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帝の代替わり編
56 まだ仕事があるのか
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僕はお腹が空いて目を覚ました。布団に寝かされ、隣には翠が僕を抱いて寝息を立てている。
「翠?ゴメンね。お昼ご飯食べた?」
「んあ?」
肩をユサユサ揺すって起こすと飯?と起きた。目を擦りながら、
「お昼どころかお前は一週間寝てたんだ。たまに起きて飯食うとまたすぐ寝てな。覚えてないのか?」
「なにも……途中で僕ご飯食べてたの?」
「ああ。トイレも行ってたぞ」
「ええ?」
なんてこと。何も覚えてはいないけど、体は寝過ぎた重さは少ない。今何時だと聞けば昼過ぎだって。まあいいや起きるか。布団から起き上がると、途中起きていたのがよかったのか体もさほど痛くない。
「ごめんね。暇だったよね」
「そうでもないかな。ここの知り合いと会ったりしてたから」
「そっか、よかった」
目が覚めたなら帰るかなと翠。俺兄君たちに近々帰ると報告してくる。飯は?と聞かれて食べますと答えた。お腹空いて目が覚めたから。用意させると翠は部屋を出て行った。
「神様の力を使うって体の負担が大きいんだなあ」
僕は外の空気が吸いたくて廊下に出て窓を開けた。曇り空だけど隙間から少しお日様の光が差し込んでいる。
「ウーンッ」
伸びをしてはあっと息を吐く。特に不調はない。お腹が空いてるだけだ。
庭の向こうの建物の廊下は働いてる人が通り過ぎる。ここの日常だな。
「夏樹様、ご食事の支度が出来ました。こちらへ」
わんわんの声がした。そうだよ、わんわんが来てくれてたじゃないか。僕はすぐに部屋に戻るとテーブルにここらしい豪華な食事を女中さんが並べていた。
「夏樹様がお好きな茶碗蒸しもございますよ」
「やったあ」
僕は用意が整い手を合わせから食べ始めた。相変わらずの美味しさである。
「長く寝てましたからお腹に優しいものを用意してもらいました」
「ありがとうわんわん」
白身魚のあんかけとか蒸し鶏などが多いかな。豆腐とかもある。おかゆじゃないだけラッキー。寝てたからといって風邪とかじゃないからおかゆは厳しいもの。ゆっくりと食べて最後に茶碗蒸し。とても優しい味で気を使ったのか具材が細かい。しいたけもかなり薄く切ってくれて混ぜてある。ぎんなんはいなかった。あれはお腹に優しくないのは知ってたけど、少し寂しい。
食事が終わるとわんわんがほうじ茶を入れてくれた。それとお菓子は食べちゃだめ。最後の食事から二日は過ぎてるかららしい。病み上がりくらいに思ってた方がいい。この後お腹痛くならなければ食べてもいいそうだ。獣は体は強いけど、人の僕は我らほどじゃないからってさ。
「香りがよくて美味しい」
「いいお茶ですから、ここはね」
「食事終わったのか」
「うん」
翠がちょうど戻ったら後ろに時雨様。ようっとニコニコして翠と入ってくる。俺にもお茶と菓子を言いながら僕の隣にどっかり座る。わんわんがお菓子を持ってテーブルに置いたらゲッて。
「また栗まんじゅう……ここに来てまで栗まんじゅう……」
「美味いよ時雨」
「知ってるけどさあ……食うげどさあ」
ブツブツ言いながらも包みを開けて食べている。ここに来たのはあいさつもだけど、今後のことを話に来たそうだ。今後?僕が関わることはないでしょう?不思議に思っていると、ふふんと鼻を鳴らした。嫌な予感。
「あのな夏樹」
「はい……」
嫌な話っぽくて明るく「はい」とは言えなかった。そんな顔するなよと笑らわれた。
「荒神がここに滞在するときの屋敷があるんだ」
「へえ……それが?」
「毒、瘴気が正しいんだが、それにまみれててな」
「うっ」
あの恐怖を感じる瘴気が屋敷全体にこびりついてて、あれを浄化できるのは帝と少しの人。でも帝は代替わりして今一番忙しい。分かるな?と、理解したくない……
「強い女中や侍従たちが管理してるから問題はないが、あの瘴気は放置してても簡単には消えないんだよ」
「そうですか」
