お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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花嫁〜獣の世界編

8 雪かき

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 花嫁として迎えられて早いもので数カ月が過ぎた。山には初雪が積もっている。この屋敷は翠の力で敷地内はそこまで寒くはないが、玄関を一歩出れば雪が積もり当然寒い。

「マオ!雪だよ!」
「夏樹様は雪を見たことないのですか。この季節なら当たり前ですよ」
「そんな返事ないでしょ。初雪だよ」
「はいはい。私は雪が嫌いなのです。なぜなら猫!だからです。こたつか火鉢の前から動きたくないのですよ」
「……ごめん」

 内門の近くで僕は雪を眺めていたんだ。マオは近くのベンチで横になってて休憩らしい。

「雪で遊びたいのなら犬のルイを誘いなさい。旦那様も狐ですから寒さは得意ですよ」
「はーい」

 僕は竜神様に嫁いだつもりが実は狐の神様だった。雨の神様と聞いていたんだけど「狐の嫁入り」って狐が雨を降らしてるんだってさ。だから、雨を降らせるのは得意なんだそう。昔は文字を書ける人も少なく口伝でおかしくなったんだろって翠が説明してくれた。でも僕は納得はいかないけど、確かに狐の嫁入りって天気雨だしなあと納得するしかなかった。

 僕はマオにまたねと手を振り部屋に戻り、ぐったりとベッドに横になる翠を揺すった。

「ねえねえ翠、初雪降ってるから遊ぼ?」
「うっ……寝かせて。遊ぶのはこんど…で……」
「ええ~」

 翠は昨日お友だちと近くの町の花街で遊んできたらしい。僕は連れて行ってもらえず自宅待機で朝方帰ってきたんだ。布団をかぶり出てきやしない。ならいいか。わんわん誘ってお外で遊ぶかな。僕はソファの背もたれに掛けておいた綿入りはんてんを羽織り、部屋を出て玄関に向かう。玄関にはわんわんがタイミングよくいた。ラッキー。

「わんわーん。雪だるま作って遊ぼう?」
「夏樹様。私は雪かきです」

 玄関で雪かきの支度をしていたわんわんは嫌そうに振り返り返事をした。なら雪だるまは今度にするか。

「僕も手伝うよ」
「ふん。夏樹様は雪かきはいつまでしてましたか?ついでに私はわんわんではなく、ルイです」

 目がジトッとして僕を見つめる。確実にバカにしている目だ。

「えっと高校卒業までかな。わんわんでいいでしょ?犬だし」
「ふーん役に立つかな。私はルイですよ」
「失礼な!体が覚えてるはずだよ。わんわんの方がかわいいよ」

 フンと鼻を鳴らしまあいいや、軍手してスコップこれね。下の外門までですよって渡してくれた。僕はこの家の人とタメ口がきけるくらいには馴染んでいた。

「おおー結構外は積もってたんだね」

 内門の前は軽く雪かきされてて分からなかったけど、下り坂から下はかなり積もっていた。そのまま歩くのは無理そうなくらい積もっている。

「来客はいつなんどき来るか分かりません。空を飛べる方ばかりじゃございませんから」
「そうだね。マオは来ないの?」
「あれは冬の外では使い物になりません」
「寒いの嫌ってマジなんだ」

 ここの獣は本能に忠実で嫌なことは使用人でもやらない。秋頃落ち葉拾いをしていたのはそのためだそう。役割分担だって。そっか。

「ヤマネのイオが板前なのもネズミゆえんです。主が人型になり好き嫌いが変わっても対応可能な人選なのです」
「ふーん。じゃあその前は肉ばかり?」
「ええ。ほとんど焼いたか焼かないかわかんない肉を焼いたものばかりでした」

 さすが狐、肉食獣に恥じない食事だね。ちなみに狸は似てますが雑食です。そして狸の方が楽しいことが好きで死んだふりも上手い。何の役にもたちませんがねと、せっせとスコップで雪を藪に捨てている。僕も反対側から雪かきを始めた。

「やり方は覚えているようですね。ですが体力はどうですかね」
「そこね。東京で事務仕事で椅子に座ってパソコンばっかだったんだ。でもさ、翠の相手してるからだいぶ……かな?」
「それ違う体力でしょ」
「わかんないじゃない」

 などと無駄話をしながらそれなりの長さの山道を二人で雪かきしてた。でも……ごめん腰が悲鳴をね?そんで手のひらも痛い。腰をトントンしながら僕は手を止めた。

「わんわん。疲れたあ」
「だから言ったでしょ!これもいい機会です。辛くなったところからが本番ですよ。体力つきますからほらやれ!」
「えーっ」
「やると言ったのは夏樹様でしょ!」
「へい……」

 疲れてしゃがみ込んでいた僕は仕方なく立ち上がりまた始めた。上を見れば雲のすき間からお日様も見えるくらい。雪は解け始めたのか重くなっていた。うーむ。

「これ翠の力でパパッてのはないのかな」
「力はそういう使い方しません。そして雪を溶かすなんてイレギュラーな使い方すると疲れるのです」
「へえ。ならバンバン使わせて夜ぐったりさせるのもあり?僕のお尻休めるもん」

