豆色の物だと胸を張る。ならいいか。
「ご飯ですよ」
「はーい」
キッチンに行くとちょうど夕陽様も来て、夏樹かわいいと褒めてくれた。
「翠はよく明るい着物を着てるけど、夏樹の方が似合うわね」
「まあな。夏樹はそのまんまでもかわいいしな」
「朝から惚気ないでくださる?」
「本当のことで惚気じゃない」
「さいですかあ」
まあいいやと夕陽様は席に着いた。イオは忙しくテーブルに料理を運び、炊きたてのご飯と豆腐のお味噌汁を出してくれた。みんなでいただきますと食べ始める。
「ムカつくくらいここのご飯は美味しいのよね。イオ、米一俵祭りの後に届けてちょうだい」
「この米は我が地の新米です」
「なら今用意して」
「かしこまりました」
「お前なに回収しようとしてんだよ。イオも拒否れよ」
イオは差し上げる分も作付けしてますから大丈夫。毎年のことだから田んぼも増やしましたと下がって行った。
「お前なんでうちの農作物を……」
「ん?来る度にもらってるけど。なにか?」
「何かじゃねえだろ。お前稼いでんだから自分で作るか買えよ」
「いやいや土か水の違いかしら。ここんちのが美味しいのよ。ケチらないでよお兄様。うふふん」
「お前嫌い……」
なんて感じで朝ごはんは終わり、夕陽様を見送りに玄関へ。女官の方(トカゲ)が米俵を担ぎ、担ぎ?
「重くは……?」
「我らにはたいしたことないですよ」
「そ、そうですか」
米を担ぎ手には酒瓶数本。そして夕陽様の手には野菜のかご。どこまでも農作物を持ち帰るんだな。毎回だけど今回は米までか。
「イオ、米はいつものように送ってね」
「ええ。手配しておりますから数日後には」
「早くね」
「はい」
翠の顔色はなくなって目は死んでいた。見上げる翠がちょっと気の毒に思えたね。ドラマでよくある、嫁に出た娘が家の物をかっさらうのに似ているかも。
「じゃあまたね夏樹。力は訓練しないと昨日みたいに盛大になっちゃうから、コントロールできるようにね。そしたら夜提灯いらずよ」
「ああ!それいいですね。頑張ります」
わたくしはこれから忙しい。調書を作り呪物のような玉を都に持っていかなきゃならいない。そして山を消し飛ばした保証もしないといけない。あー忙しいわぁって言いながら、颯爽と帰って行った。
「燃えたのはどうするの?」
「あいつ放置しそうだよな。焼畑になるとか言い逃れしそうだよ」
「それで持ち主は納得するのかな?」
「どーだろ。夕陽のところに殴り込みかな」
「だよね。大変そう」
「それがあいつの仕事だよ」
姿が見えなくなって僕らは部屋に戻ることにした。そしていつもの縁側に寝転がり、僕は翠の腕枕に抱かれていた。
「栗まんじゅう食う?」
「いりません。まだお腹いっぱいです」
「そうか」
わんわんがお茶と栗まんじゅうを僕らの傍に置いてくれる。
「すごい景色になりましたなあ」
「まあな。あれば夕陽がやったんだよ。俺が後ろで火を消してる間にドーンとな。とどめをと言われてつい反射で火の玉撃ち込んだらさ。更に山がなくなったんだよ」
「原因は二人じゃない」
「そうだな」
翠の山の向うが上半分消し飛んでいて、その土はどこだろ?奥からは黒い道ができている。まるで黒いヘビが横たわっているようにも見えるかな。
「森だけ焼けたの?」
「いや、よそんちの畑とか田んぼも横切っててな。ここからは見えにくいけど」
「それはまた……」
「ついでに山菜を採る山だったからなあ。峠道があちこちあるんだよ。そこも焼けた」
何も言えず三人でぼんやりと山を見つめた。
「神様って山直せないの?」
「そんな力はねえよ。五行の火、水、風、金、木に由来するんだ。焼けた木々と土の改良はできる。だが、吹き飛んだ山は元に戻せない。魔法じゃないからな」
「そっか。陰陽寮なんてあるし術かな?」
「そっちに近いな。見た目は魔法みたいだけどな」
あの平らになった山は誰の持ち物だったのだろう。山ごとか、部分的にたくさんの人の持ち物とかかな。なんて考えていることを翠に話すと、
「あそこは……誰だっけ。町の金持ちの山じゃなかったかな。米とか夕陽に売りつけてた気がする。人の外貨を手に入れるためにしてたと思う。農夫がたくさん雇われてたような?そんな記憶だな」
「ふーん」
