お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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花嫁〜獣の世界編

19 この世界の発情シーズン突入 4

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 肩を叩かれ起きてって先生の声に、僕はゆっくり目を開ける。くわーっとあくびが出てしまう。

「終わりました。この薬をお風呂上がりに毎回塗って下さい。抜糸は五日後、また来ますから」
「はい。ありがとうございました」

 僕は小さな軟膏の瓶を受け取った。すると先生と看護師さんはすごい部屋と、治療が終わると改めて見回して相当暴れましたなあって。

「翠様もよく耐えられました」
「それは僕も思います」

 あの方は以前の発情期は遊郭に住み込んでましたからお一人で耐えるのは初めでしょう。相当苦しいはずでから夏樹様愛されてますねって。僕は屋敷の人以外からこんなことを言われたの初めてで、ボッと顔に熱。ちょっと嬉しくてでも恥ずかしい。

「あ、あの。伴侶のない方はそういう対処なのですか?」
「まあね、人によりますかな。三日暴れて四日正気になる。そんな方もいますし時間単位の方もいます。獣によりますかね」
「ふーん」
「だから遊郭にって方は時間単位の方が多いかな。そんなお金のない方は……堪える。または……です」

 または?他にそんなご商売の方がいるの?いたっけ?巷で噂の……みたいな非合法系かな?と聞けば、人とは違うからって先生は笑う。

「人ふうに言うならば相手を探すお店がある……かな?店もですがナンパとか、その時だけ発散できればいいと交わるのですよ」
「へえ」

 頭が交わりたいだけですからそれこそ誰でもいい。ですが女性はこんな時でも人を選ぶから大変。だから発情期は陰間茶屋(陰間、男衆とか色子、男芸者など地方による)は大繁殖だそう。

「翠をみれば……なのに女性はこれに耐えられるのだろうか……」
「ここまでされれば噛んだり殴ったりして逃げますね。伴侶以外はね」

 ここまであなたを責め立てたのは長い期間我慢したから。普通ここまで理性は飛びませんし相手を痛めつけたりしない。加減できるからと先生。あ、そっか。

「それにこの世界女性の方が賢いですね。獣ですから婚活は成人するとすぐにです。そしてその年に見つけます。何年も独り身などいません。遊郭などにいる女性は相手が亡くなった人たちですね。玉を受け取ると次の相手とは子を作れません。発情もしなくなるのです。だから遊郭に勤められるのですよ」
「ほえ……」

 遊郭の女性や男性はある意味特殊な獣で、人のくらいの性欲になるそうだ。驚きの事実である。それと発情期を耐えようとする方もいるらしい。筋トレで誤魔化そうと努力なんてね。体力自慢系のお仕事の人や、清廉なお仕事の方とか山で暴れてますよって。

「この時は体の辛さを忘れるから鍛え放題なんてね。ふふっ」
「脳筋バカだな」
「まことに」

 天帝のことは屋敷の方に聞きなさい。よく知ってるからねって先生。

「私ももちろん知ってますが……話すと長くなりますので」
「はい。そうします」

 今日はゆっくり過ごしてね。無理しないように。傷は治っても翠の匂いにつられて発情したはず。体が辛いはずですと注意された。

「傷の痛みはなくなりましたが筋肉痛と関節痛があります。先生これ治りませんか?」
「治しません。また吐きますよ。それに時間も長くなるから辛いです」
「ッ……寝てます」
「それがようございます」

 ではねって僕の頭を撫でてくれる。全裸だけど。看護師さんが先に扉に向かい開くと外には心配そうなみんながいた。そして翠とわんわんが先生と少し話している。

「往診ありがとう存じます。心ばかりですが」

 わんわんが白い紙の包みを先生に差し出し、野菜のかごも看護師さんに持たせている。

「いらないのに。野菜は美味しいから欲しいけど」
「いえ。先生がここにいたくないと思わせたのは私の失策です。家司けいし(家全般を管理する執事みたいな職)として恥じ入るばかりでございます。ですからこれくらいは」
「それ違うのになあ。私は医師だよルイ。患者を診るのが仕事でなおかつ人の役に立てるのが好き。それだけだ。屋敷が嫌だったのではないのよ」
「ですが……」

 いいからって先生は白い包みをわんわんに突っ返し、看護師を連れて帰ってしまった。

「先生いけません!お待ちを!せんせー!」

 わんわんと先生の声が遠ざかり板前のイオが覗き込む。後でキッチンに来て、美味しい食事を用意してますからって。イオ?イオがいる!

「イオも帰ってたの?嬉しいよぉご飯が辛かったんだ。あなたの美味しいものに慣れちゃって」
「フフッ今朝戻りました。何がいいですか?」
「うーん。そう言われると思いつかない。イオのオススメで……えっとこんな頼み方ダメなやつだよね?」
「構いませんよ。お楽しみってことで」
「うん」

 みんなよかったと仕事に戻っていった。そして、翠が一人残る。手には僕の新しい着物と帯。そしてふんどし。

「……ごめん」

 入口から入ってこないでごめんと一言。ものすごく反省した顔をしていてね。僕はこんなしょぼくれた翠は見たことがなかった。

「来て翠」
「……うん」

 トボトボと近づいてくる。本当にトボトボと僕の布団の横に正座した。そしてもう一度ごめんと絞り出すような声。

「俺もわんわんも終わり頃ならと考えていたんだ」
「でも……長く耐えてたから夏樹の匂いに……その、抑えられなくて」
「うんうん」

 うつむいてポツポツと話す翠。急いで着付けたからか翠のはだけた着物。その襟元からは僕が噛んだであろう傷がある。僕はそこにそっと触れた。

「ごめんなさい。僕も無意識に」
「こんなの痛くない。人には牙がないし鋭い爪もないから」
「ありがとう」

 もう泣きそうって感じで翠はかわいいなあ。僕はあまりのかわいさに笑みが漏れた。

「わんわんに叱られたんだ。こんな時に神らしく頑張んなくていつ頑張るんだとね。今年の夏樹はまだ人なのにバカなのかってさ」

 翠はこの日を楽しみにしていた。僕がこの世界の住人になる特別な日。天帝からの力を賜れるようになり、この世界で楽に生きていけるようになる日でもあった。なのにと翠の声が小さくなる。