この御所の土地は多少浄化の力を張り巡らしてあるが、あそこは端っこでなおかつ塀の外。効果が届かず放置だとものすごーく時間ががかかるそうだ。ふーん。
「お前が鏡に力を込めた時、お前自身の力も漏れててな」
「はあ」
「ほんのり光ってあの座敷を浄化してたんだよ。だからだ」
やはり嫌な話だった。働いて帰れってことだよね?翠は黙ってお茶飲んでるけど、額から汗が流れ落ちていた。断りきれなかったんだな。
「他の方では本当にできないのですか?」
「うん?できる者が遠出してるんだよ。当分帰らないんだ」
「マジか」
僕のように色のない力のある方はとても少なく、役人はここでも二人しかいない。一人は死にかけちゃんで引退している。もう一人は出張中で帝は暇なし……だそうだ。
「体調を整えてからでいいんだ。お願いできる?」
「断れるのですか?」
「断るの?」
大げさに驚く時雨様。僕が断らない前提で話しているか。仕方ないよねえ。
「やりますけど……」
「よしっ」
よしじゃないよ。翠は裏の山の手入れな?お前も母君の力があるからやれってさ。そっか、大元は翠だもんね。範囲が広大だから手分けすりゃあ一日かからんからって時雨様は楽しそうだ。あんたはやらないからな。
ちなみに兄君二人は母君の「癒しや浄化」の力は受け継がなかった。雨月様は帝に珠をもらってからできるようになったそうだ。
「時雨、俺たちが残ってるのは働かせるためか。違うだろ?」
「いいや。お前も帝の側近のひとりだ。それに前からやってるだろ」
「それは兄君の手伝いくらいでさ。やり残しの点検くらいなんだよ。実際やり残しなんてないんだ」
「同じだろ?」
鏡の件もあるから一応確認のため、地方に人を派遣してるからここが手薄になっている。その分だからと言われたら何も言えない。帝は改めて宇迦之御魂命に感謝を伝えに出かけているらしい。
「帝になるとこの御所から外には出ないんだよ。正確には出れなくなる。宝珠、ご神体だからな」
「ああそっか」
それを押してでもあいさつに出向くということは、特別なことなんだそう。今神様は人の世界にいるらしく、そこに行っているそうだ。こちらから人の神の世界(高天原)には行けないからだ。行けたとしても怖くて行けないのが本当のところ。そう言いながら時雨様は栗まんじゅうをムシャムシャ。
「荒神が化け物みたいになっても帰りたくない場所なんだと俺たちは思ってるんだ。そんなところには行けないだろ」
「確かに」
人に忘れられたり捨てられても、そこから立ち去らない神様たち。辛く苦しくより「寂しい」気持ちが強いのだろう。僕ならと考えれば……やりきれない思いもある。人のために尽くしてその結果だもの、もしかしたらなんて気持ちもあるのかもしれない。それを思えば僕は申し訳ない気持ちになる。でもそれは僕が「人間」だからだ。ここで普通に生活する人には何も関係ないんだよ。
「俺は行けたとしても絶対に行かない。獣のくせにとか言われて無礼だとすぐ死ぬ未来が見える」
「私もそんな気がしますね。人が戻るかもって期待もあるのでしょうが、一時的にでも戻りたくない場所なんでしょうし」
わんわんも同意するのか。高天原はヤバそうだなとしか思えないね。
「その屋敷はどこにあるのですか?」
「ああ、裏の山を越えたところだ」
「また遠いですね」
「そうでもないぞ。ここの博士開発の、あそことここしか通れない鏡があるからすぐだ」
「便利な通り道があるのですね」
部下に任せて荒神を放置なんてできないだろと笑う。城下の街に出かけても問題なくなるまで監禁に近いそうだ。だからお庭も広く屋敷も大きい。人里から少し離れてるから呻いても暴れても迷惑にならない場所だそう。
「荒神になると攻撃力は増すけど神としての力はほぼない。腕力のみになるんだ。ならば俺たちにも勝てる。あの瘴気に耐性がある人しか付けない職務だけどな」
「僕はあの瘴気だけで足がすくみますけど」
「慣れだよ」
慣れたくはない。慣れたら来るたびになにかさせられそうだし、発情期の化け物退治にも駆り出されるかもだ。怖さに慣れたくはない。
「二日もあれば元気になるだろ?朝迎えに来るから準備しててくれ」
「はい」
時雨様は要件は済んだがと僕を見つめる。
「少し痩せたか?」
「食べてなかったので」