「何言ってんですか。主は遊び人でしたから気持ちいいでしょ?無理はさせてないはずです。春が来たら儀式もあるから慣れておいて損はありません」

 ふむ、この「慣れろ」の意味がいまいち分かんないんだよね。

「あのさ。みんな儀式の前に慣れておかないと儀式は辛いよって言うけど何で?」

 あのですねとわんわんはサクサクと雪を放り投げながら、

「人は発情期なんてないでしょ。我らはあるの。だいたいどの種類も春と秋にある。狐は春です」
「それが?」

 わんわんは手を止めて真面目に聞けとシャベルをドンッと地面に突いた。彼が言うには発情期は寝食忘れて相手を求める。人間の興奮とはまったく違う。野良猫が秋から春に掛けてニャオニャオ鳴いてるの聞いたことありませんか?それですって。

「あれ……晩秋から春頃まで鳴いてるよね」
「そういうことです。果てても意味がないくらいで欲は果てしなくです。お覚悟を」
「ヒィッ」

 お尻がキュッとしてしまった。するとわんわんはクスクスと口に手を当てて笑う。

「初めての発情期に初めから御子を相手させませんよ。発情したら主は離れに籠もります。大丈夫ですがそのお部屋に近づいてはなりません。襲われたら逃げられませんからね」
「……はい。どのくらいの期間?」
「今夏樹様が言った期間です」
「……長くね?」
「狐ですから」
「そうね……そっか。その間会えないのか……寂しいな」

 目を細めわんわんは微笑んだ。来た頃は主とはよそよそしく緊張しているように見えたがよかったよかった。わんわんはまた雪かきを始めた。僕も雪かきを再開しながら。

「あのさ、来た時からおかしいんだよ。僕は男なんて範疇になかったのに、受け入れるのが当たり前みたいに感じてしまったんだ。なんでだよ」
「神に好かれるってことはそうなのでしょう。みんなそうだから理由は分かりません。力のせいかこの世界の獣の特性か。死ぬまで愛せる相手を見つける能力でも我らにはあるのかもですね」

 ここの獣は何かしらの力がある。人の世界に行かないと気が付かないなにかかな。

「でもさ。男性を好きになるとかおかしくね?僕女の人好きだったし当然欲情してたよ。エッチな雑誌も買ってたし動画も観てました。恥ずかしいけど」

 私も見てましたから知ってた、アハハッとわんわん。見てたんかい!怒らないでと笑いながら、この世界は男性相手でも女性相手でも子は出来る。同性の場合、伴侶を得たその時子を産む性別をどちらにするか決めるらしい。

「男女じゃない時はそうなのです。これはここの不思議で人とは違うのです。だから相手は無限大におりますし種族は関係ない。オス・メス確定すると変更は不可。どちらの種類の子も生まれますが運ですね」
「ふーん。僕の場合人も生まれるの?」
「生まれません。狐のみですね」

 御子は特別で人間は生まれないそうだ。ふーんと僕は答えて雪を藪に捨てる。この事実にショックを受けるかと思ったけど、翠がいっぱい生まれんの?なにそれって嬉しくなってしまった。

「グフフッフフッ」

 狐の赤ちゃんだって。ふかふかな子が生まれるよきっと。初めは狐の姿っぽい話しぶりだったし。

「その不気味な笑いはなんですか」
「え?翠の子どもだよ。かわいいに決まってるでしょ。白い狐とかいいよね」
「そうですが、何人産んでも人は生まれないのですよ?」
「構わない。なんか嬉しいから」

 ふーんと今度はわんわん。前に仕えてた主の御子様は、自分と同じ見た目の子も欲しかったなと言っていたそう。同じ人でも違うのですねって。

「僕は……そうだなあ。翠がだいぶ好きだと思えるようになってるんだ。だからだろうね。それに、初めての恋人で生涯の人なんだ。初恋の人が夫とかすごくない?」
「まあねえ。まあ……そうだなあ」

 腕はだるいし腰も痛いがわんわんは軽々とやっている。頑張るしかないよね。

「主も悪いお人だ。これを狙ってたのもね」
「かもねー。でも悪くないと思える僕もおかしいけどいいんだ」
「さいですか。ほら下の道が見えましたよ。そこまででいいです」
「はーい」

 街道はこの世界の役人のお仕事だそう。翠の力が及ぼうが街道は街道で役人の仕事。役人とはこの世界の帝の部下のこと。とても長く生きている竜神様(不老不死くさい噂がある)がこの世界の主。

 人の世界のように役人もいるし警察部隊もある。税はなくゆる~く管理されているだけ。日本のお金に合わせていて円だけど、お札とかの肖像画は竜だったり植物だったりする。そして変更はあんまりないらしい。

 そして外貨(人の世界の円)は、こちらの山菜や農産物、物品を売る会社、あれこれ買ってくる会社が人の世界にあるそうだ。そこに品物や依頼票なんかを出して回っているらしい。その会社の従業員は竜神様の役人たち。その人らは公務員ということになるとわんわんが教えてくれた。

 思ったよりシステムチックになっている。

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