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帝の代替わり編
60 何も変わらない日常
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都から帰宅しいつもの生活。翠は村の神社に詰めたりお店のなんやかんや。僕はもらった引換券でわんわんと町にお出かけ。着物を作ったりして楽しい時間を過ごしていた。
「すごい!狐だよ翠!」
「かわいいな」
落ち着いた頃、あのお薬を試そうと寝る前に飲んでみた。翠のように耳と尻尾が生え、僕は茶色い狐になった。説明書には六時間~八時間くらい効果が続くと書いてあった。朝には元に戻るらしい。
「着物脱げよ」
「え?」
「お前の着物は尻尾を出すところないだろ。裾が捲れてる」
そう言いながら翠も脱ぎ始めた。なぜ脱ぐのよぉ
「……なんで?」
「うん?」
自分で脱がないなら俺が脱がしてやるって帯に手が伸びる。ほほうと言いながらふんどし一丁になった。翠は少し離れ、全体が見たいと言われ、僕はクルクル回った。
「俺と同じだな」
「んふふっ色は違うけどね」
ふんどし一丁でポージングしながら尻尾や耳を触る。おおっ手触りも翠と同じ。生きている動物の触り心地だ。この世界の人と同じ姿に僕は楽しくなっていた。そしたらいきなり抱き寄せられた。ん?
「なに?」
「獣はここがな」
「こことは?」
尻尾を優しく撫で……?なんかゾワゾワする。その手が尻尾の付け根をトントンと優しく叩く。クアッなにこれ。んんーッお尻がビリビリする!
「ヤダッなにこれ!」
「ほらすぐしたくなるだろ?気持ちいいはずだ」
腰全部が甘くなるような変な感覚が広がり、翠は根元を優しく揉みだした。揉むな!
「耳もな」
「あはっ……んあっ」
耳ってこんなに敏感なの知らなかった。カプッと噛まれると普段の何倍も気持ちいい。これなに?
「獣がエッチ好きな気持ち分かるか?」
「わ、分かったからやめてぇ」
「やめない。入れなくても楽しいぞ」
うつ伏せに押し倒されると尻尾と耳を重点的に責めてくる。ゾワゾワする快感に叫んでしまう。
「アウッやめッ……ああああっ尻尾離して!」
「ヤダ」
自分でもわかるくらいお尻から前から漏れている。欲しくて堪らない。なのに指すら入れてくれない。
「すいぃ意地悪しないで!」
「甘い……甘いな」
「ふえ?」
尻尾を上に持ち上げられ、ぬるりとした感触にヒャアっと変な声が出た。
「感じるままで」
「んんーっ」
ほんの少しの刺激で頭はふわふわとして、気持ちよさに腰はガクガク。あり得ない気持ちよさで涙が勝手に流れる始末。股間は絶頂したにもか関わらず硬かった。これが狐の……
「やだ……自分で触ってもいつもより気持ちいいよぉ」
「これが獣なんだ。俺な、同族を抱いたことないんだよな」
「ふえ?」
振り向くと頬を染めうっとりしている翠。これだめな顔だ。朝まで離してくれない時の興奮してる顔だよぉ
「あ、あの……すい?」
「お前が煽ったんだ。責任は取れよ」
「ちがっ狐の姿を見せたかっただけで」
「お前の匂いでもう理性を保つのが苦しいんだ。甘い狐の誘う匂い……」
「え?」
翠の股間は先走りが竿を伝って垂れていた。不味い姿である。完全に不味い。ハァハァと舌舐めずりしているし。
「翠さま……あの」
「黙れ」
腰を掴まれるとドンッと押し込まれた。ぐおおおおッ執拗に尻尾と耳を触るのもやめない。やめてッ
「すごい。溢れた」
「ぎもぢい……これダメなヤツぅ」
脚に伝う自分の物が普段より多く、腰全体が強い快感に力が抜ける。翠は中でビクビクさせて堪能してる感じだけど、僕は入れただけでほとんど絶頂間近。翠はそのまま動かずにいる。
「このままがいいのか?」
