お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

57 二階が怖すぎた

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「うわ……」
「すげえな」
「だろ?」

 荒神専用屋敷の鏡を抜けると世界が「黒ずんで」いるように感じた。空気が黒い気がするんだよ。そして恐怖に心臓はバクバク。

「みんなよくここで働けるね」
「慣れだよ」
「慣れ……ねえ」

 ここに来た神様は、露天風呂に浸かり山の爽やかな風に吹かれ日々を過ごす。女中さんたちに甲斐甲斐しく世話をされ、男性の中居さんたちと遊んだりする。すると瘴気が次第に抜けていくらしい。

「人の世話になる。これが浄化になるんだ」
「へえ」

 時雨様によれば、神様は長い間神使もいなくて(怖くて逃げる)誰もいない社にひとりでいる。お参りに来る人もおらず、思い出す人すらいない。日増しに壊れる社。雨漏りもするし野生の動物が荒らしたりもする。それをただ眺めているだけ。食べてなくても死にもしないから飢えたまま。どれだけの孤独を味わっているのか想像に難くない。

「そうなっても仲間の神様は来てもくれないんだ。故郷にも帰れず病んでいく」

 大昔、こんな荒神を不憫に思う帝がいた。ならばここに来て少し休んでいけばいいと誘ったそうだ。その頃は自然災害で土に埋まったとか流されたとか(村人全員)、他は戦で全滅とか仕方ない神様ばかり。

「ここはたまに使う場所で、帝も年に数人ならいいんじゃないのとなっていた」
「はあ……幕末からですね。増えたのは」
「うん。そしてこうなった」

 癒やされて落ち着くとどこかに帰るらしい。でもまた来る人もいる。人の年月と神様が感じている年月は全く違うから病むらしい。付喪神は百年すれば神様になるが、あれば妖怪に近く別物だそうだ。ふーん。

「付喪神には故郷がなくて人の世界が全て。大切にされなければ消える。ここに来るのは長い間信仰を集め、祀られていた神様たちだよ」
「ふーん」
「さあ働け夏樹。翠は外だ」
「「はい……」」

 僕らは別れて動き出した。翠は瘴気で枯れた山の再生を担当、僕は屋敷のこの黒い瘴気を浄化する。僕は自分を中心に廊下の天井に付くくらいのドームを形成、そして歩き回る。このドームが触れた場所が浄化されるんだ。初めて用途以外に使う力だね。

「防御のドームはこんな使い方があったんですね」
「まあな。できる人は少ないんだ。帝は宝珠のお力で、翠は母君からだな。お前は翠の力を完全コピーしたからできる」

 母君と宇迦之御魂命はどんな方法を使ったやらだなあと楽しそうだ。もしかしたらだが、母君は翠が人から妻を選ぶ予感でもあったのかも。そうかもとブツブツ言いながら僕に付いて歩く時雨様。

「時雨様、あなたのお仕事は?」
「俺?俺はこの先に用があるからここにいる」
「さようで」

 僕は鏡の部屋の前からやり始めてたんだけど、屋敷の端っこ付近で時雨様は、ここだからと中居さんの詰め所あたりでいなくなった。僕は入れる部屋や押し入れから倉庫まで、ついて来てくれている女中さんに案内してもらいながら順繰りと歩いていた。

「共用のトイレもお風呂もお願いいたします」
「はーい」

 この瘴気は万遍なく屋敷を包んでいるそうで、浄化のできる人がだいぶ前から来ていない。もう我らにも目視できるくらいになっている。流石に辛かったそうだ。風邪引いたみたいなだるさが常につきまとい、気を張らないと頭はボーッとするらしい。簡単に言うと「やる気が削がれる」そうだ。

