お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

55 鏡が怖い

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 僕の不安は見ないふりの雨月様。どうやるのかねえと鏡を見つめて顎を擦っている。僕は前の帝の辰巳様の予知夢に出てきたらしく、御子が何かしたとしか分からなかったらしい。ついでにその御子の人相も水干を着てたしか分からなかった。水干だからたぶん男と推測。それで僕と推測し、力はあったから確定らしい。

「お前今水干だろ?」
「ええ、御所の日常着ですから。ここにいる間は普通の着物は着ませんね」
「なら予知夢は当たりだろ?」
「まあ……」

 ざっくりとしたお話である。たぶんこの赤い宝石に力を込めるんだろうけどさあ。呪文とかあるのか聞けば分かんないらしい。それもかよ!

「人の神様来るなって念じればいいんじゃないかな」
「全部来れなくなりませんか。それ」
「そうだなあ。なら穢れのある神は来るなかな?」
「それでやってみます」
「そうして。分からんからいろいろ試そうぜ」
「はい」

 もうさ、この鏡自体が怖いよ。鏡にへばりついた穢れが僕にも見えるくらいなんだ。縁から黒いというか、ヘドロ色のオーラみたいなのが糸引いてんのよ。不気味だし、そのオーラの先が丸くなり口だけが「ケタケタ」と笑ってんの。何者なんだその荒神たちは。荒神って言うより祟り神だろ。そんなことを考えながら息を整える。そして赤い宝石に触れて「荒神様は来んな」と強く念じる。本気で来て欲しくないと僕も思ったんだ。

「こんなオーラをまとうのは人のせいだ。でもそれをこの世界の人に癒させるのは違う。人の神には人の神の天帝みたいな人がいると思うから、その人に癒やしてもらって下さい!」

 手のひらから力を押し込むと、今度は吸われる気がした。上手くいったか?と二人で見つめていた。

「うおおおおぉ……」
「「え?」」

 僕と雨月様は鏡の中から聞こえる唸り声に驚いた。そして「入れろぉーなにをしたーッ」なんて聞こえる。

「上手くいったようだな」
「ええ」

 僕は宝石から手を離し、呻きや暴言は聞こえるけど入れなくなったと喜んでいた。するとニュッと化け物らしい紫の血管の浮いた手が!爪が長いしシワシワ!

「雨月様!」
「もう少し力を込めろ!」
「はい!」

 僕は一歩前に出て宝石を掴み念じるように力を込める。スーッと血の気の引くような感じで力は抜けていく。

「どこまでやればいいですかね?」
「うん。手は落ちからいいかもな」
「は?」

 必死で見てなかった僕は、足元に手首から先があることに気が付かなかった。

「いやあああっ手が!手が!」
「うるさいよ夏樹。ほら消えてきたから」
「へ?あ?……ああ本当だ」

 砂が風に飛ばされるように禍々しい手は消えていく。怖すぎるだろ!

「よしよし。唸り声も暴言も聞こえなくなったな」
「それはようございました。僕は疲れました。初めてですよ。力使ったらこんなに疲れたのは」
「それは仕方ないかな。宇迦之御魂命のお力を使ったからだろ?」
「そうですかね」

 これは僕の力じゃない。母君様からの贈り物の力だから。自分のじゃないとこんなに疲れるのかなと独り言のように言うと、

「そうじゃない。格上の神の力だからだ」
「え?」
「豊穣の神で農耕神でもある、人がとても好きな神様だ。今もたくさんの人に敬愛され祭られる神様。その神様のお力を行使すれば仕方ないさ」
「はい」

 天帝ならそれ以上だろうが俺は力が限定されている。こんな力は付与されていない。だから翠はもらっても使えなかった、当然母君もだ。我ら獣では使えないお力なのかなって考えているそうだ。

「たぶんだが、他にもお力をもらった人がいたんじゃねえかなと俺は考えているんだ。でも誰も使えなかったのが真実かな」

 雨月様は、この力をここに来た御子に渡すこともできなかったのだろうと考えているそう。母君の一種の賭だろうと。

「翠が特別な子なのは俺たちも重々承知だ。幸せな頃の子供と、不遇になってできた子供に思い入れが違うのは理解していた」
「そう……ですか」

 俺たちが愛されてなかったのではない。自分が親になれば理解できることだと僕の頭を撫でてくれる。俺たちは母の記憶がたくさんあって、とても大切に育てられた。愛を疑ってはいないと笑う。

「無理やり別れさせられて、逃げた先で力を使い切って生まれた子が翠だ。かわいくないはずはないし、この力のクセを母君が知らないはずはない。翠や俺たちに幸せな世界を用意したかったんじゃないかな」
「ええ。きっとそうですね」