夕陽様のような国司の屋敷には、人の世界に行くための「鏡」がある。町の人が通行料を払い人の世界に出入りするんだ。誰もが通れるけど通る人は少ない。商売をしてる人くらいだね。買い物や市場調査、そして嫁探しや神隠しの人を追い返したりもする鏡。
「どこの店?」
「夕陽のうちの近くにある百貨店の人」
「ああ、あの狸の」
「うん」
新年のあいさつに夕陽様のところに行くと、街の顔役って感じで夕陽様の近くに座ってる、あの恰幅のいい狸の兄さん。というかおじさんに見えるけど若いらしい。親の跡を継いだばかりだと言ってたから翠の半分の歳のはずだ。まだ老化の兆しが出るお年頃じゃないはずなんだけど、おじさん味が強いんだよねえ。
「あの狸、政吉は曲者だな。夕陽頑張れだ」
「面倒くさい人なの?」
「うん。この世界では珍しい金の亡者だ。いや、商魂逞しいだけか」
「あはは……そりゃ大変」
真っ当な仕事をしている人で、お金に執着する人は珍しいらしい。どの大店も真面目にやってたらお金持ちになった結果論の方ばかり。うちが使っている呉服屋とかもそうなんだ。お金が増えたから店を大きくするとか、お客が多くなり手狭に感じるからなんて理由だそうだ。決してお金のためじゃないのがここの商人。狸は都から来たらしいからさもありなん。
「昨日叫んで落ち着いたか?」
「うん」
「かわいくいてくれればいい」
「いやあ……なんだろ。うんとは言いたくない」
「納得してないのか?」
「してるけど嫌なんだ」
「ふーん。納得するまでやるか?」
「しません。今度こそ立てなくなるよ!」
それより眠いよ。わんわんもお茶の側で白目剥いてユラユラしている。言わないけどみんな疲れてんのよ。
「なら昼寝しよう」
「その前にわんわんに座布団をね」
僕は立ち上がり、座布団を部屋の隅から持って来て二つに折る。そしてわんわんをそーっと横にする。
「むにゃ……」
そのまま寝かせ僕は翠の胸に収まる。彼は僕のお腹に手を置いて自分に寄せる。そしてほんのり森の焼ける匂いと共に眠りに落ちる。
秋の少しひんやりする風が生垣の先から入る。屋敷の常春の空気との境が生け垣で、完全に外の風が入ってこないものでもない。トンボやセミはガッツリ入り込むし、鳥は当然のように来る。きっちりとした結界のようなものではないんだよね。でもこの緩さが心地いい。
「翠抱っこ」
「してるだろ」
「もっと」
「はいはい。キスはいる?」
「それはいらない」
「なんでだよ」
抱っこするしキスもすると軽く唇に触れる。横になったからか翠はまぶたを閉じてしまう。
「眠そうだね」
「うん。力使ったからだな。反射でやったから加減ができなくてさ」
目がふわふわしててかなり眠そうだ。わんわんはスピーって鼻が鳴ってる。僕は寝る前に山に目を向けた。青みがかり、なんとなく空気が白っぽい秋の空気。太陽の光が雲のすき間から線になって降り注ぎ、天使の梯子っていうんだけあれ。なんか幻想的だよね。本当に天使が降りてきそうでさ。その下はなんか……だけど。
僕も山を見つめているうちにまぶたが重く、無理やり開けようとすると痙攣したみたいになる。諦めて目を閉じた。翠の腕の中にいると安心し、そして不甲斐なさも感じた。いつかもっと強くなろうと考えていた。もう少しね。
「翠、僕も悪いけど手加減をね?」
「できなかったんだよ。お前がかわいいこと言うから」
「なんか言った?」
ほら立てと手を貸してくれて立ち上がる。まだガクガクする気はするけどなんとかだな。
「ここにずっといればいいのに。お前はそう言ったんだ」
僕のお腹を擦り笑った。ああ、そんなこと言ったね。だってずっと一緒にいたかったんだもの。
「ここにいてくれたらずっと一緒でしょ?取り外せないかな」
「怖いこと言うなよ」
ほら着替えろ、夕陽を待たせるとうるさいぞと翠。でもと僕を引き寄せて抱いてくれる。どんなに抱かれようと、何度でも嬉しい抱擁だ。
「愛してる、心から。お腹に俺がいなくても愛してる」
「うん」
夏樹様の今日のお着物はこれをと言いながら、わんわんがスパンッと襖を勢いよく開けて入ってきた。僕らが離れると私が着せて差し上げましょうと、ふんどしまで付けてくれる。いつもと違い真面目な雰囲気のわんわん。
「我らは主の意向を尊重すべきでした。通常はなんて関係ないのです。そこが足りておりませんでした。辛い思いをさせて申し訳ございませんでした」