「交代制でしたが、鏡を抜けると力が抜けるみたいに倒れ込むことも多ございました」
「それは大変でしたね」

 ここは竜の一族の遠縁の方が多かったそう。それと特別に強い力がある人たち。街で見つけてスカウトしてもすぐ逃げるから大変。給金では来ませんからと女中さんはため息。

「お金がって人は増えましたが、役人になりたい人はそう多くはないのです」
「大変ですね」
「ええそれはもう。引き留めの説得にも疲れ……夏樹様、押し入れ忘れてます」
「はいっ」

 中から来たから分からなかったけど、本当に広いお屋敷だ。部屋数は多く広間も充実。そんなに来るの?と不思議に思ってしまった。何人も一度に来たら大変だろうに。女中さんは昔は何人もってことがあったと話してくれた。

「昔は祟り神に近くなる前に来られる方が多かったのです。お互いの辛さなど話しながら浄化される神様がいたのですよ。今はギリ理性が残ってるかどうかで、自分で来られますが襲撃に近いと申しますか……はは……」
「あはは……」

 それと、人の神様は祟り神ふうになっても他の神様は放置する。そのように聞いているだろうがと前置きして、

「たまにここの庭に投げ捨てていく神様もいるんですよ。本当に迷惑なんで……そこ抜けてます。角もしっかり」
「はいっ」

 僕は一歩前に出て天井の角にドームを押し付ける。スーッと黒いモヤは消えていく。

「全く助け合わないでもない。人の神は分かりませんね」
「へえ」

 僕が屋敷をウロウロしている間、外の翠はとても早く庭を回復させていた。枯れ葉だらけで茶色かった山は緑に変わり、枯れた花は再生していた。へドロの沼?のような池は澄んだ水になった。死んだ魚はここの人が網で掬って、底の落ち葉もね。僕があと少しですよと言われる頃には終わっていた。さすが翠、慣れています。時々やらされてたな、これは。

「翠様はこちらの屋敷はご存知ですよね。この先をもう少しです。私は休憩の支度をしてまいります」
「ああ分かった。どの部屋で休憩?」
「鏡の部屋の隣です」
「わかった」

 僕は翠と残りの部屋を回る。客間ばかりだったけど、ここからは役人の部屋や中居さんの部屋と地下倉庫、それと二階が残っている。この屋敷は二階部分は少ないんだ。

「ねえ翠。このお屋敷は荒神のために建てたの?」
「違うよ。元々はどこにも行けない帝の別荘だったんだ。その頃はこの半分くらいの大きさでさ。建て増したんだよ」
「そっか」
「理由は知らなくても、帝はこの囲いから出れないのだけはみんな知っててな」
「また別荘になるのかな」

 いや……兄君はここ使わないんじゃないかと思うそうだ。客人用の旅館みたいな使い方かもねって。別のところに別荘があるからいらないと思うってさ。

「博士たちがあちこちには行けない帝のために、家と家をつなぐだけの鏡は量産してるんだよ」
「そっか。それなら遠くにも行けるもんね」
「まあな。それでも年に数度くらいだろうけど」

 発情期かなあ。ても帝になるとかなり冷静で普段とあんまり変わらないと聞いている。その頃は仕事はほぼしない。だからその時に使うかもなって。

「前の帝が言ってたんだ。発情期は自分だけこの世界から切り離されてる気がするってな。あんなふうに発情してた頃が懐かしいと寂しそうだったな」
「そっか。男性は素敵な女性を追いかけ回してるもんね」
「まあな。それが獣ってもんだよ」

 こんな話をしながら階段を上がり二階に到着。うおっ目の前の光景に膝がガクガクする。

「胸がキューっとする。足が震えるぅ」
「なんだここ。向こうが見えねえな」

 煙じゃないのに瘴気が濃くてゆらゆらしている。もしかしてずっと放置してたとか?下だけやって上はやらなかったのか?と思うくらい黒いモヤ。

「ふ、震えるけどがんばるッ」

 手を繋ぐか?と言われ当然繋ぐ。暖かな翠の手が恐怖を和らげる気がするけど、手までブルブルとする。得体のしれない恐怖しかない。黒い煙みたいなのは「ヒヒヒヒッ」とか「ミンナシネ」とかしゃべるんだよ。濃すぎて人影みたいに見える部分もあるよぉ