 やっと座敷に入れるよと二人と侍従たちは入ってくる。

「穢れがないと神社の祭殿の前と同じだな」
「元々はそうだったんだよ。今までがおかしかったんだ」

 翠は僕の肩に腕を回し大丈夫かと。僕は平気と見上げた。

「でも疲れたかな。立ってるのがやっとな感じだよ」
「お疲れさま」

 すぐに僕をお姫様抱っこで抱き上げる。え?いいから!恥ずかしいから歩くから降ろして!と騒いだ。

「抱かれてろ。客亭に戻るには遠いし今日は部屋で寝てろ」
「は、はい。すみません」

 雨月様も時雨様も恥ずかしくない。この世界を守ったんだから抱かれるのは当然だ。素直に抱かれてろと二人して僕の頭をワシャワシャ。なんか照れくさい。さて戻るぞと座敷をみんなで出た。振り返れば十畳にも満たない小さな座敷。祭壇は古いが手入れはされている。帝が穢れを払ってその隙にお掃除だろうなあ。ここ嫌だから廃墟でよろしくて?とは言えないもんね。ちゃんとした神様も通るから。

「狐や犬、他もだが、稲荷の神使が人の妻や夫を持たなくなって久しいんだ。みんなこちらから伴侶を見つけてさ」

 薄暗い廊下を歩いていると時雨様が突然話し出した。今稲荷の祠は減っていて、神使はかなり帰ってきているか、大きな神社にいるらしい。個人宅の稲荷も減っているし、居場所が減少しているのが実情のようだ。

「信仰する人が減ったんじゃない。家に迎える人が減ったが正しい。神使は各家庭に行き、神様の力を借りてその家庭を守り繁栄させるんだ」
「そうですね」

 だから大きな神社や町が大切にしている稲荷だけが残る。神様に請われる獣も昔に比べればはるかに減って、今ある大きめの神社の維持のみ。新たな神はそうそう生まれないと言う。

「人はどこに向かってるのかな。便利になって自力で生活できる。もう神の力なんかなくても困らなくなったんだろうな」
「でもいろんなことで神社に行きますけどね」
「正月とか七五三とか節目だけだろ?仏教の神様も多いし、昔からの八百万の神々を祀る神道か?減ったよな」

 僕は何も言えなくなっていた。昔のような信心は少なくなったと思う。でも僕の村では雪斗たちのおかげでちんまりしてた神社は大きくなった。そして参拝客は村人だけではなく、たくさんの人がお参りしてくれるようになった。寂しくなりつつあった村は町と呼べるくらいには人も増えた。

 でも現実は限界集落は増え続け、人は山を下りて不便な山の村を捨てる。その時神社も維持できなくて放棄する。僕はなんとも言えない気持ちになっていた。

「お前たちはここまでだ。俺たちは仕事に戻るけど、好きなだけいていいから。帰るときには声を掛けろよ」
「はい兄君。いえ、帝」
「やめろよ。人前だけでいいし俺は変わらん。ずっとお前の兄だ。なにも変わらん」

 時雨様も「そうそう、俺たちはいつまでもお前のよき兄だ。甘えろよ」と手をヒラヒラさせながら執務エリアに侍従たちと消えていった。翠は僕を抱いたまま深々と頭を下げた。

「素敵な兄君たちだよね」
「ああ。思うところがないでもないが、いい人たちだよ」

 翠は僕を抱いたままメインの広い廊下を歩いた。ものすごく恥ずかしい。みんな見るから。

「やっぱり降ろして。人の目が痛いよ」
「気にするな。みんなが知らなくても、お前は御所の人たちの苦悩を救った英雄だから」
「言い過ぎ。あれはあなたの母君の優しさだから」
「それでもだよ」

 宇迦之御魂命はここに来て手を打ってはくれなかった。神使は探しに来るのに、この件については話すら聞いてはくれなかったそうだ。

「もうわたくしはすることはしました。後はそちらの問題です。そう言ってな」
「冷たいね」
「人の神は時々底冷えするような冷たさがあるんだ。あれなんだろうなと辰巳様も言ってたよ」
「ふーん」

 当然だけどまともな神が来た時にこの窮状は訴えていた。でも誰も手を貸してはくれなかったそうだ。それは我らがすることではない、荒神本人に言えで終わり。そちらには天帝のような方はいないのかと聞けば、無言か知る必要はないと拒絶。獣の世界は人の神にとって格下の存在でしかないと言わんばかりの態度らしい。

 辰巳様は能面のような方だったが、話してみると優しく思いやりのある方だったんだ。だからこれには心を痛めていたそうだ。天帝も「過去手伝ってくれたから多目にみろ」しか言わない。実際この御所の役人は困っていたのに、誰も手助けしてくれなかったそうだ。今にして思えばもう手は打ったからと分かるけどさ。母君はとうの昔に亡くなってるし、辰巳様の予知夢も亡くなる数年前らしく、誰も知らなかったんだ。

「一言くらいあってもよさげだよね」
「まあなあ。人の神は言葉は足りないし、こちらが予期しないやり方で願いを叶えるのはいつものことだ。仕方ないがこれからみんな楽になるな」
「うん」

 宇迦之御魂命は母君に力をこっそり渡し終わりにした。終わったことをネチネチ言うな……かな。やはりここの獣は人に似ているところが多く、僕らと同じ感性を持っている。でも人の神は人から神になってるはずだよね。なのにそこんところは汲んでくれない。難しいものだね。そんなことを考えていると翠の体の暖かさにまぶたが落ちる。目を開けていることが辛く、周りの音も遠く……








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