「そうか。しっかり食べてくれ。キスしていい?」
「嫌です」
「ケチ」
翠がガタンとテーブルに手をついて前のめり。触んな時雨!と威嚇する。
「本当にかわいい。ここの獣らしくなってきてからは本当にかわいくなった。狐臭いのもいい」
「臭いですか?」
「もちろん。いい匂いだよ」
俺アッチの方は上手いぜとニヤリ。間に合ってますと時雨様を見つめた。
「俺の言葉にワタワタしなくなったな。そこもいい」
「これこそ慣れですよ」
「ふーん」
見つめる瞳がキューッと細くなるとチュッとされた。
「時雨!」
「キスくらいいいだろ。それに甘いな」
「それ栗まんじゅ……僕食べてなかった」
「甘いってことは相性はいいんだよ。抱かれたくなったら遠慮なく言え」
「言いませんッ」
またなとウインクすると廊下の戸を開けて出て行った。なんだかなあの人たちは。人なんて珍しくないだろここなら。翠は頭から煙でそうだし。
「翠ほどよくないよ」
「当たり前だ!俺がこの一週間どれだけ我慢してたか。クソッ」
あ、そうだよね。エッチ大好き翠が我慢してくれてたんだ。寝てるところを襲わなかったのは?と聞けば、弱って眠ってる人に手を出す趣味はない、心配だけだったそうだ。なんか嬉しくてニヤニヤしてしまう。
「ありがと」
「当然だろ。野獣じゃないんだから」
「うん」
僕の旦那様は常識のある方でした。僕を大切に思ってくれる優しい狐。嬉しくて堪らなかった。他所の奥様が、具合い悪くても求めてくる旦那さんいるとか聞いてたから。
「なに笑ってるんだよ」
「いい旦那様だと思ってさ」
「当たり前だろ?」
この日から二日は食事をしっかり食べて、御所の敷地内を散歩した。正門前には大きな広場があるんだ。お正月などのあいさつは地方の役人がたくさん来て、ここに整列して帝のお言葉を聞くんだ。無駄な広場ふうに普段は見えるけど、白い石が敷いてあってさ。僕は来たことないけど人で埋め尽くされるそうだ。三が日は人でごった返すんだ。見てみたいなあとか思ったけど、今度からは僕来るんだったね。
「運動不足を感じるぅ」
「エッチしてないからだろ」
「違う!」
玄関の階段に座る翠のちゃちゃに文句を言いながら歩いたりダッシュしたり。僕は寝込んだ分の体力回復に努めた。
「翠?ゴメンね。お昼ご飯食べた?」
「んあ?」
肩をユサユサ揺すって起こすと飯?と起きた。目を擦りながら、
「お昼どころかお前は一週間寝てたんだ。たまに起きて飯食うとまたすぐ寝てな。覚えてないのか?」
「なにも……途中で僕ご飯食べてたの?」
「ああ。トイレも行ってたぞ」
「ええ?」
なんてこと。何も覚えてはいないけど、体は寝過ぎた重さは少ない。今何時だと聞けば昼過ぎだって。まあいいや起きるか。布団から起き上がると、途中起きていたのがよかったのか体もさほど痛くない。
「ごめんね。暇だったよね」
「そうでもないかな。ここの知り合いと会ったりしてたから」
「そっか、よかった」
目が覚めたなら帰るかなと翠。俺兄君たちに近々帰ると報告してくる。飯は?と聞かれて食べますと答えた。お腹空いて目が覚めたから。用意させると翠は部屋を出て行った。
「神様の力を使うって体の負担が大きいんだなあ」
僕は外の空気が吸いたくて廊下に出て窓を開けた。曇り空だけど隙間から少しお日様の光が差し込んでいる。
「ウーンッ」
伸びをしてはあっと息を吐く。特に不調はない。お腹が空いてるだけだ。
庭の向こうの建物の廊下は働いてる人が通り過ぎる。ここの日常だな。
「夏樹様、ご食事の支度が出来ました。こちらへ」
わんわんの声がした。そうだよ、わんわんが来てくれてたじゃないか。僕はすぐに部屋に戻るとテーブルにここらしい豪華な食事を女中さんが並べていた。
「夏樹様がお好きな茶碗蒸しもございますよ」
「やったあ」
僕は用意が整い手を合わせから食べ始めた。相変わらずの美味しさである。
「長く寝てましたからお腹に優しいものを用意してもらいました」
「ありがとうわんわん」
白身魚のあんかけとか蒸し鶏などが多いかな。豆腐とかもある。おかゆじゃないだけラッキー。寝てたからといって風邪とかじゃないからおかゆは厳しいもの。ゆっくりと食べて最後に茶碗蒸し。とても優しい味で気を使ったのか具材が細かい。しいたけもかなり薄く切ってくれて混ぜてある。ぎんなんはいなかった。あれはお腹に優しくないのは知ってたけど、少し寂しい。
