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花嫁〜獣の世界編
2 お祭り本番
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翌日祭りの当日になった。お昼ご飯を軽く食べ、昼すぎに数軒先の支度するお家にお邪魔する。すると見覚えのある男がいた。
「あの?雪斗がなぜここに?」
僕の方を向きもせず着付けてもらっている。顔が怖過ぎる。なんか追い詰めているような感じだ。
「俺も参加する。お前が選ばれたのに納得いってないんだ。俺にも権利があってもいいだろ」
「まあ」
同級生の雪斗がなぜか花嫁衣装に着替える場にいた。世話役さんのおうちに彼のお母さんと近所の方たち。彼のお母さんは美容師さんでね。僕は世話役のおばさんに尋ねた。
「あのおばさん。花嫁衣装ってふたつあるの?」
世話役の彼のお母さんのみどりさんは、あるにはあるよ。前のものを取って置いてるから。でも黄ばんでしまい数年前に新調したらしい。ゴメンね。俺も出るって言って聞かないのよって。
「お前古い方な」
「そこは気にしませんが……」
その前があるだろ。雪斗が出るならば僕の必要性を感じません。なら僕は辞退するかなと考えた。
「あ……あの、俺辞退してもいいですか?雪斗が出るなら僕やんなくてもいいでしょ」
彼の腰紐を結びながらおばさんはそれは出来ないと言う。
「すでに昨日の祝詞の時に神様に「夏樹」だと報告しちゃったのよ。だから増える分には言い訳が立つけど、来ないってなったら神様不機嫌になるかもだしね。参加してよ」
「……マジか」
おばさんたちは先に来てた雪斗の着付けを手際よくしていく。夏樹ちゃんもはよ脱げって。いやいや。僕は和室の襖の前で呆然。
「夏樹が出ないとかないから。村の人きっときれいよって楽しみにしてんだからさ」
「それは置いといて。僕はやらなくてもいいよ」
「「ダメ!日照りになったら困るでしょ!」」
「ウッ」
この祭りが出来なかった戦後間もない頃にもこの辺日照りで苦労したらしい。だから儀式は絶対なの!と、居合わせたおばさんたちは強い口調でおっしゃる。期待しない訳じゃないけど、決まったからって仕方ないって気分も大きくてさ。辞退して友達の直人や秀典たちと遊ぶのもいいかなって考えた。
「でもさあ」
「嫁が二人になることはなかった訳でもないのよ。やっぱり今回みたいに揉めちゃったりとかね」
「ふーん」
この村にたくさんの人が住んでいた時代。嫁の候補は誉れでもあったそうだ。選ばれるってことは、村一番の美女であるとみんな認識してたから。わがままな庄屋の娘が参戦なんてのも実は時々あるそうだ。御利益はねじ込んだ方には薄く、本人のみになることが通説。一族に恩恵はなく、村は水も日差しにも困らない。縁結びの方だけに問題が出るよう。ふーん。こんな話をしていると雪斗はぶっきらぼうに。
「いいんだよ。俺が幸せならそれで。お前の御利益は減らない。少し分けてもらうだけだ」
「はあ……」
雪斗の参戦はいろいろ事情もあるらしい。言いたくないけど俺は絶対幸せな結婚がしたい。村で一番の美女をもらった。そう自慢しながら幸せに生きるの!って帯を締められながら苦悶の表情。帯苦しいんだね。あはは……
「夏樹もこっちへ。少し黄ばんでるけど昔作ったからとてもいいものなのよ」
押し入れの奥から出しておいたの。急だから少しシワがねえって。そこは僕気にしないけど。
触ってみろって言われて打ち掛けに触れてみると、真っ白(少し黄ばみ気味)で柔らかい感触とシルクらしいしっとりとした重さ。文様は鶴や松などめでたい文様だ。
「雪斗は背が大きいからおはしょりなくなったわね」
「仕方ねえだろ。これ女物だから」
「まぁね」