「それは……」
「自分で腰振れよ」
「無理だよ!力が入んない!」
「玉に垂れてるもんな」
「うっ……」
くるりと仰向けにされた。そして脚を広げズブリ。
「いいだろ」
「よ…よすぎて……ハァハァ……」
「俺からいい匂いしない?」
抱きついてきた翠は少し甘い香りがする。発情期しか感じないはずなのに。甘く誘う匂い。
「お前が狐の姿をしてるから感じるんだ。俺の興奮を」
「この匂い好き……翠好き」
「うん」
話は終わりだ。そう言うと腰を激しく振る。湿った音が響き、僕は声にならない喘ぎに息苦しい。
「いい、夏樹……なつき……」
「すいぃ……ああっ翠ッすいッ」
強い快感に朦朧とするばかりでいつ終わったのかすら分からなかった。目が覚めたら朝だったんだ。窓からの朝日と、スズメのさえずりが聞こえる。お尻を触ればいつもの僕で、尻尾や耳はなくなっていた。
「これは封印しよう。僕がもたない」
翠の腕からそっと出て向かいの自室に忍び足で向かう。押し入れを開けて、以前わんわんに「個人的に大切なものを入れなさい」ともらった金庫を開ける。そこにもらったお薬の残りを入れて鍵をかけようとダイヤルに手をかけたら手首を掴まれた。
「何してるんだ」
「え?」
「薬が枕元になかったぞ。ここか?」
「うふん……」
すぐに気がつくこの勘のよさは今はいらないのに、そう思ったけど今さら遅い。僕は指に力を込めてグリンとダイヤルを回した。ヨシッと金庫から指を離した。
「出しなさい」
「嫌です」
「あんなに悦んだろ」
「嫌です。それはそれです」
「出せ!」
「イヤッ」
言い合ううちに揉み合いになる。そこへわんわんが来て、飯だと呼びに来たんだ。
「朝からなにしてますか」
「狐の薬を夏樹が」
「だってわんわんあれ怖いくらい気持ちよくて、怖くて怖かったんだよッ」
「ふーん。とにかく着物を着なさい。全裸で何してますか」
「「はい」」
見上げるわんわんは怖かった。陰影のせいもあるかもだけど。
「翠様は夏樹様に関わるととたんに頭が悪くなり過ぎです」
「うっ」
愛しているゆえでしょうが、ここの主はあなたです。もう少し理性を持って下さいませと言いながら翠の部屋に戻った。僕らはふんどしを身につけ、タンスから翠は着物を出して着ている。わんわんは僕はこれねって茜色の着物を用意してくれた。
「明るい色がお似合いですから」
「ありがとう」
二人とも飯です。そう言い残しわんわんは部屋を出て行った。
「薬は出せよ」
「嫌です。発情期並みの快感は毒です」
「たまにはいいだろ」
「そのたまには僕の判断にいたします」
「俺にもその判断の権利……」
「ありません!」
三擦り半なんて造語があった気がするけど、そのまんまなんだ。あれはダメだ。僕がしたくてしたくてってなった時のみだな。それか夕陽様が来た時に見てもらうとか、かな。僕らはこんな言い合いをしながらキッチンに着いた。
「おはようございま……どうされた?」
「イオ聞いてよぉ翠が狐の薬でぇ」
「ああ。夏樹様には刺激が強くございましたか。たまににしましょうね」
「そう言ったら出せって」
「あはは……まあお掛け下さいませ」
「うん」
美味しいアジの開きにお浸しにお新香。みそ汁は豆腐とネギ。なすやオクラの揚げびたし。米は翠の田んぼの新米で美味い。僕も夏のあぜ道の草刈りとか手伝ったんだ。蚊に刺されまくってさ。
稲刈りはさすがに手伝わない(遅くて邪魔になる)けど、その後のはざ掛け(縄を張った木の間に稲を干すこと)の場所まで運ぶとか、脱穀後の藁を結んで作業小屋にしまうとかした。昔の手作業の稲作のやり方は米の美味しさに直結する。はざ掛け米は特別な美味しさなんだ。それにコシヒカリだしね。
「ご飯が美味しい。美味し過ぎるッ」