食事が終わるとわんわんがほうじ茶を入れてくれた。それとお菓子は食べちゃだめ。最後の食事から二日は過ぎてるかららしい。病み上がりくらいに思ってた方がいい。この後お腹痛くならなければ食べてもいいそうだ。獣は体は強いけど、人の僕は我らほどじゃないからってさ。
「香りがよくて美味しい」
「いいお茶ですから、ここはね」
「食事終わったのか」
「うん」
翠がちょうど戻ったら後ろに時雨様。ようっとニコニコして翠と入ってくる。俺にもお茶と菓子を言いながら僕の隣にどっかり座る。わんわんがお菓子を持ってテーブルに置いたらゲッて。
「また栗まんじゅう……ここに来てまで栗まんじゅう……」
「美味いよ時雨」
「知ってるけどさあ……食うげどさあ」
ブツブツ言いながらも包みを開けて食べている。ここに来たのはあいさつもだけど、今後のことを話に来たそうだ。今後?僕が関わることはないでしょう?不思議に思っていると、ふふんと鼻を鳴らした。嫌な予感。
「あのな夏樹」
「はい……」
嫌な話っぽくて明るく「はい」とは言えなかった。そんな顔するなよと笑らわれた。
「荒神がここに滞在するときの屋敷があるんだ」
「へえ……それが?」
「毒、瘴気が正しいんだが、それにまみれててな」
「うっ」
あの恐怖を感じる瘴気が屋敷全体にこびりついてて、あれを浄化できるのは帝と少しの人。でも帝は代替わりして今一番忙しい。分かるな?と、理解したくない……
「強い女中や侍従たちが管理してるから問題はないが、あの瘴気は放置してても簡単には消えないんだよ」
「そうですか」
この御所の土地は多少浄化の力を張り巡らしてあるが、あそこは端っこでなおかつ塀の外。効果が届かず放置だとものすごーく時間ががかかるそうだ。ふーん。
「お前が鏡に力を込めた時、お前自身の力も漏れててな」
「はあ」
「ほんのり光ってあの座敷を浄化してたんだよ。だからだ」
やはり嫌な話だった。働いて帰れってことだよね?翠は黙ってお茶飲んでるけど、額から汗が流れ落ちていた。断りきれなかったんだな。
「他の方では本当にできないのですか?」
「うん?できる者が遠出してるんだよ。当分帰らないんだ」
「マジか」
僕のように色のない力のある方はとても少なく、役人はここでも二人しかいない。一人は死にかけちゃんで引退している。もう一人は出張中で帝は暇なし……だそうだ。
「体調を整えてからでいいんだ。お願いできる?」
「断れるのですか?」
「断るの?」
大げさに驚く時雨様。僕が断らない前提で話しているか。仕方ないよねえ。
「やりますけど……」
「よしっ」
よしじゃないよ。翠は裏の山の手入れな?お前も母君の力があるからやれってさ。そっか、大元は翠だもんね。範囲が広大だから手分けすりゃあ一日かからんからって時雨様は楽しそうだ。あんたはやらないからな。
ちなみに兄君二人は母君の「癒しや浄化」の力は受け継がなかった。雨月様は帝に珠をもらってからできるようになったそうだ。
「時雨、俺たちが残ってるのは働かせるためか。違うだろ?」
「いいや。お前も帝の側近のひとりだ。それに前からやってるだろ」
「それは兄君の手伝いくらいでさ。やり残しの点検くらいなんだよ。実際やり残しなんてないんだ」
「同じだろ?」
鏡の件もあるから一応確認のため、地方に人を派遣してるからここが手薄になっている。その分だからと言われたら何も言えない。帝は改めて宇迦之御魂命に感謝を伝えに出かけているらしい。
「帝になるとこの御所から外には出ないんだよ。正確には出れなくなる。宝珠、ご神体だからな」
「ああそっか」
それを押してでもあいさつに出向くということは、特別なことなんだそう。今神様は人の世界にいるらしく、そこに行っているそうだ。こちらから人の神の世界(高天原)には行けないからだ。行けたとしても怖くて行けないのが本当のところ。そう言いながら時雨様は栗まんじゅうをムシャムシャ。
「荒神が化け物みたいになっても帰りたくない場所なんだと俺たちは思ってるんだ。そんなところには行けないだろ」