などと後ろから聞こえたが、夏樹はちょうどいいわあってお手伝いのおばさん。標準的な背丈だからね。一八〇もある雪斗とは違いますぅ
「夏樹は……うん、うん。衣装に負けてないわ」
「ありがと。褒められて喜んでいいのかわかんないけど」
おばさんたちは僕の着付けをしながら、男は昔紋付袴で嫁入りしたらしいけど神様は嫌だったらしく嵐を呼んだ。水には困らなかったけど今度は災害になったって記録があったそうだ。こんなことになって改めて資料を調べたら見つかったそう。
だから、男が嫁入りする時も必ず「花嫁衣装」にすべし。太い字で書かれて朱墨で下線まで引いてあったそうだ。注意喚起だな。
「普通のお祭りの認識しかないから僕はそのご利益とか期待してないし、ホントかなあって懐疑的なんだ。ただいい人と巡り合ったり、この人は神様の引き合わせだから相性がいいって信じる。だからお互い無駄なケンカもしないし、思いやるだけなんじゃないの?」
あははと着付けてくれるおばさんは大笑い。それこそなのよって。
「夏樹はバカね。それがこの祭りのご利益なの。雨は不思議だけど、この部分はいつからか付け足された部分でね。発祥は分からないけどいいことでしょ?」
「そうだけど……そっちがメインみたいになってるよね。この祭り」
「いいのよ。この祭りで村の一体感もできて悪いことじゃないのよ」
グイグイ締め付けられながら僕は、そう言われればそうかな。村人総出で楽しむし県外で成功した人や、村の商店、神社の◯◯講なんて信仰団体があちこちに存在し、その人らが花火を打ち上げてくれる。ちょっとした民宿とかもある。そこのオーナー連合でスターマインとか上げてくれるんだ。キレイなんだよね。
「人は減り続けてるけどまだまだ神社のおかげで観光客も来るし悪くないのよ。ここはね」
「そうだね」
着付けていると外は奉納の花嫁を見るんだと子どもたちが騒いでる声がする。今回は男なんだってよとどこかの男の子。エーッゆかり姉ちゃんじゃないの?と女の子達の声か聞こえる。
「姉ちゃんは半年前にお嫁に行ったろ?そんで高校生とか大学生の女の人はみんな断ったんだってよ」
「なんで?あたしはやりたいけどなあ」
「とーちゃんが言うには大人にはいろいろあんのってさ」
「ふーん」
などと、情報通であろう男の子が友達の女の子たちに説明してね。なんだか俺すげーって感じの声色で偉そうである。微笑ましい会話だね。
「さてさて二人とも支度ができました。後はメイク……する?」
「「しません!」」
なら紅だけはと本当に昔からの貝殻に入っている紅をさしてくれた。ほら見ろって手鏡を渡された。覗き込む……うん…なんだろ。
「かわいいわ。やっぱり夏樹はこういうの、女装っての?似合うわ」
「……似合わなくていいです」
「雪斗はどう?」
おばさんは振り返り雪斗も振り返る。そして二人は目が合ってお互いを凝視。
「……う、うん。雪斗もかわいいわ……たぶん」
「うるせえよ母さん」
居合わせたおばさん方はあなたの息子もかわいいわよ。日焼けして浅黒く、養鯉で鍛えたがっちり体形で男らしくてすてきよって。でも……紅がまあなんだ。そこまで言うと、ブハハハッと雪斗のお母さんまで一緒になって笑っている。
「母さんもおばさんたちも失礼だよ。言われなくても分かってんの!俺は香織と結婚したいの!ずっと一緒にいたくて…あ……」
「やだあ雪斗。彼女にプロポーズは?」
後ろを向き真っ赤な雪斗。ボソッとこの祭りの後にする予定なんだと小声。ふふっ雪斗かわいい。ブルブルと震えてると僕に目を向ける。
「夏樹。俺はお前が昔っから嫌いだ。なよってしてるくせに成績良くて東京の大学行くし、誰でも知ってるような企業に就職した。この村じゃお前は有名人だ」
「え?……嫌いなのはいいです。知ってるから。でも有名人って何?」