「いいえ。僕がもう少しちゃんとしていればよかったんだ。こちらこそすみません」
わんわんは「親しくなるとどこか主との線引きが緩くなる」悪い癖がある。それが今回顕著に出てしまった。すみませんって。いやいや、僕はわんわん信頼してるから気にしないで欲しいと話すと、
「でも」
「いいえ。わんわんはお父さんみたいなものでしょ?家司でもあるけど、僕らには特別な人なんだよ」
「はい……ありがとう存じます」
そんな話をしながら着付けてもらい、出来上がった着物が……ねえ?すでに気を取り直りていたわんわんは僕を満足そうに見つめる。
「かわいい、夏樹様は赤が似合います。すてきです」
「そう?」
「ええ。夕陽様も本日は紅色の着物でしたしお揃いです」
「そ、そう……」
今日一日くらいいいじゃない。かわいくいましょうよとわんわんはニコニコしている。シェルター暮らしでみんな辛かった。なら目に映る物くらい明るくしよう。私も持ってる着物の一番明るい小豆色の物だと胸を張る。ならいいか。
「ご飯ですよ」
「はーい」
キッチンに行くとちょうど夕陽様も来て、夏樹かわいいと褒めてくれた。
「翠はよく明るい着物を着てるけど、夏樹の方が似合うわね」
「まあな。夏樹はそのまんまでもかわいいしな」
「朝から惚気ないでくださる?」
「本当のことで惚気じゃない」
「さいですかあ」
まあいいやと夕陽様は席に着いた。イオは忙しくテーブルに料理を運び、炊きたてのご飯と豆腐のお味噌汁を出してくれた。みんなでいただきますと食べ始める。
「ムカつくくらいここのご飯は美味しいのよね。イオ、米一俵祭りの後に届けてちょうだい」
「この米は我が地の新米です」
「なら今用意して」
「かしこまりました」
「お前なに回収しようとしてんだよ。イオも拒否れよ」
イオは差し上げる分も作付けしてますから大丈夫。毎年のことだから田んぼも増やしましたと下がって行った。
「お前なんでうちの農作物を……」
「ん?来る度にもらってるけど。なにか?」
「何かじゃねえだろ。お前稼いでんだから自分で作るか買えよ」
「いやいや土か水の違いかしら。ここんちのが美味しいのよ。ケチらないでよお兄様。うふふん」
「お前嫌い……」
なんて感じで朝ごはんは終わり、夕陽様を見送りに玄関へ。女官の方(トカゲ)が米俵を担ぎ、担ぎ?
「重くは……?」
「我らにはたいしたことないですよ」
「そ、そうですか」
米を担ぎ手には酒瓶数本。そして夕陽様の手には野菜のかご。どこまでも農作物を持ち帰るんだな。毎回だけど今回は米までか。
「イオ、米はいつものように送ってね」
「ええ。手配しておりますから数日後には」
「早くね」
「はい」
翠の顔色はなくなって目は死んでいた。見上げる翠がちょっと気の毒に思えたね。ドラマでよくある、嫁に出た娘が家の物をかっさらうのに似ているかも。
「じゃあまたね夏樹。力は訓練しないと昨日みたいに盛大になっちゃうから、コントロールできるようにね。そしたら夜提灯いらずよ」
「ああ!それいいですね。頑張ります」
わたくしはこれから忙しい。調書を作り呪物のような玉を都に持っていかなきゃならいない。そして山を消し飛ばした保証もしないといけない。あー忙しいわぁって言いながら、颯爽と帰って行った。
「燃えたのはどうするの?」
「あいつ放置しそうだよな。焼畑になるとか言い逃れしそうだよ」
「それで持ち主は納得するのかな?」
「どーだろ。夕陽のところに殴り込みかな」
「だよね。大変そう」
「それがあいつの仕事だよ」
姿が見えなくなって僕らは部屋に戻ることにした。そしていつもの縁側に寝転がり、僕は翠の腕枕に抱かれていた。
「栗まんじゅう食う?」
「いりません。まだお腹いっぱいです」
「そうか」
わんわんがお茶と栗まんじゅうを僕らの傍に置いてくれる。
「すごい景色になりましたなあ」
「まあな。あれば夕陽がやったんだよ。俺が後ろで火を消してる間にドーンとな。とどめをと言われてつい反射で火の玉撃ち込んだらさ。更に山がなくなったんだよ」
「原因は二人じゃない」
「そうだな」
翠の山の向うが上半分消し飛んでいて、その土はどこだろ?奥からは黒い道ができている。まるで黒いヘビが横たわっているようにも見えるかな。
「森だけ焼けたの?」
「いや、よそんちの畑とか田んぼも横切っててな。ここからは見えにくいけど」