「確かに」
人に忘れられたり捨てられても、そこから立ち去らない神様たち。辛く苦しくより「寂しい」気持ちが強いのだろう。僕ならと考えれば……やりきれない思いもある。人のために尽くしてその結果だもの、もしかしたらなんて気持ちもあるのかもしれない。それを思えば僕は申し訳ない気持ちになる。でもそれは僕が「人間」だからだ。ここで普通に生活する人には何も関係ないんだよ。
「俺は行けたとしても絶対に行かない。獣のくせにとか言われて無礼だとすぐ死ぬ未来が見える」
「私もそんな気がしますね。人が戻るかもって期待もあるのでしょうが、一時的にでも戻りたくない場所なんでしょうし」
わんわんも同意するのか。高天原はヤバそうだなとしか思えないね。
「その屋敷はどこにあるのですか?」
「ああ、裏の山を越えたところだ」
「また遠いですね」
「そうでもないぞ。ここの博士開発の、あそことここしか通れない鏡があるからすぐだ」
「便利な通り道があるのですね」
部下に任せて荒神を放置なんてできないだろと笑う。城下の街に出かけても問題なくなるまで監禁に近いそうだ。だからお庭も広く屋敷も大きい。人里から少し離れてるから呻いても暴れても迷惑にならない場所だそう。
「荒神になると攻撃力は増すけど神としての力はほぼない。腕力のみになるんだ。ならば俺たちにも勝てる。あの瘴気に耐性がある人しか付けない職務だけどな」
「僕はあの瘴気だけで足がすくみますけど」
「慣れだよ」
慣れたくはない。慣れたら来るたびになにかさせられそうだし、発情期の化け物退治にも駆り出されるかもだ。怖さに慣れたくはない。
「二日もあれば元気になるだろ?朝迎えに来るから準備しててくれ」
「はい」
時雨様は要件は済んだがと僕を見つめる。
「少し痩せたか?」
「食べてなかったので」
「そうか。しっかり食べてくれ。キスしていい?」
「嫌です」
「ケチ」
翠がガタンとテーブルに手をついて前のめり。触んな時雨!と威嚇する。
「本当にかわいい。ここの獣らしくなってきてからは本当にかわいくなった。狐臭いのもいい」
「臭いですか?」
「もちろん。いい匂いだよ」
俺アッチの方は上手いぜとニヤリ。間に合ってますと時雨様を見つめた。
「俺の言葉にワタワタしなくなったな。そこもいい」
「これこそ慣れですよ」
「ふーん」
見つめる瞳がキューッと細くなるとチュッとされた。
「時雨!」
「キスくらいいいだろ。それに甘いな」
「それ栗まんじゅ……僕食べてなかった」
「甘いってことは相性はいいんだよ。抱かれたくなったら遠慮なく言え」
「言いませんッ」
またなとウインクすると廊下の戸を開けて出て行った。なんだかなあの人たちは。人なんて珍しくないだろここなら。翠は頭から煙でそうだし。
「翠ほどよくないよ」
「当たり前だ!俺がこの一週間どれだけ我慢してたか。クソッ」
あ、そうだよね。エッチ大好き翠が我慢してくれてたんだ。寝てるところを襲わなかったのは?と聞けば、弱って眠ってる人に手を出す趣味はない、心配だけだったそうだ。なんか嬉しくてニヤニヤしてしまう。
「ありがと」
「当然だろ。野獣じゃないんだから」
「うん」
僕の旦那様は常識のある方でした。僕を大切に思ってくれる優しい狐。嬉しくて堪らなかった。他所の奥様が、具合い悪くても求めてくる旦那さんいるとか聞いてたから。
「なに笑ってるんだよ」
「いい旦那様だと思ってさ」
「当たり前だろ?」
この日から二日は食事をしっかり食べて、御所の敷地内を散歩した。正門前には大きな広場があるんだ。お正月などのあいさつは地方の役人がたくさん来て、ここに整列して帝のお言葉を聞くんだ。無駄な広場ふうに普段は見えるけど、白い石が敷いてあってさ。僕は来たことないけど人で埋め尽くされるそうだ。三が日は人でごった返すんだ。見てみたいなあとか思ったけど、今度からは僕来るんだったね。
「運動不足を感じるぅ」
「エッチしてないからだろ」
「違う!」
玄関の階段に座る翠のちゃちゃに文句を言いながら歩いたりダッシュしたり。僕は寝込んだ分の体力回復に努めた。
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