近くのおばさんがこの村で家業を継ぐか、県内で進学、就職するのが一般的。それが東京に進学してサラリーマンになった。すごいねえってなってるそうだ。雪斗のお母さんが嫌いとか言うなと背中を叩いているのが見えた。
「やだなあ今は令和です。僕の大学にはこの県からの人もたくさんいました。珍しくないですよ」
「この村では東京に進学するのが珍しいのよ。夏樹みたいになるってみんな頑張って勉強する子も出てきたの。それで夏樹の話が出ることがあるのよ」
「ふーん」
この時代なんでもある。街には東京からのお店があちこちに現れ大きなモールもあちこちだ。女子高生が買い物してたの見かけたし。
「街の子でも賢い子はこの市を出て県の大学にいくし、就職でもあちこちの小さな町や村の子は街に出ていく。最近は増えたわよね」
「うん」
この村が過疎化した原因でもある。何も変わらなく見える村。街まではすごく近いけど、車で三十分と少しで山も畑と田んぼだけになるんだ。昭和の頃と変わらんと村の人。出たくもなるのも当然だよって。
「さあお披露目よ!」
「はい」
衣装に着慣れてないから手を借りて外に出るとすでに薄暗くなっていた。山の中腹にある神社は煌々と煌めき幻想的に見えた。
「あそこまで練り歩くわよ。そして式が終わったら神社で宴会。頑張るわよ!」
「「「おーっ」」」
外には嫁入り行列……にしては少なめ(村人減っから)の、狐の嫁入りの挿絵のような団体が待っている。僕と雪斗は手招きされ大きな赤い番傘の下にはいる。角隠しで前は見えにくくて僕は足元をガン見していた。
さあここから嫁入り道中の始まりだ。沿道にはたくさんの観客がこちらを見つめている。近所のおじいさんが長持ち唄を歌い始めた。
「ハァー 今日は 日もよし~」
長持ち唄が始まり出発だ。ゆっくりと先頭が歩き出す。夜の道中だから竿の先に吊るした提灯がゆらゆらと揺れる。昔の暗い時代なら幻想的だっただろう。悲しいことに今は沿道に街灯が煌々としている。
僕と雪斗は「おおー男だ」とか「夏樹くんかわいいよ!」とか友達に掛け声をもらいながら山道(すでに舗装されている)を歩く。途中川があり橋の向こうには大きな鳥居。ここから山の神様の神域となる。ちょうど松明のたかれた鳥居をくぐった時、キーンと耳鳴りがした。
「え?何この耳鳴り」
「あ?前見ろよ。履き慣れない草履だから転ぶぞ」
「ああうん」
雪斗は何も聞こえないの?ずっと鳴ってるけど。僕はこのうるさい耳鳴りで長持ち唄もお囃子の太鼓も聞こえづらい。僕は再度雪斗に尋ねた。
「雪斗は耳鳴りしないの?」
「耳鳴り?何の話だ。……それよりさっき嫌いとか言ってごめん。俺今瀬戸際で余裕ないんだ。彼女に振られそうで……神様に何とか繋ぎ止めて欲しくて参加したんだ」
「あー……ご利益あるといいね」
うるさい中でも隣の彼の声はなんとなく聞こえていた。坂道のカーブ地点。ここはヘアピンカーブの登り坂で草履で歩くのがあ!僕らは踏ん張って登っていく。後一つ緩いカーブを曲がったらその先に神社がある。
「雪斗……なんか気持ち悪いんだ。耳鳴りがうるさくて……あの……」
「我慢しろ。後少しだから。手を出せ」
「ありがとう」
フラフラしてる僕にぶっきらぼうに手を差し出してくれる雪斗。昔から優しいんだよね。僕を嫌いだ嫌いだって言いながら野球やサッカー、ゲームに混ぜてくれるの。家も近所で……本当は雪斗いい子でさ。うっ……ぐわんと激しいめまいが起こった。目の前の長持ちを担ぐ人が歪む。そして僕の膝は僕を裏切り折れた。繋ぐ手が力強く持ち上げる。
「夏樹なにしてんだ!立て。後少しだから!」
「う、うん」
腕を掴まれて震えながらも踏ん張ると吐き気と目の前が真っ白。そのまま足は僕を裏切り続け、踏ん張ってもブルブルと震えた。そしてもう倒れるかもなんて考えてると、膝は完全に力を失い地面が近づく。雪斗は気がついたのかしっかりと掴んでくれた。