「それはまた……」
「ついでに山菜を採る山だったからなあ。峠道があちこちあるんだよ。そこも焼けた」
何も言えず三人でぼんやりと山を見つめた。
「神様って山直せないの?」
「そんな力はねえよ。五行の火、水、風、金、木に由来するんだ。焼けた木々と土の改良はできる。だが、吹き飛んだ山は元に戻せない。魔法じゃないからな」
「そっか。陰陽寮なんてあるし術かな?」
「そっちに近いな。見た目は魔法みたいだけどな」
あの平らになった山は誰の持ち物だったのだろう。山ごとか、部分的にたくさんの人の持ち物とかかな。なんて考えていることを翠に話すと、
「あそこは……誰だっけ。町の金持ちの山じゃなかったかな。米とか夕陽に売りつけてた気がする。人の外貨を手に入れるためにしてたと思う。農夫がたくさん雇われてたような?そんな記憶だな」
「ふーん」
夕陽様のような国司の屋敷には、人の世界に行くための「鏡」がある。町の人が通行料を払い人の世界に出入りするんだ。誰もが通れるけど通る人は少ない。商売をしてる人くらいだね。買い物や市場調査、そして嫁探しや神隠しの人を追い返したりもする鏡。
「どこの店?」
「夕陽のうちの近くにある百貨店の人」
「ああ、あの狸の」
「うん」
新年のあいさつに夕陽様のところに行くと、街の顔役って感じで夕陽様の近くに座ってる、あの恰幅のいい狸の兄さん。というかおじさんに見えるけど若いらしい。親の跡を継いだばかりだと言ってたから翠の半分の歳のはずだ。まだ老化の兆しが出るお年頃じゃないはずなんだけど、おじさん味が強いんだよねえ。
「あの狸、政吉は曲者だな。夕陽頑張れだ」
「面倒くさい人なの?」
「うん。この世界では珍しい金の亡者だ。いや、商魂逞しいだけか」
「あはは……そりゃ大変」
真っ当な仕事をしている人で、お金に執着する人は珍しいらしい。どの大店も真面目にやってたらお金持ちになった結果論の方ばかり。うちが使っている呉服屋とかもそうなんだ。お金が増えたから店を大きくするとか、お客が多くなり手狭に感じるからなんて理由だそうだ。決してお金のためじゃないのがここの商人。狸は都から来たらしいからさもありなん。
「昨日叫んで落ち着いたか?」
「うん」
「かわいくいてくれればいい」
「いやあ……なんだろ。うんとは言いたくない」
「納得してないのか?」
「してるけど嫌なんだ」
「ふーん。納得するまでやるか?」
「しません。今度こそ立てなくなるよ!」
それより眠いよ。わんわんもお茶の側で白目剥いてユラユラしている。言わないけどみんな疲れてんのよ。
「なら昼寝しよう」
「その前にわんわんに座布団をね」
僕は立ち上がり、座布団を部屋の隅から持って来て二つに折る。そしてわんわんをそーっと横にする。
「むにゃ……」
そのまま寝かせ僕は翠の胸に収まる。彼は僕のお腹に手を置いて自分に寄せる。そしてほんのり森の焼ける匂いと共に眠りに落ちる。
秋の少しひんやりする風が生垣の先から入る。屋敷の常春の空気との境が生け垣で、完全に外の風が入ってこないものでもない。トンボやセミはガッツリ入り込むし、鳥は当然のように来る。きっちりとした結界のようなものではないんだよね。でもこの緩さが心地いい。
「翠抱っこ」
「してるだろ」
「もっと」
「はいはい。キスはいる?」
「それはいらない」
「なんでだよ」
抱っこするしキスもすると軽く唇に触れる。横になったからか翠はまぶたを閉じてしまう。
「眠そうだね」
「うん。力使ったからだな。反射でやったから加減ができなくてさ」
目がふわふわしててかなり眠そうだ。わんわんはスピーって鼻が鳴ってる。僕は寝る前に山に目を向けた。青みがかり、なんとなく空気が白っぽい秋の空気。太陽の光が雲のすき間から線になって降り注ぎ、天使の梯子っていうんだけあれ。なんか幻想的だよね。本当に天使が降りてきそうでさ。その下はなんか……だけど。
僕も山を見つめているうちにまぶたが重く、無理やり開けようとすると痙攣したみたいになる。諦めて目を閉じた。翠の腕の中にいると安心し、そして不甲斐なさも感じた。いつかもっと強くなろうと考えていた。もう少しね。
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