「新たな夏樹の誕生日と言うかな。そんな日だったはずなんだ。なのにこんな……」
「その気持ちだけでいいよ。傷はもう痛くないけど、体は筋肉痛で痛い。一緒にお風呂入って欲しいかな。ふらつきそうなんだ」
「責めないのか?」
「なんで?」

 なんでって殺しかけたんだぞ?こんな謝罪だけで許すのか?と。許すでしょ、好きなんだから。

「あのねえ。嫌なら少し残った理性でとっくに逃げてます。扉叩いてわんわん呼んでたよ。それをしなかったということはそういうこと。謝罪すらいらないよ」

 翠は僕をジロジロ見つめため息。なんでため息だよ。

「……夏樹。バカだな」
「うるさいよ。好きになるとバカになるものなの」

 ねえ顔を上げて僕を見て。大好きな旦那様と潜り込んで翠を覗き込む。

「俺は夏樹が大好きなんだ」
「知ってる」
「……こんなだけどいい?」
「いいよ」

 ここは獣たちの世界で人は数えるほどしかいない。ならば、こちらの世界に僕が合わせるのが正解でしょ?「郷に入れば郷に従え」当たり前のことだ。ねえ翠、そうでしょう?と問えば、ありがとうって。

「ならこの後どうしますか?」
「お前を洗う」
「正解。たぶん立てないから手を貸して」
「うん」

 翠が立ち上がると手ではなく抱き上げてくれる。すぐにバスルームに連れていってくれた。浴槽の縁に座らせてくれて、自分の着物の裾を帯にひっかける。

「俺が全部する。エッチのことはしない」
「あれだけしたからね」

 そしてシャワーを出して丁寧に流してくれる。優しく優しくって手のひらで撫でてくれる。くすぐったいくらい。

「翠は感情がすぐ顔に出るよね」
「それはお前だから。お前にしか見せてない」
「ふーん」

 俺がありのままの自分でいるのはお前の前だけ。俺の全てを受け入れて欲しいから人のように着飾ることはしない。伴侶にそんなことして何になる。そこを分かった上で愛してもらうのがこの世界。一度夫婦になって嫌いだから離婚なんてのはこの世界にはほぼない。他の原因ではあるけどって。

「心変わりはあるが前の人が嫌いだからではない。強い男に乗り換える……が正しいかな。動物は女が伴侶を選ぶのが普通だから」
「へえ……」

 そういやそうか。野生の動物は、相手を変えるのは自然の中では致し方ない部分はある。でも子育てが終わるまでとか、巣作りは完ぺきにオスがやるとかあるもんね。ダチョウなんてメスが卵を産むとオスに追い払われるし、たくさんの卵を温めて子育てするもんね。

「進化だろうがな。猿は群れのボス猿にしか股を開かない。人とは不思議だな」
「……僕もいつかそうなる?翠を嫌いとか言うかな」
「珠の交換はこの本能を抑える力があるからないのが基本だ」
「そう。ならいい」

 この世界は全員天帝の子である。力を受け取るからって意味でね。

 獣本来の寿命を無視し二足歩行で人語を話す。肉食草食を問わず獣本来の敵対心や襲って食うなんて気持ちをかなり抑える。仲良く暮らしまるで人の世界のよう。動物だけの楽園だ。

 でもまあ、そこは動物だからキレやすくケンカは多い。動物本来の気質を残しつつかな。

「ここは不思議な世界だよね。仏教の極楽とは違うし、西洋の神の世界とも違うし」
「そうだな。人とは違う世界線なだけで同じ地にいるらしいよ」
「ふーん。宇宙の神秘?」
「そこは俺にも分からん。俺たちは今ある現象をただ受け入れる。疑問は持たないんだ。終わったぞ」
「ありがとう」

 流し終わると壁に掛けてあるバスタオルで丁寧に拭いてくれる。

「かわいい」
「へ?」
「珠を与えてから見る夏樹はとてもかわいい」
「えへへありがとう。翠もすてきだよ」
「うん」

 うっとりと僕を見つめる翠。頬を染め僕の大好きな笑顔を浮かべている。僕は胸がドキドキとした。愛しさが溢れ恋してる時のあの胸の高鳴り。あの気持ちが湧き上がる。そして顔も熱くなる。僕はあまりの照れくささに下を向いた。

「あ…あの…翠?あのね……すごく照れくさいんですけど」
「俺も」

 性的な気分じゃない。そうじゃない愛しさが強くなんていい気分なんだと翠は笑う。その笑い声に僕は顔を上げた。

「翠……かわいい」
「だろ?俺は今日からお前だけのもの。お前だけにしか欲情しないし愛さない。花街に遊びに行くこともない」
「うん……嬉しい」

 体も心も二人だけのもの。これはこの世界の夫婦のあり方であると翠は言う。ふわふわとした幸せの中、前に聞いた母君のことが頭をよぎる。幸せ過ぎて不安が霧のように頭に漂うんだ。でも今はこのふわふわとした優しい真綿の中のような幸せに浸ろう。




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