「夏樹頑張れ!もう少しだから」
「う……うぅ……」
雪斗の励ましと怪力で踏ん張ってはいたけど、その直後僕の意識は途絶えてしまったんだ。
「あの?雪斗がなぜここに?」
僕の方を向きもせず着付けてもらっている。顔が怖過ぎる。なんか追い詰めているような感じだ。
「俺も参加する。お前が選ばれたのに納得いってないんだ。俺にも権利があってもいいだろ」
「まあ」
同級生の雪斗がなぜか花嫁衣装に着替える場にいた。世話役さんのおうちに彼のお母さんと近所の方たち。彼のお母さんは美容師さんでね。僕は世話役のおばさんに尋ねた。
「あのおばさん。花嫁衣装ってふたつあるの?」
世話役の彼のお母さんのみどりさんは、あるにはあるよ。前のものを取って置いてるから。でも黄ばんでしまい数年前に新調したらしい。ゴメンね。俺も出るって言って聞かないのよって。
「お前古い方な」
「そこは気にしませんが……」
その前があるだろ。雪斗が出るならば僕の必要性を感じません。なら僕は辞退するかなと考えた。
「あ……あの、俺辞退してもいいですか?雪斗が出るなら僕やんなくてもいいでしょ」
彼の腰紐を結びながらおばさんはそれは出来ないと言う。
「すでに昨日の祝詞の時に神様に「夏樹」だと報告しちゃったのよ。だから増える分には言い訳が立つけど、来ないってなったら神様不機嫌になるかもだしね。参加してよ」
「……マジか」
おばさんたちは先に来てた雪斗の着付けを手際よくしていく。夏樹ちゃんもはよ脱げって。いやいや。僕は和室の襖の前で呆然。
「夏樹が出ないとかないから。村の人きっときれいよって楽しみにしてんだからさ」
「それは置いといて。僕はやらなくてもいいよ」
「「ダメ!日照りになったら困るでしょ!」」
「ウッ」
この祭りが出来なかった戦後間もない頃にもこの辺日照りで苦労したらしい。だから儀式は絶対なの!と、居合わせたおばさんたちは強い口調でおっしゃる。期待しない訳じゃないけど、決まったからって仕方ないって気分も大きくてさ。辞退して友達の直人や秀典たちと遊ぶのもいいかなって考えた。
「でもさあ」
「嫁が二人になることはなかった訳でもないのよ。やっぱり今回みたいに揉めちゃったりとかね」
「ふーん」
この村にたくさんの人が住んでいた時代。嫁の候補は誉れでもあったそうだ。選ばれるってことは、村一番の美女であるとみんな認識してたから。わがままな庄屋の娘が参戦なんてのも実は時々あるそうだ。御利益はねじ込んだ方には薄く、本人のみになることが通説。一族に恩恵はなく、村は水も日差しにも困らない。縁結びの方だけに問題が出るよう。ふーん。こんな話をしていると雪斗はぶっきらぼうに。
「いいんだよ。俺が幸せならそれで。お前の御利益は減らない。少し分けてもらうだけだ」
「はあ……」
雪斗の参戦はいろいろ事情もあるらしい。言いたくないけど俺は絶対幸せな結婚がしたい。村で一番の美女をもらった。そう自慢しながら幸せに生きるの!って帯を締められながら苦悶の表情。帯苦しいんだね。あはは……
「夏樹もこっちへ。少し黄ばんでるけど昔作ったからとてもいいものなのよ」
押し入れの奥から出しておいたの。急だから少しシワがねえって。そこは僕気にしないけど。
触ってみろって言われて打ち掛けに触れてみると、真っ白(少し黄ばみ気味)で柔らかい感触とシルクらしいしっとりとした重さ。文様は鶴や松などめでたい文様だ。
「雪斗は背が大きいからおはしょりなくなったわね」
「仕方ねえだろ。これ女物だから」
「まぁね」
などと後ろから聞こえたが、夏樹はちょうどいいわあってお手伝いのおばさん。標準的な背丈だからね。一八〇もある雪斗とは違いますぅ
「夏樹は……うん、うん。衣装に負けてないわ」
「ありがと。褒められて喜んでいいのかわかんないけど」