「うちは羽釜炊きです。炊飯器は使わないですからね」
「おこげも美味しいよね」
僕は朝ごはんの美味しさにうっとりとご飯を見つめた。つやつやで湯気はいい香りを放つ。
「夏樹米好きだよな」
「うん。ほんのり甘いお米は日本人らしいでしょ?」
「まあな。俺の好みと同じで嬉しいよ」
そうそうとイオが、夕陽様が俵で二俵分持ち帰りました。「なくなったらまた来るわね、愛しの兄君ぃチュッ」だそうですと報告する。
「ああ?」
「毎年のことですよ。野菜も畑からかっぱら……いえ、持ち帰りました」
「とうとう畑から盗んでいくようになったか。あの女は」
「いやですよ。許可は取りに来ましたから」
翠は箸を置いて怒りに深呼吸。おおぅ最近の夕陽様は遠慮がねえな。二人だと食べきれないでしょ?とか言ってたなそういえば。畑の面積は最近増えたし、農夫の方も増えていた。ここは夕陽様の食糧庫となりつつある。
「今度来たら追い返せ」
「そうはいかないでしょうよ」
「なら俺がいる時にしろって言って」
「はあ。ならそうします」
うちの畑のは町のお店に出す野菜たちなんだ。お肉は買ってるけど、野菜と米はここのもの。足りなくなって買うことになれば売り上げは減る。
「店の評判がいいから増やそう計画があるんだよ。あれに別ける分はねえ」
「お店増やすの?」
「うん。男が接客するパージョンが町で流行っててな。流行りに乗ろうかと」
「ふーん」
俗に言うホストクラブだな。今の店はキャバクラのようだった。性の奉仕なしノルマなし、飯が美味い居酒屋だもんね。夜はいつも満席で給金も他所よりいい。町人の人たちにはいい働き口である。
「僕も店に出ようかな」
「俺が客を殺していいなら出れば」
「……やめます」
バカですねえ夏樹様。最近の翠様は嫉妬心丸見え。都でもあなたから目を離さないし、近づく人は威嚇する。気がついてないのですか?とわんわん。そう?
「その天然もかわいいですが、周りが危険ですので翠様の手の内の者だけに笑顔を向けて下さい」
「はい……」
こうなると思ったんだよなあってマオが笑いながら通りかかった。翠様は愛情深く我らにも親切だ。それが伴侶なら当然だよとキッチンに行った。
「どこか行くの?」
「ええ。肉を取りに山へね。イオ握り飯は?」
「準備できてるよ」
マオはこの屋敷のお肉係だ。川魚はイオかな。猫は水が嫌いだから気が乗らなきゃ川魚は取りに行かないんだ。
「猪と鹿だったよな」
「そう。ジビエソーセージがもうすぐなくなるって店からの依頼だ」
「分かった」
コリヤナギの入れ物(昔の着物や物をしまうかごのおにぎりバージョン)を受け取っている。
「夏樹様、翠様はあなたしか目に入ってない。言動には注意をね」
「はーい」
翠はうるさいよとポツリ。妻を愛して何が悪い。お前らだったそうだろとブツブツ。
「そうですが主は心配性だから」
「否定はしない。マオ気をつけてな」
「はい。では行ってきます」
マオはお弁当を持って颯爽と出かけて行った。翠はいつもどおり見送っている。
「ねえ翠。もし僕が命の珠をもらわず、天帝の力と番の珠だけだったら何年生きれるのかな」
「え?……そうだな。俺が知るところだと一五〇年がいいところかな。なんだよ急に」
「別に。気になっただけ」
番の珠だけでは「ここでの人間種」の平均寿命になるのか。人の寿命より長いけど短めだね。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでございます。お茶をどうぞ」
「ありがとう」
なんでもない朝のひととき。ここに来ていくつもの季節、いくつもの年月が瞬く間に過ぎた。なのに「何も変わらないみんなと自分」。人の世界なら僕はもう初老に差し掛かっててもおかしくない。前の帝の辰巳様や麗様はもういない。都から帰って来て落ち着いたからかな。その事実は僕に重くのしかかる。