「ここで終わりだから気を確かに持て」
「う、うん」

 僕は足を出すことができずに立ち尽くした。でも動かなければ終わらない。意を決して足を前にと出してダッシュ!走る!もう走るんだよ。怖くて仕方ない。

「お、おい!」
「うわあああッ」

 前を見れなくて無我夢中で走ってドンッと壁にぶつかり、全身の痛さにズルズルと床に座り込んだ。

「なにしてるんだよ」
「イタタタッ怖くて無理だったんだよ」
「分かるけど怪我するだろ」
「ごめんなさい」

 振り向けば廊下はなんとかなった。が、襖の奥から笑い声が聞こえる。いやだあ。ここ開けたくないぃー仕方ねえなあと翠がスパンッと勢いよく開けると、モワッと黒い物が溢れ、笑い声とともに「これすすだよね?」と言わんばかりのモヤが襲ってくる!いやあああっ

「歩け夏樹!終わらないから!」
「いやあああっ翠がやってよ!」
「いや、お前の範囲だろ?頑張れよ」
「うっ……」

 こんなところは冷たいんだよね翠は。変にきっちりしててさ。仕方なく僕は意を決し叫びながら座敷をうろついた。力いっぱい開けられる戸は全部開けた。開けたところからは真っ黒な……人型……リアルお化け屋敷状態に僕の魂は逃げろと叫ぶ。

「あ…ああ……ヤダ……」
「俺がいるから落ち着け!」
「でも……」

 ぎゃあああアハハッと海外のホラーの映画ばりの笑い声が充満してるんだ。黒いモヤに笑い声、足は完全にすくみ動けない。黒い手がたくさん飛び回り、上のない足だけが駆け回る。

「歩けよ」
「や……も、ムリ……」

 腰が抜けて動けない。膝が折れて座り込んで丸くなってしまった。怖くて全身が震えてるんだ。生き物としてこの瘴気を拒絶してるんだよ。すると仕方ねえなあと抱っこされて、翠がウロウロ歩いてくれた。

「力は維持しろ。俺が歩くから」
「ご、ごめんなさい……怖くてもう……ふえ……」
「揺らいでるぞ。しっかりしろ」

 翠は自分の力は使ってはくれなかったけど手伝ってはくれた。翠が歩くと消えていくけど、隣の襖を開けるとブワッとまた同じ。それを何度か繰り返すと終わったぞと降ろされた。

「なにこれ。ここやっぱりサボったんだよね?」
「たぶんな。忙しくて放置か、上を使わないからってやらなかったんだろ」

 下から終わりましたあ?と女中さんの声がする。終わったけど怖かった。あの黒いモヤは恐れの心を鷲掴みにしようとする感じなんだ。なにってんじゃない恐怖を煽るんだ。なにもかもが怖い。人の心の恐怖心を刺激するなにか。これ溜め込んじゃだめなやつだろ!僕は思いつく限り文句をたれた。怖さにムカついていたんだ。

「夏樹落ち着け。終わったから」
「怖いのが抜けないんだよ!」

 ならって抱き寄せられて頬を掴まれた。ふえ?

「なにひゅんの?」
「落ち着け」

 そしてブチュウ。ネロネロと舌が絡み、口開けろと顎を引く。怖いんだよ!ねえ聞いて!と話そうとするけど、「翠」と言い終わる前に口が完全に塞がれて言葉にならない。食べられてるようになり、そのうち体を優しく……というかエッチィ手つきになってきて僕の体をまさぐる。

「んんっ……あふっ…んむっ…すい……」
「落ち着いたか?」
「う…ん……」

 してなかったからか体が反応した。これは不味い。

「すい……やり過ぎだよぉ」
「お前が騒ぐからだ」
「そうだけどさあ」

 僕は違う意味で冷静になろうと深呼吸。体の熱よ引け!と頑張っていた。









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