おばさんたちは僕の着付けをしながら、男は昔紋付袴で嫁入りしたらしいけど神様は嫌だったらしく嵐を呼んだ。水には困らなかったけど今度は災害になったって記録があったそうだ。こんなことになって改めて資料を調べたら見つかったそう。
だから、男が嫁入りする時も必ず「花嫁衣装」にすべし。太い字で書かれて朱墨で下線まで引いてあったそうだ。注意喚起だな。
「普通のお祭りの認識しかないから僕はそのご利益とか期待してないし、ホントかなあって懐疑的なんだ。ただいい人と巡り合ったり、この人は神様の引き合わせだから相性がいいって信じる。だからお互い無駄なケンカもしないし、思いやるだけなんじゃないの?」
あははと着付けてくれるおばさんは大笑い。それこそなのよって。
「夏樹はバカね。それがこの祭りのご利益なの。雨は不思議だけど、この部分はいつからか付け足された部分でね。発祥は分からないけどいいことでしょ?」
「そうだけど……そっちがメインみたいになってるよね。この祭り」
「いいのよ。この祭りで村の一体感もできて悪いことじゃないのよ」
グイグイ締め付けられながら僕は、そう言われればそうかな。村人総出で楽しむし県外で成功した人や、村の商店、神社の◯◯講なんて信仰団体があちこちに存在し、その人らが花火を打ち上げてくれる。ちょっとした民宿とかもある。そこのオーナー連合でスターマインとか上げてくれるんだ。キレイなんだよね。
「人は減り続けてるけどまだまだ神社のおかげで観光客も来るし悪くないのよ。ここはね」
「そうだね」
着付けていると外は奉納の花嫁を見るんだと子どもたちが騒いでる声がする。今回は男なんだってよとどこかの男の子。エーッゆかり姉ちゃんじゃないの?と女の子達の声か聞こえる。
「姉ちゃんは半年前にお嫁に行ったろ?そんで高校生とか大学生の女の人はみんな断ったんだってよ」
「なんで?あたしはやりたいけどなあ」
「とーちゃんが言うには大人にはいろいろあんのってさ」
「ふーん」
などと、情報通であろう男の子が友達の女の子たちに説明してね。なんだか俺すげーって感じの声色で偉そうである。微笑ましい会話だね。
「さてさて二人とも支度ができました。後はメイク……する?」
「「しません!」」
なら紅だけはと本当に昔からの貝殻に入っている紅をさしてくれた。ほら見ろって手鏡を渡された。覗き込む……うん…なんだろ。
「かわいいわ。やっぱり夏樹はこういうの、女装っての?似合うわ」
「……似合わなくていいです」
「雪斗はどう?」
おばさんは振り返り雪斗も振り返る。そして二人は目が合ってお互いを凝視。
「……う、うん。雪斗もかわいいわ……たぶん」
「うるせえよ母さん」
居合わせたおばさん方はあなたの息子もかわいいわよ。日焼けして浅黒く、養鯉で鍛えたがっちり体形で男らしくてすてきよって。でも……紅がまあなんだ。そこまで言うと、ブハハハッと雪斗のお母さんまで一緒になって笑っている。
「母さんもおばさんたちも失礼だよ。言われなくても分かってんの!俺は香織と結婚したいの!ずっと一緒にいたくて…あ……」
「やだあ雪斗。彼女にプロポーズは?」
後ろを向き真っ赤な雪斗。ボソッとこの祭りの後にする予定なんだと小声。ふふっ雪斗かわいい。ブルブルと震えてると僕に目を向ける。
「夏樹。俺はお前が昔っから嫌いだ。なよってしてるくせに成績良くて東京の大学行くし、誰でも知ってるような企業に就職した。この村じゃお前は有名人だ」
「え?……嫌いなのはいいです。知ってるから。でも有名人って何?」
近くのおばさんがこの村で家業を継ぐか、県内で進学、就職するのが一般的。それが東京に進学してサラリーマンになった。すごいねえってなってるそうだ。雪斗のお母さんが嫌いとか言うなと背中を叩いているのが見えた。