たまに「あの花嫁行列で僕は死んでしまって、その走馬灯の中にいるのではないか」とか「幸せな夢。そう、自分に都合のいい夢を見てるんじゃないか」とか。そんな不安を僕は感じ始めていた。
「すごい!狐だよ翠!」
「かわいいな」
落ち着いた頃、あのお薬を試そうと寝る前に飲んでみた。翠のように耳と尻尾が生え、僕は茶色い狐になった。説明書には六時間~八時間くらい効果が続くと書いてあった。朝には元に戻るらしい。
「着物脱げよ」
「え?」
「お前の着物は尻尾を出すところないだろ。裾が捲れてる」
そう言いながら翠も脱ぎ始めた。なぜ脱ぐのよぉ
「……なんで?」
「うん?」
自分で脱がないなら俺が脱がしてやるって帯に手が伸びる。ほほうと言いながらふんどし一丁になった。翠は少し離れ、全体が見たいと言われ、僕はクルクル回った。
「俺と同じだな」
「んふふっ色は違うけどね」
ふんどし一丁でポージングしながら尻尾や耳を触る。おおっ手触りも翠と同じ。生きている動物の触り心地だ。この世界の人と同じ姿に僕は楽しくなっていた。そしたらいきなり抱き寄せられた。ん?
「なに?」
「獣はここがな」
「こことは?」
尻尾を優しく撫で……?なんかゾワゾワする。その手が尻尾の付け根をトントンと優しく叩く。クアッなにこれ。んんーッお尻がビリビリする!
「ヤダッなにこれ!」
「ほらすぐしたくなるだろ?気持ちいいはずだ」
腰全部が甘くなるような変な感覚が広がり、翠は根元を優しく揉みだした。揉むな!
「耳もな」
「あはっ……んあっ」
耳ってこんなに敏感なの知らなかった。カプッと噛まれると普段の何倍も気持ちいい。これなに?
「獣がエッチ好きな気持ち分かるか?」
「わ、分かったからやめてぇ」
「やめない。入れなくても楽しいぞ」
うつ伏せに押し倒されると尻尾と耳を重点的に責めてくる。ゾワゾワする快感に叫んでしまう。
「アウッやめッ……ああああっ尻尾離して!」
「ヤダ」
自分でもわかるくらいお尻から前から漏れている。欲しくて堪らない。なのに指すら入れてくれない。
「すいぃ意地悪しないで!」
「甘い……甘いな」
「ふえ?」
尻尾を上に持ち上げられ、ぬるりとした感触にヒャアっと変な声が出た。
「感じるままで」
「んんーっ」
ほんの少しの刺激で頭はふわふわとして、気持ちよさに腰はガクガク。あり得ない気持ちよさで涙が勝手に流れる始末。股間は絶頂したにもか関わらず硬かった。これが狐の……
「やだ……自分で触ってもいつもより気持ちいいよぉ」
「これが獣なんだ。俺な、同族を抱いたことないんだよな」
「ふえ?」
振り向くと頬を染めうっとりしている翠。これだめな顔だ。朝まで離してくれない時の興奮してる顔だよぉ
「あ、あの……すい?」
「お前が煽ったんだ。責任は取れよ」
「ちがっ狐の姿を見せたかっただけで」
「お前の匂いでもう理性を保つのが苦しいんだ。甘い狐の誘う匂い……」
「え?」
翠の股間は先走りが竿を伝って垂れていた。不味い姿である。完全に不味い。ハァハァと舌舐めずりしているし。
「翠さま……あの」
「黙れ」
腰を掴まれるとドンッと押し込まれた。ぐおおおおッ執拗に尻尾と耳を触るのもやめない。やめてッ
「すごい。溢れた」
「ぎもぢい……これダメなヤツぅ」
脚に伝う自分の物が普段より多く、腰全体が強い快感に力が抜ける。翠は中でビクビクさせて堪能してる感じだけど、僕は入れただけでほとんど絶頂間近。翠はそのまま動かずにいる。
「このままがいいのか?」
「それは……」
「自分で腰振れよ」
「無理だよ!力が入んない!」
「玉に垂れてるもんな」
「うっ……」
くるりと仰向けにされた。そして脚を広げズブリ。
「いいだろ」