「やだなあ今は令和です。僕の大学にはこの県からの人もたくさんいました。珍しくないですよ」
「この村では東京に進学するのが珍しいのよ。夏樹みたいになるってみんな頑張って勉強する子も出てきたの。それで夏樹の話が出ることがあるのよ」
「ふーん」
この時代なんでもある。街には東京からのお店があちこちに現れ大きなモールもあちこちだ。女子高生が買い物してたの見かけたし。
「街の子でも賢い子はこの市を出て県の大学にいくし、就職でもあちこちの小さな町や村の子は街に出ていく。最近は増えたわよね」
「うん」
この村が過疎化した原因でもある。何も変わらなく見える村。街まではすごく近いけど、車で三十分と少しで山も畑と田んぼだけになるんだ。昭和の頃と変わらんと村の人。出たくもなるのも当然だよって。
「さあお披露目よ!」
「はい」
衣装に着慣れてないから手を借りて外に出るとすでに薄暗くなっていた。山の中腹にある神社は煌々と煌めき幻想的に見えた。
「あそこまで練り歩くわよ。そして式が終わったら神社で宴会。頑張るわよ!」
「「「おーっ」」」
外には嫁入り行列……にしては少なめ(村人減っから)の、狐の嫁入りの挿絵のような団体が待っている。僕と雪斗は手招きされ大きな赤い番傘の下にはいる。角隠しで前は見えにくくて僕は足元をガン見していた。
さあここから嫁入り道中の始まりだ。沿道にはたくさんの観客がこちらを見つめている。近所のおじいさんが長持ち唄を歌い始めた。
「ハァー 今日は 日もよし~」
長持ち唄が始まり出発だ。ゆっくりと先頭が歩き出す。夜の道中だから竿の先に吊るした提灯がゆらゆらと揺れる。昔の暗い時代なら幻想的だっただろう。悲しいことに今は沿道に街灯が煌々としている。
僕と雪斗は「おおー男だ」とか「夏樹くんかわいいよ!」とか友達に掛け声をもらいながら山道(すでに舗装されている)を歩く。途中川があり橋の向こうには大きな鳥居。ここから山の神様の神域となる。ちょうど松明のたかれた鳥居をくぐった時、キーンと耳鳴りがした。
「え?何この耳鳴り」
「あ?前見ろよ。履き慣れない草履だから転ぶぞ」
「ああうん」
雪斗は何も聞こえないの?ずっと鳴ってるけど。僕はこのうるさい耳鳴りで長持ち唄もお囃子の太鼓も聞こえづらい。僕は再度雪斗に尋ねた。
「雪斗は耳鳴りしないの?」
「耳鳴り?何の話だ。……それよりさっき嫌いとか言ってごめん。俺今瀬戸際で余裕ないんだ。彼女に振られそうで……神様に何とか繋ぎ止めて欲しくて参加したんだ」
「あー……ご利益あるといいね」
うるさい中でも隣の彼の声はなんとなく聞こえていた。坂道のカーブ地点。ここはヘアピンカーブの登り坂で草履で歩くのがあ!僕らは踏ん張って登っていく。後一つ緩いカーブを曲がったらその先に神社がある。
「雪斗……なんか気持ち悪いんだ。耳鳴りがうるさくて……あの……」
「我慢しろ。後少しだから。手を出せ」
「ありがとう」
フラフラしてる僕にぶっきらぼうに手を差し出してくれる雪斗。昔から優しいんだよね。僕を嫌いだ嫌いだって言いながら野球やサッカー、ゲームに混ぜてくれるの。家も近所で……本当は雪斗いい子でさ。うっ……ぐわんと激しいめまいが起こった。目の前の長持ちを担ぐ人が歪む。そして僕の膝は僕を裏切り折れた。繋ぐ手が力強く持ち上げる。
「夏樹なにしてんだ!立て。後少しだから!」
「う、うん」
腕を掴まれて震えながらも踏ん張ると吐き気と目の前が真っ白。そのまま足は僕を裏切り続け、踏ん張ってもブルブルと震えた。そしてもう倒れるかもなんて考えてると、膝は完全に力を失い地面が近づく。雪斗は気がついたのかしっかりと掴んでくれた。
「夏樹頑張れ!もう少しだから」
「う……うぅ……」
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