「よ…よすぎて……ハァハァ……」
「俺からいい匂いしない?」
抱きついてきた翠は少し甘い香りがする。発情期しか感じないはずなのに。甘く誘う匂い。
「お前が狐の姿をしてるから感じるんだ。俺の興奮を」
「この匂い好き……翠好き」
「うん」
話は終わりだ。そう言うと腰を激しく振る。湿った音が響き、僕は声にならない喘ぎに息苦しい。
「いい、夏樹……なつき……」
「すいぃ……ああっ翠ッすいッ」
強い快感に朦朧とするばかりでいつ終わったのかすら分からなかった。目が覚めたら朝だったんだ。窓からの朝日と、スズメのさえずりが聞こえる。お尻を触ればいつもの僕で、尻尾や耳はなくなっていた。
「これは封印しよう。僕がもたない」
翠の腕からそっと出て向かいの自室に忍び足で向かう。押し入れを開けて、以前わんわんに「個人的に大切なものを入れなさい」ともらった金庫を開ける。そこにもらったお薬の残りを入れて鍵をかけようとダイヤルに手をかけたら手首を掴まれた。
「何してるんだ」
「え?」
「薬が枕元になかったぞ。ここか?」
「うふん……」
すぐに気がつくこの勘のよさは今はいらないのに、そう思ったけど今さら遅い。僕は指に力を込めてグリンとダイヤルを回した。ヨシッと金庫から指を離した。
「出しなさい」
「嫌です」
「あんなに悦んだろ」
「嫌です。それはそれです」
「出せ!」
「イヤッ」
言い合ううちに揉み合いになる。そこへわんわんが来て、飯だと呼びに来たんだ。
「朝からなにしてますか」
「狐の薬を夏樹が」
「だってわんわんあれ怖いくらい気持ちよくて、怖くて怖かったんだよッ」
「ふーん。とにかく着物を着なさい。全裸で何してますか」
「「はい」」
見上げるわんわんは怖かった。陰影のせいもあるかもだけど。
「翠様は夏樹様に関わるととたんに頭が悪くなり過ぎです」
「うっ」
愛しているゆえでしょうが、ここの主はあなたです。もう少し理性を持って下さいませと言いながら翠の部屋に戻った。僕らはふんどしを身につけ、タンスから翠は着物を出して着ている。わんわんは僕はこれねって茜色の着物を用意してくれた。
「明るい色がお似合いですから」
「ありがとう」
二人とも飯です。そう言い残しわんわんは部屋を出て行った。
「薬は出せよ」
「嫌です。発情期並みの快感は毒です」
「たまにはいいだろ」
「そのたまには僕の判断にいたします」
「俺にもその判断の権利……」
「ありません!」
三擦り半なんて造語があった気がするけど、そのまんまなんだ。あれはダメだ。僕がしたくてしたくてってなった時のみだな。それか夕陽様が来た時に見てもらうとか、かな。僕らはこんな言い合いをしながらキッチンに着いた。
「おはようございま……どうされた?」
「イオ聞いてよぉ翠が狐の薬でぇ」
「ああ。夏樹様には刺激が強くございましたか。たまににしましょうね」
「そう言ったら出せって」
「あはは……まあお掛け下さいませ」
「うん」
美味しいアジの開きにお浸しにお新香。みそ汁は豆腐とネギ。なすやオクラの揚げびたし。米は翠の田んぼの新米で美味い。僕も夏のあぜ道の草刈りとか手伝ったんだ。蚊に刺されまくってさ。
稲刈りはさすがに手伝わない(遅くて邪魔になる)けど、その後のはざ掛け(縄を張った木の間に稲を干すこと)の場所まで運ぶとか、脱穀後の藁を結んで作業小屋にしまうとかした。昔の手作業の稲作のやり方は米の美味しさに直結する。はざ掛け米は特別な美味しさなんだ。それにコシヒカリだしね。
「ご飯が美味しい。美味し過ぎるッ」
「うちは羽釜炊きです。炊飯器は使わないですからね」
「おこげも美味しいよね」
僕は朝ごはんの美味しさにうっとりとご飯を見つめた。つやつやで湯気はいい香りを放つ。
「夏樹米好きだよな」
「うん。ほんのり甘いお米は日本人らしいでしょ?」
「まあな。俺の好みと同じで嬉しいよ」
そうそうとイオが、夕陽様が俵で二俵分持ち帰りました。「なくなったらまた来るわね、愛しの兄君ぃチュッ」だそうですと報告する。
「ああ?」
「毎年のことですよ。野菜も畑からかっぱら……いえ、持ち帰りました」
「とうとう畑から盗んでいくようになったか。あの女は」
「いやですよ。許可は取りに来ましたから」
翠は箸を置いて怒りに深呼吸。おおぅ最近の夕陽様は遠慮がねえな。二人だと食べきれないでしょ?とか言ってたなそういえば。畑の面積は最近増えたし、農夫の方も増えていた。ここは夕陽様の食糧庫となりつつある。
「今度来たら追い返せ」
「そうはいかないでしょうよ」
「なら俺がいる時にしろって言って」
「はあ。ならそうします」
うちの畑のは町のお店に出す野菜たちなんだ。お肉は買ってるけど、野菜と米はここのもの。足りなくなって買うことになれば売り上げは減る。
「店の評判がいいから増やそう計画があるんだよ。あれに別ける分はねえ」
「お店増やすの?」
「うん。男が接客するパージョンが町で流行っててな。流行りに乗ろうかと」
「ふーん」
俗に言うホストクラブだな。今の店はキャバクラのようだった。性の奉仕なしノルマなし、飯が美味い居酒屋だもんね。夜はいつも満席で給金も他所よりいい。町人の人たちにはいい働き口である。
「僕も店に出ようかな」
「俺が客を殺していいなら出れば」
「……やめます」
バカですねえ夏樹様。最近の翠様は嫉妬心丸見え。都でもあなたから目を離さないし、近づく人は威嚇する。気がついてないのですか?とわんわん。そう?
「その天然もかわいいですが、周りが危険ですので翠様の手の内の者だけに笑顔を向けて下さい」
「はい……」
こうなると思ったんだよなあってマオが笑いながら通りかかった。翠様は愛情深く我らにも親切だ。それが伴侶なら当然だよとキッチンに行った。
「どこか行くの?」
「ええ。肉を取りに山へね。イオ握り飯は?」
「準備できてるよ」
マオはこの屋敷のお肉係だ。川魚はイオかな。猫は水が嫌いだから気が乗らなきゃ川魚は取りに行かないんだ。
「猪と鹿だったよな」
「そう。ジビエソーセージがもうすぐなくなるって店からの依頼だ」
「分かった」
コリヤナギの入れ物(昔の着物や物をしまうかごのおにぎりバージョン)を受け取っている。
「夏樹様、翠様はあなたしか目に入ってない。言動には注意をね」
「はーい」
翠はうるさいよとポツリ。妻を愛して何が悪い。お前らだったそうだろとブツブツ。
「そうですが主は心配性だから」
「否定はしない。マオ気をつけてな」
「はい。では行ってきます」
マオはお弁当を持って颯爽と出かけて行った。翠はいつもどおり見送っている。
「ねえ翠。もし僕が命の珠をもらわず、天帝の力と番の珠だけだったら何年生きれるのかな」
「え?……そうだな。俺が知るところだと一五〇年がいいところかな。なんだよ急に」
「別に。気になっただけ」
番の珠だけでは「ここでの人間種」の平均寿命になるのか。人の寿命より長いけど短めだね。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでございます。お茶をどうぞ」
「ありがとう」
なんでもない朝のひととき。ここに来ていくつもの季節、いくつもの年月が瞬く間に過ぎた。なのに「何も変わらないみんなと自分」。人の世界なら僕はもう初老に差し掛かっててもおかしくない。前の帝の辰巳様や麗様はもういない。都から帰って来て落ち着いたからかな。その事実は僕に重くのしかかる。
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